UTokyo Compass

UTokyo Compass 2.0に寄せて

3年前にUTokyo Compassを「東京大学ならではの創造的な挑戦の航路」を指ししめす新たな憲章として公表した際、「現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない」ことを掲げました。

今回のUTokyo Compass 2.0は、その公約を踏まえた増補であり、改めての決意表明です。

この3年を振りかえってみただけでも、私たちが生きている世界はますます複雑になり不安定さを増しています。気候変動や国際紛争、飢餓、貧困、感染症など地球規模の問題のみならず、それぞれの地域における未曽有の困難や分断の顕在化など、課題が次々と生まれています。そうしたなかで、人はどう生きるかという哲学も改めて問われていくでしょう。これらの課題は、既存の手法や態勢では解決できません。新たな発想での学知の活かし方や方法知の開発が、必須のものとして求められています。これを専門的かつ多面的、複合的、そして根本的に究め提供できる場こそが大学であると私たちは考えます。

今回の増補では、こうした問題を解決するための学知・方法知の中心に、「デザイン」ということばを据えています。これは解決策を設計し、美しく整えるという意味のみでのそれではありません。むしろ、課題を見つめ、役立つ考え方を探り出し、関係する人びとと対話しながら、その解決に向けた道筋を工夫していくというプロセスを創出することです。

大学での学びにおいては、与えられた課題を創意工夫でこなしていく努力や、既存の知識や技術の蓄積の刷新に取り組む探究も大切ですが、自らの目的に応じて、あるいは世界が悩んでいる課題と向かいあって、必要な知を編み合わせていくことが求められています。それぞれに異なる「誰のために、何のために、どのように」の理想を素材に、ともに協力して目指すべき目標を立ちあげるのもデザインなら、解決に向けて人びとが前向きに関わっていける仕組みを創出し、組織していくこともデザインです。

これまでの学校制度における学びが、知を供給する側によって設計されてきた現状も、その限界が問われています。需要する側に立つ学生の視点から、場としての大学の研究・教育を点検したとき、課題と真摯に向きあうためには文理の壁や専門の隔たりを取り除き、学問と社会のつながりを意識する環境をさらに充実させることが望ましいと考えます。

地球社会の課題に一人きりで、あるいは単一の学問分野だけで取り組むことは不可能です。そこでは、多様な人びとの連携が必須となります。課題に主体的に取り組む多様な背景や特性を持つ学生や研究者が国内外から集まり、必要な知をつないでいくとともに、専門知を深める探究において相乗効果が生まれるような環境を、大学として整備していきます。そこでの点と点をつなぐ協創をつうじて学知の卓越性が向上していくことになります。

このUTokyo Compass 2.0では、財務経営本部のCFOオフィスへの発展や、専門的人材の量的・質的向上、コミュニケーション戦略本部(仮称)の設置など、自律的で創造的な大学活動のための基盤整備を盛りこみました。また、事業としてのカーボンニュートラル達成のロードマップを見直し、社会課題解決に資するデータ活用基盤を整備し、学際研究推進のためのコミュニティの創成に力を注ぎます。さらに多様性包摂共創センターを設置してインクルーシブキャンパスの実現を推し進め、研究インテリジェンス組織の整備やデジタル図書館などの研究資源のDX化をつうじて多様な学術の振興に取り組み、グローバル教育センターでは世界で活躍できる人材の育成に資する全学的な教育支援を展開します。

今回の「具体的な行動計画」の増補において、主軸となる方向性として挙げられるのは、スタートアップを「社会的価値の開拓者」と位置づけた総合的起業支援体制や、専門性に加えて幅広い教養と高い倫理性と課題に向きあうデザイン力を有する人材を育成する新たな学部教育の試みとしてのCollege of Design(仮称)の開設、経営力の確立などを含む「新しい大学モデル」の構築と実現、「学術長期構想」にもとづく学部教育改革のなかでも取り組んでいる入学者選抜の多様化です。これまでも学校推薦型選抜や、外国学校卒業学生特別選考、国際化推進学部入試(PEAK)など、多様化の試みを推進してきましたが、入学者の多様性をより一層高めるべく検討を重ねていきます。それは大学以前の教育まで含めてどのような改善が望ましいのかという議論に新たな視点を提供することになるでしょう。

私たちがこの創造的な挑戦を続けるためには、本学を取り巻く社会の一人ひとりからの共感や賛同・支援が欠かせません。新設する教育組織や研究組織の充実のため、それを可能にする財務基盤としての基金(大学運営基金(仮称))をさらに拡充・運用していきます。これに並行して、基金を活用した経営のための新たなガバナンス構造を整えます。

いまここに盛りこんださまざまな取り組みをつうじて、東京大学をハブとした世界的なネットワークが力強く発展し、東京大学がさらに活性化していく、そうした好循環をつくりだす意志を込めて、UTokyo Compass 2.0を公表します。

2024年5月31日 藤井 輝夫

UTokyo Compassの成果報告

UTokyo Compassとは

UTokyo Compassでは、「知 をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、
目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、
優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組むことを掲げています。

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