東京大学
白い表紙に農地の写真
書籍名

復帰後の沖縄農業

フィールドワークによる沖縄農政論
著者名 新井 祥穂 (共著)、 永田 淳嗣 (共著)
判型など 186ページ、A5判
言語 日本語
発行年月日 2013年2月
ISBN コード 978-4-541-03905-7
出版社 農林統計協会
出版社URL 書籍紹介ページ
学内図書館貸出状況(OPAC) 復帰後の沖縄農業
 第2次世界大戦後27年間、アメリカ軍の施政権下におかれた沖縄では、農業に対して積極的な政策介入が行われることはなかった。1972年の復帰後は、一転して日本政府による積極的な政策介入が行われるようになる。復帰後、沖縄農業政策がその政策目標として掲げたことは、短期的な農業所得の引き上げと、中長期的な沖縄農業の構造改善による「体質強化」であった。1980年代前半までの沖縄農業政策は、価格政策に力点を置く政策体系の下で、各種施策が比較的うまくかみ合い、労働力や資本の投入も進んで、政策目標に対して一定の成果を上げたとみることができる。しかし1980年代後半以降は、構造政策に力点を置く政策体系の下で、個々の施策が有効に機能し、期待される成果を上げているとは言い難い状況にある。政策の妥当性を検討し、沖縄農業の方向性を考えるには、何よりもまず現場に起きている事態に徹底的に向き合い、その意味を探る必要があるというのが本書における筆者らの基本的立場である。
 本書の研究において筆者らが採用したアプローチは、政策環境の変化に対する農業経営の現場における適応の過程とその到達点としてのさまざまな知の蓄積、そしてそこから導かれる農家の方針や戦略に注目し、技術選択や経営変化、事業への反応といった現実の事態に、論理的な説明を与えていくというものである。復帰後の沖縄農業政策、とくに1980年代後半以降の構造政策に力点を置く政策体系の下では、以下の2つの政策課題が最重要課題として位置づけられるようになった。すなわち、「機械化一貫作業体系の確立に基づくサトウキビ機械化地域生産システムの実現」と、「土地改良 (面整備と灌漑整備) の全面的な実現」である。沖縄の基幹作物であるサトウキビ収穫の機械化に関して、本書の分析が明らかにしたことは、沖縄の生態環境、特に冬季の長雨が収穫効率低下に与える影響は予想以上に大きく、サトウキビから積極的に所得を引き出そうとする青壮年農家ほど、機械収穫を避ける傾向にあるという事実だった。また沖縄の土地改良事業の場合、灌漑整備や面整備により土地生産性が向上するという土地改良の経済学の基本的な前提が自明ではなく、そのことが事業の導入に対する慎重な態度を生んでいることが明らかになった。こうした分析は、復帰後の沖縄農業政策の根幹をなす上記2つの政策課題そのものを問い直し、一定の修正を提起するものである。
 本書が扱うのは沖縄農業政策と沖縄農業の動態だが、そこにみられる構造的問題の本質は、日本農業全体に通じる部分も少なくない。さらにフィールドワークを基盤にしながら、統計データを組み合わせつつ現場に生じている事態を徹底的に掘り下げ、政策への示唆を引き出そうという本書で採用したアプローチは、公共政策と現場との乖離を埋めようとする様々な努力に対して、多くの示唆を与えるものといえるだろう。

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 永田 淳嗣 / 2016)

本の目次

 序章 復帰後の沖縄農業政策への問い

第I部 沖縄農業のマクロ的分析
 第1章 復帰後の沖縄農業政策と沖縄農業の動態

第II部 石垣島農業の事例研究
 第2章 石垣島農業の概要と調査方法
 第3章 サトウキビ農家群の技術選択と経営
 第4章 パインアップル生産の危機と再生
 第5章 土地改良事業の推進と農家の反応

 終章 現場の適応に注目する意義