創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
駒場のSDGs教育を推進するプラットフォームが始動
/シンポジウム「SDGsが目指す世界~考えよう! 私たちの未来~」
――SDGsに深く関わる6名の皆さんが講演されたシンポジウムですね。
「2019年度に発足したSDGs教育推進プラットフォームのキックオフとして、昨年の教養学部創立70周年に合わせて開催しました。SDGsがゴールに見据える2030年とその後の社会を担う学生の皆さんにこの考え方を引き継いで発展させてほしいというのが狙いです。KOMEX各部門ではSDGsに関わる活動を幅広く行っています。そこで新組織を作るのではなく部門間連携でプラットフォームという形で進めることになりました」
部門間の連携でSDGs教育を
「春から人選などの準備を進めてきたシンポジウムでは、私が司会を務め、第1部ではプラットフォームのリーダーを務める環境エネルギー科学特別部門の瀬川浩司教授(広域科学専攻)が、第2部ではプラットフォーム連携教員である初年次教育部門の岡田晃枝准教授(国際社会科学専攻)が座長を務めました」
――第1部は気候変動、エネルギー、産官学連携、第2部は人道支援、国連、リベラルアーツがキーワードでしょうか。
「高村先生はパリ協定を軸に気候変動問題を解説されました。世界は日本より早く脱炭素に向かっていること、2050年にはカーボン0が基本であることを再認識しました。後藤さんのお話では企業が連携してSDGsに向かわないと国際競争はできないことを、東さんのお話では産官学パートナーシップが持続可能社会の構築に必須であることを実感しました」
人道支援団体はその旗を隠す?
「難民を助ける会理事長も務める長先生のお話には大きなインパクトを受けました。9.11以降、人道支援が危険と背中合わせとなり、支援団体の旗やロゴを隠す「ロー・プロファイル」での活動が主流になったこと、難民を本当に救うには教育支援も必須であること……。現実を突きつけられた思いでした。元国連職員である井筒先生のお話では、少数派の権利をあらためて考えさせられるとともに、東大生が国連と接したのを機に行動を起こしたという事例に勇気づけられました。学生にとって、SDGsは、自分がどう世界に貢献するか、これから何をすべきかなど、未来を考えるきっかけにもなると思います。毛利先生はリベラルアーツに携わる意義を掘り下げてくれました。バックキャスティングの考え方が教育でも重要で、専門性をもちながら視野を広くバランス感覚を養うべきだ、とのこと。東大と同様にリベラルアーツを重視しているICUの姿勢に頷かされました」
――実りの多い場だったわけですね。
「質疑応答の場では「世界秩序の変化がSDGs達成に及ぼす影響とは」「バックキャスティングの考え方が企業活動に反映されるのか」「包括的な人道支援のありかたとは」「SDGsにむけたリベラルアーツ教育の価値とは」など、本質的で重要なやりとりがなされました。参加者のアンケートでは回答した人の約9割がプラスの評価を残してくれました」
「ただ、シンポジウムの後に起こったコロナ禍で大学の状況は大きく変わりました。次の機会にはウィズ・コロナの時代に即したSDGsとの向き合い方を考えることになるでしょう。現代に求められる高度教養教育の再構築を、このSDGs教育推進プラットフォームを通じて進めていきたいと思います」
開会挨拶 | 太田邦史/総合文化研究科長・教授 |
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パリ協定が変える世界~ゼロエミッションに向かうエネルギー転換とビジネス~ | 高村ゆかり/未来ビジョン研究センター教授❶ |
SDGsと企業価値創造 | 後藤敏彦/一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 業務執行理事❷ |
産官学連携によるサステイナブル未来社会創造に向けて | 東 和司/パナソニック株式会社マニュファクチャリングイノベーション本部 主務❸ |
人道危機対応における平和構築と人道・開発の連携 | 長 有紀枝/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・社会学部 教授❹ |
SDGsが目指す『誰一人取り残さない』グローバル社会 | 井筒 節/KOMEX 国際連携部門 特任准教授❺ |
持続可能な開発ガバナンスのためのリベラルアーツ | 毛利 勝彦/国際基督教大学 前教養学部長・教授❻ |
閉会挨拶 | 松尾 基之/KOMEX 機構長・教授 |
講演再録集が読めます→www.komex.c.u-tokyo.ac.jp/archives/category/events