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第46回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

「修辞学」に収まらないrhetoricを古典から探る

/初年次ゼミナール文科「政治レトリック」

寺岡知紀
初年次教育部門講師
寺岡知紀

文法、論理、そしてレトリック

――「レトリック」には美辞麗句で人を騙すようなイメージがあります。

rhetoricは修辞学と訳されますが、私には適切とは思えません。古代ギリシアで生まれたrhetoricは、中世ヨーロッパで自由七科の一つとなり、リベラルアーツの伝統を培ってきました。grammar、logicとともに言語の三科を構成するのがrhetoricです。簡単に言えば、人間の言説(非言語も含む)の説得力=影響力を分析する学問です。よって言葉に限らず、ビジュアルや音やにおいだって対象になります。都市をテキストとして解釈するとか、デモをビジュアルとして分析するとか、人が集まって作る真実性を分析する学問だとも言えましょう。アリストテレスは説得を行う手段を分析するのがrhetoricだと書いています。私の場合は、立憲主義や自由といった西欧の概念が近代の東アジアや日本に導入される際にその導入をどのように正当化する議論を行ってきたのかに興味を持ち、政治思想との関係でrhetoricを捉えてきました

――明治時代、日本にない概念を表そうとして新語がたくさん生まれましたね。

libertyから「自由」、constitutionから「憲法」、democracyから「民主主義」、stateから「国家」……。新しい概念の翻訳にはまさしくrhetoricが使われています。たとえば「国家」には「家」がつきますが、これは中国語でも同じ。日本も中国も家族制度と結びつけてstateを捉えましたが、元は統治する装置の印象を含む語で、西欧の人には違和感があるでしょう。この辺にrhetoricの妙があります

日本では知られざる重要分野

哲学が求める真実は、永遠的で、歴史性がなく、必然的なもの。一方、rhetoricが求める真実は、歴史性があり、偶然的で、人間的なものです。文章を読む際、logicの厳密さを見るのが哲学だとしたら、執筆時の歴史的背景や社会に与えた影響などまで見るのがrhetoric。日本では意識して研究する人が少ないrhetoricという重要な学問分野があることを伝えたいです

――実際の授業はどのように?

当番の学生がテキストを事前に読みこんできて解釈を報告した後に皆で議論します。プラトン、アリストテレスなどの古典を、日本語訳ではなく英語で読みます。もちろんプラトンの原典はギリシア語ですが、西洋の学問は長い時間をかけて英語で研究されてきたので、英訳には解釈の厚みがあります。1年次から、たとえば「民主主義」ではなくdemocracyと捉えるのが重要です。この体験によって、学生には現在日本語として定着している西洋由来の言葉に多様な解釈の可能性があることを知ってほしいと思います

――学生たちの反応はどうですか?

最初はいきなり難しいテクストを読むことにとまどっていましたが、徐々に慣れてきました。しかし、テキストに沿った質問ができていないと感じることもあります。テキストはプラットフォームですから、引用して議論するのが大前提。昔のテキストに対して現代の価値観や自分の体験から一方的に判断をくだしてしまう学生が少なくありません。この表現は今では通じないなどと言うのは、書いた人に対してフェアじゃありません。なぜその時代にそう書く必要があったのか。作者はどんな影響を誰に与えたくて書いたのか。私の授業を通してそうした読み方を身につけてほしいと思います

① ② ③
❶❷❸「政治レトリック」の授業で輪読のテキストとして使われているプラトン「Gorgias」、アリストテレス「On Rhetoric」、ハンナ・アーレント「The Human Condition」。
④ ⑤ ⑥ ⑦
❹❺❻❼学生たちの報告資料より。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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シリーズ 連携研究機構第36回「放射線科学連携研究機構」の巻

鍵裕之
話/機構長
鍵裕之先生

放射線研究の魂を百年先につなぐ

――そもそも放射線科学とはどういうものですか。

ラジオ・アイソトープ(RI:放射性同位体)が崩壊する際に放出する粒子線や電磁波を放射線と呼びます。高いエネルギーを持って高速で飛ぶα線やβ線のような粒子線と、物質を電離(イオン化)することができるγ線やX線のような電磁波ですね。こうした放射線の特徴を理解し活用するための学術が放射線科学です

その成果としてよく知られるのは医学の分野、たとえばPET検査でしょう。体内の細胞はブドウ糖をエネルギーとして消費します。RIを組みこんだブドウ糖を投与し、体内から放出される放射線の様子から体の状態を調べる検査です。たとえば頭の働きが悪くなると脳にブドウ糖が集まらず、認知症の可能性などが疑われるわけです。がん細胞も盛んに分裂してエネルギーを消費するので、RIでマークすればがんの位置がわかる。位置を知らせるだけでなく、α線を出す薬剤を運んでがん細胞を壊す放射性医薬品も開発が始まっています。文化財などの年代測定や、地球深部の岩石や宇宙科学の研究にもRIが必須となっています

――放射線には危険な印象もあるかと思います。

維持管理が大変で、RIを扱える施設は学内外で減っています。しかし放射線科学は百年後も必要な分野であり、教育にも非常に重要です。そこで連携を強めて全体で維持していこうとの機運が高まり、アイソトープ総合センター長だった私がまとめ役となって、2月に機構が発足しました。現時点では、センターのほか、工学系、理学系、農学生命科学、薬学系、情報学環、総合研究博物館から教員33人が参画しています

――日本と東大の放射線科学の現状はいかがですか。

日本は安全のための規制が非常に厳しく、研究も応用も進めにくい部分は否めません。率直に言えば、東大は放射線科学の連携体制の構築で他大に先を越されていました。機構の発足を機に、総合大学の強みを活かした文理融合の取り組みを進めます

一つポイントとなるのは、2023年度に復興庁の予算で発足予定の福島の国際教育研究拠点です。私たちは、災害・復興知連携研究機構とともに東大としてこの拠点に協力する組織となります。学外の提携先に福島大学や福島高専が入っているのはこの構想に沿ったもの。これまでもアイソトープ総合センターで福島の中学や高校への出前授業を行ってきましたし、連携部局の総合研究博物館が福島県楢葉町にモバイルミュージアムを開設したご縁もあります。福島の復興を支援するのはもちろんですが、福島の次代を担う子どもたちが放射線科学に親しんでくれることも期待しています

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第26回

あちこちそちこち東京大学 本郷・駒場・柏以外の本学を現場の教職員が紹介

教育学部附属
中等教育学校の巻
副校長
淺川俊彦

深い学びで豊かな市民性を育む

新宿副都心から2kmに緑豊かなキャンパスが広がる

中野区にある附属学校は、隣接していた海洋研究所の柏移転を機にグラウンドの全面人工芝化と新体育館建設を行い、都心部有数の広大な敷地を誇る中高一貫校として多くの小学生の憧れの場となっています。

もちろん魅力はキャンパスだけではありません。半世紀以上の歴史を持つ探究的な学びは、6年間の積み重ねのうえに卒業研究(1万6千字以上)として結実し、なかには教育学部長から「院生レベル!」との評価をいただくような論文(8万字)を書く各生徒もいます。

そうした学びが育む探究心は、課外活動の成果としても現れています。箱根駅伝を走るランナーや世界選手権に出場するスイマーも輩出し、生物部や計算機科学部も日本代表として国際大会に出場しています。

授業形態においては、生徒同士の学び合い、からだまるごとの関わり合いを重視した協働学習を、すべての教科のすべての授業に位置づけようと掲げてから15年、その足取りも確かなものになってきました。

こうした協働学習を通して市民性も育まれており、コロナ禍のもとで生徒会が呼びかけ、教員・保護者と構成する「三者協議会」で議論を深め、部活ごとの活動内容に即した感染予防マニュアルを作り、感染リスクを抑えた部活動や行事を実現しています。

近年では難関大への進学実績が向上するとともに「本当にやりたいこと」を重視する進路指導により、音楽・美術・演劇・ダンス・工芸・建築・農業・看護など、進路はたいへん多様化しています。なんとタカラジェンヌが3人も出ています。

1. 教室の机配置はコの字が基本。
2. 都庁から体育祭も見えます。
3.空間UIを用いた学習を研究。
4. JAXAの大会で日本代表となった計算機科学部の水ロケット
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第182回

理学部学務課教務チーム
学部担当係長
佐伯 勇

月食みえますか?

佐伯 勇
コロナ対策グッズ達と

「月食みえますか?」と聞いたら、「今日は曇ってるのと、月の位置が低くて。さっき一瞬、見えたんですけどね。今タワマンの後ろに隠れてますね」との返答。月食が見えると言われる某日の夕方、観測中と思われる学生?に、なんとなく声をかけた。厳しいね~と言うと、「でも僕は、あと2時間がんばります!」との、すがすがしい決意表明。辺りは暗いが、その表情?というか声のトーンは明るい。理学部には、こういう人が多い。知りたい事、教えたい事に、まっすぐで純粋、それでいて気さくで、発信力があり議論が大好き。理学に関わる人の特徴なのかも。私は教務を担当していて、学籍・成績・教室管理などの仕事をしているが、理学部の方々から刺激を受けることが非常に多い。理学部での業務が、後で振り返った時に「素晴らしい経験だった」と思えることを期待してやまない。

追伸:昼休みに御殿下グラウンドでサッカーをしています。私をはじめ初心者もいます。

昼サッカー。興味ある方、声かけて下さい
得意ワザ:
サッカー中の捻挫(ねんざ)
自分の性格:
食べ過ぎ・飲み過ぎ
次回執筆者のご指名:
小林岳明さん
次回執筆者との関係:
昼サッカーの先輩
次回執筆者の紹介:
サッカーの上手い優しい先輩
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第13回
教育学部3年西森 優
人文社会系研究科博士課程1年鎌田寧々

能登と学生を繋いだ「あえのこと配信」

私たちは、能登町山口集落の「コアなファン」を増やそうというテーマで活動を行いました。能登町山口は、平成27年度時点で人口103人の小さな集落です。高齢化率が46.6%と高く、高齢化に伴う離農者の増加が喫緊の課題となっています。

町役場と集落、そして我々学生とで関係人口創出のための方法を探る中で、集落と学生をオンラインでつなぎ、「あえのこと」と呼ばれる神事を見学するという企画が生まれました。集落からは事前に山菜や米を送っていただいており、これを味わいながらのオンライン食事会も見学後に行われました。この交流をきっかけに、「あえのこと」を学生以外にも配信するというイベントが企画されました。

リハーサルでの様子

交流会の様子や感想

入念な準備を重ね、遂に2021年2月9日、集落外へ向けたオンライン「あえのこと」配信が行われ、事前に日本全国からSNSで募った参加者30名弱が集まりました。神事の配信後には懇談会も行い、町おこしや農業に関心のある参加者と直接交流することができました。今回の活動において、集落側で企画の運営の中心を担ったのは、昨年のFSを通して発足した「若者会」のメンバーです。このFSの活動が、その場限りのものではなく、今後も続いていくものであるということを集落内に示す上でも、意義のある活動だったと言えます。

能登の皆さん。早く現地でお会いしたい!

能登の方々の反応

オンラインではあるものの、能登に興味を持つ学生との交流を喜んでもらえ、学生の意見を真摯に受け止め気づきに変えてくださいました。プログラム終了後も、レシピと一緒に能登の食材を送ってくださるなどあたたかい交流を続けてくださっています。

活動を経て現在に活かされていること

オンラインの可能性と限界を体感できただけでなく、様々な意見や価値観を持つ人が暮らす中で、方向性を持って集落全体として存続のために行動していくことの難しさなども感じました。今後地域に関わる上で、その難しさやそこで暮らすリアルな生活感を前提として入り込める分、より当事者意識を持って入り込むことができそうだと感じています。

Twitter(https://twitter.com/noto_yamaguchi

メンバーは表記の2人のほか、池田佳玲奈(文三2年)、渡具知可偉(理一2年)、橋元菜摘(農4年)の計5人

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インタープリターズ・バイブル第168回

科学技術インタープリター養成部門
特任准教授
内田麻理香

科学エッセイの授業
――ロゲルギストをお手本に

ロゲルギストという名をご存じだろうか。ロゲルギストとは、1951年から1983年頃まで活動した物理学者の同人会である。計7名の物理学者が集まり、様々な日常現象をテーマに科学的視点から「放談」するための会合を定期的に開いていた。彼らはその結果をエッセイとしてまとめ、雑誌『自然』に連載した。もともとロゲルギストのメンバーは、ノバート・ウィナーの『サイバネティックス』を、自分たちなりに再解釈をして体系化するために研究会を開くつもりだったが、その会はいつの間にか気になるテーマについて語り合う飲み会となったという。ロゲルギストは、「服は交互に着た方が良いか否か」や「かき餅の穴の形」など、取るに足らないテーマについて、大まじめに物理学的考察を加え、それをエッセイにして発表した。私は、このロゲルギストの「グループで放談し、それを踏まえてエッセイを書く」という活動を再現すべく、今年度のSセメスターから新しい授業「科学技術表現論Ⅱ」を開講した。

さて、ロゲルギストのメンバーは友人同士で飲みながら議論していたが、私が再現しようとするのは授業の中である。初めて会う受講生同士で、しかもオンラインの授業だ。このような状況でざっくばらんな放談が実現するのか、不安な要素は多々あったが、優秀な学生たちに助けられた。あるときの放談のテーマは、「チャーハンの作り方の正解」だった。パラパラのチャーハンを作るためのレシピは巷に数多くあるが、いったい何が正解なのか。そもそも、「パラパラ」とは何を指すのか……など、一見くだらなさそうだが、実に刺激的な議論が展開した。そして、学生たちが執筆したエッセイは、各々の個性が光る素晴らしいものだった。

もともと、書く能力の高い学生が集まっているとは思う。そんな彼らに対し、私の授業で提供できたものは、せいぜい異なる環境にいる学生との出会いなのかもしれない。それでも、人の行動や思考は集団に影響を与えて集団からも影響を受けるという、「グループダイナミクス」の力は大きいと思うので、学生同士の放談によって彼らの思考がよりいっそう磨かれたのではないかと考える。そして、学生たちの執筆したエッセイもまた、そのエッセイの読者の思考に影響を与えるきっかけになると信じている。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第28回

渉外部門 シニア・ディレクター堺 飛鳥

生きた証を残す~遺贈寄附を知っていますか

今、コロナ禍で問合せが急速に増えている寄附があります。それは遺贈寄附。遺贈寄附とは、遺言等によって財産を寄附をすることです。自分の人生を振り返り、人生の最後を迎える準備を行う終活の一環として、遺贈を考える人が増えています。

今年5月に行った相続・遺言セミナーでは昨年の8倍近い250人以上の申込があり、また、昨年度までは年に数件だった問い合わせが今年に入って週1件ペースで来ており、遺贈への関心の高まりを感じます。遺贈には、1)相続税がかからない、2)金額に制限はない、3)自分の意思や生きた証を寄附を通じて残すことができるといったメリットがあります。

東京大学への遺贈の理由は、学生時代の思い出のある母校の発展に貢献したい、将来の日本と世界を担う学生を支援したい、科学技術研究の発展に役立ててほしい、昔、病院でお世話になった、安田講堂に銘板として名前を残したい、など様々です。死後にも続く社会貢献の一つのかたち、それが遺贈です。

一方、遺贈は相続と関連するため、トラブルの起きやすい分野でもあります。遺贈を行うにあたっては、1)寄附先を探し、生前に遺贈についてコミュニケーションを行っておくこと、2)ご家族への説明・理解を得ておくこと、3)できれば遺言書を生前に作成しておくこと、に留意することで、死後の不要なトラブルを避け、自分の希望通りに財産が活かされることに繋がります。

東京大学基金では、年に2度、専門家を招き、遺贈に関するセミナーと個別相談会を開催しております。またそれ以外でも、基金の遺贈担当窓口(電話:080-7517-8722)で随時相談を受け付けております。

遺贈による支援の結果をご報告すると、ご遺族の方から、「支援によって故人の遺志が未来に繋がっているのだと思うと、大切な人を亡くした気持ちが慰められる」といったお声もいただいております。

遺贈は人生最後の社会貢献であり、みなさまの想いに寄り添い、生きた証を遺すお手伝いをすることだと考えておりますので、ご興味を持たれた方は一度お問い合わせください。

イベント案内

第13回遺贈セミナー個別相談会(予定)
11月上旬 オンライン開催 
参加無料 詳細は東京大学基金web サイトより

東京大学基金事務局(本部渉外活動支援課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp