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海と希望の学校 in 三陸第17回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。4年目を迎えたわれわれの活動や地域の取組みなどを紹介します。

「学校」との繋がりから、「地域」との繋がりへ

吉村健司
吉村健司
大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センター
特任研究員
沿岸センターでの実習/塩作りの様子(重茂中学校/2021.9.29)
沿岸センターで塩作りをしている職員と中学生

2020年6月30日に国際沿岸海洋研究センター(以下、沿岸センター)と宮古市立重茂おもえ中学校(以下、重茂中)との間で、「海と希望の学校 in 三陸」に基づく連携・協力推進に係る協定が締結されました(No.1537/2020.8.25)。現在、重茂中では各学年に対して沿岸センターのスタッフによる様々なプログラムが実施されています。プログラムには、沿岸センターでの1泊2日の海洋科学に関する実習や、「海と希望の学校 in 三陸」をともに推進する社会科学研究所の先生による「希望学」の授業などがあります。また、「海と希望の学校 on 三鉄」や、「おおつち海の勉強室」のオープン式典にもご参加いただくなど、沿岸センターの活動の随所で、協定に基づく諸活動が展開されています。

ところで、現在、重茂地区では、コミュニティ・スクールに向けて動き出しています。コミュニティ・スクールとは「地域とともにある学校作り」や「学校を核とした地域作り」を目指すものです。そこでは、地域の小学校と中学校の連携は欠かすことができません。

重茂小学校(以下、重茂小)では、3年生から6年生にかけて総合的な学習の時間で、サケの孵化場やアワビの種苗センターなどでの授業を通じて重茂地区の水産についての理解を深めています。一方、重茂中では、沿岸センターとの協定締結以前は、地域の伝統芸能が軸でしたが、協定締結以後は海洋教育にも力を入れています。そこで、重茂中から重茂小に対して、沿岸センターも含めた海をテーマとした教育の連携が持ちかけられました。

こうした経緯から、2021年10月8日に沿岸センターの峰岸准教授が重茂小(6年生)の総合学習の時間において、「海の『きれい』とは何か」をテーマに授業を行うことになりました。授業では、海の色の見え方に関する講義の後、漁港で水質調査の実験を行いました。海水の濾過後に濾紙にプランクトンが残った様子を見た生徒からは、「重茂の海にはプランクトンがたくさんいることを初めて知った」という感想がありました。また、「海のきれいさ」は単純に、見た目からは判断できないという点も大きな学びだったようです。

この日、受講した生徒たちは、来年には重茂中学校に進学します。そこから3年間、私たちの授業を受けていく予定です。既に、中学校での授業を楽しみにしている生徒もいました。また、なかには、「勉強を頑張って、大学に行ってみたい」という、研究に興味が芽生えた生徒もいました。

重茂小、重茂中、沿岸センターの連携により、将来的には我々の授業を受けた重茂中の生徒が、小学校の総合学習の場に赴き、重茂の海について説明できるような仕組みを作っていきたいと考えています。「海と希望の学校 in 三陸」は「学校」との繋がりから、「地域」との繋がりへと連携の環が広がり、深まりつつあります。そして、より地域に根ざした連携に深化させていきたいと思います。

漁港でグラスに入った海水を濾過している小学生と沿岸センターの職員
漁港にて海水濾過の実験
プロジェクター画面が映っている教室で授業をしている沿岸センターの職員と小学生
重茂小での授業風景
沿岸センターでウニの解剖をしている職員と中学生
沿岸センターでの実習/ウニの解剖実験(重茂中学校/2021.9.29)

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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シリーズ 連携研究機構第41回「統合ゲノム医科学情報連携研究機構」の巻

村上善則,鈴木穣
話/
機構長・村上善則先生、
推進室・鈴木穣先生

日本のゲノム研究とその活用を推進

村上2015年に総長室総括委員会の下に設置された機構を、今年7月に連携研究機構に改組しました。私は前の機構から続けて機構長を務めています。発足当時、日本のゲノム研究に対する国の支援は滞りがちでしたが、その重要さが再認識されつつあります。今年から10万人の全ゲノム解読を目指す国の計画も始まりました。ゲノム医科学情報研究推進のため、改組を機に、計測教育、臨床ゲノム、ゲノム医科学、情報科学を活動の4本柱としました。各部門に2つずつ取りまとめ部局を設定し、18部局の連携を図ります

鈴木ヒトの細胞のDNAは30億塩基対ほどありますが、どれがどの病気に関係するのかは配列だけではわかりません。ある遺伝子を細胞に入れてみて癌化したらそれが癌に関係するものだとわかる。そうした検証を繰り返して初めてゲノム情報が活用できるわけです

村上多くの疾患は遺伝因子と環境因子の組み合わせで生じます。健康診断やカルテの情報に個人のゲノム情報を組み込んで長期間追跡すれば、疾患の罹りやすさなどが予測でき、疾患予防につながります。多数の参加者の同意を得て行うゲノムコホート活動が世界中に広がっています。本機構は国が支援する大規模コホートにも関わっていますが、今後は自治体や企業でも利用者負担の次世代コホートが構築されるでしょう。健康診断にゲノム情報も加えて疾患を予防し、組織の医療費負担も軽減するというアイデアです。ただし、実施には熟議が必要ですし、倫理審査の承認を得た上で、個々人のゲノム情報の保護には万全を期し、同意による自由参加が必須となるでしょう

鈴木もう一つ共有したいことがあります。文科省の補正予算で導入された次世代シークエンサーを機構で受け入れて活用してきたんですが、それがコロナ禍ではCOVID-19の検査に非常に役立ちました。学内施設の下水検査によるモニタリングにも重宝しています。通常は個人の唾液や鼻の粘液を採取する必要がありますが、下水なら汚水升から採取するだけです。 公衆衛生的には個人特定の方向とエリア特定の方向があります。前者が注目されがちですが、後者も必要です

村上連携研究機構のキックオフ・シンポジウムを年度内に開催し、COVID-19対策へのゲノム研究の貢献など幅広いテーマも考える予定です。今後は日本社会のゲノム情報への過度のアレルギーを減らす活動も進めたいです。ゲノム研究は世界各国が推進する重要な領域ですが、たとえば米国の高校の教科書のゲノムに関する記述は教養学部の教科書より詳しいくらい。教育の面にも関わって日本人の意識を変えたいですね

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UTokyo バリアフリー最前線!第29回

バリアフリー支援室長
熊谷晋一郎
ことだまくん

障害のある教職員との意見交換会

支援者との一対一の面談では、なかなか自分のニーズに気づき、それを表明することが難しいものだ。不便さに慣れてしまいニーズが潜在化することを「適応的選好」と呼ぶこともあるが、そこから抜け出すには、置かれた状況を互いに共有し、生き延び方を探求しあえるような仲間が必要だといえる。自分と同じ障害や、異なる障害のある他者の意見を聞くことではじめて、「そういえば、自分もそこに困っていた」と気付けることは少なくない。また、当事者の声を、役員や管理職に直接届ける機会もまれである。そうした対話の場として、バリアフリー支援室では毎年1回、障害のある教職員との意見交換会を開催してきた。

今年の意見交換会は、11月4日に開催された。障害のある構成員といっても多様であり、状況もニーズも異なる。毎年、どのようなグループ編成にすべきか、参加者の意見を反映させながら試行錯誤を続けているが、今年は、障害の種別ごとのグループで行った。

コロナ禍におけるコミュニケーションの希薄化や、勤務状況の把握困難、リモートワーク体制の整備など、昨年も聞かれた課題は今も続いている。しかしこの一年間、シフトの工夫やSNSの活用などによって、徐々にではあるが改善しつつある。

また、障害のある職員への支援や、中途で障害を負った構成員の支援については、これから取り組むべき大きな課題として今年も再認識されたが、UTokyo Compassに明示的にこれらの課題が書き込まれたこともあり、インクルーシブなキャンパスの実現に向けて障害のある教職員の視点と知恵が発揮される職域開拓の重要性が確認できたことは大きかった。

今年もまた、多くの宿題をもらった意見交換会だった。この声を羅針盤にして、バリアフリーへの取り組みを進めていきたい。

Zoomの画面が映っているモニターのある部屋で意見交換会に参加する教職員
対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で行われた今年の意見交換会
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第187回

医科学研究所 管理課総務チーム
(大学院事務室)
三浦純平

明るい2022年に

三浦純平
ロケーション◎な白金台キャンパス

本誌を皆様がご覧になる頃には2021年も残すところ数日、、、今年は(今年“も”でしょうか)あっという間の1年だった気がします。2022年は明るい1年にしたいですね。

私の所属する医科学研究所総務チームは、所内の会議運営から広報、就労管理まで幅広い業務を担当しています。私はその中で主に大学院事務を担当しています。医科学研究所には様々な研究科に所属する大学院生が通っており、各研究科と連携しながらの学生サポートや、講義・各種イベントの運営が主な仕事です。総務チームの性質上、所内全体の動きの大枠を掴めることが、経験の浅い私にとって学びになっています。

プライベートでは、8月に生まれた息子を溺愛中です。それはそれは可愛いのですが、少々甘えん坊が過ぎます。彼は一体どうすればベッドで寝てくれるのでしょうか。諸先輩方、どうかご教示ください。

公園で赤ちゃんを抱いている三浦さん
約8キロの重量級選手
得意ワザ:
1人アカペラ
自分の性格:
おだやか(特防特化)
次回執筆者のご指名:
黒田旭さん
次回執筆者との関係:
入職同期
次回執筆者の紹介:
強く優しい男です
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう

第26回 総合文化研究科附属グローバル地域研究機構
アメリカ太平洋地域研究センター教授
中野耕太郎

高木八尺やさか文庫と米国の戦争ポスター

このたび、総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センター(CPAS)が所蔵する学術資料のなかから、二つのコレクションのデジタル公開が実現しました。

「米国新移民法に就いて」と書かれた原稿
アメリカの排日移民法(1924)を論じた講演、「米国新移民法に就いて」の草稿

一つ目は、CPAS『高木八尺文庫』です。高木八尺は1924年に開講された東京帝国大学法学部ヘボン講座(のちアメリカ政治外交史講座)の初代教授で、今日に続く日本のアメリカ研究の草分け的存在です。高木は学者として多大な業績を残しただけでなく、1925年創設の太平洋問題調査会(IPR)に深くコミットするなど、戦前、戦後の日米関係に重要な役割を果たした人物です。『高木文庫』は、東大アメリカ研究資料センター(CPASの前身)に寄贈された蔵書と膨大な資料群からなり、ここにはIPRや東京裁判に関連するものなど、昭和の日米関係を知るうえで貴重な文献が含まれます。今回はその中から書簡や草稿、メモ類などを中心に342点をウェブ上に公開しました。

看護師にナースキャップをかぶせているイラストが描かれた「Become a Nurse」と書かれたポスター
“Become a Nurse – Your Country Needs You.” 第二次大戦中の1942年に発行された従軍看護師の募集ポスター

二つ目のコレクションは、CPAS第二次世界大戦期プロパガンダ・ポスターです。早くから広告技術の発達したアメリカでは、20世紀には他国に先駆けた大規模な戦争プロパガンダが展開されます。このコレクションは、特に第二次大戦時に作成された国内向けの広報ポスター90点を収録したものです。鮮烈なヴィジュアル・アートを駆使して、人々に戦争目的を周知し、国内の士気を高めようとする政府からの呼びかけ―そこに戦時下の国家と市民の複雑な関係性を垣間見ることもできるでしょう。

これら二つのデジタル・コレクションから現代史の生の資料を体感し、その圧倒的な迫力とリアリティをご堪能いただければ望外の喜びです。

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インタープリターズ・バイブル第172回

生産技術研究所 准教授
科学技術インタープリター養成部門
川越至桜

深い部分月食? ほぼ皆既月食?

2021年11月19日夕方に部分月食が起こったが、ご覧になった方はいるだろうか。関東では、多少雲が出たものの晴れており、3時間以上にわたる天体ショーを見ることができた。この部分月食ではオンライン中継が各所で行われ、とあるオンライン中継において、筆者は月食の解説とチャットから寄せられる質問に回答していた。チャットからの質問のため、「小学生です」や「親子で見ています」といった情報があるといいのだが、質問者の情報が全くわからない場合は、どういった言葉を使い、何をどこまで伝えたらいいのか難しく感じる。

さて、科学技術の楽しさとともに、世の中での活用方法や社会的な課題などについて伝え、皆で考える取り組みのことを、科学技術コミュニケーションと呼んでいる。今回の月食中継を含め、筆者も科学技術コミュニケーション活動を実施してきた。実は、このような平時の科学技術コミュニケーションの他に、災害などの危機時や有事におけるクライシスコミュニケーションや、リスクについて情報交換し議論するリスクコミュニケーションがある。

平時の科学技術コミュニケーションでは、正確性も必要であるが、より分かりやすくという点に主眼がおかれていることが多い。意訳やたとえ話を使いながら、参加者にとって分かりやすくなるよう工夫されているのではないだろうか。今回の月食は、月の直径の97.8%が地球の影に隠される「とても深い部分月食」であった(隠される割合が大きい場合「深い」と表現することがある)。これを「ほぼ皆既月食」と表現しても問題はないだろう。一方、リスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションにおいては、より正確な情報交換が求められる。意訳やたとえ話は時には誤解を与える可能性もあるため、必要な情報をどう伝えるのか、より慎重な表現が必要になると言える。

正確性と分かりやすさを両立させるのは個人的には結構難しいと感じている。ほぼ皆既月食を眺めながら、そのようなことを考えていた。

皆既月食で赤く染まっている月
中継で写真が撮れなかったため、ご参考までに2018年1月31日の皆既月食の様子

科学技術インタープリター養成プログラム

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第35回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

資料が映す、時代の“あたりまえ”

「女子高校生のための東京大学説明会」と書かれたリーフレット
(資料ID P024396)

あれ、このコラムは古いおもしろい資料を紹介するコーナーじゃなかったっけ? 挿入する資料画像を間違えたのかな?

と思った、そこのあなた。いえ、文書館のお蔵には、このようなつい最近作成されたもの、しかも一点ものではない印刷物もあるのです。

文書館では、大学で作成され大学の活動を跡づける文書を集めて保存していますが、それはいわゆる事務文書に限りません。学内各所で作成される印刷物も、大学の活動を伝える重要な資料です。中でも文書館が集中的に保存しているものは、短命の印刷物や頒布先の広がりがあまりないものです。部局で発行されるニュースレター、時間が経つと廃棄される入試の募集要項や時間割、イベントの配布物やちらし。これらは一目で時代を感じられる、とても貴重な資料です。

では、今回紹介するちらしからはどのような時代が浮かび上がってくるでしょうか。まず2011年に女子学生を増やすためのイベントがあったということが、この時点での大学の学生の男女比に関する問題意識を示しています。この年の3月、総長の諮問を受けて「女子の進学促進、女子学生比率向上への提言」という答申が出され、この問題に本腰を入れて取り組み始めたことが背景にありそうです。また、ちらしデザインからは「女子=ピンク」というステレオタイプの発想も透けて見えます。ジェンダー研究の素材になりますね。

コロナ禍の昨年から今年にかけて作られたちらしには、オンライン開催と書かれていることが多く見られます。有効期間の短い情報ほど、その時々の“当たり前”“無意識”が説明なく現れるため、時代を如実に反映しています。100年後、200年後の人がこうした資料からどういう情報を読み取るか、想像するとわくわくしませんか。

東京大学のPRサイトのQRコード

ところで、これまた今は当たり前になったQRコードがここにもあります。ちょっと読み込んでみてください。このイベントの情報は得られましたか?文書館はこのようなデジタルの情報の保存問題とも格闘しています。お蔵を開けるとそこは、現在過去未来、無限なのでした。

(准教授・森本祥子)

東京大学文書館