
12月3日~4日、Tokyo Forum 2020 Onlineが開催されました。今回のテーマは「人新世における人類共有の地球環境、グローバル・コモンズの管理責任」。世界各地から研究者、政策決定者、経営者、CSOらがオンラインで集合しました。3日に行われたハイレベル特別対話で展開された内容を抽出して紹介します。

ウォーレイ●ジュネーブからこんにちは。地球環境危機は、大きなリスクである一方で大きなチャンスでもあります。ゼロエミッションを実現すれば10兆ドルの経済価値が生じると言われます。ただ、グローバル・コモンズに共鳴しない人も、COVID-19が転換を遅らせる要因になると考える人もいる。まず科学の面から現在の状況を解説していただきましょう。
科学者1万人が緊急事態と警告
ロックストロム●現在、私たちは変化が不可逆になるかどうかの転換点にいます。300万年の間、気温変動の幅は2度を超えませんでしたが、直近の氷期から現在の気温は1.2度上昇しています。これが何よりの証拠です。地球には変動を吸収して安定化させる力があり、これまで気温変動を狭い幅に収めてきましたが、その能力は急激に失われつつあります。
私たちは緊急事態に直面している。1.1万人もの科学者がそう警告しています。史上初めて、科学的観点から地球の緊急事態を宣言できる状況です。地球システムの安定性が脅かされ、我々は全ての地球システムを安定させるための管理者になる必要がある。グローバル・コモンズは、公海や氷床や宇宙空間だけではありません。私たちが依存する陸と海の大きな生物物理学的システムのすべてです。
地球環境に影響を及ぼす15の重要要素のうち9つが臨界点にあります。アマゾンの熱帯雨林、南極の氷床、大西洋の海洋循環……。各々は相互につながり、事態はカスケード的に進みます。プラネタリー・バウンダリーの考えに基づく目標設定が必要です。投資、産業、エネルギー、食料システムも含めて統合されたガバナンスを適用し、管理される状況にしなければいけません。
ウォ●2015年パリ協定の立役者、フィゲレスさん、現在の状況は?
2030年以降は制御が不能に
フィゲレス●私たちはまだ将来への影響力を駆使できる立場にあります。勝負はここから十年。手をつけられるのは2030年まで。以降は制御不能になるので、何をやるかはあまり意味がなくなります。いま意思決定ができる私たちが未来を手中にしている。この十年が全てを決します。
私たちが正しい方向を向いているのは確かです。たとえば金融界では、危機を理解し、方向転換をして価値毀損のリスクを受け入れつつあります。世界の多くの銀行が化石燃料をポートフォリオから外し、資本市場はよりクリーンなテクノロジーに移行しつつある。18の国の中央銀行が気候ストレステストを実施しているのは金融市場がリスクを理解し始めたことの一つの証左です。企業に目を向ければ、1000社以上が2050年までにゼロカーボンを実現する運動に賛同し、1200社の企業が14兆ドルの投資をクリーンな経済へ移行しています。ここ1~2年、世界的企業が2050年より前にカーボンニュートラルをと言っています。脱炭素の取組みは重荷ではなく、イノベーションとよい財務パフォーマンスをもたらす、という意識に変化しています。
グローバル・コモンズを守るためには、マインドセットを変えることです。ブレーキだけでなくアクセルを踏む。持続的な開発のサポートは同時に自然のサポートでもあり、それが生存と成長のために最高だという認識を持つことです。
地政学的に見ると、この1年で大きな変化が生まれました。中国、日本、韓国、コロンビア、南アが脱炭素化の宣言をし、アメリカも大統領選挙の結果を受けてその列に入ります。昨年、脱炭素を謳う国は世界の25%程度でしたが、来年には60-70%の国が気候に関して責任ある目標を持つ。気温変動への影響も変わるかもしれません。直近の報告では、今世紀末の気温は産業革命前から2.1度の上昇になりそうです。パリ協定の前は4~6度と言われていたのが下がり、いい兆候です。方向性は正しい。ただ、スケールとスピードが足りないのが課題です。
ウォ●ビジネスリーダーとしてこのアジェンダを長年推進してきたポールマンさんは今の状況をどう見ますか?
産学官協働が制度転換の鍵
ポールマン●我々は間違いなく困難な状況にあります。グローバリズムは期待したほど機能せず、集団として必要な変化を実現できていません。COVID-19や気候変動、様々な災害が教えるのは、貧しい人が常に犠牲になることです。行動しないことのコストは行動するコストを上回ります。そこに大きなビジネスチャンスが生まれると気づいた企業は長く繁栄し、気づかない企業は滅びるでしょう。
共通の善のためのパートナーシップが必要ですが、全体に資することを自分の利益の前に置くシステムへの変換は、一つの企業ではできません。市民社会や企業が政府と手を組んでいけば、枠組みをつくる取組みはもっと早く進みます。実は、コロナ禍の中で、ESGに熱心な企業はパフォーマンスがいいのです。危機の中でも回復力がある。金融市場はそうした企業への投資を増やしています。ここがまさに転換点です。
ウォ●続いてエチオピアからお話しいただきます。コロナ禍によってアフリカへの開発援助も減っているようですね。
アジアとアフリカが互いに貢献
ソンウェ●エリアに限定されない真の多国間協力が必要です。アジアとアフリカは互いをいかに補完することができるのか。たとえば、アフリカを走る車は皆アジアの車ですが、多くは中古車で多量のCO2を排出しています。生産拠点をアフリカに移せば、輸送コストが減り、中古車が排出するガスも減るでしょう。アフリカでは2300万人の女性が呼吸器の疾病で苦しんでいますが、これは新しい調理器の普及で解決できるかもしれません。同時に森林伐採の防止効果も期待できるでしょう。我々が手にしているのはスケールの大きな実験の可能性です。
それにはお金が必要です。日本では資金の借り入れコストが非常に低い。グリーンエコノミーを志向する民間の資金が11兆ドルあるとも聞きます。連携してリスクを減らしながらアフリカのインフラに投資できないでしょうか。雇用の面でも債務のサステナビリティでもアジアとアフリカは互いに貢献できます。13億人を擁するアフリカ市場を活用すれば持続可能な形で経済を回しながらネットゼロを実現する道が見えてくるはずです。
ウォ●さて、グローバル・コモンズ・センターはどうアジェンダを進めますか?
足りないピースを集めて発信
石井●地球環境に関するナラティブはここ一年で劇的に変わりました。以前は明るいトーンで人々を勇気づけるものでしたが、それが変わってきました。「2050年に持続可能にするには後10年しかない、2030年以降はコントロールを失う」というメッセージを重く受け止める必要があります。
私は東京で大きな責任を感じています。ネットゼロの姿勢を日韓の指導者が示しましたが、具体的にどうしたら到達できるのか、消費者も企業も不安に感じているでしょう。具体的な進み方が見えないとコミットメントは実現に近づきません。私たちのセンターはそうした足りないピースを埋めようとしています。ロックストロム先生のシナリオをベースにコモンズの管理についての努力度を指標化し、個々の政府や企業の意思決定を助けます。マルチステークホルダー間の提携があって初めて膠着状況から脱出できる。そうした重要な要素を私たちが取りまとめることでスピードとスケールを達成できると考えています。
ウォ●科学者、政府、民間、そして各国間をつなぐ活動が石井さんの手で進むことに私はワクワクしています。
