企業と大学の組織レベルの連携により、大学発の知や技術から新たな社会価値を創出することを目指している東京大学国際オープンイノベーション機構が、3月25日、本郷・山上会館の大会議室にて発足シンポジウムを開催しました。4時間に及んだ当日のシンポジウムから、有信睦弘機構長の挨拶と、すでに動き出している8つのプロジェクトの紹介をダイジェストでお届けします。
東大の知と企業の事業を機構がつなぐ
本機構は、文部科学省のオープンイノベーション整備事業のご支援をいただいて発足しました。大学教員と企業の共同研究という枠を越え、組織対組織という大きな規模で産学協創を進めていくためのプラットフォームです。社会の中に研究を位置づけ、社会実装の観点から企業の事業戦略に深く関わるような共同研究を進めていきたいと思います。従来は部局が個別に行っていた知財権や契約交渉や利益相反などの高度なマネジメントを機構が担うことで、研究者が細かい雑用に煩わされることなくプロジェクトを進められる体制を構築いたします。
昨今、イノベーションに関してもパラダイムシフトが起きている、といわれます。基礎研究-応用研究-開発研究という従来のリニアモデルは明らかに成り立たなくなっています。新たな枠組みでイノベーションを捉えていくべきでしょう。高品質・高性能なもの自体に価値があった従来とは違い、様々なものや知識を融合させることによって大きな価値が生み出されるようになってきています。機構名に冠したオープンイノベーションとは、そうした新しい価値の時代に対応するものです。
重要なのは、地球環境を守りつつ発展を継続していく新たな社会的価値を生み出していくことです。それには、私たちが目指すべき将来の社会像を設定し、それを実現するためのイノベーションを設計するという視点が重要です。大学と企業とが互いに高め合いながら、ともに将来の絵を描き、実装していきたいと思います。
オープンイノベーション
の目指すべき姿
オープンイノベーションとは、ハーバード大学のヘンリー・チェスブロウ教授が1990年代に提唱した、組織の枠組みを越えて知や技術を結集することでイノベーションを生み出していこうという概念です。今日の産業や事業のシステム化の時代、オープンイノベーションはエコシステムの形成を通じた経済発展と技術進歩を加速させるプラットフォームとなります。国際オープンイノベーション機構は、「知」「学理」「技術」「事業」「産業」が融合するプラットフォームとして、産業の発展を通じた経済成長に寄与しつつ、産業発展からのポジティブ・フィードバックによる、「学術」の発展と知の地平線の拡大を目指します。
東京大学国際オープンイノ
ベーション機構の活動体制
開会挨拶 | 有信睦弘(国際オープンイノベーション機構機構長) |
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挨拶 | 大久保達也(工学系研究科長) |
挨拶 | 西條正明(文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長) |
基調講演1 | 小川紘一(政策ビジョン研究センターシニアリサーチャー) |
機構の取組 | 上條 健(国際オープンイノベーション機構統括クリエイティブマネージャー) |
基調講演2 | 平井良典(AGC代表取締役専務執行役員CTO) |
研究領域紹介 | 下記参照 |
閉会挨拶 | 高橋浩之(産学協創推進本部副本部長) |
懇談会 | 山上会館地下1階「かどや山上亭」にて |
機構で展開されている研究プロジェクト
//生体・エンジニアリング分野
有機エレクトロニクスとスマートテキスタイル
印刷するだけでできる伸縮性の導体を実現
「ゴム内に銀ナノ粒子が自然形成される現象の発見から、印刷するだけでできる世界最高性能伸縮性導体を実現し、筋電計測機能を持つテキスタイルを開発しました。柔らかくて人に優しいこの新素材を、今後は各種スマートアパレルや医療等の分野にも応用していきます」
//宇宙・環境分野
すまいのIoT−その展開可能性と課題
さまざまなモノをつなげて安全に制御する
「異なるサービス間の境界を越えてモノとモノを安全に制御するためのIoT連携プラットフォームを、実験住宅での実証も経て開発し、実用化しました。プロトタイプ制作とフィードバックを繰り返す「価値創造デザイン」の手法を用いて社会課題の解決に向かいたいと思います」
//宇宙・環境分野
小型衛星から空間情報への新展開
超小型衛星の技術で新しい宇宙開発を推進
「世界初の1kg・10cm角衛星以来、超小型衛星の分野で世界をリードしています。培った技術を活かして開発途上国や新規参入希望企業のための教育サービスも展開し、研究室からは数々の宇宙関連ベンチャーが輩出。従来の枠に囚われない新しい宇宙開発を進めています」
//生体・エンジニアリング分野
医学と工学の融合による先端精密医療技術開発
現代医療に不可欠なバイオエンジニアリング
「手術支援ロボット、手術ナビゲーションシステムなどの革新的技術の開発、健康寿命を延伸する医療システムの開発、音響波と生体の相互作用研究、効率のよい診断・治療につながるマテリアル開発……。企業が開発する技術のメカニズム探求も視野に医用工学を進めています」
//AI・情報分野
データ利用価値を生み出すデータジャケット
既存のデータから変化の兆しを発見する
「データ自体は隠したままその概要情報を共有する「データジャケット」という手法をもとに、独自の数理モデルを駆使したデータ分析によって、ビジネスチャンスの発見を促します。進化するAIにより魅力的な「エサ」を提供することでデータの利活用を促進します」
//AI・情報分野
運動主体感を失わない運転支援システム
自動運転とドライバーの関係を解明する
「自動運転技術の研究が進む現在、ドライバーの「主体感」確保の重要性が明らかになりつつあります。運転シミュレーターによる行動計測、脳波を用いた運動主体感推定などをトヨタとの共同研究で探りながら、主体感を失わない運転支援システムの開発を目指しています」
//機能性材料分野
蓄熱マテリアル
長期的に熱エネルギーを蓄える新材料を発見
「身近にある酸化チタンの研究から、熱を長期間蓄えられる新材料「蓄熱セラミックス」を発見しました。弱い圧力や光をスイッチに、エネルギーの取り出しが自在です。太陽、工場、自動車などの蓄熱活用のほか、光記録メモリーなどの先端デバイスへの応用も期待できます」
//宇宙・環境分野
エネルギークラスター:次世代エネルギー問題の解決へ
エネルギーの研究者を機動的につなぐ
「多くの組織で活動してきたエネルギー関係の研究者をつなぐものとして、工学系研究科が中心となってクラスターを立ち上げました。単独のディシプリンでは難しい領域だからこそ、既存の組織を越え、エネルギー関連の企業とともに、より優れた研究成果を創出します」