総長室の下に設置されたBeyond AI 研究推進機構の発足記念シンポジウムが、2月20日にオンラインで開催されました。テーマは「Living with AI, Going Beyond AI」。特別対談では機構にかける思いを二人のキーパーソンが語り、パネルディスカッションでは台湾と日本を結んでAIと集合知と教育の関係が語られ、機構を牽引する研究者10人によるビデオ紹介も行われました。当日の模様をダイジェストでお届けします。
開会祝辞:五神真、孫正義さん(ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員) |
パネルディスカッション(45分):オードリー・タンさん、スプツニ子!さん、池内与志穂 |
機構紹介(20分):10人の中長期研究リーダー |
特別対談(25分):藤井輝夫、宮川潤一さん |
閉会挨拶:藤井輝夫 |
特別対談
二人の「事務局長」がトップに
林 4月からお二人が両組織のトップになるというのは偶然でしょうか。
宮川 五神総長と孫会長という二人を事務局長のように支えてきたのが我々でしたね。
藤井 2年越しで準備を進め、いよいよ始動というときに二人が組織の長になる。偶然ですが気運が高まる感じがします。
林 特に何に力を入れていきますか。
宮川 一つはスマートシティです。未来のまちづくりの議論を大学や国も含めて幅広く進めたいんです。もう一つは地方交通で、MaaS※の世界観を地方創生につなげます。上場企業は株主から集めたお金を上手に運用しないといけませんから、研究という面では少し浅くなる面があります。東大と組むことでそれを深めることができると期待しています。
現在の延長線にないAIを
藤井 私は、いまはないAI、いまのAIの延長線上にないAIを生み出したいです。東大の学問的な強みをAIに掛け合わせて高めることに挑戦します。大学は社会に求められることを意識し、知恵を社会に活かさないと、研究のアクティビティが持続できなくなると思っています。大学の知を社会に役立てることから新しいリソースを得、さらに学問も発展するという好循環を生みたい。専門分野を深く掘り下げることと社会の要請に幅広く応えることの両輪を回していきます。
林 東大の強みとはどういうものですか。
藤井 特定の専門分野を持つ研究者がいることと、幅広い分野の研究者がいることです。だからこそ、AI活用の際に生じる倫理の問題をはじめとして、社会への影響力を具体的に考えられるわけです。
宮川 同じAI研究でも、企業と大学では色が違うと感じます。東大の先生の話を聞いていると「そう来たか!」と驚かされることがあります。企業では思いもつかなかったことを本気で進めていたり、逆に企業ではすでに普通にやっていることがあったりもして、その辺の掛け算が面白い。足し算より掛け算、いえ、べき乗の世界だなという感触があります。
林 AIのダイバーシティですね。一方で、AIには様々な懸念もあるかと思います。
藤井 企業、大学、行政と立場により様々な見方があります。テーブルにそれらを出して共有することが重要です。AIを研究するだけでなく、懸念も含めてオープンに議論する場となることが、社会から共感される存在への第一歩だと思います。
林 研究倫理はよくテーマになりますが、AIだと研究者の倫理におさまらず、企業の倫理、社会の倫理も関わってきますね。
宮川 AIが社会の基盤になるには公平性が必須です。一部の詳しい人だけが富を築いたり権力を得たりするのではなく、人類をもっと自由にする技術がAIであるべき。AIを使ったサービスを提供する企業がしっかり制御しないといけません。
藤井 AIが安心して使えるために何が必要かを研究者もしっかり議論しないといけない。今回そうした場ができたことで技術もしっかりしていくと思います。
宮川 進化を恐れてはいけませんけどね。
林 ソフトバンクで開発している最先端のAI技術はどんなものがありますか。
digital-twinを竹芝で実現
宮川 年末に引っ越した竹芝のスマートビルに多数のセンサを搭載しています。東京都と進めるプロジェクトの一環です。このスマートシティのプラットフォームにデジタルツインを移植したい。まさにこのテーマは機構でも提案があったところです。いいモデルになると思います。
藤井 ハードのセットアップはもうあるので、そこに何を乗せていくかという段階です。研究をすぐ実装に移すことができるコンビネーションのよさを感じます。
林 今後の抱負を一言ずつお願いします。
藤井 いままでにない新しいコンセプトのAIを機構から生み出します。そして、ここから生まれたAIが社会に活用され、社会に浸透して共感を得られるようにしたい。私の思いはこの二つに尽きます。
宮川 AIを超えたAIとは何かを探り、AIの未来を見たいんです。未来のAIを担う人材の育成も機構を通じて進めたい。日本がAIで周回遅れというのは機構の活動を通じて過去の話にするつもりです。
林 たくさんの人が共感をもって応援してくれるような機構にしたいですね。
※Mobility as a Service
パネルディスカッション
AIを使って集合知を深めれば強権発動は不要に
パネルディスカッションは日本と台湾をオンラインで繋いで行われ、司会は特別対談と同じく林先生が務めました。
台湾から参加したタンさんは、近隣店舗のマスク在庫がリアルタイムでわかる「マスクマップ」によりCOVID-19を抑え込むことができたのは、誰か一人の力ではなく社会の集合知を活用した成果であることを紹介。AIを上手に使って集合知を深めることをサポートできれば、中央政府が強権を発動する必要などはないと明快に語りました。
昨年度まで生産技術研究所で活動していたスプツニ子!さんは、過去の偏ったデータセットから学習せざるを得ないAIにはバイアスの問題が生じることを指摘。過去のデータをもとに、女性の雇用を控えるようにとの間違った助言を出したり、特定人種の再犯率が高いという分析を出したりすることもあるという厄介な問題を提起しました。
生産技術研究所の池内先生は、iPS細胞から脳と同じような機能を持つ細胞をつくりだした研究成果を紹介。科学者とデザイナーがAIについて議論しながらテクノロジーに欠けているものを埋めようとするRCA+IIS DESIGN LABの取組みにも言及しました。
バイアスへの対応については、誰かが間違いを見つけたときに簡単にフィードバックができ、それを公開の場で議論するシステムが有効だと述べたタンさん。SNSでは過激な意見をAIで集めて増幅したりフェイクニュースを広げたりする動きがあるという指摘には、火事になるからと火を禁止するのではなく、正しい使い方を小さいときから教えるべきであり、よりよい社会のためにAIをどう使えばよいのかをしっかり教育することが重要だと応答。他のパネリストも賛同を示し、大学を含めた教育の重要性があらためて確認されました。
機構の中長期研究リーダー10人
機構が狙うのは、AIに特化した基礎研究(中長期研究)と社会実装を念頭においた応用研究(ハイサイクル研究)のシナジー。シンポジウムでは、前者を担う10人の研究リーダーがそれぞれの研究室から研究テーマや今後の展開について2分間のビデオで紹介しました。