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第48回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

制作することで「オープン教材」の理解を深める

/全学自由研究ゼミナール「オープン教材をつくろう!」

アクティブラーニング部門
特任准教授
中澤明子
中澤明子

――以前、大学総合教育研究センターで「東大TV」を担当されていましたね。

はい。去年10月、2010~2014年に所属していたアクティブラーニング部門に戻ってきまして、今年から「オープン教材をつくろう!」という授業を行っています。2000年以降、教育の現場でオープンエデュケーションの取組みが活発化してきました。インターネットを通じて誰でも優れた教育を受けられるようにする取組みで、「東大TV」や「UTokyo OCW」もその延長上にあります。この授業では、誰でも使えるオープン教材に注目しました

4つの設定から選んで教材制作

序盤にオープンエデュケーションやオープン教材とは何かを学び、中盤で教材設計理論を学び、終盤にはグループワークで教材をつくってみるという授業です。対象や目的が決まらないと作れないので、社員研修用につくった教材の公開を考えている会社員、大学の入門的な授業の教材を探している高校教師などの架空の設定を4つ示し、一つ選んであてはまる教材をつくってもらいました

――何か教材のコンテンツがあるならYouTubeでも使って公開すればいいだけではないのでしょうか。

もちろん簡単に公開できますよね。一方で、オープンにする意義を考えたり、公開する際の注意点などを知ることも大切です。オープン教材の特徴の一つに誰でも再編集ができることがあります。再編集できることを示すために、Creative Commonsのライセンスを付けるとか、OER Commons(www.oercommons.org)のようなプラットフォームを使うといった工夫が必要です。第三者の著作物の利用など著作権の問題もクリアしないといけない。授業ではそうした教材制作のリテラシーも伝授しました

学んでもらうために自分も学ぶ

Sセメスターの授業では、5グループで5つの教材ができました。大学の授業を生徒に紹介しようと思っている高校の先生のストーリー設定を選んだグループは、40ページのスライド教材をつくりました。教材設計理論を踏まえながら様々な大学のOCWを紹介し、練習問題や発展課題も入れて教材として仕上げました。オープン教材のつくり方を8分程度の動画にまとめたチームもありました。受講生からは、オープンエデュケーションの現状がわかった、学んだことを説明することで自分も学べた、手を動かすことで理解が深まった、といった声がありました。Aセメスターの授業ではゲスト講義を加え、北海道大学オープンエデュケーションセンターの重田勝介先生に講義いただきました

――コロナ禍を経てオンライン授業が定着した感がありますが、アクティブラーニングの進展ぶりはいかがですか。

ディスカッションやグループワークなどを授業に取り入れることはオンラインでも対面でも以前と比べて当たり前になりつつありますね。今後はアクティブラーニングの質をより高めることが求められるでしょう。対面とオンラインの組み合わせ方も工夫のしどころです。自分の専門である教育工学、中でもこれまで取り組んできた遠隔教育や教員支援の知見を活かし、学生が楽しさや関心を持ってしっかり頭を働かせながら参加できる授業を目指したいですね。そして、部門の活動を通じて授業設計や運営のポイントをほかの先生方と共有していきたいと思っています

教材設定に使用したストーリー
↑授業で提示した4つの教材設定
「オープン教材の活用講座-大学授業へのアクセス方法」のタイトルが付いたスライド
↑授業で学生が作成したスライド教材
ポジショニングマップを表示しているクラウド上のホワイトボード
↑部門ではオンライン授業のアクティブラーニングに関する教員向けワークショップも実施中
「ワークショップ 第2回 東大生がつくる SDGsの授業」と書かれたチラシ
「8月には、部門の教員らと担当する授業でSDGsを学んだ学生が高校生にその成果を授業形式で伝える試みも行いました」(中澤)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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シリーズ 連携研究機構第40回「次世代都市国際連携研究機構」の巻

小澤一雅
話/機構長
小澤一雅先生

インクルーシブ都市の実現に向けて

――機構発足の経緯から解説していただけますか。

社会インフラを扱う工学系研究科の3つの専攻(都市工学、建築学、社会基盤学)は以前から連携して活動を進めてきました。2003年からは21世紀COEプログラムで、2008年からはグローバルCOEプログラムで、都市空間の持続再生学をテーマに活動してきました。大学院の横断的教育プログラムや自治体や企業を交えた研究組織も工学系研究科内で展開してきました。一方で、これまで都市社会が内包し、COVID-19によって全世界規模で顕著となった分断や格差の課題解決を通して、次世代のインクルーシブ都市の実現を目指すには、工学系研究科だけでなく、幅広い全学の知を融合して新たな知の体系化に挑戦する必要があります。このような背景から今年4月に発足した機構です

――工学系の3専攻に加え、情報理工、新領域、地震研、生研、人文社会系と経済学も参加していますね。

キーワードとなるインクルーシブでレジリエントな社会を考えるには文系諸学の力が重要です。機構では、Urbanism、人々の生活や産業活動、社会基盤システムの三層構造で都市を捉え、3つの研究部門を設定しています。一つはインクルーシブ社会研究。ディスタンスが必要な状況で顕在化する分断や格差をどう克服するかを、地域研究や歴史研究を通して社会の在り方から考えます。一つはレジリエンス都市研究。日本が直面する複合災害を見越した事前復興の研究に様々な自治体と連携して取り組みます。一つはリモート社会研究。DXが促す都市社会の再構築のあり方を建設産業や集積の価値の変化といった視点から考えます

――国際都市教育部門というものもあるそうですが。

学生が都市の実務者とともに事例に基づき学ぶための試みです。都市の現場における問題を自ら設定して考えるスタジオ型教育に主眼があります。9月に留学生サマーコースを開催し、国内大学に在籍している留学生と海外の大学生約30人がオンラインで参加しました。基礎的な知識を大学教員が、最新技術や実際の都市における事例紹介を実務家から提供し、グループワークを通して各国におけるスマートシティの在り方や課題を議論しました。次はベトナムの日越大学とジョイントで新コース実施に向けて準備をしています

この夏、ワークショップを3回行いました。「衰退期の都市と危機」「都市における集積の利益」「都市におけるつながり」の3本です。今後も定期的に開催し、成果は本にまとめる予定です。文理融合を機能させ、実際の都市の姿に反映させていきたいと思います

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第28回

あちこちそちこち東京大学 本郷・駒場・柏以外の本学を現場の教職員が紹介

農学生命科学研究科附属
田無演習林の巻
助教
竹本周平

なにかと使える街なか演習林

並んで植林をしている人々
森林科学基礎実習での作業

東京大学が森林科学の教育研究のために保有している演習林には、日本全国7箇所のフィールド拠点があります。このうち、主要キャンパスから1時間ていどと最も近いのが田無演習林です。西東京市の住宅地のど真ん中に所在しており、約9haと弥生キャンパスより小さい演習林を、常勤と非常勤の教職員あわせて6名で管理運営しています。コンパクトながら多様な林相の森林や豊富な樹種、よく整備された林業苗畑が自慢です。農学部の専門課程で実習や課題研究の場として利用されているほか、種子や苗木などを供給して教育研究を支援しています。

ここ1年あまりの間、宿泊をともなう実習がコロナ対策のため制限されたことで、フィールド実習を重視する農学部の教育活動はかなりの苦戦を強いられました。そのようななかで田無演習林は、日帰りできる実習の場として切り札的に活用されました。地道に続けてきた森林管理の成果が問われているように感じ、背筋の伸びる思いだった一方で、頼りにしていただきうれしさも感じました。演習林は、農学部に留まらず、学内外の方のご利用を受け入れています。大学教育や研究に関してお役に立てそうなことがあれば、ぜひご相談ください。

社会貢献活動も縮小せざるを得ないなか、例年実施していたリースづくり教室を、昨年度はじめてオンラインで実施しました。遠方から気軽に参加できたと好評の声もありました。コロナ禍を転じてプラスにしていきたいですね。

1.森林、2.田無本館、3.旧事務棟、4.森林でのイベント活動
1. まさに都市のなかの森林。
2. 現事務所が入居する田無本館。
3. 昭和8年築の旧事務棟。改修後にセミナーハウスとして活用予定。
4. ガイド役の駒場生が活躍する「子ども樹木博士」のイベント。
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第186回

経済学研究科等
総務チーム
桑本達郎

伝えることの難しさ

桑本達郎
2年半お世話になっている経済の事務室です

11月も下旬になると、キャンパス内が銀杏の葉で敷き詰められ、この時期の学園祭が思い起こされます。

私の所属する経済学研究科等総務チームは、人事と総務の両方の仕事を担当しており、私もその両方をさせていただいております。業務内容の幅はとても広く、頭を切り替えるのが大変ですが、先生方の「いつもありがとう、助かっている」の言葉が非常に励みになっています。そんな業務に取り組む中で、私は「自身の考えていること、思っていることを相手に伝えること」の難しさを痛感しています。電話対応やメール作成、対面でのコミュニケーションで、自身がどんな根拠を基にどんな方針を考えているのか伝えることに日々苦戦していますが、がんばっていきたいところです。

趣味というほどではないですが、水族館に行くのが好きで、水族館ごとにメインの展示や雰囲気が違うのを比べつつ回っています。最後お土産コーナーで、買うつもりもないのにいろいろ見て、結局買ってしまいます……。

水槽を泳ぐタツノオトシゴ
水族館巡り、スタートは池袋の水族館でした
得意ワザ:
鳥取弁(タメ口でないとほぼ出ませんが)
自分の性格:
物事をポジティブに捉える
次回執筆者のご指名:
三浦純平さん
次回執筆者との関係:
同期
次回執筆者の紹介:
懐が広い
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東京大学演習林のおはし

演習林グッズ販売開始!

UTCCでは、大学の演習林の活動を広く知っていただくきっかけとなるよう、演習林の木材を使ったUTCCのオリジナル商品が出来ないかを様々な角度で検討してきました。その中で今年は2つの新商品が生まれました。どちらもUTCCオンラインストアでも購入可能です。

■北海道演習林のウダイカンバのおはし

北海道演習林のウダイカンバを素材にしたおはし。上部にはウダイカンバの葉のデザインをあしらっており、台紙には北海道演習林の職員が撮影した四季折々の大自然の写真が使われています。大小2サイズあるのでペアでのプレゼントや海外へのお土産としても大変喜ばれています。おうち時間を豊かに過ごすアイテムとしてもお薦めです。今後は別の演習林の特長的な素材を使ったおはしも含めたシリーズ化も考えています。

大23.5cm 小21.5cm 各¥2,400(税込)

■秩父演習林のオオヤマザクラのマグネット3個セット3種

東京大学演習林オリジナルマグネット

秩父演習林のオオヤマザクラを使用し、生産技術研究所の川添研究室の学生たちが大学に関連するモチーフを題材にしてデザインしたマグネット3個セットです。抜き型のようになっており、アイデア次第で周りの板部分も利用することができます。来校の記念品としても人気の商品です。

各種¥1,200(税込)

■農学生命科学研究科 蔵治光一郎先生より

日本の国土の68.5%は森林であり、日本の未来にとって森林は不可欠な存在です。東京大学の敷地の99%を占める演習林は、森林に関する諸科学の教育や研究の場であると同時に、2019年度に東京大学が排出したCO2の約7割を吸収し、東京大学の脱炭素の達成に貢献してきました。さらに「科学と社会をつなぐ森」として、立地する自治体や市民、企業など、地域総体と連携した社会教育も進めています。UTCCの商品を通じて学内外の演習林の認知度がさらに上がることを期待しています。

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インタープリターズ・バイブル第171回

理学系研究科 准教授
科学技術インタープリター養成部門
鳥居寛之

納得と説得

秋になり、ひとまずコロナの感染状況は落ち着いた。夏にはあれほどの感染爆発が起きていたのに、ふと気がつくと第五波はあっという間にしぼんでいった。そのこと自体は歓迎すべきことだが、どうも解せない。なぜあんなにも急速に拡大し、そして激減したのか。

相手は指数関数である。一人の感染者が感染させる平均的人数が1を上回れば毎週のように感染数は増えていき、1を割れば収束に転じて急速に減っていく。それはわかるのだが、ではなぜ、1を下回ったのか。ワクチンの接種率は確かに上がったが、それだけで説明がつくのだろうか。この時期に特に接種率が上昇したのは若者世代だから、やはりそこが鍵だったのか。

もともと感染しても重症化リスクが低い一方で、ワクチンによる発熱などの症状が出やすい若い世代は、接種を忌避する人が多いと言われていた。SNSでは副反応に対するリスク情報とともに不安が拡散し、妊娠に影響するなど誤った情報や全くのデマまで出回った。

こうした状況に危機感を抱いた医師ら若い有志は、科学的に正しい情報の発信で連携し、またNHKではコロナワクチンのフェイク情報に警鐘を鳴らす特集番組が組まれた。漫画を織り込むなど若者を意識した番組作りで、出演者も40代までの若い世代で医師・心理学者・ジャーナリスト・評論家と男女多様な顔ぶれ。一方的な主張にならないよう、ワクチンに一定の懐疑心をもっている女性歌手も出演。説明や取材でもゴリ押ししたり否定したりしないよう気を配っていた。

これまで専門家は人々の不安に対して不合理であると否定しがちであったが、そうすると批判や拒絶反応を招くことがある。専門家による説明は、それが信頼を得て聞く人の納得を得られれば奏功するが、説得しようとしていると反発されると、却って逆効果になりかねない。10年前の原発事故後のリスクコミュニケーションにおける教訓がある程度生かされたのだろう。

こうした取り組みが有効だったのか、あるいは若者自身が身近な友人の感染に接して自ら意識が変わったのか、そもそも彼らを誤認していたのか。蓋を開けてみれば、若者向けのワクチン接種会場は予想外に長蛇の列で、高熱の副反応を承知の上でも接種が進んだ。

だが私はまだ納得できていない。情報を伝え続ければ、やがてそれになびいて説得される人もまた現れよう。コミュニケータは結局のところ、しつこく説明し続けるのがいいのか、説得は控えめに、相手が納得するのを待つべきなのか。選挙カーが候補者の名をただ連呼するのを聞きながら、そんなことを考えた。

科学技術インタープリター養成プログラム

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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第15回
文科一類1年近 恵里奈

西の湖を全身で感じた「濃い」2日間

私たちは滋賀県近江八幡市において、旧安土エリアから西の湖を挟んで旧近江八幡エリアまでの間の回遊性を向上させるというテーマのもと、自治体の方々はじめ市で様々な立場で活動する方々にもご協力いただきながら、提案の策定に取り組んでいます。

5月末の開始以降、ネット上で調査を行ったほか、週1~2回のペースで学生メンバーの会議を重ね、自治体の方ともメッセージアプリで連絡を取りながら、調査や提案内容の検討を進めてきました。そして、10月9日、10日の2日間、当初の予定よりは期間が短くなってしまいましたが、近江八幡市に実際に足を運んで調査を行うことができました。

橋の上で自転車をこぐメンバー
2日間走り続けて、足がパンパンです

現地調査では第一に、近江八幡市の「魅力」を再確認しました。2日間、主に自転車で安土、西の湖周辺、八幡堀や八幡山等を回り、特に西の湖のシンボルともいえるヨシについては、穂の見た目、風に揺れる音、根の固さなどを五感で味わいました。

さらに、私たちが認識していた「課題」を確認したとともに、その認識を修正する必要も感じました。実際に西の湖を訪れ、地元の人がほとんど訪れない場になっていることを目の当たりにした一方、整備が課題とされていたよし笛ロードは自転車で快適に走れる状態であったこと、また地元の人に活用されて賑わう施設もあったことなど、想像していたよりも良い状況にあった点にも気づきました。また地元の方々へのヒアリングでは、「自然を保全したい」「西の湖と生活の関わりの歴史を知ってほしい」など、各々の立場からの様々な、しかし確固とした思いを聞くことができました。市の方々が何を重要な課題と考えているかという根本的なことにおいても、実際に行ってみないとわからない点が多くあると感じました。

ヨシに囲まれたけもの道を歩く人
ヨシ、背が高い!

今回の現地調査は、メンバー各々が様々なことを肌で感じ、考えた実り多い時間となりました。また一つの課題に取り組むチームとしての結束も深まったと感じています。現地調査を終えた今、重要な課題は何であるかを改めて確認するとともに、大学生の私たちができることは何か、これからの提案の方向性をどうするのかについて、更に議論を詰めています。