創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
国連と日本の若者をつなげるプラットフォームに
/全学自由研究ゼミナール「国連とインクルージョン」ほか
――2017年1月の1491号では集中講義「国連と文化」を紹介してもらいました。
「その後「国連と文化1・2」となり、「国連とインクルージョン」という授業も続けています。今年はコロナ禍の影響でニューヨークの国連本部に学生を連れて行くことができなかったのが残念でした。私の専門は、国際精神保健・障害政策と、文化や芸術を通してウェルビーイングやインクルーシブな社会を考えることで、そうした課題に強い関心とやる気を持った学生が集まってきてくれています」
――授業を受講した学生が刺激を受けて様々な活動を始めているそうですね。
受講した学生がProjectを開始
「4年前に国連に行った有志が帰国後にUNiTeという学生団体を立ち上げ、様々な活動を繰り広げています。その一つがEMPOWER Projectです。支援が必要な側でなく協力したい側が目印のマーク❶をつけて気持ちを表明する「協力者カミングアウト」の活動です。2017年に代表の学生が国連本部で発表し、2018年には日本政府特命全権大使が国際障害者デー記念ハイレベル・パネルでこの試みを日本の好事例として紹介。2019年受講した学生がProjectを開始の「大学SDGS ACTION! AWARDS」❷ではオーディエンス賞を受賞しました」
「10月に2周年を迎えたのは「ボイス・オブ・ユース JAPAN」❸です。若者たちが安全に自由に思いやアイデアを共有する場所を作ろうと1995年にUNICEFが始めた「Voices of Youth」の日本版で、地方の人も留学生も含めて様々な属性の若者が声を投稿し発信するWeb上のプラットフォームです。自作の童謡をシェアする人、アセクシャルについて綴る人、小田原に来てねとPRする人など、軽いものから深刻なものまで声が集まっています。最近は国会議員や政府職員などの大人も、特に多様性に関する意見を知りたい場合に注目してくれています」
――10月には渋谷ヒカリエで「違い」をテーマにした映像展示も行ったとか。
違いに価値を感じる若者に期待
「“Defence/Difference” Komaba Film Festival 2020A/W❹と題し、ダイバーシティを新視点で描くクリエイターの作品を上映しました。EMPOWER Projectが主催し、UNITAR(国連訓練調査研究所)と国際連携部門が共同で立ち上げた多様性・障害・包摂フォーラムが後援でした。このフォーラムでは今年度、コロナ禍における障害について国連の事務次長や障害者委員会議長などと若者が話す場を3回設けました。同じブランド品に憧れた昔と違い、SNS映えを重視するいまは人と同じでなくてよいという感覚があります。新しい価値観を持つ若者に、偏見と差別の感覚を変える可能性を感じます」
――東大の学生と国連機関を繋げていくのが井筒先生のミッションですね。
「国連職員を辞めた後、自分の経験や思いを次世代に引き継ぎたいと思って東大に来ました。従来、国連機関の意思決定に日本の若者の声が入ることは少なかったと思いますが、彼らの思いやアイデアには強いものがあり、もっと組織的に両者を繋げたいと思っています。障害の有無、高齢かどうか、性的マイノリティかどうかに限らず、私たちは一人ひとり違う存在。違うから支え合える、違いが素敵なものと捉えられる社会の実現のため、国連、研究者、企業といった様々なステークホルダーと若者を繋ぐプラットフォームのサポート役でありたいと思います」