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藤井輝夫 第31代総長、就任。

2021年4月1日、藤井輝夫先生が東京大学の第31代総長に就任しました。ご自身の思いを構成員に共有していただこうと、広報室長の横山広美先生が新総長との初対話に臨みました。今後6年間、先頭に立って東京大学を牽引していく藤井総長のメッセージと人となりをご確認ください。

藤井輝夫新総長の写真
藤井輝夫(昭和39年4月5日生)
 専門:応用マイクロ流体システム
昭和63年3月 本学工学部卒業
平成2年3月 本学工学系研究科修士課程修了
平成5年3月 本学工学系研究科博士課程修了(工学博士)
平成6年11月 本学生産技術研究所助教授
平成7年4月 理化学研究所基礎科学特別研究員
平成8年4月 理化学研究所生化学システム研究室研究員
平成11年4月 本学生産技術研究所助教授
平成19年2月 本学生産技術研究所教授
平成27年4月 本学生産技術研究所長(~平成30年3月)
平成30年4月 本学大学執行役・副学長
平成31年4月 本学理事・副学長

新総長は「対話」を重視する

横山 4月1日付けの就任挨拶では「対話」を重視されていましたね。これにはどんな思いがこめられているのでしょうか。

藤井 社会的にも地球的にも様々な問題が山積するなか、コロナ禍の影響で、直接会って互いに話す機会が減ってしまいました。そのせいか、自分の思いが相手にきちんと伝わっていないと感じることが多々あります。思うに、このことがさらに多くの問題を生じさせているのではないでしょうか。この一年だけ見ても、紛争、差別、分断といった問題が増えているように感じます。様々な人々がもっと活発に対話を行い、共感を拡げていかないといけないのではないか。そうした思いを強く持っています。

 私は五神真先生の下で社会連携と産学官協創を担当し、ある意味大学のフロントの部分、社会との境目となる現場をつぶさに見てきました。大学は自らの活動を学外にしっかり説明し、社会から理解とサポートを得る必要があります。活動をきちんと発信し、社会の皆さんと向かい合って話す対話の作業を続けないと、大学というものの存在自体が社会から認めてもらえないでしょう。大学は様々なよい活動を行っていますから、それを学外の方々にもしっかりとお伝えしながら共感を拡げていくことが大事だと思っています。

横山 同情ではない真の共感は、お互いの理解を深めます。また、対話のポイントは双方向性にあり、つまりこれまで伝える一方であった我々の側が社会の多様な意見を学び、大学が変わることにもつながります。たとえ意見の相違があっても、対話によって社会との信頼が醸成されることは、分断の時代にとても大事なことだと思い、総長が大事にされることを心強く思います。

藤井 ダイバーシティを重視するのは当然のことです。世界にはいろいろな人がいて、それぞれいろいろな背景をもって生活しています。大学が活動を行う際に、いろいろなバックグラウンドを持つ人が集まってディスカッションを行い、多様なアイデアを出し合うことが、活動の成果をより高いレベルへ引き上げるでしょう。大学にとってダイバーシティが重要な経営方針の一つとなるのは間違いありません。大学として最優先に考えなければいけないことだと思っています。

横山 新しい執行部については、どんなことを期待して任命されたのでしょうか。

またいつかいっしょに働きたいと思っていた先生を執行部の同志に

藤井 新執行部の皆さんのうち、総長補佐などの仕事を通じてともに汗を流してきた先生が数人います。何かの機会があればまたいっしょに仕事をしたいと思っていた皆さんです。今回、どなたに仲間になってもらうお願いをしようかと考えたときに顔と名前が浮かんできたのがこの方々でした。

私は2012年度に総長補佐を務めましたが、林香里先生と大久保達也先生はそのときの同期で、お二人とは様々な問題意識、課題意識をすでに深いところで共有できているように思います。国際とダイバーシティについてはこの数年間林先生が継続して担当してこられましたので、その部分をさらに進めていただきたいと思います。藤垣裕子先生は後期教養教育の改革を進めてきておられ、深い知見をお持ちです。文理を俯瞰する学問や教育の在り方の議論も深めたいと思っています。医学部と病院はもとより大学にとって大きな部分を占める重要な存在ですが、特にいまはコロナ禍の只中ですので、医療に精通する齊藤延人先生に執行部に入ってともに汗を流していただくことが重要だと思います。濱田純一総長の時代からずっと執行部の仕事をされてきた相原博昭先生、そして、この一年間ともに執行部で働いてきた大久保先生、石井菜穂子理事、里見朋香理事がいてくれることは、組織にとって、また私自身にとっても非常に重要です。結果的にバランスのよい布陣になったと自負しています。

横山 今回、学外からは岩村水樹理事がいらっしゃいました。東大とグーグルのパートナーシップがきっかけでしょうか。

藤井 直接的なきっかけというわけではないのですが、何度かイベントなどでお目にかかっていました。岩村理事はマーケティングのプロであり、女性の働き方改革についても推進してこられた方です。人事全般、大きな組織におけるチームの作り方や業務の進め方についても様々な知見をお持ちですから、その辺りを東大に導入していただけたらよいな、と以前から思っていました。また、これまでで言えば広報に当たりますが、大学の対外的なコミュニケーション機能の強化についてもご担当いただく予定です。

横山 女性が過半数ということが注目されましたが、ここにはこだわりましたか?

藤井 そういうわけではなく、ともに仕事をしたいと思った皆さんにお願いしたら結果としてこういう布陣になったということです。インパクトを狙ってこうしたというわけではありません。

4つのtransformationへの思いがこめられたWG名

横山 3.2科所長会議資料の「藤井プラン」検討WG体制図を拝見しましたが、テーマの切り分け方とその略称が斬新だなという印象を受けました。研究、教育、協創、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーン~)、CX(コーポレート~)、Diversity & Global、MX(マネジメント~)という8つのWGが設定されていますが、これについて紹介していただけますか。

藤井 研究、教育はもちろん大学の本分たるものであり、協創は学外とともにやっていくということです。これらは大学の活動として当然考えるべきことということでWGを置きました。DXやGXは、教育・研究・協創のすべてに関係するものとして想定しています。Diversity & Globalは全体に共通する前提のようなもの。CXは、大学と社会とのコミュニケーションのあり方、大学自体のオペレーションや働き方改革などを含むテーマです。ここは岩村理事、広報戦略本部の武田洋幸執行役・副学長、職員人事担当の里見理事に進めてもらうことにしました。すなわち、教育・研究・協創はこれまでどおりの大学のアクティビティで、DX・GX・CXはそれらと直交するものというイメージ。もともとはマトリックス図のなかで、教育・研究・協創に横串を通すようなものとして捉えて描いていました。Diversity & Globalはもっとベーシックな価値観を支え、MXは大学を財務の面で支えるという重要な経営マネジメントと捉えています。マネジメントの改革は、これまで五神先生が大学を真の経営体にするとおっしゃってやってきました。私はそれをさらに一歩進めます。

横山 マトリックス的に考えるというのは藤井先生ならではという感じがいたします。

藤井 最初は図にいろいろ描き込んでいたんですが、途中で3次元になってしまい、あきらめました。様々な要素が直交する形で絵を描ければ多くの人にわかりやすく示せるかも、と思ったんですけどね。

横山 ネーミングも先進的ですよね。音声SNSの「クラブハウス」もさっそくお使いになっていると伺いました。新しいものをどんどん取り入れる新総長の誕生に期待がふくらみます。さて、昨年10月の記者会見では大学を「世界の誰もが来たくなるような学問の場」にしたいと述べられました。私たち構成員はどのようなイメージを持てばよいでしょうか。

藤井 もちろん「大学」ですから基本的には学問の場です。「誰もが」では学生、留学生、研究者、そして職員も想定しています。ここで働くとおもしろいことができそうだと思える場、誰もがここに来て働きたいと思える場にするにはどうしたらよいかという発想で捉えてほしいと思います。

横山 たとえば専門性の高い職員にどう活躍いただくかということも含まれるでしょうか。

藤井 はい。これまで理事・副学長として担当してきた社会連携本部では、ファンドレイザーという専門家がいましたが、広報でも国際でもやはり専門性の高い人は必要でしょう。専門性を取り入れることは進めたいですね。一方で、働く場所として考えたときに、新卒の学生は大学で働きたいと思ってくれるのか。実は、こんなに多種多様な活動をしている組織体というのは、大学以外だとそうはないと思うんです。学務に関する仕事ができるのは当然ですが、イベントの企画や実施もできるし、広報の仕事もできるし、病院に関わることもできるし、いまなら資金運用のような金融に関わる仕事だってできるわけです。働く場所としても魅力的な側面は数多いはずで、そこはもっと伝えたほうがよいかなと思っています。

産学官協創を教育にも活かす

インタビュー中の藤井輝夫新総長の写真

横山 10月の会見で語った「学びと社会を結び直す」は印象的な言葉でした。これについても補足いただけますか。

藤井 いまの時代というのは、大学で学ぶ学生たちが働き始めたときに何が飛び出してくるかわからない、どんな課題に取り組むかも予想できない部分があります。でもそこでなんとかやっていかないといけない。学んだことを実際に現場で生きた知識として使うことが重要です。大学で学ぶだけでなく、海外や地域の自治体、学外の学術機関などに飛び出していって、学んだことを使う機会を増やしたいと思って言いました。

東大は産学官協創で様々な企業と連携活動を展開しています。インターンシップというといまは就職活動と直結していますが、就職と関係なく、学んだことを現場で活かす機会をつくってもらおうと思ってインターンシップをやってきました。そんな機会を増やしていきたいんです。産学官協創の活動を、学生の学びの場を拡大することにも活用したいと思っています。

横山 学内で学び、実践の場にそれをあてはめるときにまた学ぶわけですね。

藤井 そうです。実践の場で足りないことに気づいて、また大学に戻ってきて次の学びのモチベーションにつなげる。それが「結び直す」ということだと思います。

デジタル化でコミュニティを拡大

横山 10月の会見ではオペレーションのデジタル化にも触れておられましたね。

藤井 事務手続きのデジタル化はもう待ったなしの状況です。特にコロナ禍の状況ではなるべく紙を使わずに物事が進められなければならず、そのためには既存の様々なシステムを上手につないで使えるようにしないといけません。そうして事務作業の負担を軽減し、そこに使っていた時間を次の工夫にあてるようにしたいと思います。

もうひとつはキャンパス自体のサービスのデジタル化です。たとえば障(がい)がある人にとって、どのルートを選べばキャンパス内を移動しやすいのかを調べるだけでも簡単ではないでしょう。デジタル化によりそうしたことにもっと配慮できればと思います。部屋を使うときの手続きとか、授業履修の管理なども、学生が手元で手軽にできるようにしたいですね。実はそのためのアプリについては、一昨年から議論を始めています。学生時代にこのアプリを活用し、それを卒業後も使えれば、大学と卒業生はつながり続けることができるでしょう。卒業生とのつながりは東大にとって非常に重要。大学というコミュニティを拡大するツールとしてのデジタル化にも注目しています。

横山 デジタルツールは、ある種の対話的要素があるといいますか、用意するだけでなく使う側の意識も巻き込まないと長く使われないようですが、それができたら楽しみですね。藤井先生は、構成員全員にビジョンを理解してもらいたいともおっしゃっていました。デジタル化についても、たとえば情報システム系の人だけではなく皆でやるんだということでしょうか。

藤井 そのとおりです。東大を誰もが来たくなるような場、誰もがいきいき活動できる場にしていくんだ、という気運、カルチャーのようなものを全構成員で共有できるようにしたいですね。

(取材日=2021年3月26日)

※藤井総長は4月5日に新型コロナウイルス感染が判明し、療養していましたが、4月16日に無事公務に復帰しました(本取材の関係者に感染はありませんでした)。

回答する藤井輝夫新総長の写真

一問一答で見る藤井新総長

1専門の「応用マイクロ流体システム」とは?

◉デバイスの技術です。普通、デバイスというと電子的なものを思い浮かべるでしょうが、そうではなく液体を用いるデバイスの技術です。マイクロサイズの流路構造のなかに分子とか細胞などを入れて使います。身近なところでいえば、PCR検査とか、細胞を培養して薬を開発するのに応用できる技術です。

2最も影響を受けた先生は?

◉浦環先生(本学名誉教授)ですね。

3教養学部時代の授業で印象的だったのは?

◉浦先生の全学ゼミで、アメリカ海洋大気庁(NOAA)のぶ厚いダイビングマニュアルを六本木の生研に行って読むという不思議な授業があって、これが一番印象に残っています。

4教養学部時代の第二外国語は何を選択した?

◉フランス語。理由は忘れました。

5工学部に進んだ理由は?

◉もともと海の中を調べる技術がやりたかったんです。海洋学ではなく、海の中で使う機器を作るほう。それをできる大学というと実はそれほど数はなく、必然的に東大工学部に行こうと思いました。

6海の中で使う機器に着目したきっかけは?

◉子どもの頃にアポロの月着陸をテレビで見てすごいと思ったんですが、月のことがいろいろわかるのがすごいというよりは、人の技術で月に行けるようにしたのがすごいと思ったんです。宇宙に行くのはすでにやられていたので、ならば自分は深い海のほうだな、と。マリアナ海溝の最深部まで行った人は月に行った人より少なく、当時はまだ二人しか行ってなかったんです。それで海の中のほうをやりたいなと思いました。

7研究者になったのはなぜ?

◉「これは自分の仕事です」と20代で言いたい気持ちがありました。いまなら起業を考えていたかも。当時はバブルの頃で、銀行とか証券とかに進む仲間もいましたが、大企業に入ると若手は大事業のほんの一部分しか担当できない、というイメージを自分は持っていたんです。研究者だったら論文を書いて「これは私の仕事です」と言えます。「これは藤井輝夫の仕事です」と言いたくて研究者になった面が大きいです。

8モットーは何ですか?

◉自分が楽しいこと、興味を持つことには手を抜かず、努力を惜しまない。大学経営の仕事もそうやってきたら総長になっていたという感じです。

9理化学研究所時代には何をやりましたか?

◉当時のボスから新しいことを始めるよう助言されてマイクロ流体デバイスの研究を始めたのが理研でした。そこで初めてバイオの実験のやり方などを教えてもらって新鮮でしたね。

10新しいことを始めるのが好き?

◉はい。新しいことを始めたときのわからない感が好きなんです。未知の分野に入ると、それまで自分がやってきた分野の見方や視点をもっている人がそこにはいません。だからこそ自分がそこに新しい視点をもちこめるわけです。これはダイバーシティの価値や楽しさにも通じますね。

11CNRS国際連携研究センターではどんな仕事を?

◉ラボ全体のディレクターを2007年から7年間務めました。フランスから20人ほど研究者が来ていろいろなラボに入って活動するのを統括する役割です。MEMS系のラボにバイオや化学の研究者を呼んで、ナノテクで分子を扱うとかバイオ応用のマイクロデバイスをやるというような分野融合を手がけました。

12生誕の地、チューリッヒの思い出は?

◉生まれただけなので思い出はないんですが、在外研究でスイスに行った際、まだ存命だった母と生家を探しに行ったら40年前と同じ家があった、という思い出はあります。

13麻布高校時代の部活は?

◉水泳部。得意なのは平泳ぎでした。

14バンド活動ではどんな曲を?

◉フュージョンやAORのバンドのギターとしてThe 24 street bandのコピーなどを主にやっていました。

15東大生の頃は何をしていた?

◉海洋研究会というダイビングサークルにいました。西表島や小笠原の父島で長期合宿するサークルでした。なかなか行けないような場所でダイビングをするのが楽しかったです。

16好きなお酒は?

◉シャンパンですね。

17愛車は?

◉ブルーのアウディ。最近は運転しないようにしていますが。

18好物は?

◉甘いもの。チョコとか。

19愛用のブランドは?

◉洋服だと、Paul Smithですね。

フランス国立科学研究センター Micro Electro Mechanical Systems  Adult Oriented Rock

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新役員等の略歴と就任の挨拶

新理事・副学長、新副学長、新副理事の略歴および就任に当たっての挨拶を以下のとおり掲載します。

次の章

経営企画、財務、社会連携・産学官協創等を担当いたします。藤井輝夫総長の率いる執行部は、2004年の国立大学法人化から数えて、4世代目の執行部となります。2027年の創立150周年に向けて、これまでに蓄積した資産とノウハウを基礎に、教育と研究のさらなる発展のために大学の機能強化を図る執行部だと思います。本学は、2020年に、広く投資家に購入を募る市場公募債を国内の大学として初めて発行しました。また、民間企業との産学連携、その大型版となる産学協創を精力的に進めてきました。これらの試みは、本学の教育・研究のための財務基盤を強化するとともに、社会とのより密接で直接的な対話を促進するものです。本学が生み出し蓄積した知の社会還元も加速しています。次の章には、これらの試みがよりグローバルになり、本学が、世界の公共性(the global public)により積極的に奉仕する「世界の東京大学」となる姿が記されると信じます。

私の任務は、その実現のために、よりグローバルな視点から経営、財務、社会・産学連携等についての様々な選択肢を総長、役員、そして科所長に提示し、決定されたことを着実に実行して結果を出すことだと思います。コロナ禍の逆境を乗り越えることも、the global publicに奉仕することに他なりません。次の章は、より重厚で明るいものとなるでしょう。皆様のご支援とご指導をお願い申しあげます。

理事・副学長 相原博昭 AIHARA Hiroaki
相原博昭の顔写真
昭和53年3月
本学理学部卒業
昭和56年10月
カリフォルニア大学ローレンスバークレー研究所研究員
昭和59年3月
本学理学系研究科博士課程単位取得の上退学
昭和59年4月
本学理学部助手
昭和59年11月
理学博士(東京大学)
平成3年8月
カリフォルニア大学ローレンスバークレー研究所物理部講師
平成3年10月
カリフォルニア大学ローレンスバークレー研究所物理部助教授
平成7年10月
本学理学系研究科助教授
平成15年4月
本学理学系研究科教授
平成24年4月
本学理学系研究科長・理学部長
平成26年4月
本学理事・副学長
平成27年4月
本学副学長
平成28年4月
本学大学執行役・副学長
専門分野:
素粒子物理学実験
研究内容:
1) H. Aihara, S. Adachi et al.“, Observation of the top quark”, Physical Review Letters 74 (1995): 2632-2637 2) H. Aihara, Particle-Antiparticle Asymmetry in the B Meson System. London: IOP Publishing, 2020.

東京大学の、そして日本と世界の未来に向けて

藤井新総長の就任に際し、昨年度に引き続き、理事・副学長を拝命いたしました。本年度は総務、教育、施設、情報を担当いたします。また新型コロナウイルス対策タスクフォースの座長もつとめます。

人類の長い歴史の中、我々は大きな変化のときを迎えています。人類の活動が拡大する中、地球の有限性が顕在化、持続可能な社会の構築に向け、議論からアクションにステージが移行しています。東アジアを中心に少子高齢化が進行、我が国はいち早くその課題に直面しています。また、コロナウイルス感染は未だに終息の兆しが見えませんが、ポストコロナの時代においても、様々な制約を受け入れていかねばならないと考えます。歴史の展開期である今こそ、大学の出番です。本学はあらゆる分野のエキスパートが所属する、世界でも有数の大学です。全構成員が連携して、世界にビジョンを発信するとともに、アクションを起こして行きましょう。

五神前総長の最終年度に、理事・副学長として貴重な経験を積むことができました。これらの活動を通して、答えは現場にあり、構成員の所属や属性を越えた協調・連携が重要であることを改めて学びました。この経験を活かし、新執行部の一員として、全力で取り組む所存です。

私事ですが、昨夏還暦を迎えました。人生百年の時代です。大学に入学して以来四十余年、丁度折返し点です。人生の後半戦においては、これまで大学や社会から受けた様々なご支援に対し、恩返しする段階だと肝に銘じています。改めまして、何卒、よろしくお願い申し上げます。

理事・副学長 大久保達也 OKUBO Tatsuya
大久保達也の顔写真
1983年3月
本学工学部化学工学科卒業
1985年3月
本学工学系研究科化学工学専攻修士課程修了
1988年3月
本学工学系研究科化学工学専攻博士課程修了、工学博士
1988年4月
九州大学工学部助手
1991年3月
本学工学部助手
1993年6月
米国カリフォルニア工科大学客員研究員
1994年8月
本学工学部講師
1997年10月
本学工学系研究科助教授
2006年4月
本学工学系研究科教授
2012年4月
本学総長補佐
本学「プラチナ社会」総括寄付講座教授
2014年4月
本学教育研究評議員、工学系研究科副研究科長
2017年4月
本学工学系研究科研究科長・工学部長
2020年4月
本学理事・副学長
専門分野:
化学工学、ナノ材料化学、プラチナ社会
研究内容:
1) Watcharop Chaikittisilp, and Tatsuya Okubo, “Zeolite and Zeolite-Like Materials ”, Handbook of Solid State Chemistry, volume 4 : Nano and Hybrid Materials, Wiley-VCH (2017) : 97-119. 2) Keiji Itabashi, Yoshihiro Kamimura, Kenta Iyoki, Atsushi Shimojima, and Tatsuya Okubo,“ A Working Hypothesis for Broadening Framework Types of Zeolites in Seed-Assisted Synthesis without Organic Structure-Directing Agent. ” Journal of the American Chemical Society 134 (2012): 11542-49.
趣味:
酒と旅

大学というコーポレート

この度、理事・副学長を拝命し、研究、懲戒、病院を担当することとなりました。よろしくお願いいたします。

これまで五神総長の時代に医学部附属病院長を4年間、医学系研究科長を2年間務めさせていただきました。病院は大学の中でも収益を生み出すわかりやすい現業部門です。特に国立大学法人化を契機にその経営は大きく様変わりし、病院収入は法人化前に比較して倍増し500億円に達しようとしています。

ご存知のようにこのような動きは大学本体にも求められており、時代は大学に単なる教育と研究の場だけではなく、新たな経営体に脱皮することを求めています。例えば製薬会社は、何万という薬の候補の中から候補薬を絞り、少数の薬剤を商品として開発し、利益を求めて企業としての形態を維持するわけですが、この方式は大学には馴染みません。一点集中ではなく、巨大なシンクタンクとして学問の裾野の広がりを維持し、未来に投資するために多様な人材を擁する集団でもあるべきです。一方で、そのような大学だからこそ、社会における役割を果たせる事業もあるはずです。大学がどのようなコーポレートに脱皮していくのか、私の役割は主に研究の活性化の面から検討を加え、藤井新総長をお支えしたいと思います。皆さまのご指導とご支援をお願いいたします。

理事・副学長 齊藤延人 SAITO Nobuhito
齊藤延人の顔写真
昭和62年3月
本学医学部医学科卒業
昭和62年6月
東京厚生年金病院研修医
昭和63年1月
本学医学部附属病院研修医
昭和63年5月
富士脳障害研究所附属病院
平成元年9月
米国国立衛生研究所客員フェロー
平成3年11月
総合会津中央病院
平成5年7月
本学医学部附属病院医員
平成6年8月
本学医学部附属病院助手
平成12年11月
群馬大学医学部講師
平成14年7月
群馬大学医学部教授
平成18年2月
本学医学系研究科・医学部教授
平成27年4月
本学医学部附属病院長
平成31年4月
本学医学系研究科長・医学部長
専門分野:
脳神経外科学、脳卒中、脳腫瘍
研究内容:
1) Miyawaki S, Imai H, Shimizu M, Yagi S, Ono H, Mukasa A, Nakatomi H, Shimizu T, and Saito N.“ Genetic variant RNF213 c.14576G >A in various phenotypes of intracranial major artery stenosis/occlusion. ” Stroke 44 (2013): 2894-2897. 2) Shono N, Kin T, Nomura S, Miyawaki S, Saito T, Imai H, Nakatomi H, Oyama H, and Saito N.“Microsurgery Simulator of Cerebral Aneurysm Clipping with Interactive Cerebral Deformation Featuring a Virtual Arachnoid.” Oper Neurosurg 14 (2018): 579-589.
趣味:
Netflix

経営体としての学問をする場

このたび、理事・副学長を拝命いたしました。学生支援、入試・高大接続、評価、研究倫理を担当いたします。現在、大学のマネジメントは「運営」から「経営」へと大きく舵を切ろうとしています。その時大事なことは、変革を駆動する大学として、変えなくてはならないものと変えてはいけないものとの境界の見定めです。変えてはいけないことは、人類の知的遺産の継承の側面です。ヒトは他の動物と異なり、文化や教育・学習を通じた世代間情報伝達機構をもちます。大学で学ぶことの人類にとっての意味は、知的遺産の継承の担い手になることであり、大学とは人類が生み出してきた世代間情報伝達装置のうちで重要なものの1つです。

そう考えると、経営体とはいっても、ふつうの企業のように採算の取れない部門は切り捨ててしまうといった施策は決して取ってはならないことがわかります。学問は何のためにあるのか、地球環境と共存しながら人類が存続するために築いてきた知的遺産を次世代にどう引き継ぐかを常に考える必要があります。

経営体としての大学を議論する場である総合科学技術イノベーション会議や産業競争力会議での語彙と、これまで学内で綿々と引き継がれてきた学問の語彙との間のギャップに時に当惑を覚えながら、しかし同時に藤井新総長のとなえる「インクルージョン」「共感」「行動変容」といったSTSにも通じる言葉に希望を抱きながら、「経営体としての学問をする場」をどう構築していくか考えていきたいと思っています。

理事・副学長 藤垣裕子 FUJIGAKI Yuko
藤垣裕子の顔写真
昭和60年3月
本学教養学部基礎科学科第二(システム基礎科学科)卒業
平成2年3月
本学総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了(学術博士)
平成2年4月
本学教養学部基礎科学科第二助手
平成8年10月
科学技術庁科学技術政策研究所主任研究官
平成12年4月
本学総合文化研究科助教授
平成22年1月
本学総合文化研究科教授
平成25年4月
本学総長補佐
平成27年4月
本学総合文化研究科副研究科長・教養学部副学部長
平成28年4月
本学教育研究評議員
専門分野:
STS(科学技術社会論)、科学技術政策、科学計量学
研究内容:
1) 藤垣裕子(責任編集)、『科学技術社会論の挑戦(第Ⅰ巻~第Ⅲ巻)』、東京大学出版会、2020 2) Fujigaki, Yuko (editor), Lessons from Fukushima: Japanese Case Studies on Science, Technology and Society, Switzerland: Springer, 2015.
趣味:
ネコとのんびりすること

バリアフリーでインクルーシブなキャンパスへ

今年度から国際・ダイバーシティ担当の理事・副学長となりました林香里です。

いま、東京大学のキャンパスでは、日本人男性という圧倒的なマジョリティに比して、女性、外国人、障がいのある方などがマイノリティとなっている構図があるように思います。しかし、これらのマイノリティの側から立ち現れてくるさまざまな課題は、よく見るとキャンパスのコミュニティ全体の課題でもあります。それは、多言語化の問題だったり、会議や研究会の風通しのよさや透明性だったり、キャンパスの施設改善やデジタル化の一層の充実だったり――実はこれらはマイノリティのための施策に留まらない、大学構成員全員に資するものです。

この度、私にいただいた職責は、国籍、言語、文化、人種、性別、年齢等の違いにかかわらず、一人ひとりが安心して楽しくキャンパスに集い、存分に才能を発揮できる、文字通りバリアフリーでインクルーシブなキャンパスをつくることだと考えます。そのことはすなわち、東京大学のキャンパスを、発信力があり、グローバルでユニークな革新的コミュニティへと変革することにつながると確信しています。

インクルーシブなキャンパスづくりは、私一人では到底達成できません。学生のみなさん、職員のみなさん、教員のみなさんのご支援・ご協力を仰いでまいります。なにとぞよろしくお願いいたします。

理事・副学長 林 香里 HAYASHI Kaori
林 香里の顔写真
1987年3月
南山大学外国語学部英米科卒業
1988年8月
ロイター通信東京支局勤務(~1991年)
1995年3月
本学社会学研究科修士課程修了
1997年4月
本学社会情報研究所助手
2001年7月
本学人文社会研究科より博士号(社会情報学)取得
2002年10月
ドイツ・バンベルク大学第2社会学講座フェロー(フンボルト財団)
2004年3月
本学社会情報研究所助教授
2004年4月
(組織統合に伴い)本学情報学環准教授
2009年9月
本学情報学環教授
2012年4月
本学総長補佐
2015年4月
本学情報学環副学環長
2016年4月
米国ノースウェスタン大学客員研究員(安倍フェロー)
2019年4月
本学総長特任補佐
専門分野:
ジャーナリズム研究、マスメディア研究
研究内容:
1)『 <オンナ・コドモ>のジャーナリズム -ケアの倫理とともに』 岩波書店、2011年 2)『 メディア不信 何が問われているのか』岩波新書、2017年
趣味:
市場巡り。世界のキオスクで新聞を買うこと。

「誰もが働きたくなる大学」に

本学理事として事務組織、法務、人事労務を3年間担当させていただきましたが、4月からは藤井輝夫新総長の下で、コンプライアンスも担当することとなりました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

本学には、基幹職、専門職、支援職の職制の下で、約5,000名のフルタイム勤務職員と多数の短時間勤務職員が在籍しています。一緒に働く職員の人数も職責も多様であり、勤務地も全国あるいは世界に広がっています。様々な状況にあっても、それぞれの職員が大学経営のプロフェッショナルとしての能力・専門性を高め、互いに協力できるようにすることで、多様性をチーム力に転換していくことが次の課題だと考えています。

藤井総長が掲げられる「対話」「DiversityとInclusion」「デジタル・キャンパス」はどれも職員の働き方に関わってきます。昨年11月の「東京大学職員のニューノーマルに向けた提言」を踏まえて新しい働き方をさらに進め、「誰もが働きたくなる大学」の実現に貢献してまいります。

理事 里見朋香 SATOMI Tomoka
里見朋香の顔写真
平成2年3月
早稲田大学法学部卒業
平成2年4月
文部省入省
平成7年6月
米イェール大学大学院修士課程(国際関係論)修了
平成18年4月
本学企画調整役 兼 総長秘書室長
平成19年7月
京都大学教育推進部長
平成22年4月
(独)日本学術振興会審議役(基金担当)
平成24年1月
文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長
平成25年7月
文部科学省高等教育局大学振興課長
平成27年1月
文部科学省生涯学習政策局政策課長
平成29年4月
文部科学省大臣官房国際課長
平成30年4月
本学理事
専門分野:
教育行政
趣味:
名所旧跡美味めぐり、女性が主人公の映画鑑賞

地球規模課題に挑む大学を目指して

一向に収束しないコロナ禍は、爆発的な経済成長を遂げ科学技術で武装して無敵に見えた人類社会が、内部構造においていかに脆弱であったか、そのリスク管理がいかに未防備であったかを曝け出しました。歯止めのかからない温暖化もまた、現在の経済システムが、生態系を含む地球環境システムのキャパシティに衝突しているという、コロナ禍と同じ根源から発生しています。

日本は昨年10月に2050年脱炭素宣言を発し、世界の多くの国とともに、待ったなしの地球環境問題の解決に立ちむかおうとしています。この解決には、我々が慣れ親しんだ経済システムを大きく転換する必要があります。化石燃料から脱却して温暖化に歯止めをかけ、資源を循環させ、食料生産・消費を変えて生態系を保全し、人間活動が集中する都市をサステナブルにすることが必要です。そしてこれからの経済価値の創出は、この転換の中から生まれてきます。そのために、大学が伝統的な矩を超えて、産業界、官界、市民社会と協働し、個々の行動の変容を促し経済システム転換を通じて、地球環境――人類の繁栄を支える共通基盤としてのGlobal Commons ――を守り、次世代に渡していく役割を担う必要があります。まず大学がグリーン・トランスフォーメーションの範を垂れることが大切だと思います。

理事 石井菜穂子 ISHI Naoko
石井菜穂子の顔写真
昭和56年3月
本学経済学部卒業
昭和56年4月
大蔵省(現財務省)入省
平成4年7月
IMF
平成8年7月
Harvard Institute for International Development
平成9年12月
世界銀行
平成14年7月
財務省開発機関課長
平成18年6月
世界銀行
平成18年9月
国際協力学博士(東京大学)
平成22年8月
財務省副財務官
平成24年8月
GEF(地球環境ファシリティ)CEO
令和2年8月
東京大学教授、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
専門分野:
開発経済学、地球環境
研究内容:
1) 石井菜穂子『政策協調の経済学』日本経済出版社、1990年 2) 石井菜穂子『長期経済発展の実証研究』日本経済出版社、2003年
趣味:
マラソン、スキューバダイビング

対話と共感に基づくよりひらかれた東京大学へ

この度、総長ビジョン推進担当の理事を拝命いたしました。対話と共感、そしてよりひらかれた大学という藤井総長のお考えのもと新たなビジョンの実現に尽力してゆきたいと考えております。

昨年来のコロナ禍は、日本そして世界の課題を浮き彫りにし、新たな価値観、社会・経済の仕組み構築に向けた変化を一気に加速させています。私はグーグルで日本及びアジア太平洋地域を担当していますが、こうした変化の局面にあって、より良い世界の構築のために、東京大学が果たす事ができる役割は極めて大きいと感じています。東京大学には高い志をもった学生、先生、そして職員の方々が集まっています。この力を日本、そして世界のよりよい変化へとつなげてゆくために、これまで以上に様々なステークホルダーと対話し、共感をもって変化をリードしてゆくことが求められていると思います。

そのためには東京大学が、多様な人々が集まり、新たなイノベーションや価値観を醸成する場であることが重要です。そしてそのためのカルチャー、なかでも「心理的安全性」が成立する環境を教育、研究、そして大学経営・運営の場でつくってゆくことがもとめられています。またこうした姿勢を社会や世界に発信し、東京大学を世界のブランドとして確立することと、東京大学に関わるすべての人々が誇りと帰属意識を持つブランドとすることがもとめられているのではないでしょうか。

微力ではありますが、東京大学が、世界の課題解決を牽引し、世界の中の日本の新たな位置づけを獲得することに貢献ができる存在となるよう皆様と一緒に取り組んでまいりたいと思います。

理事 岩村水樹 IWAMURA Miki
岩村水樹の顔写真
  • 本学教養学部卒業後、株式会社電通を経て、スタンフォード大学経営大学院(MBA)修了
  • 日本大学法学部准教授を経て、2007年4月グーグル入社
  • グーグルバイスプレジデントアジア太平洋地域・日本マーケティング担当(現職)
  • 2018年5月より株式会社ローソン社外取締役
専門分野:
マーケティング、ブランドマネジメント、イノベーション組織
主な著作:
『ワーク・スマート』中央公論新社、2016年 『グーグルと考えるマーケティングの未来』(編著)DiamondHarvard Business Review online,2015年 『はじめてのマーケティング』(共著)日本経済新聞社、2005年 『ブランド構築と広告戦略』(共著)日本経済新聞社、2000年

公共財としての役割と社会との対話

2020年9月に監事として着任いたしまして、約半年が経ちました。

今までは公認会計士として多くの企業や私立の学校法人に関わってまいりましたが、国立大学に携わるのは初めてです。様々な会議や部局長の先生方とのディスカッションを通じて、本学の取組みは常に社会やより良い未来を意識して行われており、まさに公共財としての大きな役割を果たしていることを実感しております。人類社会はここ数年で急激な変化を遂げておりますが、資源の乏しい日本にとって、知と人間の創造力はますますその重要性を増し、本学に期待される役割もさらに広がっていくことと思います。コロナ禍でいろいろな制限もありますが、学生の皆さんには、大学生活を通じて広い学問分野に触れ、多くの人に出会い、様々な経験を積むことにより、好奇心旺盛で能動的な社会人として巣立って行っていただきたいと思います。

本学は、学生、保護者、卒業生、地域の皆様、受託研究や共同研究を行う企業、ご寄付をいただく方々など多くのステークホルダーに支えられていますが、昨年度は大学債の発行により、投資家という新たなステークホルダーも増えました。本学の行う様々な活動をぜひより多くの皆様に知っていただき、ステークホルダーへの説明責任を果たせるよう、監事として微力ながら貢献していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

監事 𠮷田 民 YOSHIDA Tami
𠮷田 民の顔写真
昭和63年3月
横浜国立大学経営学部卒業
昭和63年10月
中央新光監査法人
平成19年8月
新日本監査法人
平成24年1月
学校法人根津育英会武蔵学園
平成27年4月
株式会社The Cream of the Crop & Company
令和2年9月
本学監事
趣味:
卓球、バスケット制作

本学のポテンシャリティの高さに期待

昨年9月に監事を拝命いたしました。私は、本職が、M&Aなどの企業法務を中心とする弁護士業務で、また所属事務所のマネジメント(経営業務)を担当していることもあり、非常勤となります。就任当初は、参加すべき会議の多さに少々面喰い、それも大学独特の呼称のものが多く、しかもコロナ禍でオンラインということもあり、参加者のイメージがつかみ切れませんでしたが(私の不勉強が主因です)、半年近く経ち多少は慣れてきたところです。

偶々この短期間に、総長選考や初めてのガバナンスコードへの適合状況の公表など、大学の経営を担うガバナンス態勢の在り方を考える出来事があり、民間企業とは異なるステークホルダーの多様性や、学内の構成員からの支持・信頼の重要性などを認識しているところです。他方、監事監査の一環で、各部局のトップの方と面談する機会があり、そこでは監査事項の問答にとどまらず、先生方や部局の専門分野に関することにも話題が及び、とても知的に刺激的で楽しくあるのですが、これを通じて改めて感じ入るのが、幅広い分野に亘る本学のポテンシャリティの高さです。

現在、社会の分断への懸念を始め、世界においては大小さまざまな課題がありますが、大学はそれに対して今後の道筋を議論し、未来を示すことができる場であると思います。本学のポテンシャリティを結集すれば、必ずやどのような難題であっても解決の方向を示せるのではないかと信じております。

監事 棚橋 元 TANAHASHI Hajime
棚橋 元の顔写真
平成2年3月
本学法学部卒業
平成4年3月
司法研修所卒業(44期)
平成4年4月
森綜合法律事務所入所
平成8年6月
米国ハーバード大学法学部大学院卒業
平成8年9月
米国ニューヨーク市Davis Polk & Wardwell法律事務所で執務
平成9年9月
米国パロアルト市Wilson Sonsini Goodrich & Rosati法律事務所で執務
平成13年1月
森綜合法律事務所(現 森・濱田松本法律事務所)パートナー
令和2年9月
本学監事
研究内容:
1) 田中亘/森・濱田松本法律事務所編『会社・株主間契約の理論と実務』株式会社有斐閣2021年(共著) 2) 森・濱田松本法律事務所編『M&A法大系』株式会社有斐閣 2015年(編著)
趣味:
テニス、ゴルフ、プロ野球観戦(@甲子園)

東京大学のデジタル化によるアップデート

この度、学術長期構想、大学DX化、IR、ランキング、入試企画を担当する執行役・副学長を拝命いたしました。新型コロナウイルス感染症の影響で、大学も未曾有の変革の荒波に揺られています。我が国は幾多の大きな危機を乗り越え、アップデートを繰り返してきた国ですが、長期的な経済活動の低迷に加え、少子高齢化、さらには環境変動や社会の分断などの世界的な社会変動の動きに大きな影響を受けています。大学はコロナ禍の問題だけでなく、これらの中長期的な課題解決にも取り組んで行く必要があります。

私が担当する項目は、いずれも今後の東京大学の発展に重要な改革に関わる事項です。新たにスタートする藤井新執行部のメンバーとして、これらの改革を着実に進めていきたいと考えています。しかし、東京大学は歴史のある大学であるが故に、情報システム一つをとっても「複雑に絡み合った紐」のような状態であり、なかなか大変な作業であると認識しています。したがいまして、これらの改革には多くの教職員の方々の協力が不可欠です。皆様のご意見を聴取しながら、大学全体にとって益のある仕組み構築していきたいと思います。とくに大学が保有する無形資産をどのように顕在化し、有効活用できるかが鍵であると考えています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

執行役・副学長 太田邦史 OHTA Kunihiro
太田邦史の顔写真
昭和60年3月
本学理学部生物化学科卒業
平成2年3月
本学理学系研究科生物化学専攻博士課程修了、理学博士
平成2年4月
日本学術振興会特別研究員
平成3年4月
理化学研究所・研究員
平成12年4月
理化学研究所・研究ユニットリーダー
平成12年8月
理化学研究所・副主任研究員
平成18年4月
理化学研究所・太田遺伝システム制御研究室・准主任研究員
平成19年4月
本学総合文化研究科・教授
平成28年4月
本学総長補佐
平成29年4月
本学総合文化研究科・副研究科長
平成30年4月
本学総長特任補佐(IR担当)
令和元年4月
本学総合文化研究科長・教養学部長
専門分野:
分子生物学、合成生物学
研究内容:
1) H. Seo他5名,“Rapid generation of specific antibodies by enhanced homologous recombination” Nature Biotech ., 23:731(2005). 2) K. Hirota他5名,“Stepwise chromatin remodeling by a cascade of transcription initiation of non-coding RNAs.” Nature, 456:130(2008).
趣味:
テニス、芸術鑑賞

現場の力を活かし、多様性から新たな学知を生み出す

この度、執行役・副学長を拝命しました。ガバナンス改革、利益相反、監査のほか、人文社会科学組織連携、研究力強化等を担当します。

私が所属する社会科学研究所の基幹事業である全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」(2010-2015年度)の運営を中心メンバーの一人として担いましたが、期せずして、今回は大学のガバナンス改革を担当することになりました。国立大学法人に関わる多様なステークホルダーの役割を明確にし、対外的にも説明可能なガバナンス体制を構築する必要がありますが、その際、言うまでもなく、大学の強みは教育・研究の現場の力にあり、現場の持つ多様性や自主性を最大限発揮させることが大学ガバナンスの要諦と心得ます。

一方、人文社会科学振興および研究力強化も、日本を代表する研究大学である東京大学の重要な課題です。研究力強化にとっては、文系・理系、基礎・応用にまたがる研究分野の多様性、ジェンダーや国籍など研究主体の多様性といった、さまざまなレベルで多様性を実現していくことが重要です。その上で多様性が個々の蛸壺化に陥らず、相互の対話と協働を通じて新たな学知を生み出していくことに、総合大学としての東京大学の強みがあり、また使命であると考えます。

藤井新総長のリーダーシップの下、微力ではありますが、新執行部の一員として東京大学のさらなる発展に貢献できれば幸いです。

執行役・副学長 佐藤岩夫 SATO Iwao
佐藤岩夫の顔写真
昭和56年3月
東北大学法学部卒業
昭和57年4月
東北大学法学部助手
平成4年4月
大阪市立大学法学部助教授
平成12年3月
博士(法学)学位取得
平成12年10月
本学社会科学研究所助教授
平成17年10月
本学社会科学研究所教授
平成26年4月
本学社会科学研究所副所長
平成30年4月
本学社会科学研究所所長
専門分野:
法社会学
研究内容:
1) 佐藤岩夫・濱野亮(共編著)『変動期の日本の弁護士』日本評論社,2015年. 2) 東京大学社会科学研究所・大沢真理・佐藤岩夫(共編著)『ガバナンスを問い直す[Ⅰ][Ⅱ]』東京大学出版会,2016年.
趣味:
建物鑑賞、山歩き

東京大学の歴史の厚みのなかで未来を考える

藤井総長のもとで、あらためて執行役・副学長を拝命しました佐藤健二です。五神前総長の最後の2年間、文書館長・高大接続研究開発センター長・150年史編纂室長を務めておりました。その職務を継続するとともに、総長ビジョンのタスクフォースの座長として、全学から選りすぐりの教職員の力を借りて、職務にあたっています。多くの方々のお力添えをお願いすることになろうかと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

ちょうど藤井総長の任期の最終年が、東京大学創立150周年にあたるというのは、偶然ながら無視できない意義があろうかと思います。文書館は、もともと100周年記念の歴史編纂事業の「遺産」ともいうべき資料群から育ってきた大学公文書館でした。文書館の未来に向けたあるべき姿と、150年史編纂室の現在のプロジェクトとは、深くからみあっています。後世から参照されうる記録を整備しつつ、現代の人びとにいかに発信していくかが問われていると、理解しています。デジタル化とインターネットの時代の文書館のあるべき姿は、決してオンラインの充実だけでなく、「博物館」ならぬ「博文館」としての空間を備え、歴史の厚みを肌で感じつつ、未来を考える場でなければなりません。

そのときどきの社会の変化と向かい合って、観察と実証の方法論を発展させてきた社会学の研究者としての経験をもとに、力乏しくスタミナも不足しがちですが、貢献できたらと思います。

執行役・副学長 佐藤健二 SATO Kenji
佐藤健二の顔写真
昭和54年3月
本学文学部卒業
昭和58年3月
本学社会学研究科博士課程中途退学
昭和58年4月
本学教養学部助手
昭和61年4月
法政大学社会学部専任講師
昭和63年4月
法政大学社会学部助教授
平成6年10月
本学文学部助教授
平成17年3月
博士(社会学)学位取得
平成17年4月
本学人文社会系研究科教授
平成23年4月
本学人文社会系研究科副研究科長
平成29年4月
本学人文社会系研究科長・文学部長
平成31年4月
本学大学執行役・副学長
専門分野:
歴史社会学・メディア史
研究内容:
1) 佐藤健二『文化資源学講義』東京大学出版会、2018年 2)佐藤健二『真木悠介の誕生:人間解放の比較=歴史社会学』弘文堂、2020年
趣味:
ひとがあまり読まない本を読むこと

東京大学をさらに開かれた大学に

このたびコミュニケーション機能強化推進および入試改革担当の執行役・副学長、広報戦略本部長を拝命しました。これまで本部広報は、広報戦略2020(広報戦略2017年策定)に従って、大学の顔とも言うべきHPのリニューアル、研究者を伝える記事(UTOKYO VOICES)、英文プレスリリースの充実、等々、着実に進化してきました。

藤井総長は、「対話と共感」を掲げて、東京大学が、「世界中の誰もが来たくなる大学」となることを目指しています。そのためには、これまでの「広報」という、やや一方的な発想を改め、様々なステークホルダーと双方向のコミュニケーションを図ることが必要となります。広報戦略本部として、これまで築いてきた研究成果発信に加えて、大学のビジョン、教育理念・実践などを社会、若い世代、学内構成員と広く共有することに力点をおきます。分断されがちな社会において、大学がその懸け橋になることに貢献できれば幸いです。

学部入試は大学が受験生、教育関係者、そして社会へ発する重要なメッセージの一つです。私はこれまでの3年間、私は推薦入試(学校推薦型選抜)の実施と改革に深くかかわってきました。5年間の検証を元に令和3年度の推薦入試を抜本的に改革し(学校長が本学に推薦できる人数の増加など)、コロナ禍の中で一定の成果を得ました。今年度はその勢いをさらに伸ばす年となります。それには、前述のコミュニケーションが重要となり、こちらも進めて参りたいと思います。

執行役・副学長 武田洋幸 TAKEDA Hiroyuki
武田洋幸の顔写真
昭和57年3月
本学理学部卒業
昭和60年2月
本学理学系研究科博士課程途中退学
昭和60年3月
本学理学系研究科助手
昭和62年5月
博士(理学)学位取得
平成2年4月
理化学研究所研究員
平成5年10月
名古屋大学理学部助教授
平成11年3月
国立遺伝学研究所教授
平成12年4月
本学理学系研究科教授
平成19年4月
本学理学系研究科長・理学部長
令和2年4月
本学副学長
専門分野:
発生遺伝学、ゲノム科学
研究内容:
1) Kazuki Horikawa他4名“ Noise-resistant and synchronized oscillation of the segmentation clock.” Nature 2006 Jun 8;441(7094):719-23.  2) Yusuke Inoue 他9名 “Complete fusion of a transposon and herpesvirus created the Teratorn mobile element in medaka fish.” Nature Communications 2017 Sep 15;8(1):551.

対話と共感をめざして

この度、執行役・副学長を拝命しました。社会連携推進を担当いたします。東京大学における社会連携、すなわち社会からの要請の受容と社会への貢献は、東大憲章において教育、研究につぐ第3の柱として位置付けられ、活動の幅を広げてきました。私が本部長を務める社会連携本部は、基金などを扱う渉外活動、地域連携、卒業生、公開講座やEMPなどのリカレント教育を主な所掌事項としています。すなわち、大学と社会をつなぐ接点が社会連携です。社会連携が有効に機能するためには、大学が知や技術を一方的に提供するのではなく、ヴィジョンを共有しながら対話を行い、ともに新しい地球社会を作り上げていく意思を醸成していくことが必要です。我々は、卒業生、各種教育プログラム修了生、共同研究相手、産学協創、自治体との連携など巨大なネットワークを持っており、大学はそのハブです。これらのネットワーク、すなわちグレーター東大コミュニティが機能すれば、大学が社会を駆動する母体となることは可能と考えます。しかし、社会連携を推進するには、その資源が必要であり、それなしで推進することは、研究時間の劣化、教育の質的低下につながりかねません。社会連携は、社会の受容のもと、資金の循環をともなって成長させるべきものだと考えています。微力ではありますが、東京大学を支え新しい地球社会の仕組みづくりに少しでも貢献できればと思います。皆様のご指導をよろしくお願い致します。

執行役・副学長 津田 敦 TSUDA Atsushi
津田 敦の顔写真
昭和57年3月
北海道大学水産学部卒業
昭和59年3月
本学農学研究科修士課程修了
昭和62年3月
本学農学研究科博士課程修了、農学博士
昭和63年11月
本学海洋研究所助手
平成8年4月
水産庁北海道区水産研究所室長
平成15年4月
本学海洋研究所助教授
平成23年4月
本学大気海洋研究所教授
平成25年4月
本学総長補佐
平成27年4月
本学大気海洋研究所所長
専門分野:
生物海洋学
研究内容:
1) Tsuda, Atsushi 他25名 " A mesoscale iron enrichment in the western subarctic Pacific induces large centric diatom bloom ." Science 300 (2003): 958-961.
趣味:
バードウォッチング

産学連携活動をよりグローバルに

産学連携担当の執行役・副学長を拝命いたしました。東京大学の産学連携は、「大学」、「大企業」、「ベンチャー企業」と「金融機関」からなる4者間の「知識」、「人」、「資金」の循環からなるエコシステムを拡大することを目指して取り組んできました。これら一連の活動を産学協創と称し、具体的な試みとして組織間連携、共同研究の推進、ベンチャー育成や技術移転といった多様な活動を展開してまいりました。

このような試みの結果、東京大学の企業との共同研究金額は100億円を超え、関連ベンチャー企業数も400社を超える規模まで成長してきました。日本国内の大学では屈指の規模に成長したと言えますが、海外大学と比較するとまだ大きな差異があると言わざるをえません。東京大学の産学連携活動の多くが国内市場を目指したものにとどまっている限り、米国等とのGDP比などを鑑みても成長に限界があることは明らかです。

このような背景から、新体制のもとでは、産学連携活動の一層のグローバル化を早急に進めていく必要があると考えております。新型コロナ感染症パンデミックは図らずも産学連携やベンチャー投資活動の急速なデジタル化を招きましたが、そのなかで社会のデジタルトランスフォーメーションに伴う新たな機会も生まれています。またカーボンニュートラルを早急に実現するためのグリーントランスフォーメーションも待ったなしとなるなか、これらに向けたイノベーション活動の加速が望まれています。この機をとらえ、本学の産学連携活動の一層のグローバルな発展を、積極的に進めてまいりたいと思います。

執行役・副学長 渡部俊也 WATANABE Toshiya
渡部俊也の顔写真
昭和59年3月
東京工業大学無機材料工学専攻修士課程修了
平成6年3月
東京工業大学無機材料工学専攻博士課程修了(工学博士)
平成10年4月
本学先端科学技術研究センター客員教授
平成13年4月
本学先端科学技術研究センター 教授
平成24年4月
本学未来ビジョン研究センター教授
平成26年4月
本学産学協創推進本部 本部長
平成28年4月
本学大学執行役・副学長
専門分野:
知的財産・イノベーション
研究内容:
1) T. Watanabe他2名.“ Determinants of Patent Infringement Awards in the US, Japan, and China: A Comparative Analysis ” World Patent information 60,101947(2020) 2) T. Watanabe 他2名“Empirical analysis of the effect of Japanese university spinoffs’ social networks on their performance” Technological Forecasting and Social Change,80(6) 1119 - 1128 (2013)
趣味:
能楽鑑賞

ダイバーシティ教育の充実を目指して

このたび、副学長としてダイバーシティ教育を担当することになりました。東京大学の、特に学部教育はリベラル・アーツ教育を重視しています。ダイバーシティ教育はその中心的な柱の一つのはずでありながら、これまで本学の弱点の一つとなっており、これを強化することが喫緊の課題です。この極めて重要な、しかし困難なミッションの遂行に力を尽くしていきたいと思います。

人の行動には無意識のうちの前提があります。異なる前提に立つ人々と出会い、相互に違いに気づき、その違いを尊重することによって互いに視野を拡げていく、そういう経験を日常生活の中で繰り返す場を提供することが、否応なく「グローバル化」していく現代社会において指導的な役割を果たしうる人材を養成するために、必要不可欠だと考えています。しかし残念ながら、今の東京大学のキャンパスはそのような場にはなっていません。

ダイバーシティ教育が浸透すれば、キャンパスは誰にとっても居心地の良いものになり、これまで東京大学に入りたいと思わなかった人たちも来てくれるかもしれない。そうすれば、自ずと多様性を体験できるキャンパスが生まれ、ダイバーシティ教育は充実していく。ダイバーシティ教育担当として、国際教育と手を携えて、このような望ましい循環を引き起こすきっかけを作りたいと考えています。皆様のお力添えを、どうぞよろしくお願いいたします。

副学長 伊藤たかね ITO Takane
伊藤たかねの顔写真
昭和53年3月
本学文学部卒業
昭和59年3月
本学人文科学研究科博士課程単位取得退学
昭和59年4月
武蔵大学人文学部専任講師
昭和61年4月
武蔵大学人文学部助教授
平成元年4月
本学教養学部助教授
平成8年4月
本学総合文化研究科助教授
平成11年2月
本学総合文化研究科教授
令和3年4月
本学情報学環特任教授
専門分野:
言語学・英語学
研究内容:
1)伊藤たかね・杉岡洋子(共著)『語の仕組みと語形成』研究社, 2002年. 2)長谷川寿一・C.ラマール・伊藤たかね(共編著)『こころと言葉-進化と認知科学のアプローチ』東京大学出版会,2008年.

巨大組織を支える活動の継続と改善

この度、環境安全・TSCP・総合技術本部担当の副学長を拝命いたしました。環境安全本部は、教育研究活動における安全衛生の確保、事故災害の防止、安全意識の向上等に取り組んでいます。物事が上手く進んでいる時には、あまり意識されないかもしれませんが、多様な構成員からなる巨大組織で重要な役割を担っています。最近、教養学部生向けの学術フロンティア講義「環境安全衛生入門」で教育にも貢献していることを知りました。TSCPは、UTokyo Sustainable Campus Projectの略で、低炭素化キャンパスの実現に向けて、2008年より機器の高効率化改修等に取り組んでいます。昨年度から、全学を挙げて、地球という人類の共有財産(グローバルコモンズ)の保全と責任ある管理に向けた新たな取組みが始まる中で、TSCPの取組みも新たな局面を迎えていると認識しています。総合技術本部には2012年4月の設立当初から本部員として関わり、2017年度までの2年間は副本部長を務めました。全学の技術発表会や連絡会議が開催されるようになったことは大きな変化でした。昨年度、部局技術組織間の全学的な調整や学外組織との調整も期待される上席技術専門員の職が設けられたことを契機として、新たな展開を模索する時期を迎えているように感じます。微力ではありますが、少しでも本学の発展に貢献できればと存じますので、何卒よろしくお願いいたします。

副学長 岸 利治 KISHI Toshiharu
岸 利治の顔写真
平成2年3月
本学工学部卒業
平成4年3月
本学工学系研究科土木工学専攻修士課程修了
平成5年6月
本学工学部助手
平成8年11月
本学工学系研究科講師
平成11年5月
本学工学系研究科助教授
平成12年5月
本学生産技術研究所助教授
平成21年8月
本学生産技術研究所教授
平成27年4月
本学生産技術研究所副所長
平成30年4月
本学生産技術研究所長
専門分野:
コンクリート機能・循環工学
研究内容:
1) Ueda, Hiroshi., Sakai, Yuya., Kinomura, Koji., Watanabe, Kenzo., Ishida, Tetsuya. and Kishi, Toshiharu. "Durability design method considering reinforcement corrosion due to water penetration." Journal of Advanced Concrete Technology Vol. 18 (2020): 27-38.
趣味:
旅行、風流

地域と卒業生とのネットワーク

このたび卒業生と地域連携推進担当の副学長を拝命いたしました。本学の活動に対する理解者を増やし、活動を社会に広げていくための基盤造りに貢献したいと思います。

本学では、多くの部局が地方自治体と協定を結び、地域連携の活動を行っております。2011年の東日本大震災で被災された地域の復興にも大学として支援して参りました。当事者意識を持って地域の皆さんと活動されている教職員の方々が多数おられることは、本学の大きな力であると思います。

世界中で活躍されておられる本学の卒業生・修了生とのネットワーク作りも大切です。本学では、東京大学オンラインコミュニティ(TFT)を組織し、卒業生等とのネットワーク作りに務めていますが、まだ十分な組織化には至っていないと理解しています。私は、学生時代に運動部に所属していましたが、先輩や同期、後輩との関係は今も続いており、現役部員への支援も続けています。学生時代にどのような経験をしたのかが、大学への関心や愛着を持ち続けるかを決めるのではないかと思います。本学では、知のプロフェッショナルの育成を目指して様々なプログラムが用意されています。学生の地域連携活動への参画も、本学が目指す社会変革への理解と社会の一員としての意識を深める機会として重要と思います。関連部署とも連携させていただき、本学のサポーターの拡大に取り組んでまいりたいと思います。皆様のお力添えをよろしくお願いいたします。

副学長 丹下 健 TANGE Takeshi
丹下 健の顔写真
昭和57年3月
本学農学部卒業
昭和59年3月
本学農学系研究科修士課程修了
昭和60年3月
本学農学系研究科博士課程中途退学
昭和60年4月
本学農学部助手
平成5年12月
博士(農学)(東京大学)取得
平成7年1月
本学農学部助教授
平成12年6月
本学農学生命科学研究科教授
平成14年4月
本学総長補佐
平成23年4月
本学農学生命科学研究科副研究科長
平成27年4月
本学農学生命科学研究科研究科長・農学部長
専門分野:
造林学
研究内容:
1)丹下健・小池孝良(編著)『造林学 第四版』朝倉書店(2016) 2)Matsuzaki, Jun., Norisada, Mariko, Kodaira, Jun, Suzuki, Makoto, Tange, Takeshi.“ Shoots grafted into the upper crowns of tall Japanese cedars (Cryptomeria japonica D. Don) show foliar gas exchange characteristics similar to those of intact shoots.” Trees 19 (2005): 198-203.

過去からの声、新しい声

皆様、こんにちは。副学長・附属図書館長を拝命した坂井修一です。どうぞよろしくお願いいたします。

今、日経新聞に「うたごころは科学する」を連載中(毎週日曜日文化面)です。ここで、私のタイトルは、「歌人・情報科学者」となっています(そういう人間です)。「館長任期の終わる日、『鷗外文庫』の前でパタっと死ねたら本望だ」と配偶者に言ったら、「『フランダースの犬』みたい」と笑われました。

図書館の役割は、この21世紀、実に幅広く奥深いものになっています。人類の知的資産を蓄え、必要な人に提供する機関というだけでは不足でしょう。過去から学び、新しい世界を築くための精神活動の場として、存在感を高めてゆく必要があります。近年では、オープンサイエンスの舞台という見方もありますね。

総合図書館は、長期に渡る改修工事を経て、昨年11月、グランドオープンしました。同時に、アジア研究図書館も開館しました。300万冊収容の自動書庫や、開館時のコンセプトを復活させた本館デザインなど、すばらしいものです。この2月に見学させていただいた折り、天窓から差す柔らかな光に包まれながら、本工事に関わられた多くの方々のご尽力に、改めて深く感謝申し上げた次第です。

ハード・ソフト両面で進歩を続ける図書館、ぜひご活用ください。皆様の教育研究に、そして学習に、これまで以上の貢献するべく、努力を続けたいと願っております。

副学長 坂井修一 SAKAI Shuichi
坂井修一の顔写真
昭和56年3月
本学理学部卒業
昭和58年3月
本学工学系研究科情報工学専攻修士課程修了
昭和61年3月
本学工学系研究科情報工学専攻博士課程修了 工学博士
昭和61年4月
通商産業省工業技術院電子技術研究所 研究員
平成8年10月
筑波大学電子・情報工学系 助教授
平成10年4月
本学工学系研究科情報工学専攻 助教授
平成13年4月
本学情報理工学系研究科電子情報学専攻 教授
平成25年4月
本学情報理工学系研究科長(平成28年3月まで)
専門分野:
情報理工学
研究内容:
1) 坂井修一 『コンピュータアーキテクチャ』コロナ社(2004) 2) Shuichi Sakai, Masahiro Goshima and Hidetsugu Irie“ Ultra Dependable Processor”, IEICE Transactions on Electronics Vol. E91-C, No.9, (2008) pp.1386-1393,
学外活動:
歌詠み。迢空賞など受賞。

とても重要なことの一つということ

このたび、研究倫理、研究費・研究不正対応担当の副理事を拝命いたしました遠藤でございます。

本学の教育・研究力は、世界でもトップレベルであることは、広く知られているところです。そのことを示す指標の一つとして、論文の作成数、その論文の引用数があるわけですが、仮に、その論文について疑念をもたれるようなことがあれば、それは大学として由々しきことになりかねません。

また、その教育・研究力を支えるうえでの、本学の財政基盤も大きなものですが、それは法令、規則、その他ルールに則った適切な取り扱いを要することも知られているところです。

本学は、教育・研究の自由というところにおいて、それらが健全に行われているということを、本学が組織として責任をもって発信するためにも、これまで研究倫理、研究費・研究不正というものについて、研修、その他様々な取り組みをもって繰り返し、本学の構成員の理解が深まるように注力してきたことと承知しております。

これまでのことを継承しつつ、今後の「研究倫理、研究費・研究不正対応」について、副理事として総長、理事及び副学長等のお役に少しでもたつことができればと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

副理事 遠藤勝之 ENDO Katsuyuki
遠藤勝之の顔写真
昭和62年12月
東京大学採用
平成22年4月
本学教養学部等経理課長
平成24年4月
本学監査課長
平成26年4月
本学薬学部・薬学系研究科事務長
平成28年4月
本学法学政治学研究科等事務長
平成31年4月
本学生産技術研究所事務部長

デジタルを活用したよりよい変革を

このたび情報システム担当副理事及び情報システム部長を拝命いたしました水上です。

情報システム部はこの4月から情報基盤センターの柏Ⅱキャンパスへの移転に伴い、柏に拠点を移しましたが、浅野地区には本学の重要なネットワーク機器や演習室があり、駒場や総合図書館にも重要な業務があります。これら業務を滞りなく遂行できるように尽力いたします。

2020年度はコロナ禍により私たちの生活、働く場所、働き方について正解のない状況の中でもがいた一年でした。情報というキーワードを持つセクションは大いに活躍し、大いに悩み、大いに疲弊しました。このうねりは収まることなく、これからも続くことと思います。オンライン授業、在宅勤務などの実践では多くの成果を得ましたが、同時に今まで見えていなかったことも見えてきました。これから、示された宿題をひとつひとつ解決していくことになります。いつかは終わると思いますが、ただ、その終わりはそんなに近くではなさそうです。

藤井新総長の行動指針のキーワードの一つにデジタル革新、DX(digital transformation )があります。大学におけるDXはデジタルテクノロジーを活用して、大学教育、研究活動、社会連携ネットワーク、大学運営などを変革させるということです。今までの意識を変え、大学全体で進めることが重要であり、そのためには、みなさまの力が必要不可欠になりますので、ご支援、ご協力よろしくお願いします。

副理事 水上順一 MIZUKAMI Junichi
水上順一の顔写真
昭和54年4月
東京大学採用
平成22年4月
本学医学部附属病院管理課長
平成24年4月
本学情報戦略課長
平成27年4月
本学カブリ数物連携宇宙研究機構事務長
平成29年4月
本学情報システム部長
趣味:
テニス、スポーツ観戦
features

10年間にわたる全学の多様な支援活動にひとまずの幕 復興支援シンポジウム録

3月25日、シンポジウム「東京大学東日本大震災復興支援の10年~復興支援活動と未来~」が開催されました。3月末の復興支援室閉室を受け、10年間にわたる本学の復興支援活動を振り返ろうというものです。震災当時の濱田総長、復興支援に深く携わった学内関係者、そして本学の支援活動に多大なご理解ご協力を賜った3自治体の首長さんにもご参加いただいたパネルディスカッションの言葉を抽出して紹介します。

❶ 中村彬良(本学卒業生・元大槌町役場職員)❷ 秋光信佳(アイソトープ総合センター教授)❸ 村田幸久(農学生命科学研究科准教授)❹ 大月敏雄(工学系研究科教授) ❻ 河村知彦(大気海洋研究所所長) ❼ 玄田有史(社会科学研究所教授)❶平野公三(大槌町長) ❷野田武則(釜石市長)❸本田敏秋(遠野市長) ※敬称略シンポジウムは伊藤国際ホールと東北の3自治体をつないでZoomウェビナーで行われました
復興支援シンポジウム プログラム
開催挨拶総長 五神 真
国土緑化推進機構理事長・前総長 濱田純一
ビデオ上映
パネルディスカッション
閉会挨拶理事・副学長 藤井輝夫
司会:復興支援室長・副学長 津田敦
🅐被害を受けた国際沿岸海洋研究センター。🅑2011年4月、大槌を視察する濱田総長。🅒2011年5月に遠野分室を開設。大槌連絡所とともに支援の拠点に。🅓被災地の要請に応えて必要な物資を輸送。🅔🅕学生や教職員有志のボランティア隊が様々な支援を展開。🅖学習機会を奪われた地元中学生を学生が支える学習支援ボランティア。🅗🅘救援復興に関する活動を認定するプロジェクトには、まちづくり、防災から放射線関連まで96件が登録。(上映ビデオより)

「科学への不信」を忘れずに

津田●今日集まったのは多様な支援の中でも特に中核的な活動をしてきた皆さんです。お一人ずつ振り返ってお話しください。

濱田●当時、大槌を訪れて街を見渡したときの思いが忘れられません。記者から言葉を求められ、しばらく考えましたが、結局「言葉にできません」と言いました。そうとしか言えない衝撃でした。10年を経て映像で大槌の姿を見て、希望が湧くのを感じます。先の挨拶で絆を忘れないと話しましたが、もう一つ重要なテーマは、科学に対する不信です。地震や津波の予測ができなかったこと、原子力を制御できなかったこと、放射線について必ずしも統一した見解を出せなかったことなどが科学への不信を呼んだことを忘れてはいけないと思いました。災害のような限界的な状況では日頃の研究に意味があるのか否かが問われる。そんな思いを持ちました。学問に携わる者はそこを認識し緊張感をもって社会と向き合うことが必要だとあらためて思います。

河村●私は7年間大槌にいて、5年間は沿岸センター長を務めました。震災で三陸の海の生態系がどんな影響を受けたのかを科学的に解明するという研究所の新たな使命ができたと思っています。昭和48年設立のセンターには海洋研究で蓄積したデータがあり、震災以前と以後を比較できる、被災した研究所でないとできない貴重な環境が揃っているのです。津波で研究棟が被害を受けましたが、地元の多大な協力を得て高台への移転が叶いました。2018年度には社研と「海と希望の学校」を始め、海を基盤にローカルアイデンティティを育む若者の育成を進めています。地元の学校への出前授業を続け、高校生がセンターに頻繁に出入りするようになりました。地域とともに考える海洋科学拠点として歩み続けます。

玄田●釜石とは希望学のプロジェクトで2005年から交流がありました。希望をもって生きる人は困難を経験したことが多いと気づき、そのプロセスを学ぼうと訪ねたのが釜石でした。最初は言葉もわかりませんでしたが、そのうち言葉はわからないが言いたいことは伝わるようになりました。あるとき呑兵衛横丁で「一生つきあいたい」と地元の方に打ち明けた辺りから関係が深まった気がします。そうした経緯の後、2011年に大震災が発生。復興支援室は一生かけてつきあうための架け橋でした。室は幕を閉じますが学者は一生研究を続けられます。今後も安心して東大とつきあってください。挫折を希望に変えるには何が大切かと釜石で聞いたら、「わかってくれる人が3人いれば大丈夫」と言われました。一生東北と関わる研究者は東大に3人に限らずいます。今後もよろしくお願いします。

大月●2011年5月、本田市長、野田市長、平野町長にお会いしました。当時、孤独死が増える危惧があり、高齢社会総合研究機構でコミュニティ型仮設住宅を提案したところ、皆さんはすぐ賛同してくれました。日本初の事例となり、その後、別の被災地にもつながり、現場の首長の判断があればかなりのことができると示せました。復興支援の活動は学生にとってもよい機会でした。私の研究室出身の学生が岩手県住田町の職員となり、仮設住宅の跡地を活用してまちづくりを進めています。学生に様々なチャンスをくれた地元の皆様に感謝です。

物語を書庫にとじこめないで

秋光●震災直後に南相馬に入りました。被災地に立ち、私も言葉が出なかったことを思い出します。南相馬を拠点に放射性物質の調査や除染を進め、自治体と連携しながら地域住民への説明会も繰り返しました。小さい子がいるお母さん方の苦しみは大きく、話を聞いてもらい泣きしたのを覚えています。2018年に文科省の復興知事業が始まってより組織的に関わるようになり、知見を駒場生に伝える授業を行って『福島復興知学講義』という本を出しました。博物館や楢葉町と提携して資料の展示も行い、取組みを次代に伝えています。私も一生つきあう覚悟と地元の方に話してきました。書庫に物語をとじこめずに活動を続けます。

村田●畜産の現場では原発事故後に多くの牛が残されました。私たちは牛200 頭を集めて原発から約5km の山に牧場を作り、飼育しながら長期低線量被曝が牛の甲状腺に及ぼす影響を測定してきました。10年の調査の結果、被曝が原因と思われる顕著な異常は見つからず、放射性物質を含む餌を与えなければ肉も安全とわかりました。マウスと違い長生きする牛は実験動物としても有効でした。私も科学への不信を実感し、東大なのになぜできないのとよく言われました。あらためてこの言葉を噛み締め、研究が復興につながることを願います。

中村● 2011年3月、大学院進学直前の私は、インドとバングラデシュで現地調査をしていました。そこで大震災が起き、現地の人々に心配され、日本が支援する側からされる側になった思いがしたものです。帰国後、授業の一環で大槌に入りました。復興がなぜ進まないのかが疑問で、卒業後、6年 9か月間大槌町職員として勤めました。東大とは支援学生の受け入れ、研究者とのやりとり、岩手赤門会などでご縁がありました。大震災で亡くなられた方々の生前の記録を残す業務や、身元不明のご遺骨を納める業務などを、どうやったら亡くなられた方々や、ご遺族を始め町民に寄り添えるか、悩みながら取り組むうち、大槌の方々と一時的でない関係ができたと思います。震災復興に限らず、大槌を始め地方が直面する課題に対し、一生というスパンの中でどのように役に立てるか、模索していきたいです。

学術の価値も再認識の10年

本田●遠野には海がない、津波は来ないから関係ない、ではなく、だからこそ後方支援の役割がありました。忘れてはならないという思いで全ての後方支援の記録を資料館に展示し、地域や人がどうつながれるかを次世代に伝えようとしています。3月にリニューアルした資料館には東大分室の記録もあり、あったかみのある木造仮設住宅も展示しています。産学官民の連携は災害続きの現代でますます重要です。研究は一生続くという言葉が印象的でした。市町村が学問に関わる中から地域の底力を発揮することが復興を進めると信じています。

野田●学術への不信の話がありましたが、一方で学術の重要性を再認識する10年だったと思います。この10年で重要な水産物が減りました。津波のせいというより地球温暖化の影響だと判明しました。台風の東北直撃の脅威も明らかとなり、さらにコロナ禍です。当時は10年たてば安全な町ができると思いましたが課題は依然残ります。サステナブルとレジリエンスは住人だけの力では生まれません。東大の力も必要です。一生つきあえるならうれしいです。

平野●町の人口は減り、高齢化が進んでいます。サケやサンマも獲れなくなっていますが、地に足をつけて希望をもって進みたいと思います。町民だけでなく、外の人とのつながりが大事で、なかでも東大は大きな存在です。町づくりのための知恵を貸してください。これからこそが復興だと思います。空地が多くても希望をもって、前を見据えて、熱い気持ちをもって前に進みたいと思います。東大にはこれからも灯台であってほしい。皆が悩んでいるときに光を放つ存在であってほしいと願っています。

津田●10年を節目に、新しい地域連携としての活動が芽吹いているようです。次の10年もどうぞよろしくお願いいたします。

※上記は抄録です。言葉は適宜省略されている場合があります。