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国際女性デー(3月8日)記念シンポジウム インクルーシブな未来へ 研究者、学生、ジャーナリスト、企業役員がD&Iをお題にディスカッション

3月2日、東京大学は「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマとするシンポジウムを朝日新聞社と共催しました。総長と朝日新聞社社長のほか、ジェンダーやD&Iに向き合う研究者、教員、学生、企業役員、ジャーナリストが登壇。インクルーシブ社会の実現に向けて、大学やメディアや企業がどのような役割を果たすのか、実現した先にはどのような風景が見えるのか、議論を深めました。第三部で行われたパネルディスカッションの模様を要約して紹介します。

●プログラム(朝日新聞社読者ホールよりLIVE配信)

第一部 対談「ジェンダー平等の実現へ東京大学と朝日新聞の取り組み」/藤井輝夫、中村史郎 モデレーター:林香里
第二部 プレゼンテーション「キャンパスから考えるD&I」/綾屋紗月
第三部 パネルディスカッション「インクルーシブな未来へ」/綾屋紗月、大杉美穂、橋本恵一、林尚行、宮丸正人、八尾佳凛 ファシリテーター:伊木緑

※当日の模様は「東大TV」で視聴できます。https://todai.tv/contents-list/2021FY/womens_day

先端科学技術研究センター 特任講師 綾屋紗月総合文化研究科教授 特任講師 大杉美穂理学部4年 橋本恵一さん朝日新聞経済部長代理 林 尚行さんデロイト トーマツ コンサルティング執行役員 宮丸正人さん教養学部3年 八尾佳凛さん朝日新聞社会部記者 伊木 緑さん理事・副学長 林 香里朝日新聞社代表取締役社長 中村史郎さん総長 藤井輝夫

東大も朝日も女性比率は2割

伊木 東大の学部学生と朝日新聞社社員の女性比率は、どちらも2割弱です。

八尾 居心地の悪さを感じることは多々あります。授業でグループワークをすると女子が一人になり、自分の発言がまるで女性代表のものであるように捉えられがちで、発言のしづらさを感じます。本来よい意見が出たはずの機会が奪われるのは、組織にとってもよくありません。

大杉 私が入学した約30年前に女子学生が初めて1割を超えたと聞いたんですが、当時の自分と同じことをいまの学生も感じていると聞いて残念です。1割や2割では変わらず、もっと増やさないといけません。もちろん教員もそうです。

伊木 数を増やす話になると、下駄を履かせるのか、優遇は逆差別だ、と声が上がります。研究の世界でも同じですか。

大杉 はい。たとえば女性研究者限定の公募に対して男女両方から異論が出ます。女だから採用されたと思われるのは悔しいという声もあります。院生やポスドクの頃、セクハラまがいのことは何度もあり、男性なら悩まないでいいことで悩まされてきました。女性限定の公募があっても、女性ゆえに乗り越えないといけなかったハードルはチャラにはならないでしょう。女性優遇で利益を受けても自分の能力を疑ってほしくないと思います。

林(尚) 私の職場では、紙面の責任を負う幹部の約3割が女性になり、現場が変わりつつあります。ある繊維会社が長年続いてきた女性の水着キャンペーンをやめました。それを大きく取り上げることになり、男性記者陣が記事を書いたんですが、女性デスクの指摘で原稿の位置付けをめぐる議論が巻き起こりました。多様性の時代だからやめたという記事から、性の商品化の側面があるのではないかという問題提起の記事に変わったんです。意思決定やものを生み出す場に女性が複数いる意味を身に沁みて感じます。

伊木 将来の選択肢を狭める要因があるとするとどんなことだと思いますか。

八尾 最も深刻な問題の一つは、無意識のうちに選択肢を狭める刷り込みです。女子だから無理して東大に行かなくていいとか地元に残ればいいとか。学校、家庭、メディアでバイアスが形成され、当事者のなかで内面化されます。ありえた可能性が潰れるのはもったいないです。

伊木 D&Iの課題を企業としてはどう分析しどんな取り組みをしていますか。

4:4:2 の「パネルプロミス」

宮丸 2つ話題を共有します。一つは2020年から始めた「パネルプロミス」で、イベントなどの登壇者を男性40%:女性40%:多様性推進枠20%とするものです。多様性を可視化し、無意識のバイアスを軽減するのが目的です。単なる数合わせではなく、多様性によって新たな観点や気づきを生み出すことが重要です。もう一つはDとIの間にEquityを挟んだ「DEIフレームワーク」です。個人の違いを考慮せず全員に「平等」なものを提供するか、個人の違いを考慮して「公平」な機会を提供するか。後者を模索し、最終的には「平等」で「公平」な機会が全員に提供される世界へ、という考えです。

伊木 少数派になりやすいのは女性だけではありません。橋本さんは自閉症スペクトラムの発達特性があるそうですね。

橋本 私が通った中学校では、発達特性がある生徒の数がクリティカルマスを超えていました。自閉症スペクトラムの特性を持つ生徒同士が連帯してコミュニティが形成され、特性を持つ人の発言力が高まりました。それにより、教師も含めて出る杭を尊重する空気が学校全体でできていたんです。マイノリティが一定数を超えて連帯が進むと発言力が高まり、コミュニティ全体がインクルーシブになる可能性がある、と伝えたいです。

綾屋 第二部のマイクロアグレッションの話で引用したスーという学者は、多数派が持つのはリアリティを定義する力だと指摘しています。数の力はリアリティの力だと肝に命ずる必要があります。

大杉 先日、目の見えない人が世界をどう感じているかを書いた本を読み、衝撃を受けました。晴眼者にはできない発想がありました。見え方が違う人同士が対話することで、わからなかったことがわかったり、世界や発想力が広がったりする。それは研究の世界ですごく重要なことです。知識だけでなく独自の発想を生むことが非常に大事。多様な見方をする人がいて、対話があって情報を交換できれば研究にとって非常によいことです。

林(尚) 新聞社ではたくさんある部ごとの帰属意識が強く、均質的なシステムを長く守ってきました。これを壊して長期的ビジョンを明確化することが必要です。

伊木 東大の男女比率が半々になると社会にはどんなインパクトがあるでしょう。

東大の歪みは社会の歪み

八尾 東大は産業界、学術界、官公庁にも人材を輩出しています。東大の歪みは社会の歪み。D&Iの考え方を持つ卒業生が社会に出ることが重要です。少数派が周縁化される負の連鎖を断ち切ることに教育機関として貢献できるはずです。

伊木 最後にお題です。インクルーシブ社会に近づくため明日から何をしますか。

綾屋 私の研究室には様々なマイノリティに属する人がいますが、各々が属するコミュニティの背景や、何を言われたらマイクロアグレッションと感じるかについてはあまり話題にしたことがありません。身近な同僚とその点を話す場を設け、キャンパスを多様性に開く学生・教職員向けプログラム開発に取り組みます。

大杉 私を含め、多数派ゆえの特権があることに鈍感になりがち。本来は多数派が学ぶ努力をすべきですが、少数派が声を上げたときに、多数派はせめて声を上げた人を一人にしないことが大事です。その点を心がけようと思います。

橋本 マジョリティ側の男子学生の一人として避けたいのは、マイクロアグレッションの加害者になることです。そうならないためには当事者コミュニティの声を聞くのが一番で、東大で声を聞きやすいメディアが『biscUiT』でしょう。よく読んで女性の困りごとを学びます。

林(尚) 縦の壁と横の壁を壊す行動を行います。前者では読者が信頼してくれる記事を出すために、あるときは上司が女性で部下が男性、あるときはその逆というふうに縦の行き来ができるチームを作ります。後者では、部を越えたチームを作って信頼できる記事を生み出します。

宮丸 将来のインクルーシブ社会に向けて、新しい活動やアプローチを生み出さないといけません。より多様な皆さんとともにインクルーシブな社会に向けた価値創造に一つずつ取り組みます。

八尾 学生の特権かもしれませんが、違和感を感じたときに声を上げることです。就職活動をする中でも、少しでもおかしいと感じることがあった際にはためらわず声をあげることを実践します。

伊木 私は、他人の考えがわからないのが大前提だと肝に銘じ、理解し合うために言葉を尽くそうとあらためて思いました。本日はありがとうございました。

※上記は抄録です。言葉は省略されている場合があります。

八尾さんが代表を務めた「東大女子が贈るフリーペーパー」https://utbiscuit.xxxx.jp

大学とメディアのトップが対談

第一部では、「ダイバーシティとはほど遠い」と林理事が紹介した両組織のトップが対談。中村社長は、2016年に日本のジェンダーギャップ指数が144国中111位だった衝撃を機に取り組みを重ねてきたことが2020年の「ジェンダー平等宣言」に結実したこと、女性指導者育成の専門家を社長アドバイザーに招くことなどを紹介しました。藤井総長は、多様な人々による対話は学術の高みを目指す上でも重要なこと、D&I宣言の準備を進めていること、女性人事加速の5カ年計画を始めたことなどを紹介。女性支援の施策を行うと「下駄を履かせるのか」と言われると悩みを吐露した林理事に、「下駄を履いていたのは男性」と中村社長が応じ、藤井総長が深く頷く一コマも。

第二部では、外から見えにくい経験を内側から記述してメカニズムを探る当事者研究に取り組む綾屋先生が登壇。人間についての研究には当事者が主体的に関わる共同創造が必要だということが国際的に共有されていること、障害は個人と環境のギャップに起因するという障害の社会モデル、ふとした言動で相手を傷つけるマイクロアグレッションなどを説明しました。先端研では障害のある研究者を雇用するユーザーリサーチャー制度を日本で初めて導入し、現在5人の研究者が活躍中との報告も。インクルーシブなキャンパスの一端を覗かせるようなプレゼンテーションでした。

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令和3年度 退職教員アルバム お疲れ様でした&ありがとうございました!

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令和3年度退職教員の紹介のQRコード

例年、年度末に退職する教員情報について東大ポータルで提供を呼びかけ、所属部局から提出があった紹介情報をウェブ上に掲載してきました。昨年度から引き続き今年度も長引くコロナ禍の影響で顔を合わせる形の送別の宴などの開催が難しくなり、最終講義もオンラインでの開催が多くなっているという現状に鑑み、「学内広報」誌面にも皆さんのお名前と写真を掲載し、先生方の大学へのご貢献を労います。長年にわたる東大での研究・教育活動、大変お疲れ様でした。

法学政治学研究科
藤原帰一教授
藤原帰一
国際政治学
昭和59年4月~
医学系研究科
河西春郎教授
河西春郎
生理学
平成2年6月~
医学系研究科
川上憲人教授
川上憲人
精神保健学
昭和60年4月~
医学系研究科
小林廉毅教授
小林廉毅
公衆衛生学
平成10年9月~
医学系研究科
真田弘美教授
真田弘美
老年看護学
平成15年6月~
医学系研究科
鈴木洋史教授
鈴木洋史
医療薬学
昭和63年1月~
医学系研究科
畠山昌則教授
畠山昌則
感染腫瘍学
平成21年7月~
医学系研究科
宮崎 徹教授
宮崎 徹
分子病態医科学
平成18年4月~
医学系研究科
宮園浩平教授
宮園浩平
分子腫瘍学
昭和63年7月~
医学系研究科
森屋恭爾教授
森屋恭爾
肝臓病学
平成3年6月~
工学系研究科
相田卓三教授
相田卓三
高分子化学
昭和59年4月~
工学系研究科
縄田和満教授
縄田和満
統計学
平成元年4月~
工学系研究科
藤田昌宏教授
藤田昌宏
設計自動化
平成12年3月~
工学系研究科
古米弘明教授
古米弘明
都市雨水管理
平成9年2月~
工学系研究科
堀 浩一教授
堀 浩一
人工知能
昭和63年4月~
工学系研究科
光石 衛教授
光石 衛
機械工学
昭和61年4月~
工学系研究科
山口 彰教授
山口 彰
原子炉工学
平成27年1月~
工学系研究科
横山明彦教授
横山明彦
電力システム工学
昭和59年4月~
人文社会系研究科
佐藤健二教授
佐藤健二
歴史社会学
昭和58年4月~
人文社会系研究科
佐藤宏之教授
佐藤宏之
先史考古学
平成9年4月~
人文社会系研究科
高山 博教授
高山 博
西洋史学
平成5年4月~
人文社会系研究科
横澤一彦教授
横澤一彦
認知心理学
平成10年10月~
理学系研究科
下浦 享教授
下浦 享
実験核物理
昭和63年4月~
理学系研究科
長谷川哲也教授
長谷川哲也
固体化学
昭和61年9月~
理学系研究科
日比谷紀之教授
日比谷紀之
海洋物理学
昭和62年4月~
農学生命科学研究科
岡田謙介教授
岡田謙介
熱帯作物栽培生理学
平成22年4月~
農学生命科学研究科
岡本 研准教授
岡本 研
水域保全学
昭和58年5月~
農学生命科学研究科
佐藤隆一郎教授
佐藤隆一郎
食品科学
平成11年8月~
農学生命科学研究科
竹村彰夫教授
竹村彰夫
粘・接着の科学
昭和60年10月~
経済学研究科
小野塚知二教授
小野塚知二
西洋経済史
昭和62年4月~
総合文化研究科
金子邦彦教授
金子邦彦
非線形物理
昭和60年4月~
総合文化研究科
清水 明教授
清水 明
量子物理学
平成4年4月~
総合文化研究科
中澤恒子教授
中澤恒子
言語学
平成9年4月~
総合文化研究科
松原 宏教授
松原 宏
経済地理学
平成9年4月~
総合文化研究科
村田 滋教授
村田 滋
有機光化学
平成8年4月~
総合文化研究科
楊 凱栄教授
楊 凱栄
中国語学
平成7年4月~
数理科学研究科
金井雅彦教授
金井雅彦
幾何学
平成23年4月~
数理科学研究科
時弘哲治教授
時弘哲治
応用数学
昭和58年4月~
新領域創成科学研究科
木村 薫教授
木村 薫
材料物性学
昭和59年10月~
新領域創成科学研究科
佐々木 健教授
佐々木 健
メカトロニクス
昭和60年7月~
新領域創成科学研究科
保坂 寛教授
保坂 寛
機械振動学
平成9年4月~
新領域創成科学研究科
山本一夫教授
山本一夫
糖鎖生物学
昭和61年8月~
情報理工学系研究科
萩谷昌己教授
萩谷昌己
情報科学
平成4年4月~
情報学環
水越 伸教授
水越 伸
メディア論
1989年4月~
医科学研究所
北村俊雄教授
北村俊雄
血液学
平成8年9月~
東洋文化研究所
池本幸生教授
池本幸生
アジア経済論
平成10年4月~
史料編纂所
保谷 徹教授
保谷 徹
幕末維新史
昭和62年4月~
定量生命科学研究所
堀越正美准教授
堀越正美
分子生物構造学
平成4年5月~