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Tokyo Forum 2020 Online グローバル・コモンズの管理責任とは?

12月3日~4日、Tokyo Forum 2020 Onlineが開催されました。今回のテーマは「人新世における人類共有の地球環境、グローバル・コモンズの管理責任」。世界各地から研究者、政策決定者、経営者、CSOらがオンラインで集合しました。3日に行われたハイレベル特別対話で展開された内容を抽出して紹介します。

ドミニク・ウォーレイさん 世界経済フォーラム(WEF) 取締役員/ ポール・ポールマンさん IMAGINE共同創立者兼会長、国際商業会議所 名誉会長、ユニリーバ前CEO/ヨハン・ロックストロムさん ポツダム気候影響研究所(PIK)所長、 ポツダム大学地球システム科学教授/ クリスティアナ・フィゲレスさん Global Optimism共同創立者、 前国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長/ベラ・ソンウェさん 国連アフリカ経済委員会 (ECA)局長、事務局長/ 石井菜穂子 東京大学理事、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター

ウォーレイ●ジュネーブからこんにちは。地球環境危機は、大きなリスクである一方で大きなチャンスでもあります。ゼロエミッションを実現すれば10兆ドルの経済価値が生じると言われます。ただ、グローバル・コモンズに共鳴しない人も、COVID-19が転換を遅らせる要因になると考える人もいる。まず科学の面から現在の状況を解説していただきましょう。

科学者1万人が緊急事態と警告

ロックストロム●現在、私たちは変化が不可逆になるかどうかの転換点にいます。300万年の間、気温変動の幅は2度を超えませんでしたが、直近の氷期から現在の気温は1.2度上昇しています。これが何よりの証拠です。地球には変動を吸収して安定化させる力があり、これまで気温変動を狭い幅に収めてきましたが、その能力は急激に失われつつあります。

私たちは緊急事態に直面している。1.1万人もの科学者がそう警告しています。史上初めて、科学的観点から地球の緊急事態を宣言できる状況です。地球システムの安定性が脅かされ、我々は全ての地球システムを安定させるための管理者になる必要がある。グローバル・コモンズは、公海や氷床や宇宙空間だけではありません。私たちが依存する陸と海の大きな生物物理学的システムのすべてです。

地球環境に影響を及ぼす15の重要要素のうち9つが臨界点にあります。アマゾンの熱帯雨林、南極の氷床、大西洋の海洋循環……。各々は相互につながり、事態はカスケード的に進みます。プラネタリー・バウンダリーの考えに基づく目標設定が必要です。投資、産業、エネルギー、食料システムも含めて統合されたガバナンスを適用し、管理される状況にしなければいけません。

ウォ●2015年パリ協定の立役者、フィゲレスさん、現在の状況は?

2030年以降は制御が不能に

フィゲレス●私たちはまだ将来への影響力を駆使できる立場にあります。勝負はここから十年。手をつけられるのは2030年まで。以降は制御不能になるので、何をやるかはあまり意味がなくなります。いま意思決定ができる私たちが未来を手中にしている。この十年が全てを決します。

私たちが正しい方向を向いているのは確かです。たとえば金融界では、危機を理解し、方向転換をして価値毀損のリスクを受け入れつつあります。世界の多くの銀行が化石燃料をポートフォリオから外し、資本市場はよりクリーンなテクノロジーに移行しつつある。18の国の中央銀行が気候ストレステストを実施しているのは金融市場がリスクを理解し始めたことの一つの証左です。企業に目を向ければ、1000社以上が2050年までにゼロカーボンを実現する運動に賛同し、1200社の企業が14兆ドルの投資をクリーンな経済へ移行しています。ここ1~2年、世界的企業が2050年より前にカーボンニュートラルをと言っています。脱炭素の取組みは重荷ではなく、イノベーションとよい財務パフォーマンスをもたらす、という意識に変化しています。

グローバル・コモンズを守るためには、マインドセットを変えることです。ブレーキだけでなくアクセルを踏む。持続的な開発のサポートは同時に自然のサポートでもあり、それが生存と成長のために最高だという認識を持つことです。

地政学的に見ると、この1年で大きな変化が生まれました。中国、日本、韓国、コロンビア、南アが脱炭素化の宣言をし、アメリカも大統領選挙の結果を受けてその列に入ります。昨年、脱炭素を謳う国は世界の25%程度でしたが、来年には60-70%の国が気候に関して責任ある目標を持つ。気温変動への影響も変わるかもしれません。直近の報告では、今世紀末の気温は産業革命前から2.1度の上昇になりそうです。パリ協定の前は4~6度と言われていたのが下がり、いい兆候です。方向性は正しい。ただ、スケールとスピードが足りないのが課題です。

ウォ●ビジネスリーダーとしてこのアジェンダを長年推進してきたポールマンさんは今の状況をどう見ますか? 

産学官協働が制度転換の鍵

ポールマン●我々は間違いなく困難な状況にあります。グローバリズムは期待したほど機能せず、集団として必要な変化を実現できていません。COVID-19や気候変動、様々な災害が教えるのは、貧しい人が常に犠牲になることです。行動しないことのコストは行動するコストを上回ります。そこに大きなビジネスチャンスが生まれると気づいた企業は長く繁栄し、気づかない企業は滅びるでしょう。

共通の善のためのパートナーシップが必要ですが、全体に資することを自分の利益の前に置くシステムへの変換は、一つの企業ではできません。市民社会や企業が政府と手を組んでいけば、枠組みをつくる取組みはもっと早く進みます。実は、コロナ禍の中で、ESGに熱心な企業はパフォーマンスがいいのです。危機の中でも回復力がある。金融市場はそうした企業への投資を増やしています。ここがまさに転換点です。

ウォ●続いてエチオピアからお話しいただきます。コロナ禍によってアフリカへの開発援助も減っているようですね。

アジアとアフリカが互いに貢献

ソンウェ●エリアに限定されない真の多国間協力が必要です。アジアとアフリカは互いをいかに補完することができるのか。たとえば、アフリカを走る車は皆アジアの車ですが、多くは中古車で多量のCO2を排出しています。生産拠点をアフリカに移せば、輸送コストが減り、中古車が排出するガスも減るでしょう。アフリカでは2300万人の女性が呼吸器の疾病で苦しんでいますが、これは新しい調理器の普及で解決できるかもしれません。同時に森林伐採の防止効果も期待できるでしょう。我々が手にしているのはスケールの大きな実験の可能性です。

それにはお金が必要です。日本では資金の借り入れコストが非常に低い。グリーンエコノミーを志向する民間の資金が11兆ドルあるとも聞きます。連携してリスクを減らしながらアフリカのインフラに投資できないでしょうか。雇用の面でも債務のサステナビリティでもアジアとアフリカは互いに貢献できます。13億人を擁するアフリカ市場を活用すれば持続可能な形で経済を回しながらネットゼロを実現する道が見えてくるはずです。

ウォ●さて、グローバル・コモンズ・センターはどうアジェンダを進めますか?

足りないピースを集めて発信

石井●地球環境に関するナラティブはここ一年で劇的に変わりました。以前は明るいトーンで人々を勇気づけるものでしたが、それが変わってきました。「2050年に持続可能にするには後10年しかない、2030年以降はコントロールを失う」というメッセージを重く受け止める必要があります。

私は東京で大きな責任を感じています。ネットゼロの姿勢を日韓の指導者が示しましたが、具体的にどうしたら到達できるのか、消費者も企業も不安に感じているでしょう。具体的な進み方が見えないとコミットメントは実現に近づきません。私たちのセンターはそうした足りないピースを埋めようとしています。ロックストロム先生のシナリオをベースにコモンズの管理についての努力度を指標化し、個々の政府や企業の意思決定を助けます。マルチステークホルダー間の提携があって初めて膠着状況から脱出できる。そうした重要な要素を私たちが取りまとめることでスピードとスケールを達成できると考えています。

ウォ●科学者、政府、民間、そして各国間をつなぐ活動が石井さんの手で進むことに私はワクワクしています。

初日には、五神真総長と韓国SKグループのCHEY Tae-Won会長による開会挨拶に続き、コロンビア大学のJeffey Sachs教授と気候変動に関する政府間パネル議長のLEE Hoesungさんが基調講演。ハイレベル特別対話の後、パネル「Covid-19はグローバル・コモンズに大変革をもたらすか?」を行いました。2日目には、「グローバル・コモンズの管理責任を促す枠組みと指標の開発への挑戦」「グローバル・コモンズの管理責任の実践とは?」「グローバル・コモンズの責任ある管理のために、データは何ができるか?」という3つのパネルを実施した後、2日間のMCを担当したジャーナリストの国谷裕子さんのリードにより、日韓の6人の学生たちが、2日間の議論を見て学び感じたことを、東京とソウルからそれぞれ報告。自分の学業や日常生活に議論を役立てようという思いが緊張感とともに伝わってくる好セッションとなり、フォーラムに瑞々しい輝きを添えました。
Tokyo Forum 2020 Onlineの様子
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旧車のレストアから渉外活動まで学生が行うものづくりの授業とは?海外ヒストリックラリープロジェクト!!

9月、広報課に一人の学生さんからメールが届きました。旧車によるラリー参戦を通じてものづくりの技術を体得しながら主体性を養うことを目的とした授業についてぜひ取材してほしいとのこと。文面の背後に熱意と切迫感を見た広報課員は、工学部8号館のガレージにお邪魔しリーダーに話を聞きました。コロナ禍の逆風に耐えながら、彼らの直列3気筒エンジンは一心に動き続けています。

建物と車の写真 アスファルト舗装道を走る車 チーム一心のチームメンバーの集合写真 昨年度のチーム浪漫のチームメンバーの集合写真 ラリー中の車 溶接の様子
❶❷本郷構内を移動するダイハツシャレードクーペ。色はチームウェアと同じサフランイエローです。❸10月1日に行った一般学生向けの試乗企画「ラリーカーに乗ろう!」で使われた「レビンちゃん」ことトヨタカローラレビンTE27。❹チーム一心のメンバー。後列左端はプロジェクトの生みの親・草加浩平先生(ラリー界の重鎮)。❺昨年度のチーム浪漫が参加した第23回ラリー・モンテカルロ・ヒストリックにて。車は日産チェリーでした。❻10月24日に長野県南佐久郡で開催された第39回八子ヶ峰ラリーに参戦したチーム一心は、チャレンジクラスで見事優勝。❼工学部8号館の「実験室」で溶接作業に取り組むメンバー。ロールケージを溶接したつもりで草加先生に見せたら全然ついていないことが判明して1からやり直したこともあったそう。
TEAM ISSHINと書かれたロゴ
Charade(ジェスチャーによる言葉当て遊び)からの連想で「?」を重ねたチームロゴ。名作『幸福の黄色いハンカチ』のイメージもこめられています

機械制御だから訓練になる

――旧車を修理してラリーに出る授業?

はい。動かない車をレストアし、ラリー仕様の車両にして大会に出るんです。例年2月にモナコで行われるラリー・モンテカルロ・ヒストリックを目指しています。世界ラリー選手権の第1戦の直後に同じコースで行われる旧車対象のラリーです。過去に過去にラリー・モンテカルロに出場経験がある車種を使う決まりで、単位が出る授業としては3年と修士1年が対象です。例年15人以上いますが、今年はコロナ禍の活動制限で周知も難しく、9人だけです。工学部の授業ですが他学部も参加でき、理学部や農学部の仲間もいます。

――車好きの学生が集まっているの?

元自動車部も一人いますが、多くは海外に行きたいと思って参加したようで、自分もそうです。去年8月にオートマ限定の免許を取りましたがたまにレンタカーに乗る程度。マニュアル車を移動する必要があり、追加で限定を解除しました。授業をとらなかったらオートマのままでしたね。

――旧車とはどういう車でしょうか?

簡単にいえば、機械制御の車です。現代の車は点火のタイミングなどを全部電子制御していますが、コンピュータはブラックボックスのようなもので、不具合があっても普通は直せません。機械制御なら原因を突き止めて修理することができます。自分たちでどうにかできるところにものづくり教育の意義がある、と考えた草加浩平先生がプロジェクトを始め、今年が11期目です。

――ラリーでは速さを競うんですよね?

ヒストリックラリーは指定区間を指定された速度で走る競技です。速すぎても遅すぎてもダメ。距離や時間は大会によって異なりますが、ラリー・モンテカルロ・ヒストリックでは5日間で3000kmほど走ります。夜通し走る最終日にはフランスのチュリニ峠でみんなで車を応援するのが常です。

先輩からの引き継ぎは禁止!

――それはさぞ盛り上がるでしょうね!

プロジェクトは1年で全てリセットされ、先輩からの引き継ぎが禁止なので、実際の様子は知らないんです。渉外部門は企業に迷惑がかかるので別ですが、その他部門(ロジスティクス、ものづくり、ウェブ、広報、デザイン)は全部引き継ぎ禁止です。過去の様子は報告書で知るのみ。毎年「モンテカルロって何?」から始まります。今年はコロナ禍でさらに手探りの状態です。例年、実験室での作業を6月には始めていましたが、今年はやっと9月から。それまでは部品を触ったこともなく、何をしているのかわからない状態でした。

――0からのスタートは大変そうです。

企業の方には「東大生なのにそんなこともわからないの」とよく言われますね。たとえば、ホイールの作り方には鋳造と鍛造があって、強度を高めるには鍛造がよく、細かいデザインを施すには鋳造のほうがいいが、技術が高い会社は鍛造でもそれができる、なんてことも全然知らなかったので。

――活動資金はどうしていますか?

企業から協賛金を集めて年間1500万円の活動費に充てています。渡航費と約2週間の宿代は自己負担です。海外遠征は課外活動ですがどうせなら行きたいですからね。15万円ほどバイトで稼ぐ必要があります。

TEAM ISSHIN リーダー 森 映樹さん(工学部3年)

――ホンダ学園とのコラボ授業ですね?

はい。整備士を養成する学校の彼らは不動車を車検に通して走れる状態にするまでを担当します。その後、ラリー仕様にしたり、渉外や船積みをするのが東大側の任務です。今回の車両は10月頭に車検に通り、10月下旬に出た長野の大会で、出場は3台でしたがクラス優勝を果たしました。旧車の大会ではなく本来は不利ですが、前日が雨で道から転落する車も出るほど滑りやすく、他車のリタイアが重なりました。

――大会に向けて準備は順調ですか?

実は10月末にモナコ行きを諦めました。コロナの状況を見ながらギリギリまで判断を延ばす手もありましたが、早く決めないと荷造りの苦労が無駄になる。苦渋の決断でした。渡航制限が厳しくない国の大会も検討しましたが、それも難しく、今年度は国内大会への参戦に切り替えました。候補は2月のRally of Tsumagoiと3月の新城ラリーです。日本全国の協賛企業やお世話になった皆様のところをラリー車で回る計画も検討中です。協賛については海外ラリーの力が大きく、日本の大学チームが出ると注目されるからこそという面があります。国内大会だと注目度が減り、協賛金の減額や撤退もありえます。そんな焦りもあって、何かできることはないかと広報課にメールを書きました。ゴールが見えず、がんばっても報われないかもという気持ちもあります。コロナ禍のなか、私たちのようにもがきながら粛々と活動を続けている学生がいることを知ってもらえればと思います。

荷物が溢れた写真 ボンネットの中の写真 ホンダ学園ホンダテクニカルカレッジ関東チームの集合写真 車の写真 6点式シートベルトの写真 タイヤ交換の様子の写真
❽実験室の様子。モンテカルロ行きの船に積むためにパッキングした部品や工具など、約400の荷で埋め尽くされていました。❾磨き上げたエンジンは40年以上前の車とは思えないほどきれい。❿17人の精鋭が揃ったホンダ学園ホンダテクニカルカレッジ関東チーム。見事に車検を通しました。⓫塗装前のシャレード。プロジェクト終了後は提供者のOBに返却予定。⓬ラリー車両では乗員を守るためにロールケージや6点式シートベルトやバケットシートが必須。助手席の足元には消火器も。⓭タイヤ交換の訓練に励む副リーダーの相澤さん。「部品集めから始まる長時間の作業をした後、ラリーで車が元気に走る姿を見て、愛着が湧いてきました」