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東京大学グローバル・インターンシップ・プログラム報告会より ダイキンの海外拠点各所で行われたインターンシップを経て東大生が語った41の言葉

12月2日、令和元年度グローバル・インターンシップ・プログラム成果報告会が山上会館で行われました。150か国に広がるダイキン工業の海外拠点を学生が訪れ、ビジネスの最前線を体感するプログラムです。報告者は、地域滞在型と世界一周型の2種計13チームに分かれてこの夏の2~ 3週間に貴重な経験を積んできた約50名の学生。多くの関係者が見守る場で発せられた言葉を、誌面の許す限り紹介します。東大生は何を感じ、何を得て帰ってきたのでしょうか。

13チームの報告内容※地色が下の言葉と連動
地域滞在型
中国チーム
巨大市場中国とその変貌のスピードを知る
地域滞在型
アジアチーム
シンガポールでの新ビジネスチャンス/ 10 年後を見据えたブランド戦略/インドでの人的資源管理/タイの気候に応じた商品開発
世界一周型 空調の新しい製品サービス/人を基軸に置く経営とは
地域滞在型
米国チーム
IAQ データ分析に基づく提案/イノベーションの創り方/北米住宅用空調の新ビジネスモデル/化学事業の可能性を探る
地域滞在型 ヨーロッパチーム 低温技術とコールドチェーン/ヨーロッパの環境施策から考える
中国内陸部の地方都市で発展の大きさと速さを実感した 日本と違い、中国では社会が今後も拡大すると考えられていた 工場は他に移っても巨大市場は今後も中国にあり続けるとわかった 圧力で中止しかけたダイキンの納涼祭が地元警察の力で実施され、地域に根付いていると感じた 一攫千金を夢見る若者がひしめいていた 中国のダイキンは日本と違い多角化が強みだった 現地で大きな刺激を受け、長期留学を決心した 課題設定を求められず、とにかく現場を感じろといわれ、懐の深さを感じた シンガポールでは、暑いときはガンガンに冷房するのが普通で、省エネ意識は高くないと感じた ポイントサービスが普及していないと気づき、ダイキン製品を使ったりするとポイントがたまるDポイントというサービスを提案した オフィスで寒さや暑さを言い出しにくい人のため、スマホで要望を送り温度を最適化する空調を提案した 日本人に好評の提案が現地スタッフには不評。文化の違いを捉えていなかった 人的管理の上では専門性の高いインド人と汎用性の高い日本人を組ませるのが最善だと思った 現地の7企業を訪ねて人事担当者に話を聞けた。観光旅行では到底できない試みだった インド人社員はダイキン製品を誇りにしていた ダイキンの工場でもストライキが盛んだった コーヒーを入れる使用人、運転手、社長……職種間で微妙な人間関係の違いを感じた 初エアコンを買う若者は価格を重視し、寝室に設えていた 最初のエアコンのメーカーをその後も選ぶ傾向があった 今後のエアコンでは室外も対象になるはずだ 環境への配慮も若者のエアコン購買要因だ 若い世代用の寝室専用エアコンを開発すべし 10年後を見据えるとコンセプトは「農業×ダイキン」だ ダイキンの流通網は作物の流通にも使えるかもしれない 語学、タイピング、発想……チームの仲間と長くすごしてみて自分の足りない部分を痛感させられた 最初は皆うわべのつきあいだったが、中国に来て壁にぶつかり、メンバー同士もぶつかった。腹を割って話す意義がわかった ベルギーのダイキンの現地駐在員は仕事を心底楽しんでいた。赴いた場所を好きになるのがグローバル人材だと思った 日本人のアイデンティティを持つグローバル人材になろうと思った 世界には日本製品がたくさんあった。高くても信頼があって選ばれていることに誇りを持ちたい うまいものたくさん食べたが帰国して大阪で食べた串カツが一番うまかった 日本メーカーは商品だけでなく陳列にも手を抜いていなかった 多くの時間を室内ですごす人間にとって、室内空気質(IAQ)は非常に重要だ ダイキンは大企業なのにベンチャー企業のようだった ダイキンで働いている人たちを見て初めて働くのは楽しいかも、と思えた IAQを価値にする場として病院やレストランが有力候補になる 化学事業の現場を見てみて、大学の実験と企業の実践との違いを感じた 会社や寮に設置し、飲みたい分だけ好きな銘柄を楽しめるシェアリング型ワインセラーを提案した 冷蔵技術とバイオセンサーやブロックチェーンを組み合わせたベジベンダーを提案した 企業が環境政策に対する意見を発して社会に影響を及ぼす重要性を認識した ダイキンはイギリス政府と組んで実証実験を進め、ヒートポンプ暖房を広めていた 環境意識UPを訴えるTシャツを皆で揃えた

ロビーでのパネル展示に続いて行われた報告会では、参加した学生による司会のもと、全13チームの代表が順に登壇してプレゼンテーションを展開。中には映画調の自作動画を活用したり、討論スタイルを導入してカジュアルな空気感を演出する工夫を見せたチームもありました。

報告の後の講評では、まず五神総長が、互いを尊重し合う重要性が増す世界の中で、学生たちが自己相対化を実践してきたこと、世界の一員としての日本を実感したことが随所でわかって本望だという感想を述べました。また、この報告会はきっかけにすぎず、各地で見た様々な姿を今後もダイキンや社会に対して伝えていくことが支援への恩返しにつながるとの見解も示しました。

学生支援担当の松木理事は、グローバル人材を育成したいという当初の思いはある程度叶った、と総括。一方で、今日のプレゼン内容を各自が振り返り、いかに無駄な言葉が多かったかを認識するようにという冷静なアドバイスと、この経験を周りの友達に伝えてプログラムを広めて欲しいという要望表明もありました。

海外赴任歴27年という筋金入りグローバル人材であるダイキンの峯野専務からは「全員が無事に帰ってきた。東大生も丈夫やな」との第一声が。多くの日本企業が落ち込む中で伸びてきたダイキンも分岐点を迎えつつあるという認識を示すとともに、日本が縮小するだけの社会にならないようともに頑張ろう、と学生たちに呼びかけがなされました。

ダイキンの米田執行役員からは、与えられた課題を解くのは得意だが課題を設定するのは苦手だという先入観が吹き飛ばされ、東大生は才能の塊だと思った、とのお言葉をいただきました。人材交流そのものがダイキン流イノベーションに一番のきっかけとなるという理解のもと、次年度以降もプログラムを拡大して続けていく決意が表明されました。

当日は学生たちでほぼ満席に。山上会館の新しい空調システムに若者の熱気と軽さが相まって、会場の「IAQ」も悪くなかった模様です。

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東京大学とCIASの協創による新たな国際会議がスタート 東京フォーラム2019 ほぼ全登壇者アルバム

12月6~8日に開催された東京フォーラムは、ビジネス、テクノロジーから政治まで、幅広い分野における世界的な議論の場となることを目指す試みです。今回のテーマは「Shaping the Future」。主催は東京大学と韓国の学術振興財団CIAS(CheyInstitute for Advanced Studies)。日韓の政治的確執が続く中で関係をよりポジティブな方向に変えたいという、両国の学術界と実業界の希望を象徴するものです。3日間で登壇者数が121にも及んだ大規模イベントの顔触れからその意義をご確認ください。

五神真 東京大学総長チェ・テウォン 韓国SKグループ会長 CIAS理事長亀岡偉民 文部科学省副大臣イ・ホング 元韓国首相隈研吾 建築家、東京大学教授レベカ・グリンスパン Secretaría General Iberoamericana事務局長エンリコ・レッタ パリ政治学院 国際関係学部長ヘレン・クラーク 元ニュージーランド首相キム・スンハン 高麗大学教授孫正義 ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長馬雲(ジャック・マー)アリババグループ創立者小谷真生子 キャスター野依良治 科学技術振興機構 研究開発戦略センター長パク・イングク CIAS事務総長エドウィン・フルナー アメリカ ヘリテージ財団創設者ジョン・ヘイムリ アメリカ CSIS所長藤崎一郎 中曽根平和研究所理事長、元駐米大使ユン・ヨングァン 元韓国外相張蘊嶺 中国社会科学院小倉和夫 元駐韓・駐仏大使キム・ユン 韓日経済協会会長ホ・ユンス GSエナジーCEO中西宏明 経団連会長三村明夫 日本商工会議所会頭佐藤康博 みずほフィナンシャルグループ取締役会長 高原明生 東京大学教授ロバート・アトキンソン アメリカ情報技術イノベーション財団総裁ビクター・チャ CSISパク・チョルヒ ソウル大学教授朱鋒 南京大学教授ジョセフ・ユン 元アメリカ 北朝鮮担当 特別代表キム・ビョンヨン ソウル大学教授味埜俊 東京大学教授佐藤仁 東京大学教授工藤尚悟 東京大学助教ザイナル・アビディン・サヌーシ マレーシア国際イスラム大学センター長バリー・ネス ランド大学准教授ジェームズ・プレスト オーストラリア国立大学上級講師マヤ・プラーブ イエール大学准教授ダニエル・アシェッド オックスフォード大学エレーン・ガベンダー ケープタウン大学講師菊池康紀 東京大学准教授ワラチダ・チャイヤパ チェンマイ大学講師リ・ワンヒ ソウル国立大学ドリエリ・ペイエル サンパウロ大学研究員沖大幹 国連大学教授ジョン・テヨン 延世大学教授カオ・ヴ・クイン・アン 東京大学藤原帰一 東京大学教授城山英明 東京大学教授ヘン・イークアン 東京大学教授佐橋亮 東京大学准教授リ・ジェソン 高麗大学教授雷少華 北京大学助教カンテイ・バジパイ シンガポール国立大学教授ピーター・トルボウィッツ ロンドン大学スクール オブエコノミクス教授張清敏 北京大学教授ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授鄭雄一 東京大学教授チャオ・ヘンタイ 輔仁カトリック大学病院 理事(台湾)アリエ・メイア グーグルクラウドプロダクトマネージャーマーク・バック ジョンソン・エンド・ジョンソン副社長井元清哉 東京大学教授植松智 東京大学特任教授ヒョン・テクファン 基礎科学研究院ナノ分子研究センター長(韓国)エラン・トレド サナラベンチャーCTO野崎慎仁郎 WHO西太平洋事務局光石衛 東京大学 大学執行役・副学長藤本隆宏 東京大学教授松尾豊 東京大学教授染谷隆夫 東京大学教授暦本純一 東京大学教授フリッツ・クロッケ フラウンホーファー研究所教授(ドイツ)森雅彦 DMG 森精機社長ナム・ギョンピル 元京畿道知事(韓国)クォン・ドンスー KAIST教授(韓国)佐久間一郎 東京大学教授パオロ・ダリオ サンタアナ高等大学教授(イタリア)ラッセル・テイラー ジョンズ・ホプキンス大学教授(米国)ピエール・ジャニン レンヌ大学教授(フランス)森健策 名古屋大学教授原田香奈子 東京大学准教授江間有沙 東京大学特任講師大橋弘 東京大学教授米村滋人 東京大学教授ジアン・チャオ ノースウェスタン大学教授曽毅 中国科学院脳知能研究センター副所長トニ・アースキン オーストラリア国立大学 教授キム・デヒョン ソウル国立大学教授フィリップ・ウォン TSMCバイス・プレジデントフランク・ビニョン エアバス社エアバス・ジャパン副社長アリソン・アイゼンバーグ プリンストン大学教授アネット・キム 南カリフォルニア大学准教授マーシャル・ブラウン プリンストン大学准教授横張真 東京大学教授エリック・アビラ カリフォルニア大学 ロサンゼルス校教授日下部貴彦 東京大学助教シルビア・エレナ・ジョグリ メキシコ大学学長ダイアン・ハリス アンドリュー・メロン財団 シニアプログラムオフィサーフランツ・プリチャード プリンストン大学・東アジア研究所准教授吉見俊哉 東京大学教授デイエトマー・オッフェンフーバー ノースイースタン大学准教授ジュアン・デユー 香港大学建築・都市研究所 准教授目黒公郎 東京大学教授オリット・ハルパーン コンコーディア大学准教授シェルドン・ガロン プリンストン大学教授ブルーノ・カルヴァルホ ハーバード大学・ロマンス言語文学研究所教授今泉柔剛 日本スポーツ振興センター理事白波瀬佐和子 東京大学理事・副学長山口一男 シカゴ大学教授松井彰彦 東京大学教授神林龍 一橋大学教授ヨアキム・パルム ウプサラ大学教授イ・ジェヨル ソウル国立大学教授ソン・ホグン 浦項工業大学教員(韓国)林毅夫 世界銀行 前チーフ・エコノミストスプツニ子! アーティスト、東京藝術大学デザイン科准教授リ・コンホ ENUMA共同創立者、チーフエンジニアソン・ジエ 元アリランTV&Radio CEO相原博昭 東京大学大学執行役・副学長羽田正 東京大学大学執行役・副学長(写真なしの登壇者) テイラー・レイノルズ MITインターネットポリシー研究所博士ニコラス・イリオポウロス 東京大学Tokyo Forum ロゴ

フォーラムは、本学の五神真総長、CIASのチェ・テウォン理事長、文部科学省の亀岡偉民副大臣、そしてイ・ホング元韓国首相という日韓4名の開会挨拶で始まりました。

1日目には、隈研吾教授、レベカ・グリンスパン氏、野依良治氏が基調講演を行い、2つの特別対談を行いました。エンリコ・レッタ氏とヘレン・クラーク氏という首相経験者2人の対談では、ポピュリズムが台頭する現代、「ミドルパワー」(超大国ではないが国際的影響力を持つ中堅国)の重要度が増しているとの認識が示されました。アジアで最もパワフルな実業家である孫正義氏とジャック・マー氏の対談では、一千億ドル規模の投資ファンドを通じてスタートアップの支援を続けると孫氏が意欲を語り、「子どもたちが創造的・建設的・革新的になれるように教育の方法を変えねばならない」とマー氏が変革の時代に備えた教育の充実を訴えました。

続いて3つのパネルディスカッションが行われました。日韓実業界のリーダーによるセッションでは、韓日経済協会会長のキム・ユン氏による二国間関係回復のための提案に、経団連会長の中西宏明氏が、産業化によって生じる社会的課題の解決という困難なプロセスを経験した両国が、アジア諸国での同様の課題の解決を支援すべきだと応じました。北東アジアの地政学的転換に関するセッションでは、ヘリテージ財団創設者のエドウィン・フルナー氏が、米中の貿易摩擦が解決しない理由として、知的財産権についての不一致と中国に対する世銀の低金利融資を挙げました。張蘊嶺中国社会科学院教授は、中国は国際的パートナーと共に平和と発展という戦略を取る必要があるとの認識を示しました。

2日目には、アカデミアを代表する研究者6人が各々オーガナイザーを務めるパラレルセッションを開催。6つのテーマ(下参照)について、計91人の登壇者と議論を繰り広げました。

3日目には、3つの特別講演がありました。林毅夫氏は、発展途上国が近代的産業国家に変わるのに必要なインフラの構築に「一帯一路」が役立つと述べました。スプツニ子!氏は、未来の課題と機会の両方を考えさせるスペキュラティブ・デザインについて説明しました。リ・コンホ氏は、教育の機会を奪われた子どものためのアプリを使って成功したプロジェクトについて述べました。その後、2日目に行った6つのパラレルセッションの報告会と、閉会式、懇親会を行い、全日程を終了しました。

一般常識では答が出ない複雑な状況に直面する今、どのように未来を形作るべきか。議論を喚起すべく、東京大学とCIASは、東京フォーラムを毎年開催することで合意しました。

パラレルセッション(2日目)の6テーマ 人名はオーガナイザー名
①味埜 サステイナビリティに向けたトランスローカルアプローチ
②藤原 非グローバリゼーション時代における人類全体の安全保障の追求
③鄭 生涯元気で:自分で守る健康社会
④光石 デジタル革命
⑤アイゼンバーグ 都市の未来
⑥白波瀬 地球時代の不平等:インクルーシブな未来を求めて