UTokyo Compass


UTokyo Compass 1年経過成果報告
昨年9月にUTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」を公表してから1年が経ちました。自律的で創造的な大学活動の基盤となる「経営力の確立」、そして「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」との3つの視点(Perspective)から定めた20の目標のもと、これを実現するための具体的な行動計画は着実に進展しています。
本年6月には、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現に向けた第一歩として、「東京大学ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を制定しました。構成員の意識を醸成し、行動変容を促すためにキャンペーン活動を展開したほか、各部局での女性人事加速5カ年計画の策定も進んでいます。
グリーントランスフォーメーション(GX)に関しては、我が国が今世紀半ばまでに脱炭素(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するための経路と政策を議論するための産学連携プラットフォームETI-CGC(Energy Transitions Initiative – Center for Global Commons)を立ち上げました。また、本学は昨年10月にRace to Zeroへ参加し、本年10月末には温室効果ガス排出削減計画(UTokyo Climate Action)を公表しました。GXを先導する高度人材育成プロジェクト(SPRING GX)を開始するなど、教育・研究分野でもさまざまな取組みが加速しています。
キャンパスの外に目を向けると、本年2月の終わりに突然起こった理不尽な軍事侵攻は、世界を大きく揺るがし、世界秩序の脆さをあらわにしました。世界規模課題が顕在化し、これまで前提としていた諸条件や常識が大きく変化する今日だからこそ、私たちはアカデミアとして過去から未来に向けて長期を見渡す視野に立ち、大学が果たすべき役割をしっかりと意識しつつ、新しい社会の構築に取り組まなければなりません。
「世界の公共性に奉仕する大学」として本学が担うべき役割はますます大きくなっています。これからもみなさんとの対話を実践し、大学としてのより良い在り方を目指していきます。
今後もUTokyo Compassの成果を随時お届けしていきます。今後とも変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2022年10月31日 藤井 輝夫
「UTokyo Compass」の公表にあたって
東京大学総長 藤井 輝夫
ここに公表する UTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」は、東京大学が目指すべき理念や方向性をめぐる基本方針です。この公表は総長任期の始まりにあたっての単なる慣行ではありません。東京大学が進むべき方位を共有し、構成員の全体や社会のさまざまなステークホルダーの理解を得ながら、この先数十年をみすえ、その歩みを確実に進めていくための、自分たち自身に向けた共同の問いかけです。
ふりかえれば、国立大学法人化という、わが国の大学制度の歴史的転換点において制定された「東京大学憲章」(2003 年 3 月)は、国立大学の社会的な位置づけの大きな変化を前に、その拠って立つべき理念と目標を明らかにするものでした。憲章の理念を受けて、「アクション・プラン」(2005 年 7 月)、「行動シナリオ」(2010 年 4 月)、「東京大学ビジョン 2020」(2015 年 10 月)が、それぞれの総長の活動の始まりに出されます。それらは、いずれも東京大学が時代にふさわしい姿へと変わろうとする道筋を、具体的な目的と行動計画をもって示そうとするものでした。
いまあらためて検討すべきは、新たな時代における、大学という法人の自律性・創造性の在り方です。それは既存の手本(モデル)としてどこかに在るものではなく、いままさに向かい合う困難を克服しようとするなかでの課題であり、立ちあげるべき理想です。歴代の総長が「運営」「経営」ということばで指してきたのは、たんに財務・人事・制度等の改革にとどまるものではありませんでした。いま東京大学は、「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組もうとしています。まさにこのように学問の裾野を広げていくために必要な方策を、大学という法人全体が自ら設計し、実現していくことこそが経営です。このUTokyo Compass が提示するのは、現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない、東京大学という組織ならではの創造的な挑戦の航路であり、また大学を取り巻く社会への問いかけでもあります。

私は、実現のプロセスにおいて、また創造の方法において、「対話」を重視します。対話とは、たんなる話し合いや情報の交換ではなく、知ろうとする実践です。知るためには、問う必要があります。大学が育てる「問いを立てる力」は、対話の始まりに不可欠です。ただ問うだけでなく、その問いかけが問いの共有、すなわち「ともに問う力」を生みださなければ、対話は深まってゆきません。問題にともに向かいあい、対話を通じて関わりあうことで、ともに見る、ともに感じる、ともに考えることを基盤とする理解が形成され、信頼が醸成されます。対話がもたらすのは、議することで推し進められる、多声の協奏です。そのように多様性が創造する未来を描くには、不公正や差別の理不尽、さまざまな社会的弱者の存在に対する鋭敏な感性をもち、課題と真摯に向きあう主体的な姿勢が要請されます。
この Compass の作成にあたっても、可能なかぎり対話を取り入れました。基本となる研究・教育・社会協創はもちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)、多様性と国際性、広報・コミュニケーションや働き方、経営戦略等の主題領域において、教員だけでなく職員も加わったワーキンググループを組織し、総長ビジョンのタスクフォースと密接に連携して検討を進めました。また広報関連の組織の協力のもと、教職員・学生のみなさんとの「総長対話」の機会を日本語・英語で 18 回にわたって設けたのも、経営協議会等を通じて学外の意見をお聞きしたのも、引き続き重視していく対話の実践の第一歩だと考えています。ここで共有する UTokyo Compass も、すでに決めたのだから変えずに守るという運用ではなく、大学としてのより良い在り方を目指す各部局、各構成員の努力に開かれたものとして、活用し改善し充実させてゆきたいと思います。
現代の世界が直面している地球規模の複雑な課題への取り組みに際し、研究・教育や社会協創において東京大学が創成していく、対話と信頼の相互連環こそが、新たな未来をひらくと信じています。あるべき理想をともに問うなかで、新たなつながりが生まれます。東京大学が追求してきた「志ある卓越」や「産学協創」の理念の基本も、まさにそこにあると考えています。大学ならではの自律性の創造は、さまざまな課題が目の前に渦巻く、いわば荒海への船出であり、であればこそUTokyo Compass という指針のもとで、みなさんとの対話を進めてゆきたいと願っています。
UTokyo Compassとは
UTokyo Compassでは、「知 をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、
目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、
優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組むことを掲げています。
「UTokyo Compass」の概要
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「UTokyo Compass」パンフレット
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