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第39回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

様々な専攻の大学院生が科学コミュニケーション力を研磨

/2019年度修了生座談会で見る科学技術インタープリター養成プログラム

論文集には座談会時に不在だった平田優香さん(総合文化研究科修士課程)の論文も
修了論文集

――プログラムに参加して修了論文を書いた5人に集まってもらいました。自己紹介を含めて活動を振り返ってください。

山本●私は思想史が本業です。今回、建築の現場に携わる人たちにインタビューを行い、思想の世界と現実をつなぐ通路をいただいたように感じました。

石塚●福島第一原発事故後の放射線への不安をTwitterで解析するグループに参加し、松戸市と我孫子市の対応の違いを比べて考察しました。学術面から行政に対して伝えるべきことを事故後10年の節目を前にまとめられてよかったです。

東風上●本業はロボット研究です。科学館で科学コミュニケーターとしてロボットを見せる活動をインプリの修了論文にまとめました。科学コミュニケーションは本業の研究を高めるのにも活用できるという知見を得ることができました。

「科学のお姉さん」のプロも参加

五十嵐●私はダンス+実験といったショーや文章を通じて科学の面白さを伝える「科学のお姉さん」の仕事をしています。伝える難しさを日々感じていて、科学コミュニケーションの実践を担う先生方に学ぼうと思って来ました。理論を重視する本専攻の研究室と違い、実践への情熱「科学のお姉さん」のプロも参加を自由に解き放つことができました。

佐野●母校の静岡大学が行っているサイエンスカフェのアンケートで集まった4000件の自由記述を5タイプに分類して分析しました。サイエンスカフェに対して持っていたもやもやを自分の意見として考えられるようになったと思います。

――佐野論文では科学コミュニケーションにおける欠如モデルとシャワーモデルの違いを的確に示す挿絵が印象的でしたが、皆さんが一番印象的だったことは?

教員の指摘はスルーでOK!?

山本●通常は教員からの指摘を素直に反映することが求められますが、ここでは真逆の助言をいただいたことです。非専門家を重視しようという研究をする人がそんなことをしては意味がない、と。

石塚●毎日新聞の須田桃子記者、文科省の官僚、URAなど専門知と社会の界面で働く皆さんによるオムニバス講義かな。

東風上●少人数のプログラムなので、授業でぼーっとしているとよく先生から「どう思いますか」と振られ、それで復活していたことが思い出されます。

五十嵐●授業で科学番組の企画を考えたとき、1mの長さを身近で探す企画を発表したんですが、「何が面白いの?」と、場が険悪なムードになるほど真摯なバックをいただいて。自分がどれだけ寒い企画を考えてきたかを客観視できたんです。

佐野●発表の際、わかりやすくと思って本専攻の分子生物学でよく使う模式図を使ったら、「○や□で示されても全然わからん」と別分野の人にいわれ、その後は本専攻でも気にするようになりました。

――では、今後について教えてください。

山本●春からKOMEX国際連携部門の特任研究員です。某先生のような知的ゴリマッチョな研究者になりたいですね。

石塚●本業の天文学で博士号を。順調じゃないけど副専攻がなくなれば……(笑)

東風上●私もまずは博士号。ここで当初目指したジェンダー研究もやりたいです。映画の女性科学者が敵を倒す姿がどう受け取られているかを調べたいな、と。

五十嵐●今までの失敗を活かして科学に関する企画を続けます。サイエンスショーでも文章でも自分の表現を極めます。

佐野●私は生物系の技術補佐員として実験を続けながら、将来的には博物館や科学館のボランティアもやるつもり。学部生の頃はまだ技術が足りなくて不満が残ったので、もう一度挑戦したいんです。

――若きインタープリターズに幸あれ!

総合文化研究所 博士課程山本千寛さん専門家参加の現実と可能性
理学系研究科 博士課程石塚典義さんTwitterの解析による福島第一原発事故に関する情報発信のケーススタディ
学際情報学府 博士課程東風上奏絵さん子どもや保護者と共に進める共創型ソーシャルロボット研究の検討
学際情報学府 修士課程五十嵐美樹さん女子に向けた科学コミュニケーション手法の検討
総合文化研究科 修士課程佐野美桜さんサイエンスカフェ in 静岡におけるアンケート自由回答の分析

※名前の下は修了論文の題名。所属は2020年3月時点でのものです

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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部局長だより ~UTokyo 3.0 を導くリーダーたちの横顔~第8回

公共政策大学院・医科学研究所

コロナ後の世界と国家の在り方を示す

公共政策大学院長 大橋弘 趣味: ジム通い

経済学研究科と法学政治学研究科の連携で公共政策大学院(GraSPP)が2004年に生まれて16年。この間に2つの大きな変化がありました。

一つは国際化の進展です。当初は日本人が主でしたが、現在は半数以上の学生が海外から。2つの学位を取得するダブルディグリー制度を活用する学生が多いのが特徴です。コロンビア大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなど8校との連携により、東アジア、東南アジア、欧米と多様な地域から学生が集まり、日本人学生も留学しているような感覚かと思います。英語で行う授業が多く、教授会も英語です。志望者増を受けて、このほど定員を増員しました。アカデミックなカリキュラムへの評価と社会貢献への思いが高まっている影響を感じます。

もう一つは博士課程の開設です。国際金融・開発、国際安全保障、科学技術イノベーションの3分野を整備し、専任教員を増やしてきました。研究面強化の一環で、今秋には、米中技術競争やコロナ禍など社会の分断が進む現状を鑑み、グローバルガバナンス教育研究センター(CREGG)を発足させる予定です。東アジアのトップ拠点として、世界や国家の在り方を学生とともに考え、新しい学びが広がりそうなポストコロナの時代にふさわしい姿を示していきたいと思います。

医科学に集う独創の連鎖と飛躍

医科学研究所長 山梨裕司 趣味: 散策

医科学研究所は国立大学の附置研究所では唯一の附属病院を擁し、「医科学」をキーワードとする多様かつ独創的な基礎・橋渡し・臨床研究の好循環が新たな独創を生み出す組織です。近年、小規模病院の長所を生かした病院機能の強化を大学本部や東大病院と連携して進め、ロボット手術の導入や将来のパンデミックをも見据えた特別診察室の設置などを進めています。直近では、医科研の基礎研究が見出した新型コロナウイルス感染阻害候補薬ナファモスタットを用いる特定臨床研究が医科研病院を含む6施設で開始されるなど、基礎・橋渡し・臨床研究の好循環を実感しています。

他方、この4月から研究所の機能強化プロジェクトとして「人知とAIの融合による新次元ゲノム医療創出のための基盤研究」を開始しました。医科研が誇る日本最大の生命科学スパコンSHIROKANEに搭載したAIにより、重ねれば富士山を超える膨大な論文情報を基礎・橋渡し・臨床の「医科学」に役立て、Society 5.0に貢献します。生命科学系では唯一の文部科学省「国際共同利用・共同研究拠点」として、専門分野を固定しない人材の登用、実験動物施設や遺伝子・細胞治療関連施設の拡充などの施策を通じ、人類社会の発展と福祉に貢献する独創の連鎖と飛躍に挑み続けます。

※横顔撮影はZoomで行いました

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シリーズ 連携研究機構第25回「マイクロ・ナノ多機能デバイス連携研究機構」の巻

丸山茂夫
話/機構長
丸山茂夫 先生

極小の非電子デバイスを社会へ

――総長室総括委員会の下の機構からの改組ですね。

もともと川崎市と東大、東工大、慶大、早大の4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアムという組織があり、これに対応する学内の研究ネットワークが「マイクロ・ナノ多機能デバイス研究ネットワーク」でした。新川崎にあるマイクロファブリケーションのラボを拠点としたこの機構を、連携研究機構に拡充した形です。前身を継承する多機能デバイス連携コンソーシアム部門、マイクロ・ナノ技術研究部門、量子情報技術部門という3部門で昨年12月に発足しました。Nano、Multipurpose、functional、Deviceの頭をつなげた略称、NMfDで覚えてください

――さて、マイクロ・ナノ多機能デバイスとは?

私たちが主に扱っているのは、電子デバイス以外のマイクロ・ナノデバイスです。エレクトロニクスだけはでなく、フォトニクス(光工学)や化学、バイオも活用するので多機能デバイスと呼んでいます。たとえばマイクロ流体デバイス(microuidics)は、ガラスの基板に加工を施して溝をつけ、流体を流して分析を行うシステムで、様々な物質を検出できます。用途は様々ですが、わかりやすいのは医療分野でしょうか。健康診断で血液から多様な生体シグナルを検出しますよね

――コレステロールとか中性脂肪とかγGTPとか?

そうした膨大なデータを役立てるには情報を適切に処理する必要があります。そこで特に量子情報技術に注目し、多機能デバイスとの融合を目指しています。昨年12月に東大とIBMが量子コンピュータの運用推進に向けて提携しましたが、窓口だったのが当機構です

4月には2つの新部門ができました。一つはそのIBMとの連携による「マイクロ・ナノ環境デバイスとシステム」社会連携研究部門。面白いデバイスを作り、川崎の地で社会実装していきます。一例はIBMが開発した爪先大のコンピュータと連動するセンサー。IoTで生じる膨大な情報をプライバシー問題をクリアしながら役立てる、頭を持つ極小センシングデバイスです

もう一つの「マイクロ流体化学プロセス工学」社会連携部門は、ダイセルとダイキンという2社との連携で、マイクロ・ナノ多機能デバイスによる化学プラント構想を進めます。小さなデバイスの中で化学プロセスをすると非常に効率が良く、これをたくさん並べると巨大工場に並ぶ生産量で効率の良いデスクトップ化学プラントになるはず。従来のプラントはスケールメリットを狙って巨大化しましたが、逆に小さくすることのスケールメリットを狙います。川崎のほか、将来的には台湾で新部門を作るという計画も進めたいですね

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第168回

先端科学技術研究センター
企画調整チーム
高橋みなみ

初心を忘れず勉強あるのみ!

まだまだこれから覚えることばかり!

4月に異動があり、現在先端研の企画調整チームで人事給与業務を担当しています。これまで会計→外部資金→教務と渡り歩いてきましたが、人事系は知識が全くなくこれまでで一番勉強あるのみ!な日々を過ごしております。主な業務は、毎月の採用や退職、給与の支給から人件費のエフォート管理等です。人の動きや人件費の変動にかなり気を配って先回りして動かなければならず、まだまだ慣れていないため色々な方に質問をして勉強しています。特に給与計算では、各種手当や採用・退職に伴う手続き等、漏らしてはならないものも多く緊張感をもって過ごしています。

プライベートでは、好きなバンドのライブに行ったり、ハイキングに行ったり、文学を漁ったりと結構多趣味に楽しんでいます。また、最近流行りのボードゲームや脱出ゲームも好きで友人とよく遊びに行っています。

大好きなバンドの15周年ライブへ!
得意ワザ:
早口ソングをカラオケで歌うこと
自分の性格:
生真面目と適当の融合
次回執筆者のご指名:
有馬邦彦さん
次回執筆者との関係:
元上司
次回執筆者の紹介:
東大教務の仏様
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう

第12回 工学系・情報理工学系等市村櫻子

学術資産としての工学史料を公開

2019年3月、工学・情報理工学図書館(以下、当館)は、工学史料キュレーションデータベースを公開しました。これは、2011年に当館運営委員会で了承された事業計画に基づき、東京大学百五十年史編纂をも視野に入れつつ進めてきた工学史料キュレーション事業の成果を公開するものです。

この事業では、当館が所蔵する図書、旧制大学期の卒業論文・実習報告、講義ノート、図面等の教育用資料を工学史料として調査・収集し、目録を作成、資料の保存整備を行います。事業を進める上で、学内外の教員、研究者の支援も受けています。また、紙資料以外にも教育の成果物であるコンピュータボード、ヒューマノイドロボットなどの寄贈を受け、工2号館図書室で常設展示・企画展示も行っています。

公開は2018年のUTokyo Repositoryでの旧制大学期の卒業論文・実習報告の目録からスタートしました。そこから発展して工学史料キュレーションデータベースを構築し、2020年4月1日現在、次のデータを公開しています。

「旧制大学期工科大学・工学部卒業論文および実習報告」「三井田誠二・純一資料」「山本武蔵教授科學史編纂委員會関係文書」「国内外の都市計画図等の教育用資料」「震災録等の工学関係和古書」「旧制帝国大学採鉱及冶金学科関係史料写真」他

「On Turbine」井口在屋卒業論文,工部大学校機械科,1882年の標題紙

公開点数はまだ少ないですが、これからも利用許諾が得られたものを順次登録する予定です。

現在は、2019年夏に工8号館貴重書庫(機械系)から発見された、1930年代の舶用と機関車用の蒸汽機関の図面1,500枚以上のドライクリーニング、目録作成、一部の電子画像化を進めており、2020年秋頃の公開を目指しています。

日々、公開が進む工学史料キュレーションデータベースに、ご注目いただければ幸いです。

https://curation.library.t.u-tokyo.ac.jp/s/db/page/home

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インタープリターズ・バイブル第153回

情報学環/生産技術研究所 教授
科学技術インタープリター養成部門
大島まり

ONG STEAM STREAMを開設!

ゴールデンウィークのはじまりである昭和の日は、これから続く連休をどのように過ごそうかと、毎年、心なしかワクワクする。そのなかで、昨年の昭和の日は特別であった。平成の終わりを目前に控え、一つの時代が終わる寂しさとともに、5月1日からの元号、令和に新しい時代のはじまりを感じ、時代の流れを痛感した。しかし、今年は旅行どころか、外出もままならず、家に巣ごもり状態。全世界が大きさ0.1μmほどの目に見えないウイルスに脅かされている。このような状況になるとは、一年前の今頃、誰が想像できたであろう。

新型コロナウイルスは、人に対してだけでなく、社会に対しても様々な影響を及ぼしている。東日本大震災の時にも指摘されていたが、科学的根拠に基づく状況把握、そして適切な対応を促すコミュニケーションの必要性が改めて認識されたと思う。東日本大震災の時と違うのは、ICTとSNSの普及であろう。YouTubeによる情報発信やZOOM飲み会など、皆、それぞれ工夫を凝らして、この苦境を乗り越えようとしている。

しかし、多くの人は日々変わる社会の状況に戸惑いを感じている。子どもたちにとっても、学校が突然3月より休校となり、自宅で自習あるいはオンライン学習している状況である。2018年PISAの調査結果によれば、我が国の学習活動におけるデジタル機器の利用は他のOECD諸国と比較して格段に低い。その報告を受けて、一人一台のパソコン導入の整備が動き出したばかりだったが、新型コロナウイルスにより推進のスピードは加速するであろう。一方、機器のハード面とともにコンテンツの充実化も大事である。新しい学習指導要領がこの4月より順次、小学校から始まり、教科・科目横断の新しいアプローチが試みられている。私が所属している生産技術研究所では、次世代育成オフィス(ONG: Office for the Next Generation)が中心となって、自宅学習している子どもに向けてオンライン教育向けのSTEAM STREAMをゴールデンウィーク前に開設したばかりである(P.11も参照ください)。http://ong.iis.u-tokyo.ac.jp/ong-steam-stream/

研究を題材にSTEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, and Mathematics)教育として、教科・科目を横断した教育コンテンツとして展開している。はじめたばかりなので、改善すべきことは多い。興味や関心のある方、ong@iis.u-tokyo.ac.jpまで是非、ご意見やアドバイスを。

今年の昭和の日は、奇しくもこの原稿を執筆している。コロナ後の世界は大きく変わるであろう。来年のゴールデンウィークは、どのように過ごしているのだろう。

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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第6回
文科三類2年松島かれん

尾鷲で心に響いた文化と温かさ

木名峠狼煙場から見える息をのむ絶景

昨年度1年間、三重県尾鷲市に携わらせて頂きました。東京から尾鷲まで約7時間と近くありませんが、尾鷲の方々にお会いできると思うと、そして車内からの景色や尾鷲での息をのむ程の絶景を思い浮かべると、7時間はあっという間です。尾鷲市三木浦町で地域おこし協力隊としてご活躍されている方からご提案頂いた「漁村から考えるパーマカルチャー」をテーマに、4 回の現地活動と1年間の研究を行わせて頂きました。パーマカルチャーとは「パーマネント」と「(アグリ)カルチャー」を組み合わせた言葉で、永続可能な農業や文化を目指す概念です。

自然の力が全身に響く場所が沢山あります

当初、三木浦町の一部地区を活用し、農業面でパーマカルチャーの導入を試みましたが、獣害の深刻さ、又、高齢化が進む一方、地区までの道が険しく、農業の担い手不足の観点から導入を見送らざるを得ませんでした。しかし、地域おこし協力隊の方と活動させて頂く中で、パーマカルチャーが包含する、永続可能な「文化」が三木浦町にあると発見しました。例として、食べ終わった貝殻を海に戻す事は生き物の住処の創出やゴミの量の削減に繋がります。三木浦町に現在も残る文化に加え、コンビニエンスストアまで数十分といった立地条件も一因と考えられますが、新しくものを買うのではなく、今あるものを大切に使って壊れたら直すことの重要性を再認識し、災害などの多く見られる現代だからこそ、より日常を見直す必要性を感じます。災害という点に関して様々な文献を読む中で、お祭りと防災の関係性を学び、夜に提灯を持ち町内を歩いたり、それぞれの方が異なる役割を担う三木浦秋祭りは、町内の把握や組織運営の観点で防災訓練の一面を包含していると考えます。そして、休校中の三木小学校の活用もご提案させて頂きました。本活動を通して出会った方々から頂いた、言葉では表せない程の深い優しさと温かさなしでは、1年間活動し政策立案まで辿り着くことは決して出来なかったと思います。お世話になった皆様に少しでも感謝の気持ちをお伝えできるよう、未熟な点の多い私ですが、今後も活動させて頂きたいと思っております。本当にありがとうございました。