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第33回

教養教育の現場からリベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、次々に新しい取り組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学のすべての構成員が知っておくべき教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

この10年の国際化と今後の方向性を確認

/教養教育高度化機構シンポジウム「教養教育におけるグローバル化の新段階」

お話/国際連携部門長
教授
原 和之

――駒場におけるグローバル化を振り返るシンポジウムだったんですね。

「2009年に東大が「グローバル30」に採択されて10年の節目を迎えるのを機に企画しました。学生の受け入れ・送り出しでは、PEAKやUSTEPなどの仕組みを整え、個別に行われてきた研修などの単位化も行いました。外国語教育では、ALESS/ALESA、FLOWと演習を展開し、トライリンガル・プログラム(TLP)も広がっています。そうした10年間を概観し、次の方向性を探ろうとの意図でした。新しい試みをやりやすく、今後の芽になる短期の取組みに焦点をあてました」

中国語未履修者が中国に覚醒

「第1部では、南京大学との学生交流フィールドワーク、国際連合との連携、東アジアリベラルアーツイニシアティブ(EALAI)の取組みについて、第2部では、TLPで行う海外研修、国際連携を進めるための運用について、現場の先生が紹介しました。また、参加する側の声も拾おうと、3人の学生に登壇してもらいました。EALAIで中国に行った学生は、中国語は未履修でしたが面白そうだからと参加し、最初は何もできませんでしたが、滞在中に語学が急激に上達して中国語検定の最高位に到達。その後、彼はあらためて長期留学も行ったそうです」

――参加を機に目覚めたんですね。

「EALAIでは中国語履修が必須条件ではなく、英語で参加できる体制だったのが奏功したようです。こうした取組みには学生が参加する際のハードルが低いことが重要だとあらためて感じます」

――グローバル化の課題は何ですか。

「海外との行き来が珍しくない時代に、参加者の手応えをどう持たせるか。送り出しでは日本語を学ぶ現地の学生と組ませるのが一つの方法。南京大学とのプログラムのように、現地学生と東大生がペアで行うフィールドワークは、手間が多くて大変ですが、総じて好評です。受け入れでは、東大ならではの経験をしてもらうことが重要です。以前と違い、今は来日経験者も多いですからね」

学生引率の「ワンオペ問題」とは

「海外で学生を引率する際のマンパワーも問題です。引率者が仮に一人の場合、不測の事態が起こると対処に追われて活動が回りません。現地コーディネーターの支えがあるだけでだいぶ違いますが、人件費はなかなか増やせません。教員が添乗員の役目もする状況を改善しないと質も量も広がらないでしょう。取組みが属人的になりがちという問題もあります。個人の縁を機に活動が始まるのはいいことですが、継続には組織体制が必要です。教員の多忙や異動などの要因で取組みが終わるのはもったいないことです」

――見えてきた方向性を教えて下さい。

「駒場にはすでにいろいろな国の人がいます。彼らと日本人学生の接点を増やすのが鍵でしょう。これは海外に日本人学生を送り出すよりも少ないコストと努力でできるはずです。たとえば、USTEPの留学生と一般学生の両方が参加できる英語の授業がありますが、参加する日本人学生は少ないのが現状です。語学力というよりも広報の問題かもしれません。特定の国でなく漠然と国際経験をしたい1・2年生は少なくないので、そこに訴えかけるのが有効だろうと思っています」

シンポジウムのプログラム(@21 KOMCEE East)
開会挨拶 石田淳
趣旨説明 西中村浩
基調講演/教養学部のグローバル化 月脚達彦
他者を理解する、人と人との付き合い方を学ぶ 白佐立
SDGs時代における国際機関との連携 井筒節
東アジア・西太平洋地域諸大学との教育交流 岩月純一
トライリンガル・プログラムらしい海外研修とは何か? 石井剛
学生のモビリティ拡大に伴う支援 君康道
大澤麻里子
学生セッション
総合討論
閉会挨拶 原和之
ポスターセッション・懇談会
❶当日紹介された取組みに関連する外国語で鳥獣たちが何やらつぶやいているシンポジウムのポスター(制作は新田龍希先生)。
❷ポスターセッション・懇談会の会場となったMMホールにて。TLPをはじめとして、短期以外の国際プログラムに参加した学生も参加しました。
❸登壇者たちによる総合討論。シンポジウムの報告書は7月にできる予定です。

教養教育高度化機構(内線:44247)

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総長室だより~思いを伝える生声コラム~第22回

東京大学第30代総長五神 真

自分にしかできないことをやろう

4月12日に行われた平成最後の入学式では、今年も、意欲溢れる新入生を多数迎えることが出来ました。大学院入学式では、2017年秋に発足したニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)のヘンシュ貴雄機構長から大変すばらしい祝辞をいただきました。

ヘンシュ先生は、ハーバード大学小児病院の教授として研究グループを率いながら、IRCNの立ち上げに取り組んでおられます。ヘンシュ先生はハーバード大学の学生時代に、本学医学部の伊藤正男先生の脳科学の本に出会って強い衝撃を受け、伊藤先生を慕って来日、大学院は東大で学ばれました。ヘンシュ先生にとって、伊藤先生は心から尊敬している最高のメンターです。祝辞では、恩師から学んだ5つの大切なポイントを紹介され、その中の、2番目のアドバイス“Choose something that only you can do. Be unique in the world”をここでも是非紹介したいと思います。

人生をかけて挑戦する目標の選択は、研究者に限らずとても重要です。ヘンシュ先生は伊藤先生のこの言葉から、自分の幼少期の体験との繋がりから興味を持った、脳を発達させる仕組みこそが自分のテーマだと感じたのだそうです。ドイツ人の父と日本人の母の間に日本で生まれ、3歳でアメリカに移ったヘンシュ先生にとって、3つの言語を操るのはごく自然なことでした。フランス語の授業で同級生が大変苦労していたのに自分はすんなり学ぶことが出来、自分の特長に初めて気づいたそうです。それが自分にこそ見える世界だと感じ、ヒトの成長過程で脳がどう発達するのかということに大変興味を持ったのです。

研究とは、誰も未だ知らない知を生みだす作業です。研究者が取り組む課題は様々ですが、テーマの見つけ方を教えることは簡単ではありません。ここで、「自分だけができることをやれ」というのは重要なヒントです。自分だけにできることを探すには、自分が何者かを知り、自分が何にワクワクするかを問うことも大切です。ヘンシュ先生の祝辞はこれから研究を始める人だけでなく、研究者、あるいは他分野で既に活動する人にも役立つアドバイスです。祝辞は全学サイトに掲載されていますので、是非一読してみてください。

ヘンシュ先生から祝辞をいただく幸運に恵まれたのは、伊藤先生とのつながりがあってこそのことです。そのヘンシュ先生が、高い志を持ち多くの可能性を秘めた学生たち若き研究者たちに、さらなる高い山を目指して登るきっかけを作って下さることを楽しみにしています。

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東大アムナイ通信卒業生と大学をつなげるプラットフォーム第1回

社会連携本部
卒業生部門
梶野久美子

卒業生部門ってナンだ?

社会連携本部卒業生部門は、渉外本部と卒業生室が社会連携部に統合され、2018年にスタートをきった部署です。東京大学ビジョン2020に基づき、卒業生を始めとした、広く大学を取り巻く人的ネットワークを充実させ、大学を恒常的に支えていただく仕組み、在学生を支援するプラットフォームを構築しています。卒業生が「大学」や「同窓生」とつながる公式オンラインネットワークの運営、国内外の同窓会活動のサポート、各種イベントなど、活動内容は多岐に渡ります。

駒場の先生方と新入生を囲む「新入生歓迎パーティー」、就活生にむけた「卒業生による面接演習」、国内外の卒業生による「体験活動プログラム」の提案、「秋の朝食半額キャンペーン」などの在学生支援にとどまらず、「高校生のためのオープンキャンパス」では在学生による相談コーナーを設け、未来の東大生を応援しています。卒業生最大の祭典「ホームカミングデイ」では、各部局・研究科の横断的な協力のもと、秋の1日、卒業生たちを母校のキャンパスに迎えます。部門自体は少数集団ですが、マルチタスク、パフォーマンスの高さで勝負しています。

熱気に満ちたパーティー会場。

4月24日に駒場キャンパスで開催した入学生歓迎パーティーには、約200名の新入生、駒場の教諭16名、趣旨に賛同いただいた卒業生11名、東大校友会サポーター11名が参加しました。ご協力いただいた先生・卒業生からは「学生と話す機会が少なくなっているので、彼らの本音が聞けた貴重なイベント」「学生の率直な気持ちを知る機会は教育者冥利につきる」「帰り際、学生が満足そうな顔をしていて嬉しかった」という声をいただきました。参加した学生からは、「参加前に抱いていた悩みや疑問が解消した」「将来したいことについてのヒントが得られた」「寿司が食べられてラッキー」「将来の学部、学科選びで参考になる話が聞けた」「友達が増えた」「将来のビジョンを考える良い機会だった」「教授にたくさん質問できた」などの声が寄せられました。

入学式で配布した入学パーティーPRうちわ。

本欄では、こうした卒業生部門の活動を紹介していきます。

東大アラムナイ www.u-tokyo.ac.jp/ja/alumni/

職種や年齢を問わず、自身のスキルや知見を活用して母校に貢献したい、在学生の力になりたいという卒業生。

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第157回

生産技術研究所
総務課図書チーム主任
永友敦子

もっと便利に使いやすく!

カウンターからこんにちは!

生産技術研究所の図書室で、学術情報の提供を行い、研究と学びのサポートをしています。カウンターでの窓口対応や閲覧室のメンテナンスに精を出しつつ、バックヤードでは学内外との文献の取寄せ・発送、図書室や研究室の図書の発注・整備も担当です。

この4月に異動したばかりですが、こぢんまりとした生研図書室は手の届く範囲が広いのが嬉しいところ。電子ジャーナルなどオンラインリソースの利用が主流の生研だからこそ、居心地と使い勝手のよい図書室を目指してできることからコツコツやっていきたいと思います。

プライベートではビールが大好き!苦みの奥深さに魅了されてIPA(インディアペールエール)に目がありません。いつか自分のホップ畑を持つのがひそかな夢。東大オフィシャルグッズには泡盛や日本酒があるので、「東大クラフトビール」もそろそろ出るんじゃないかな~とこっそり期待しています。

まずは飲み比べ、気に入ったらパイントで。
得意ワザ:
何でもつまみにして飲める
自分の性格:
悩むのが苦手なせっかちタイプ
次回執筆者のご指名:
大槻健二さん
次回執筆者との関係:
農学部での飲み仲間!?
次回執筆者の紹介:
弾き語りの名手で愛猫家
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう

第1回 附属図書館総務課中村美里

はじめまして!アーカイブズ事業です

今回から、「東京大学デジタルアーカイブズ構築事業」の連載が始まりました。2017年度にスタートしたこの事業では、本学が所有する学術資産のデジタル化を支援し、その公開とデータ活用を促進する取組を行っています。事業を円滑に進めるため、従来から学術資産の保存・管理を行ってきた附属図書館・総合研究博物館・文書館と情報基盤センターの4組織が推進主体となっています。「アーカイブズ事業? 何それ、おいしいの?」という方は、これを機に覚えてもらえると嬉しいです。

ここでいう「学術資産」とは、本学に存在する様々な学術資料のうち、研究活動のために収集・保存されているものです。図書や雑誌はもちろん、古文書、地図、建築図面、標本や実験器具などが含まれます。

『捃拾帖 三十一』(総合図書館所蔵)

本事業の特徴は、学内公募により実施事業を決定している点です。2017年度は8事業、2018年度は13事業が行われ、それぞれ貴重な資料のデジタル公開が実現しました。例えば2017年度は、総合図書館の博物学資料「田中芳男文庫」や法学部法制史資料の公開、空間情報科学研究センターによる地図公開システムの構築などが行われました。2018年度は、一部が重要文化財に指定されている総合図書館の「東京帝国大学五十年史料」や、経済学部が所蔵する政府審議会資料のデジタル化等が進められ、公開準備が始まったところです。2019年度は15事業を実施する予定で、2020年度の公募開始は夏ごろを予定しています。私の部局にあるこれも対象かも?! と気がつかれたら、ぜひ推進室にお問い合わせください。

また、本学が持つ多彩な学術資産へのアクセスを容易にし、活用していただくための基盤として、「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」の構築にも取り組んでいます。このポータルは2019年6月の公開を予定していますので、もう少々お待ちください。

この連載では毎号、ポータルで検索できる資料など、東大にある多種多様な学術資産をご紹介していきます。あなたの部局にあるお宝が紹介されるかもしれません。どうぞお楽しみに!

学術資産アーカイブ化推進室
digital-archive@lib.u-tokyo.ac.jp

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インタープリターズ・バイブル第142回

教養学部附属教養教育高度化機構
科学技術インタープリター養成部門
特任講師
内田麻理香

駒場博物館の「源平桃」

駒場Ⅰキャンパスが職場となり、一年が過ぎた。このキャンパスでは、四季折々の草花が目を楽しませてくれる。4月の初め、源平咲きをする樹を見つけた(写真)。源平咲きとは、一本の樹に赤と白の花が咲くことをいう。平氏の旗である赤、源氏の旗である白になぞらえて、このような趣のある名が付けられている。かつて、梅の源平咲きの樹は見たことがあるが、これは花の形といい咲く時期といい、梅とは考えにくい。桜かな? とも思ったが、源平咲きの桜はないと聞いたことがある。そこで、この樹を植えている駒場博物館の中に入り、その植物の名を尋ねることにした。

駒場博物館の受付にいらした方は、「待って下さいね」と言い、中にいる他の方にその名を聞いてくれたようだ。そして、「『源平桃』というらしいです」と教えて下さった。「その向かいにある赤い花の樹も、同じ源平桃とのことです」との追加の情報まで頂いた。

そもそも、源平咲きという現象はどうして起こるのか。赤い花は、アントシアニンという色素で発色したものだ。このアンシアニンが何らかの理由で発色しない場合、一部の花が発色せずに白い花をつける。色素をつくる遺伝子が発現しないという突然変異が起きると、源平咲きの樹となるのだ。紅白の花がひとつの樹に咲く状態は、ひとつの個体が複数の遺伝子を持つ「キメラ」の状態なのだ。駒場博物館の入り口に並ぶ二本の源平桃は、片方が本来の赤い花が咲いたもので、もう片方が突然変異を起こしたものになる。

このように身の回りにある現象には、科学があちこちに潜んでいる。花の名を尋ねた私と、それを教えて下さった駒場博物館の方々との間で、ある種の科学技術コミュニケーションが生まれたと考えると嬉しい。

さて、ここで新たな疑問が生まれる。梅や桃は源平咲きをするが、同じバラ科なのに、源平咲きをする桜は知られていないとのこと。桜の花の色が薄いから、源平咲きと認識しにくいという説も見かけたが、本当だろうか。その理由であれば、比較的濃い色の八重桜の源平咲きがあっても良いのではないか……というように、源平咲きに関する謎は深まるばかりだ。

この「桜の源平咲き」の不思議をご存じの諸氏がいらっしゃったら、ぜひ私に教えて頂きたい。この『学内広報』を通じて、新たな科学技術コミュニケーションが生まれるかもしれない。

科学技術インタープリター養成プログラム

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いちょうの部屋 学内マスコット放談第6回

特技は角発射(何かひらめいたとき)と身体拡張(ペガサスにもなる)と蹄によるキーボード入力。口癖は「それは先端だね」。好物は日本茶。

いちょう◉キミはサラブレッド? 馬刺し用の馬?

せんタン◆いやいや、伝説の一角獣、ユニコーンだよ。成長著しいベンチャーのことを「ユニコーン企業」っていうでしょ。先端研からそういう企業が続々出てきてほしい、っていう強い願いが形になったんだ。

◉よく見ると角がミサイルじゃん! 破壊願望あり?

◆ミサイルじゃなくてロケットね。この角は、先端研の「異才発掘プロジェクトROCKET」や、浄水技術、先端医療を体現しているよ。白いボディは光触媒技術や雲や北極海の氷の象徴で、馬とロケットの融合は身体拡張技術の象徴。先端研の理念と展開してきた研究内容を身体全体で表しているわけ。

◉ふーん。尻尾はブロンドに憧れて染めたんだよね。

◆違うってば! イチョウ色の尾と淡青色のたてがみはうまれつきの東大カラー。もちろん地毛だよ。

◉ひらがなとカタカナの組み合わせが似ているくまモンとはどういうご関係? もしや秘密の愛人関係?

◆敬愛する大先輩だよ。先端研は2017年に熊本県と包括連携協定を結んだんだ。熊本地震からの復興が大きな目的で、知事さんが東大出身というご縁もあったね。2018年にはくまモン先輩が「せんたん研究員」に就任し、先端研側にも交流相手がほしいね、という話が進んで生まれたのがボク。生みの親で「VRくまモン」などを担当する檜山敦先生も熊本出身だよ。

◉あ、やっぱり熊本→馬肉の連想があったんだ。

◆それは偶然! ボクはあくまでユニコーンだし。

◉OK牧場。では、駒場リサーチキャンパス公開2019でデビューを果たした後の活動予定を教えて。

◆先端研の「地域共創リビングラボ」では、熊本県のほか、石川県、長野県の小布施町・軽井沢町、福井県、福島県いわき市、秋田県、渋谷区、川崎市でも地域連携プロジェクトを進めているんだ。今後はこれらの地域にいるマスコットさんたちとも交流したいな。石川県のひゃくまんさんとかいわき市のフラおじさんとか……。あ、所長の神崎亮平先生が和歌山出身だから、紀州犬のきいちゃんともお近づきになれるといいんだけどな。

◉個人的には乃木坂46のきいちゃんのほうが……。