UTokyo Compass

UTokyo Compass 2年経過成果報告

2021年9月に基本方針UTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」を公表してから2年が経ちました。
私たちはこのUTokyo Compassで定めた目標の達成に向けて、着実に計画を遂行しています。前回経過をご報告した2022年10月以降の代表的な成果をお知らせします。

東京大学は、「世界の公共性に奉仕」する大学として自律的で創造的な活動を持続的に行える仕組み、「成長可能な経営メカニズム」の構築を目指しています。そのため財務経営体制を抜本的に強化することとし、本年4月にはCIO(Chief Investment Officer:最高投資責任者)として福島毅氏を、同8月にはCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)として菅野暁氏を新たに執行部に迎えました。本年10月には、松本大氏からの多大なるご寄付をもとに、東京大学初となるエンダウメント型研究組織として「応用資本市場研究センター」を設置しました。今後、大学独自基金をもとにエンダウメント型の財務経営を推進していきます。

教育・研究活動では、昨年10月、ワクチン開発のための研究開発拠点である国際高等研究所新世代感染症センター(UTOPIA)を設置しました。世界のトップレベルの研究者が分野の壁を越えて、感染症対策、ワクチン開発に取り組んでいます。また、本年9月には、大江健三郎文庫が発足するなど、多様な分野での研究活動がこれまで以上に展開されています。
国際社会において重要度が増している量子・AI分野では、海外機関との連携を強化しています。本年5月、G7サミットの機会をとらえ、東京大学及びシカゴ大学と、IBM、Googleそれぞれをパートナーとして、量子技術研究領域の発展に向けた協力関係を構築するため2つのパートナーシップを締結しました。また、マイクロソフトとは、本年8月、グリーントランスフォーメーション(Green Transformation, GX)、ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion, D&I)及びAI(人工知能)研究の推進に向けた連携のための基本合意書を締結し、11月にはAI Forum 2023を開催しています。さらに、2024年1月、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にあわせて、東京大学Beyond AI研究推進機構が発起人(Initiator)となりAI House Davosを開設します。
学生の教育・研究活動の国際化にも力を入れています。すべての学部生・大学院生のための「国際化教育の全学プラットフォーム」として、本年4月、グローバル教育センター(UTokyo GlobE)を発足させました。現代社会が直面する課題を英語で学ぶグローバル教養科目、全世界の大学生を対象とした短期プログラム(UTokyo Global Unit Courses, GUC)など、学生が世界の舞台で活躍する契機となるプログラムを提供しています。

活動の「場」はさらなる広がりをみせています。本年10月にはJR東日本と、「プラネタリーヘルス」創出をテーマに100年間の産学協創協定を締結しました。今後、TAKANAWA GATEWAY CITYに「東京大学 GATEWAY Campus」を置き、Planetary Health Design Laboratory(PHD. Lab.)を開設する予定です。海外の研究機関と連携した国際連携研究拠点の形成も国内外で進んでいます。フランス パスツール研究所とは、日本に設置予定の拠点「Planetary Health Innovation Center」において、またスウェーデン カロリンスカ研究所とは、国際協創プログラムLINKに基づきカロリンスカに設置した海外ラボにおいて、それぞれ協働を進めます。

「UTokyo Compass」を策定するにあたり、その前提としたことは、私たちはごく限られた地域や空間では大きく発展できたかもしれないけれど、人類社会そして地球全体として見たときに、一人ひとりのwell-beingの実現はむしろ難しくなってきているのではないか、という問題意識です。パンデミックや気候危機の克服も、そうした課題のひとつです。生成AIを含むデジタル技術の発展に代表されるような科学技術の革新はめざましいわけですが、それらがもたらす倫理的・法的・社会的課題も含めて、さまざまな局面で大規模に、また速いスピードで変化する新しい日常への対応が求められています。このように、変化が早く単純には解決できない課題ばかりのこの時代だからこそ、「学知」を生み出す場である大学に対する期待は大きく、また貢献できる場面も広がってきていることを実感しています。
大学が生み出した「学知」を持ち寄り、各界の皆様とともに社会的課題について考え、その解決への手がかりや道標を見出していく、それこそが「世界の公共性に奉仕する大学」として本学が担うべき使命で在ろうと考えています。そうした取組みをしっかりと学外の皆さまにお伝えし、支持・支援を得る努力を続けていく、その支援をもとに、自律的な経営を可能とする財政基盤を構築し、次なる「学知」の創出へとつなげる、という好循環を形成したいと考えています。
東京大学は、この価値創出と支援の好循環を通じて自律的で創造的な活動を拡大していく新しい大学の在り方、すなわち「新しい大学モデル」の実現を目指しています。

2027年に東京大学は創立150周年を迎えます。150年の歴史を振り返り、東京大学の果たすべき役割を考え、社会とともによりよい未来を拓く機会にしたいと考えています。今後もUTokyo Compassの成果を随時お届けしていきます。みなさまからのより一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2023年10月31日 藤井 輝夫

「UTokyo Compass」の公表にあたって

東京大学総長 藤井 輝夫

ここに公表する UTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」は、東京大学が目指すべき理念や方向性をめぐる基本方針です。この公表は総長任期の始まりにあたっての単なる慣行ではありません。東京大学が進むべき方位を共有し、構成員の全体や社会のさまざまなステークホルダーの理解を得ながら、この先数十年をみすえ、その歩みを確実に進めていくための、自分たち自身に向けた共同の問いかけです。

ふりかえれば、国立大学法人化という、わが国の大学制度の歴史的転換点において制定された「東京大学憲章」(2003 年 3 月)は、国立大学の社会的な位置づけの大きな変化を前に、その拠って立つべき理念と目標を明らかにするものでした。憲章の理念を受けて、「アクション・プラン」(2005 年 7 月)、「行動シナリオ」(2010 年 4 月)、「東京大学ビジョン 2020」(2015 年 10 月)が、それぞれの総長の活動の始まりに出されます。それらは、いずれも東京大学が時代にふさわしい姿へと変わろうとする道筋を、具体的な目的と行動計画をもって示そうとするものでした。

いまあらためて検討すべきは、新たな時代における、大学という法人の自律性・創造性の在り方です。それは既存の手本(モデル)としてどこかに在るものではなく、いままさに向かい合う困難を克服しようとするなかでの課題であり、立ちあげるべき理想です。歴代の総長が「運営」「経営」ということばで指してきたのは、たんに財務・人事・制度等の改革にとどまるものではありませんでした。いま東京大学は、「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組もうとしています。まさにこのように学問の裾野を広げていくために必要な方策を、大学という法人全体が自ら設計し、実現していくことこそが経営です。このUTokyo Compass が提示するのは、現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない、東京大学という組織ならではの創造的な挑戦の航路であり、また大学を取り巻く社会への問いかけでもあります。

写真:東京大学総長 藤井輝夫

私は、実現のプロセスにおいて、また創造の方法において、「対話」を重視します。対話とは、たんなる話し合いや情報の交換ではなく、知ろうとする実践です。知るためには、問う必要があります。大学が育てる「問いを立てる力」は、対話の始まりに不可欠です。ただ問うだけでなく、その問いかけが問いの共有、すなわち「ともに問う力」を生みださなければ、対話は深まってゆきません。問題にともに向かいあい、対話を通じて関わりあうことで、ともに見る、ともに感じる、ともに考えることを基盤とする理解が形成され、信頼が醸成されます。対話がもたらすのは、議することで推し進められる、多声の協奏です。そのように多様性が創造する未来を描くには、不公正や差別の理不尽、さまざまな社会的弱者の存在に対する鋭敏な感性をもち、課題と真摯に向きあう主体的な姿勢が要請されます。

この Compass の作成にあたっても、可能なかぎり対話を取り入れました。基本となる研究・教育・社会協創はもちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)、多様性と国際性、広報・コミュニケーションや働き方、経営戦略等の主題領域において、教員だけでなく職員も加わったワーキンググループを組織し、総長ビジョンのタスクフォースと密接に連携して検討を進めました。また広報関連の組織の協力のもと、教職員・学生のみなさんとの「総長対話」の機会を日本語・英語で 18 回にわたって設けたのも、経営協議会等を通じて学外の意見をお聞きしたのも、引き続き重視していく対話の実践の第一歩だと考えています。ここで共有する UTokyo Compass も、すでに決めたのだから変えずに守るという運用ではなく、大学としてのより良い在り方を目指す各部局、各構成員の努力に開かれたものとして、活用し改善し充実させてゆきたいと思います。

現代の世界が直面している地球規模の複雑な課題への取り組みに際し、研究・教育や社会協創において東京大学が創成していく、対話と信頼の相互連環こそが、新たな未来をひらくと信じています。あるべき理想をともに問うなかで、新たなつながりが生まれます。東京大学が追求してきた「志ある卓越」や「産学協創」の理念の基本も、まさにそこにあると考えています。大学ならではの自律性の創造は、さまざまな課題が目の前に渦巻く、いわば荒海への船出であり、であればこそUTokyo Compass という指針のもとで、みなさんとの対話を進めてゆきたいと願っています。

UTokyo Compassとは

UTokyo Compassでは、「知 をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、
目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、
優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組むことを掲げています。

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