第1140回淡青評論

七徳堂鬼瓦

政治と経済と技術の間で

しばしば学外の人から「先生の御専門は何ですか?」と聞かれることがある。私は自分が受けてきた教育や所属する学会から、政治学の一分野である国際政治学を専門としていると自認しているが、研究テーマとして政治と経済、さらには技術にかかわる問題にまたがるテーマを選びがちであるため、何を専門にしているかわからない大学の先生、のように見えるのだろう。

現代の国際政治学の一大テーマである米中対立をとっても、米中貿易戦争や米中技術覇権、経済安全保障といった政治、経済、技術にまたがる問題が取りざたされ、これらの領域をカバーしていなければ解けない問題が多い。「学際的研究」が叫ばれて久しく、ディシプリンにまたがる研究をするのは当然、という批判はあるだろうが、政治学を学んだ者が経済学の論文を書くことも、技術の分野で学会発表をすることも難しく、「学際性」と聞いただけで尻込みしてしまい、自らのディシプリンに立て籠もる戦略を立てて業績を出すことが合理的な選択になってしまう。

私が所属する、法学政治学研究科と経済学研究科の連携大学院である公共政策大学院では「科学技術政策コース」を設けている。ここでは政治学をきちんと習得した上で、そこに軸足を置きつつ、経済、技術の問題に出しゃばっていくことを推奨している。

経済学や工学の分野で論文や学会発表が出来なくても、それらを専門にする人たちと対話し、それらの分野で課題となっている問題を理解することが出来れば、政治学の立場から異なる見解やアイディアを提供することも出来るだろうし、それが他の分野を専門とする人たちのインスピレーションになるかもしれない。おそらく「学際性」とは、複数の分野を一人の研究者がマスターすることではなく、ある分野の研究者が他の分野に出しゃばっていき、対話をし、違う角度から発言していくことで、新たな価値を作りだすことなのだろう。

鈴木一人
(公共政策学連携研究部)