第1133回淡青評論

七徳堂鬼瓦

分野協働の学び

美術家の野老朝雄さんが手がけた東京2020エンブレム『組市松紋』は、3種類の菱形が隙間なく平面を充填する幾何学にもとづいて構成されています。このように幾何形状の単位を並べて平面、曲面、空間を構成する原理は、古今東西の紋様、空間構造物、セル材料、結晶や準結晶の原子配列、あるいはウイルスのカプシドの自己集合など、自然現象や人工物に普遍的にあらわれます。こうした「かたち」を通した学問のつながりをたどりながら、実際に手を動かして紋様・構造・現象を作品として創作する授業『個と群』を、野老さんとの協働で行っています。

この授業は、教養学部前期課程ではじまった文理融合ゼミナール(芸術創造連携研究機構と心の適応と多様性の連携研究機構が開設)の枠組みで開講されています。文理融合ゼミナールは、多様な芸術の実践から創造的プロセスを獲得し、様々な学問とのつながりを学び、さらに興味のある学生には最先端研究にさらされる機会を提供することを目指しています。前期課程の学生が対象ですが、授業中に新規の問いを得て、国際会議での発表につながった学生もいます。われわれの取り組みにご興味がある教員の皆様、ぜひお声がけください。

このようにArtをSTEM教育に加えたSTEAM教育は、世界的なトレンドとなりつつあります。STEAMという言葉自体は新語ですが、そのアプローチは古くからある普遍的なものです。ギリシア哲学においても、ルネサンスにおいても、芸術・数学・科学・工学は不可分に展開しました。各学問領域が高度に発展した現代において、分野横断は一筋縄ではありませんが、情報技術が橋渡しをして協働を加速しています。誰しも子供のころは、工作をすることや歌うこと、身近な世界の観察や遊びを通して、数や言葉や科学などの諸概念に触れてきたと思います。こういった原初の学びのワクワク感が最先端の分野協働につながる、ということを、学生に感じてもらえたらうれしいかぎりです。

舘 知宏
(総合文化研究科)

キリガミ構造をもつ品の2つ画像
授業から生まれた、負のポアソン比をもつ準周期的キリガミ構造。Warisaya, Tokolo, Tachi,“ Harmonized Chequered Mechanism,” Bridges 2020 Art Exhibition, 2020.