創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
様々な専攻の大学院生が科学コミュニケーション力を研磨
/2019年度修了生座談会で見る科学技術インタープリター養成プログラム
――プログラムに参加して修了論文を書いた5人に集まってもらいました。自己紹介を含めて活動を振り返ってください。
山本私は思想史が本業です。今回、建築の現場に携わる人たちにインタビューを行い、思想の世界と現実をつなぐ通路をいただいたように感じました。
石塚福島第一原発事故後の放射線への不安をTwitterで解析するグループに参加し、松戸市と我孫子市の対応の違いを比べて考察しました。学術面から行政に対して伝えるべきことを事故後10年の節目を前にまとめられてよかったです。
東風上本業はロボット研究です。科学館で科学コミュニケーターとしてロボットを見せる活動をインプリの修了論文にまとめました。科学コミュニケーションは本業の研究を高めるのにも活用できるという知見を得ることができました。
「科学のお姉さん」のプロも参加
五十嵐私はダンス+実験といったショーや文章を通じて科学の面白さを伝える「科学のお姉さん」の仕事をしています。伝える難しさを日々感じていて、科学コミュニケーションの実践を担う先生方に学ぼうと思って来ました。理論を重視する本専攻の研究室と違い、実践への情熱「科学のお姉さん」のプロも参加を自由に解き放つことができました。
佐野母校の静岡大学が行っているサイエンスカフェのアンケートで集まった4000件の自由記述を5タイプに分類して分析しました。サイエンスカフェに対して持っていたもやもやを自分の意見として考えられるようになったと思います。
――佐野論文では科学コミュニケーションにおける欠如モデルとシャワーモデルの違いを的確に示す挿絵が印象的でしたが、皆さんが一番印象的だったことは?
教員の指摘はスルーでOK!?
山本通常は教員からの指摘を素直に反映することが求められますが、ここでは真逆の助言をいただいたことです。非専門家を重視しようという研究をする人がそんなことをしては意味がない、と。
石塚毎日新聞の須田桃子記者、文科省の官僚、URAなど専門知と社会の界面で働く皆さんによるオムニバス講義かな。
東風上少人数のプログラムなので、授業でぼーっとしているとよく先生から「どう思いますか」と振られ、それで復活していたことが思い出されます。
五十嵐授業で科学番組の企画を考えたとき、1mの長さを身近で探す企画を発表したんですが、「何が面白いの?」と、場が険悪なムードになるほど真摯なバックをいただいて。自分がどれだけ寒い企画を考えてきたかを客観視できたんです。
佐野発表の際、わかりやすくと思って本専攻の分子生物学でよく使う模式図を使ったら、「○や□で示されても全然わからん」と別分野の人にいわれ、その後は本専攻でも気にするようになりました。
――では、今後について教えてください。
山本春からKOMEX国際連携部門の特任研究員です。某先生のような知的ゴリマッチョな研究者になりたいですね。
石塚本業の天文学で博士号を。順調じゃないけど副専攻がなくなれば……(笑)
東風上私もまずは博士号。ここで当初目指したジェンダー研究もやりたいです。映画の女性科学者が敵を倒す姿がどう受け取られているかを調べたいな、と。
五十嵐今までの失敗を活かして科学に関する企画を続けます。サイエンスショーでも文章でも自分の表現を極めます。
佐野私は生物系の技術補佐員として実験を続けながら、将来的には博物館や科学館のボランティアもやるつもり。学部生の頃はまだ技術が足りなくて不満が残ったので、もう一度挑戦したいんです。