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海と希望の学校 in 三陸第8回

三陸を舞台に、岩手県大槌町にある大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターと、社会科学研究所とがタッグを組んで行う地域連携プロジェクト――海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域に希望を育む人材を育成するという文理融合型の取り組み――です。3年目を迎えたわれわれの活動や地域の取り組みなどを紹介します。

再始動、希望のトリコロール

北川貴士大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センター
准教授
大槌駅のホームに入線する三陸鉄道の気動車(36-700形式)。青、赤、白のトリコロールが快晴の空に映える(2020年5月12日撮影)

東日本大震災で被災し、不通となっていたJR山田線・宮古-釜石駅間が三陸鉄道(三鉄)に移管され、昨年2019年3月23日、リアス線として8年ぶりに復活しました。しかし同10月13日、リアス線は台風19号の大きな被害を受け、運休を余儀なくされました。釜石市・鵜住居復興スタジアムで開催予定であったラグビーワールドカップ2019™日本大会・カナダ対ナミビア戦が中止になるなどの台風の影響の詳細については、第5回でお伝えした通りです。

復旧工事は急ピッチで進められ、今年2020年3月20日、最後の不通区間であった陸中山田-釜石駅間(28.9キロ)での運行が再開しました。第3セクターの路線としては全国最長の163キロが、再びつながり全線開通となったのです。再開当日は、晴れていたものの県沿岸部全域に暴風警報が発令され、始発から運転の見合わせや遅れが相次ぐ事態となりました。

台風19号の大雨により路盤が流失し、レールが宙づりとなった箇所(山田町船越:下写真)も補修されました(2020年5月12日撮影)

大槌町では史上1位の最大瞬間風速42.1メートルを観測するほどでした。また、新型コロナウイルスの感染防止の措置で、釜石市で予定されていた記念式典は中止となりました。しかし、「再開そろそろだね」と全線開通を心待ちにしていた多くの住民の方々の思いがお天道様に通じたのか、区間を大幅に短縮という形にはなりましたが、全線運行再開の記念列車は走ることができました。

三鉄オンラインショップ「さんてつ屋」では、さまざまな地元コラボ商品を販売しています。https://sanrikutetsudou.shop-pro.jp/
三鉄ブログはこちら https://www.sanrikutetsudou.com/blog/

翌々日の22日には早速、東京オリンピックの聖火を「復興の火」として宮古から釜石まで三鉄で巡回するイベントが行われました。今後は、青、赤、白の列車の音が、毎日、センターのある大槌にも響くことになります。ただ、新型ウイルス感染拡大の影響で今年度は大型のイベントが開催されないため、もともと予約の少なかった団体旅行にキャンセルが出ているそうです。逆風の中での再出発ですが、三鉄は幾度となく津波・台風といった困難を乗り越えてきました。三鉄トリコロールはいわば沿岸被災地の象徴。青は「三陸の海」、赤は「鉄道への情熱」、白は「誠実」を表しています。今後も走り続けることで、地域の方々に日常生活の足だけでなく、希望も与え続けてくれると思います。延期となっている「海と希望の学校 in 三陸」主催のイベント「海と希望の学校 on 三鉄」も来年にはぜひ開催し(2021年2月予定)、三鉄と沿岸地域を盛り上げていきたいと思っております。

「海と希望の学校 in 三陸」動画を公開中 → YouTube サイトで 海と希望 と検索!

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)

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総長室だより~思いを伝える生声コラム~第27回

東京大学第30代総長五神 真 五神 真

新しい日常の創造

5月25日、政府による緊急事態宣言の解除を受けて、東京大学の活動制限も緩和に向かっています。しかし、東京都の感染者数はなかなか収まらず落ち着かない毎日です。通常であれば、講義や実験あるいは課外活動などのキャンパス生活を満喫しているはずです。しかし今年は様子が全く違い、講義はオンラインのみ、とりわけキャンパスでの新しい大学生活を楽しみにしていた新入生のみなさんには申し訳なく思っています。

大学は様々な人々が集い、顔を合わせ、それぞれの考えを自由に語ることが許されている場です。この大学の根本の機能が制限されているのです。とはいえ、これが永久に続くわけではありません。今は、私達が当たり前と考えていた日常の価値を再考し、その先の未来について前向きに考える機会としたいと思います。

私達はインターネットを介してサイバー空間を参照することにすっかり慣れています。スマホやパソコンでの遠隔接続はwithコロナ生活に欠かせません。オンライン講義、オンライン会議のおかげで大学も活動を継続できています。便利だと思うことも多々ありますが、やはりリアルな交流とは違います。一日オンライン会議を続けると、夕方にはぐったりです。しかし後戻りはできません。サイバーとフィジカル、バーチャルとリアルの二つを賢く行き来しながら、ポストコロナの新しい日常を創造していかねばなりません。

さて、東京大学は11の世界トップ研究大学による国際研究型大学連合(IARU)に加盟していますが、4月のケープタウンでの学長会議は中止となりました。しかし先日、議長である私の発案で、オンライン学長会議を行うことになりました。どの大学もオンキャンパスでの活動は停止に追い込まれ、たいへんな苦労を経験していました。足止めされた留学生を本国にある連携校と協力して支援することや、オンラインでの講義のシェアや学生交流などが提案されました。感染には、地域、人種、ジェンダー、障がいの有無、貧富の差はありません。その一方で、コロナ禍で社会に、むしろ分断と格差が拡大していることも、学長たちとの討議から浮かびあがってきました。普遍的価値の追求である学問に、国境はありません。その意義を共有していることに支えられた信頼と共感の力を再認識しました。分断に向かう世界の中で、アカデミアのネットワークは国際協調とコモンズ構築の鍵となるはずです。

感染症との戦いは長期化しますが、必ず終息します。この困難を学びのチャンスととらえ、希望をもって共に新しい日常を創っていきましょう。

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シリーズ 連携研究機構第26回「宇宙理工学連携研究機構」の巻

中須賀真一
話/機構長
中須賀真一先生

地上と衛星から進める深宇宙探査

――この機構には前身があるそうですね。

工学系研究科と新領域創成科学研究科も協力する形で活動してきた理学系研究科附属宇宙惑星科学機構(UTOPS)を全学組織に拡充しました。UTOPSの長を務めてきた星野真弘先生を機構長に昨年10月に発足し、星野先生の研究科長就任を機に私が引き継ぎました

理学系では、チリのアタカマ砂漠にあるTAOのような地上の望遠鏡を使って深宇宙を観測してきました。工学系では、超小型衛星を開発して宇宙空間から観測してきました。地上からの情報と宇宙からの情報を融合して宇宙探査をさらに進めるのが、UTOPSから続く任務です。特に超小型衛星を使う宇宙科学や深宇宙探査を強化していて、現在は月のラグランジュポイントへ向かう探査機EQUULEUSエクレウスの開発を進行中です

もう一つ重要な任務は学生の教育です。宇宙科学に関わる学生に、衛星開発という大きなプロジェクトを手がける経験をさせたい。昨今の日本では宇宙探査に限らず大きなプロジェクトを回した経験を持つ人材が足りません。優秀な若者たちにその機会を提供します

――超小型衛星の開発チームは何人くらいですか。

EQUULEUSの場合は20人ほどです。ほとんどは大学院生ですが学部生もいる。意思決定まで学生が担いますから、参加すると相当鍛えられます。たとえば、はやぶさ2のリーダーを務めた津田雄一さんは、2003年に世界初の1kg衛星を打ち上げたときの主要メンバーです。その少し下にいた中村友哉さんはベンチャーを立ち上げて宇宙ビジネスを展開中。こうした先例を見ながら、研究の道に限らず、宇宙理工学で培ったことを社会貢献へとつなげる将来を考えてほしいんです

――では、10年スパンでの展望を教えてください。

打ち上げを待つ位置天文衛星Nano-JASMINE

ぜひやりたいのは系外惑星の探査です。広大な宇宙で惑星を見つけるには多くの衛星が必要で、それには超小型衛星が最適です。地球型惑星を見つけて直接観測したい。中央の恒星が明るすぎるので惑星を直接見るのは困難ですが、複数の衛星による編隊飛行などの工夫で挑戦します

コロナ禍がなければ3月に発足記念シンポジウムを行う予定でした。超小型衛星の可能性を宇宙科学コミュニティや国に紹介し、議論するための機会でした。宇宙理工学を大学だけで進めるのは困難で、国や社会の支援が必要ですから、そこは今後も訴えていきます。地球観測も農林水産業もエンターテイメントも関わる宇宙は、社会にとって大きな意味を持ちます。あらゆる分野の皆さんに空の彼方を見上げてほしいですね

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第170回

法学部学務担当
上席係長
有馬邦彦

感謝!感謝!

広い事務室です

昨年4月より法学部の学務担当という職に就いておりまして、今年度で2年目を迎えました。伝統部局における組織の中で極小の一端を担っているところであります。業務内容ですが、大雑把には学部教育・大学院教育の事務を司る各チーム及び留学生担当のサポートといったところで、現状で言うと、例えば第3期中期目標期間における法人評価関係のとりまとめ等であり、学務系が抱える共通部分のオシゴトといったところでしょうか。とは言いつつも、逆に周りの方々から多くのサポートしていただいているのが実態です。みなさま、本当にお疲れ様です。大変感謝しています!

最近は加齢とともに道でツマズキ、階段でツマズキ、すっかり“ニブ~イ”オヂサンになりつつありますが、生活の一部ジョギングを頼りに少しでも老化防止に役立てばと思っている次第です。今のところ健康である自分に感謝しています!!

駅伝大会にて(9年ほど前ですが……)
得意ワザ:
立ち寝
自分の性格:
マイペ~ス
次回執筆者のご指名:
池田洋さん
次回執筆者との関係:
タスキ仲間
次回執筆者の紹介:
炎のおやじランナー
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UTokyo バリアフリー最前線!第20回

熊谷晋一郎熊谷晋一郎室長が
取材原稿で伝える
障害研究の現場⑦
ことだまくん

世界にそそぐ視線を揃える:質的心理学から見えるバリアフリー支援

教育学研究科 能智正博 教授の巻

中学までは田舎で不自由なく過ごすも、高校ではその地方の進学校に入り、自信のなさや活舌の悪さも影響してか、人間関係に“居心地の悪さ”を感じていた。当時の能智氏はその理由を広く言葉の問題に見出し、本学入学後は文学部心理学科で言語心理学を学ぶ。卒業論文では、言い間違いをテーマに実験的な研究を行ったが、自身がこれまで抱えてきた問題意識に答えられていない感覚が残り、大学院へ進学する。

修士課程で、言いたい言葉が出てこない「喚語困難」という失語症の症状が、前後の文脈に影響されることを明らかにした。しかしその困難がその人にとってどのような意味を持つかに迫れていないと感じ、博士課程で様々な研究方法を模索する中で、重度障害のあるわが子に対して「人間性」を感じるようになるまでの親の心理的プロセスを、質的研究の手法で明らかにしたD・ビクレン教授の論文に出会う。心理学研究室の先輩の後押しもあり、ビクレン氏の研究室に留学。頭部外傷の後遺症を持つ人々の自己像の変遷をテーマに質的研究を行い、帰国後は、専門誌の発行や学会の設立等を通じて、質的心理学を国内に紹介してきた。

氏によれば質的心理学は、人の行動を外から予測しコントロールするために数量化・モデル化する従来の行動科学とは異なり、その手前にある概念化・言語化の過程に内在的に寄り添おうとする。例えば、“暴力的な行動”をカウントする量的研究は、“暴力”という概念の定義を所与とすることが多いが、質的研究は、その概念がいかに心や社会の中で成り立っているかを検討する。

失語症など脳損傷症状をもつ人を対象に研究してきた能智氏は、自分の研究は単に「彼ら」の特殊な経験を描き出そうとしているだけではなく、失語症者と自分がともに生きている「共通の世界」を理解することが目標だという。その過程で、相手の話が自分の話にふとつながる瞬間があり、それが彼らのために何ができるのか、という問いを導くのだと強調する。優れた支援は、対象者を自分と切り離して扱うのではなく、世界に注ぐ目線を揃えた先に実現する―能智氏の研究は、制度化される中で失われがちな、重要な支援者の姿勢を指し示している。

バリアフリー支援室 ds.adm.u-tokyo.ac.jp

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インタープリターズ・バイブル第154回

情報学環 教授
科学技術インタープリター養成部門
佐倉 統

科学技術と政治的判断

この原稿を書いているのは2020年5月30日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の被害が広まっている最中だ。数か月前から世界中で同じ病気が蔓延していて、その対応策次第で各国首脳への国民からの支持に明暗が分かれている。今のところ、ドイツ、韓国、台湾、ニュージーランドのトップは支持率を上げ、アメリカ、ロシア、フランス、そして日本は下げている。日本は感染症そのものの被害は欧米各国に比べると断然少ないので、この現象はおもしろい。

安倍首相が支持率を下げている理由はたくさんありそうだが、そのひとつは、責任との向き合い方だろう。感染症の専門家たちに判断を委ねすぎていて、みずからの責任を回避していると受け取られているのだ。

しかるべき専門家のアドバイスをきちんと聞くことは、とても大事だ。感染症対策のような専門的知見が決定的に重要な領域については、それは不可欠である。だからそのこと自体は誰も悪いとは思っていない。むしろ専門家会議の立ち上げが遅すぎたぐらいだとすら言われているぐらいだ。

しかし、非常事態宣言を出すのか出さないのか、終了するのかしないのか、といった最終的な政策決定は、これは政治家が責任をもって下すことである。というか、政治家ってそのためにいるんだろう。専門家がこう言ったからと、判断をすべて専門家に押しつけるような政治家の姿勢が市民の目には責任のがれとうつり、支持率低下を招いている。

これは政治家の人気に影響するというだけの話ではない。専門知を政治や社会の意思決定にどのように使っていくか、使いこなしていくか、そのデザインがうまくできていないという日本の問題がここに凝縮されている。

政治家に科学技術をどのようにわかってもらうのか。科学技術コミュニケーションにとっても重要な課題なのだけど、どこをどうしていけば良いのか、正直まったくわからない。政治家の資質に責任を負わせてすむ問題ではない。今回のコロナ禍がきっかけとなって、少しでも事態が改善される方向に進められればうれしいのだが。

科学技術インタープリター養成プログラム
science-interpreter.c.u-tokyo.ac.jp

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第26回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

138年前のコレラ流行と東大の対応

新型コロナウイルスの感染拡大の影響をうけ、本学の令和元年度学位記授与式・卒業式は規模を縮小して挙行、そして今年度入学式式典も中止になり、キャンパスへの入構なども大幅に制限される事態となりました。こうした現状と類似した状況が、過去にも幾度か起きていたことが当館資料に残されています。今回は明治15年のコレラ(虎列剌/乕列剌)流行時における本学の対応についてひもといていきましょう。

『校中往復 明治十五年分全壹冊』の1ページと「乕列剌」と書かれた部分の拡大写真

この年の流行は、日本において明治期以降最大のコレラ流行となった明治12年より規模は小さいものの、最終的な国内罹患者は5万人超、死者も3万人を超えました。5月末に東京でコレラ患者が確認され、東京府は7月に東京検疫局を新設していることからも、東京での危機感の高さがうかがえます。

当館所蔵の『校中往復 明治十五年分全壹冊』(S0005/11)に綴じられている6月16日付「學生生徒中虎列剌病患者有之節心得方ノ件」には、「該病ノ発シタル舎或ハ教場ハ医員ニ於テ夫々消毒法ヲ行ヒ其舎又ハ教場ヲ鎖スベシ 尤モ発病室同舎ノモノハ消毒法ヲ行ヒシ后豫備室ニ送リ室内之物品モ消毒法ヲ行フニ此レハ携出スルヲ許ササル事」と罹患者が発生した建物・教室の医員による消毒や封鎖処置が記されていますが、このあとには「該教場或ハ舎決シテ餘人ヲ入ラシムヘカサル事」と念を押した一文が朱書きで付記されています。この文書にはこうした朱書きや付箋が多くみられ、猛威をふるう流行病の対策に追われる大学の慌ただしい雰囲気が感じられます。

このほか、文部省へ出された学位授与式の延期伺いや、罹患者と接した際の出勤差し控えについての文書が残されており、138年前の本学においても、感染状況を把握しながら柔軟な運営につとめていた様子がわかります。

(特任研究員・千代田裕子)

東京大学文書館 www.u-tokyo.ac.jp/adm/history/