第1121回淡青評論

七徳堂鬼瓦

XXVID-XX19

現在、新型コロナウイルス感染症COVID-19が世界中で猛威を振るっている。犠牲者は7月上旬に55万人を超え、毎日4,000人以上のペースで増え続けている。現代人のほとんどは、医療の進歩により100年前のスペイン風邪のようなパンデミックはもはや起こらないと考えていたが、それが盲信であり、新興感染症に対する備えが不十分であることが浮き彫りにされた。小職も免疫学を専門とする研究者の一人として、忸怩たる思いである。

COVID-19がスペイン風邪と比較されるのを見ていると、これは100年前に出された課題の試験なのではないかと思えてくる。最近の研究では短期間で“革新”や“変革”、実用化が求められるが、COVID-19は研究費配分機関のそのような方針に警鐘をならし、長期的な視野に立った研究の重要性を伝えているようだ。

現代人がCOVID-19の試験で何点取れたのか(取れるのか)は分からない。巷にはピンキリの自己採点結果が溢れているが、100年後(あるいは200年後)の未来人による採点は如何程か。一方、未来人に課題を出し、採点基準を示すことも可能だ。100年後に実施されるであろう新型××ウイルス(あるいは新型○○菌や新型△△虫)の試験に対して、未来人がどのような解答を出すことができれば、大正解と言えるだろうか?

公衆衛生学としては、より早く厳しい、それでいて短期間のロックダウンによる封じ込め一択に思われるが、流行が遅れてやってきている諸外国の現状を考えると甚だ心許ない。一方、感染・免疫学としては、効果的な抗ウイルス薬を想定される全てのタイプのウイルスに対して開発できていること、免疫応答の暴走による組織破壊を防ぎつつ標的ウイルスに対する免疫応答を増強するといった免疫療法を開発できていること、迅速にワクチンを開発できることなどが期待される。いや、想像もつかないような画期的な治療法の開発を課すべきか。

もちろん科学は一夜にして成るものではないため、そのような課題が出されるのは未来人だけではなく、現代人であり、先人である。言うまでもなく過去・現在・未来はつながっており、科学は人類の財産である。100年先を想像し、100年前を回顧することにより、最重要課題を見定めて創造的な研究を生み出すことができる。134年の時を超えて発せられる“Great Scott!”が良い驚きであることを願う。

岡崎 拓
(定量生命科学研究所)