UTokyo Compass

UTokyo Compass 4年経過成果報告

2021年9月、基本方針「UTokyo Compass―多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」を公表しました。それから4年が経過し、我々はこの方針に基づき、教育・研究・社会連携の各分野において多様性と対話を軸とした取り組みを着実に進めております。前回経過を報告した2024年12月以降の主な成果について、ここにご報告申し上げます。

大学の持続的な創造活動を支える財務基盤の強化として、本学ではエンダウメント型経営の推進を進めています。2月には上場企業初となるエンダウメント型研究組織として、いすゞ自動車株式会社からのご寄付をもとに「トランスポートイノベーション研究センター」を、10月には大和ハウス工業株式会社からのご寄付をもとに「住宅都市再生研究センター」を設置いたしました。
資金調達面では、UTokyo Compass債(第3~6回)をサステナビリティボンドとして発行し、ハイパーカミオカンデ計画やキャンパスグリーントランスフォーメーション(GX)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進、教育研究支援システムの導入など、大学の持続的発展に資する事業への活用を進めています。
本学のブランド・マネジメントシステムの構築にも力を入れています。2025年4月にはコミュニケーション戦略本部の体制を整え、グローバルも含めたブランド発信力の強化など多岐にわたるコミュニケーション改革に取り組むと同時に、10月には「Challengers for Changes」をスローガンとしたブランドコミュニケーションを開始いたしました。さらに2027年に迎える創立150周年に向けた各種事業を展開し、従来繋がりのなかった層へのアウトリーチ拡大やコミュニティエンゲージメントの向上を推進しています。

GXに関しては、4月に「グリーントランスフォーメーション戦略推進センター」を設置しました。カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ、サーキュラーエコノミーの3本柱を基盤に、学内外のステークホルダーと連携し、環境再生型の社会経済システムへの転換を目指します。また、同月には三井住友フィナンシャルグループとの連携協定を締結し、本学の演習林などを実証フィールドとした森林GXプロジェクトを開始するなど、企業と協働した社会的価値創造に向けた取り組みも開始しています。

社会や産業界と連携した価値創造の流れは、起業支援にも広がっています。3月には三菱商事株式会社の寄付を基に、東京大学発スタートアップの創出を支援する「東京大学・三菱商事 Tech Incubation Palette」を設立しました。民間企業の知見・ネットワークを活用し、シーズ発掘から事業化に至るまでをシームレスに支援するプログラムとして、学内の有望な研究・技術が持つポテンシャルが最大限に引き出されることを期待しています。
Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(TSMC)との協定による「TSMC東大ラボ」の運用も開始しました。双方が持つ幅広い知識、経験、創造性を駆使し、両者の掲げる未来ビジョンである「次世代を見据えた持続可能な半導体技術の創造と開発、および社会の発展への貢献」の実現に向け、相互に連携・協力してまいります。
10月には、JR東日本との100年間の産学協創協定に基づくプロジェクト「Planetary Health Design Laboratory」の拠点として「東京大学GATEWAY Campus」をTAKANAWA GATEWAY CITYに開設しました。都市と自然の共生をテーマに、街を実験場として、世界中から集まる地球規模の社会課題の解決に取り組んでまいります。
社会課題の解決においては産学官民の連携も進展しています。2月には志を同じくする14大学とともに「共助資本主義の実現に向けた大学連合」を設立しました。経済同友会と連携して、地理・分野を超えた大学並びに研究機関で学問を追究する学生及び研究者に対し、共助人材として産学官民の垣根を越え、複雑化する社会課題の解決を実現する新たな担い手としての交流・学修・創発・実践の機会を提供する取り組みを開始しました。加えてAUAサミット2025の主催、岩手県や秋田県立大学、東京藝術大学との包括連携協定の締結など、国際的・地域的な連携も強化し、人材育成や地域課題の解決、学術研究の社会実装に向けた協働も進めています。

既存の取り組みも着実に次なる展開へと歩みを進めています。学術知を「デザイン」によって融合し、社会課題の変革をリードする人材を育成することを目指す「UTokyo College of Design」については、4月に記者会見を実施し、学部長予定者であるMiles Pennington教授とともに方針や概要を説明いたしました。8月からはInformation Sessions及び高等学校等教員向けオンライン説明会等の広報活動の他、各国で行われる日本留学フェア等のイベントに参加するなど、世界の幅広い地域から多様な学生に応募してもらえるような活動も開始しています。2027年9月の開設に向けて引き続き準備を進めてまいります。
研究面では岐阜県飛騨市にて建設中の次世代宇宙素粒子観測装置「ハイパーカミオカンデ」において、地下空洞の掘削工事が完了し、2028年の観測開始に向けて準備が進んでいます。また、昨年4月に設置した多様性包摂共創センター(IncluDE)では9月に「共に創るDEI」と題してキックオフシンポジウムを開催し、 IncluDEの理念であるCoproduction(共同創造)、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の重要性について参加者と共にあらためて考え直すべく、「今こそ進めよう、東大発DEI」をテーマにしたパネルディスカッション、IncluDEの活動等を報告するポスター展示、手話狂言などを実施しました。

私の総長としての任期も残すところ1年3ヶ月となりました。今後も、UTokyo Compassの理念のもと、対話を通じて多様性に開かれた大学を目指し、持続可能な社会の構築に貢献してまいります。引き続き変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2025年12月 藤井 輝夫

UTokyo Compass 2.0に寄せて

3年前にUTokyo Compassを「東京大学ならではの創造的な挑戦の航路」を指ししめす新たな憲章として公表した際、「現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない」ことを掲げました。

今回のUTokyo Compass 2.0は、その公約を踏まえた増補であり、改めての決意表明です。

この3年を振りかえってみただけでも、私たちが生きている世界はますます複雑になり不安定さを増しています。気候変動や国際紛争、飢餓、貧困、感染症など地球規模の問題のみならず、それぞれの地域における未曽有の困難や分断の顕在化など、課題が次々と生まれています。そうしたなかで、人はどう生きるかという哲学も改めて問われていくでしょう。これらの課題は、既存の手法や態勢では解決できません。新たな発想での学知の活かし方や方法知の開発が、必須のものとして求められています。これを専門的かつ多面的、複合的、そして根本的に究め提供できる場こそが大学であると私たちは考えます。

今回の増補では、こうした問題を解決するための学知・方法知の中心に、「デザイン」ということばを据えています。これは解決策を設計し、美しく整えるという意味のみでのそれではありません。むしろ、課題を見つめ、役立つ考え方を探り出し、関係する人びとと対話しながら、その解決に向けた道筋を工夫していくというプロセスを創出することです。

大学での学びにおいては、与えられた課題を創意工夫でこなしていく努力や、既存の知識や技術の蓄積の刷新に取り組む探究も大切ですが、自らの目的に応じて、あるいは世界が悩んでいる課題と向かいあって、必要な知を編み合わせていくことが求められています。それぞれに異なる「誰のために、何のために、どのように」の理想を素材に、ともに協力して目指すべき目標を立ちあげるのもデザインなら、解決に向けて人びとが前向きに関わっていける仕組みを創出し、組織していくこともデザインです。

これまでの学校制度における学びが、知を供給する側によって設計されてきた現状も、その限界が問われています。需要する側に立つ学生の視点から、場としての大学の研究・教育を点検したとき、課題と真摯に向きあうためには文理の壁や専門の隔たりを取り除き、学問と社会のつながりを意識する環境をさらに充実させることが望ましいと考えます。

地球社会の課題に一人きりで、あるいは単一の学問分野だけで取り組むことは不可能です。そこでは、多様な人びとの連携が必須となります。課題に主体的に取り組む多様な背景や特性を持つ学生や研究者が国内外から集まり、必要な知をつないでいくとともに、専門知を深める探究において相乗効果が生まれるような環境を、大学として整備していきます。そこでの点と点をつなぐ協創をつうじて学知の卓越性が向上していくことになります。

このUTokyo Compass 2.0では、財務経営本部のCFOオフィスへの発展や、専門的人材の量的・質的向上、コミュニケーション戦略本部(仮称)の設置など、自律的で創造的な大学活動のための基盤整備を盛りこみました。また、事業としてのカーボンニュートラル達成のロードマップを見直し、社会課題解決に資するデータ活用基盤を整備し、学際研究推進のためのコミュニティの創成に力を注ぎます。さらに多様性包摂共創センターを設置してインクルーシブキャンパスの実現を推し進め、研究インテリジェンス組織の整備やデジタル図書館などの研究資源のDX化をつうじて多様な学術の振興に取り組み、グローバル教育センターでは世界で活躍できる人材の育成に資する全学的な教育支援を展開します。

今回の「具体的な行動計画」の増補において、主軸となる方向性として挙げられるのは、スタートアップを「社会的価値の開拓者」と位置づけた総合的起業支援体制や、専門性に加えて幅広い教養と高い倫理性と課題に向きあうデザイン力を有する人材を育成する新たな学部教育の試みとしてのCollege of Design(仮称)の開設、経営力の確立などを含む「新しい大学モデル」の構築と実現、「学術長期構想」にもとづく学部教育改革のなかでも取り組んでいる入学者選抜の多様化です。これまでも学校推薦型選抜や、外国学校卒業学生特別選考、国際化推進学部入試(PEAK)など、多様化の試みを推進してきましたが、入学者の多様性をより一層高めるべく検討を重ねていきます。それは大学以前の教育まで含めてどのような改善が望ましいのかという議論に新たな視点を提供することになるでしょう。

私たちがこの創造的な挑戦を続けるためには、本学を取り巻く社会の一人ひとりからの共感や賛同・支援が欠かせません。新設する教育組織や研究組織の充実のため、それを可能にする財務基盤としての基金(大学運営基金(仮称))をさらに拡充・運用していきます。これに並行して、基金を活用した経営のための新たなガバナンス構造を整えます。

いまここに盛りこんださまざまな取り組みをつうじて、東京大学をハブとした世界的なネットワークが力強く発展し、東京大学がさらに活性化していく、そうした好循環をつくりだす意志を込めて、UTokyo Compass 2.0を公表します。

2024年5月31日 藤井 輝夫

UTokyo Compassの過去の成果報告

UTokyo Compassとは

UTokyo Compassでは、「知 をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、
目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、
優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組むことを掲げています。

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