
創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
制作することで「オープン教材」の理解を深める
/全学自由研究ゼミナール「「オープン教材」をつくろう!」
特任准教授 中澤明子

――以前、大学総合教育研究センターで「東大TV」を担当されていましたね。
「はい。去年10月、2010~2014年に所属していたアクティブラーニング部門に戻ってきまして、今年から「「オープン教材」をつくろう!」という授業を行っています。2000年以降、教育の現場でオープンエデュケーションの取組みが活発化してきました。インターネットを通じて誰でも優れた教育を受けられるようにする取組みで、「東大TV」や「UTokyo OCW」もその延長上にあります。この授業では、誰でも使えるオープン教材に注目しました」
4つの設定から選んで教材制作
「序盤にオープンエデュケーションやオープン教材とは何かを学び、中盤で教材設計理論を学び、終盤にはグループワークで教材をつくってみるという授業です。対象や目的が決まらないと作れないので、社員研修用につくった教材の公開を考えている会社員、大学の入門的な授業の教材を探している高校教師などの架空の設定を4つ示し、一つ選んであてはまる教材をつくってもらいました」
――何か教材のコンテンツがあるならYouTubeでも使って公開すればいいだけではないのでしょうか。
「もちろん簡単に公開できますよね。一方で、オープンにする意義を考えたり、公開する際の注意点などを知ることも大切です。オープン教材の特徴の一つに誰でも再編集ができることがあります。再編集できることを示すために、Creative Commonsのライセンスを付けるとか、OER Commons(www.oercommons.org)のようなプラットフォームを使うといった工夫が必要です。第三者の著作物の利用など著作権の問題もクリアしないといけない。授業ではそうした教材制作のリテラシーも伝授しました」
学んでもらうために自分も学ぶ
「Sセメスターの授業では、5グループで5つの教材ができました。大学の授業を生徒に紹介しようと思っている高校の先生のストーリー設定を選んだグループは、40ページのスライド教材をつくりました。教材設計理論を踏まえながら様々な大学のOCWを紹介し、練習問題や発展課題も入れて教材として仕上げました。オープン教材のつくり方を8分程度の動画にまとめたチームもありました。受講生からは、オープンエデュケーションの現状がわかった、学んだことを説明することで自分も学べた、手を動かすことで理解が深まった、といった声がありました。Aセメスターの授業ではゲスト講義を加え、北海道大学オープンエデュケーションセンターの重田勝介先生に講義いただきました」
――コロナ禍を経てオンライン授業が定着した感がありますが、アクティブラーニングの進展ぶりはいかがですか。
「ディスカッションやグループワークなどを授業に取り入れることはオンラインでも対面でも以前と比べて当たり前になりつつありますね。今後はアクティブラーニングの質をより高めることが求められるでしょう。対面とオンラインの組み合わせ方も工夫のしどころです。自分の専門である教育工学、中でもこれまで取り組んできた遠隔教育や教員支援の知見を活かし、学生が楽しさや関心を持ってしっかり頭を働かせながら参加できる授業を目指したいですね。そして、部門の活動を通じて授業設計や運営のポイントをほかの先生方と共有していきたいと思っています」



