第1126回淡青評論

七徳堂鬼瓦

大統領選挙と大学のデジタル化

20年前にスタンフォード大学で長期在外研究を行い、シリコンバレーのエコシステムを知って以来、主に大規模災害発生時における早期復旧の観点から、折に触れてオンラインキャンパス整備の必要性を訴えてきた。これまでは空理空論、徒手空拳に過ぎなかったが、はしなくも新型コロナウイルスの流行により、想像を遥かに超える規模とスピードで大学のデジタルトランスフォーメーションが進んだ。特にオンライン授業の実施に関して、本部の決断と情報基盤センターや大学総合教育研究センターなど関係者の貢献を称賛したい。

パンデミックを機に大学のデジタル化が推進されたのは、どの国や地域も同じ。本学にも、押印を実質廃止したまでは良いが、電子ではない署名が必要だったり、資産管理規定が自宅からのオンライン教育を阻害する部分があったりと、アナログ時代の残滓は少なくない。リアルに戻す/戻さない部分の区分けも重要だが、コロナ禍を触媒として、世界に先駆けた大学の姿を示そうという気概も重要だろう。

例えば、欧米在住の研究者に本学とのクロスアポイントメントを掛けることを想像してみよう。従来は、本学に来てもらうことを原則として、昼間の時間帯を対象に相手機関とエフォート配分交渉をしなければならなかった。しかし、オンラインを前提にすれば、日本の昼間は欧米の夜間。当人が夜更かし又は早起きを良しとさえしてくれれば、相手機関での勤務時間を削らずに本学の教育研究にも従事してもらえる。少なくとも本と筆記用具、改めPCとインターネットがあれば足りる教育研究分野では、上手くすれば欧米内では真似のできないドリームチームを編成できるかもしれない。

20年前の今頃は、ブッシュ対ゴアの大統領選挙が紛糾し、シリコンバレーなのに古色蒼然としたパンチカード式の投票用紙が使われているのを見て、仰天したことを記憶している。またもや奇妙な「選挙」を見ながら、そんなことを考えた。

谷口将紀
(法学政治学研究科)