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第50回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

サロン

お茶インクとマグロのPCRから科学の目を養う

/全学自由研究ゼミナール「自然科学サロン」

自然科学教育高度化
部門 特任准教授
鹿島 勲
鹿島 勲

――オムニバス形式の「茶わんの湯」と集中実習形式の「それ何マグロ?」を前に紹介してもらいましたね

この授業はそれらと合わせた「鮨三部作」の一つで、身近で簡単な実験とトークから物事の本質を見抜く科学の目をゆったりと養おうというものです。端的に言えば刺身と割り箸でPCRを体験する授業です。コロナ禍でも注目されたように、少しの匙加減で結果が変わるのがPCR。その難しさを学生が体感します

お茶で微量液体操作の練習を

――でもまずやったのはお茶の実験?

お茶インクというものを作りました。粉末茶を水に溶かすだけでは緑色ですが、鉄を加えると茶色や黒色に変化します。使い捨てカイロの中身やスチールウール、緑茶と抹茶の粉末を使いました。鉄を増やしたり時間を長くかけるとより黒くなり、緑茶よりは抹茶のほうが濃い黒になります。学生たちは好きな色のお茶インクを作り、割り箸で好きな絵を描きました。紫外線ランプを当てると色味が変わって見えることも体験しました

一方で、関連する問いを配って話すことを続けました。お茶にスチールウールを入れるとなぜ黒くなるのか、化学反応として似ているブルーブラックインクとお歯黒の相違点は何か、植物はなぜ緑なのか、紫外線を当てるとなぜ赤く見えるのか……。実験の訓練として、微量な液体を扱うピペットマンの使い方も学びます。PCR用の溶液は高価ですが、お茶は安価。しかも適度に粘性があり目に見えるので練習に最適です。生命科学で頻出する1ul~1mlのスケール感を会得するのにも有効。手元が震えるときは片方の手を添えるといった基本も学べます

納豆とイカと漢方の話もヒントに

――ゲストの特別講義もありましたね。

納豆の専門家である農業・食品産業技術総合研究機構の木村啓太郎先生は、バクテリアに感染するファージが発生して納豆菌を弱らせる仕組みを解説しました。ファージ研究は古典的ですが、最近また生物学の最前線で注目されています。大気海洋研究所の吉澤晋先生は、スーパーで買ったイカを放置し、体内の蛍光微生物を増やして発光させるお話。再現実験をしたら私も失敗しましたが、おかげでその理由を考えさせることができました。北里大学東洋医学総合研究所の星野卓之先生のお題は鮨と東洋医学。西洋医学にも精通するお立場から、WHOも認めた漢方の世界について話してくれました

――そしてついにPCR実験に突入、と。

抽出、精製、増殖、切断、電気泳動確認と続く工程のなかでは抽出と精製が特に大変で時間もかかります。それを省く方法を考えるうちに見つけたのが「903カード」でした。WHOがエボラ検査に使っているサンプル保存紙で、爪楊枝で体液を紙につけるだけ。切片を潰したり水につけたりと工夫しながらマグロの血を学生たちが採取しました。実は体液を含むPCRは高難度で、過去の「それ何マグロ?」の授業でも失敗続きでしたが、今回は成功例が出ました。サンプルを取り過ぎないことが肝だったようです

最後にグループごとに発表を行いました。イカの発光、納豆の新分類、鮨にまつわる植物、蛍光の違い、ファージセラピーなど、授業で触れたテーマから自由に選んで報告する形でした。当初グループ分けを私がやろうとしたら、学生が自分たちでやりたいと言うのでそうしました。重視してきた自発性を体現してくれて嬉しかったです。近年は履修者の幅が広がり、生き物を使う実験に難色を示す学生も出てきました。次回はマグロのかわりにバナナを使ってやるつもりです

①複数のコップに入っているお茶インク ②竹の絵 ③筋肉隆々の人の絵
❶❷❸お茶インクと学生のお茶インク作品。
④グラスに入っている緑茶と抹茶に紫外線ランプを当てている様子
紫外線を当てた緑茶と抹茶。
⑤ビニール袋に入っているイカ
イカの発光実験では72時間放置で悪臭発生。その防止策も議論の題材に。
⑥マイクを持っている星野卓之先生
ゲスト講師の星野卓之先生。
⑦903カード
903カード。
⑧マグロの破片の手前で割り箸を手に取る人
マグロの体液を抽出し箸で紙へ(@KOMCEE East教育開発実験室)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

本誌1477号と1538号を参照

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第31回

あちこちそちこち東京大学 本郷・駒場・柏以外の本学を現場の教職員が紹介

保健体育寮
山中寮内藤セミナーハウスの巻
本部学生支援課体育チーム
市村桃子

東大の「山の家」

湖に浮かぶローボート
山中寮近くの山中湖湖畔の景色

東京大学の保健体育寮である山中寮は、富士山麓の山中湖岸の美しく幻想的な風景を楽しむことができ、東京大学の「山の家」と呼ばれています。大正14年に山梨県から土地を借りて学生が開墾し寮が開設され、旧寮は昭和4年竣工以来約80年の歴史がありましたが老朽化が進んでいたため、平成21年に当時のリンナイ株式会社会長の内藤様から寄附金をいただき「山中寮内藤セミナーハウス」として現代建築の意匠が目を引く素敵な施設として生まれ変わりました。

現在、事業者へ運営を委託しており、館内はカントリースタイルの温かみのあるインテリアで居心地の良い雰囲気が作られており、施設内では、広々したセミナールームがあり、会議、勉強会、または趣味のクラブなどで利用することも可能です。研究室であればゼミ・演習・学会など、また学生団体であれば合宿・旅行などに利用することができます。

また、山中寮は農学部付属演習林である「富士癒しの森研究所」内にあるため、カラマツ林の散策などもお楽しみいただけます。バス通りを1本はさんで林を抜けるとすぐに山中湖の湖面に出ることが出来ます。山中湖・富士山その他周辺施設・観光名所を楽しむ際のベースキャンプとしても最適な場所にあります。

山中寮は、東京新宿から高速バス1本でアクセスすることができ、東京大学の学生・教職員・卒業生であれば利用することができます。ぜひ、ご家族やご友人とのご旅行でもご利用ください。

1.山中寮のフロント、2.林、3.洋室、4.和室
1. 山中寮のフロント
2. 周辺の風景
3. 洋室は全8室。教職員は一泊4500円
4. 和室は全11室。教職員は一泊3500円
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第17回
文科一類1年村上 諒

雲伯地域の3城連携による周遊促進

当チームの目標は、端的には、米子市・安来市・松江市に存する3つの城(米子城・月山富田城・松江城)をフックとした雲伯圏域の観光周遊促進策の立案です。

観光消費額が少なく、連泊客数が減少傾向にある当圏域に必要な施策の1つには、圏域の周遊やそれに付随する消費の喚起が挙げられます。3城連携を介することで、圏域の食や宿泊のみならず、3城の歴史的な関連や各施設・城下町の構造の相違といった地域に固有かつ多様な要素を巻き込むことが出来ます。

ジオラマ模型を囲むメンバー
安来市立歴史資料館にて平原館長によるご説明

2021年12月に1泊2日で行った現地活動では、3城の観光資源化の方策を現地の諸課題に照らして考察するための重要なヒントを得ました。それに立脚し、各城に必要な個別具体策及び周遊促進策の2つの視点から議論を重ねています。

まず、国宝の天守を擁する松江城は、年々来訪者数が減っているため、観光客を繋ぎ止めるためにも、現在不十分な城下町の観光資源化によるリピーター獲得を軸に据え思案中です。

雪景色の城跡を歩くメンバー
月山富田城を踏破

月山富田城は、山城の代名詞的な位置付けであるはずなのですが、登城者数が極めて少ない現状の脱却を、山城ブームの冷めていく今後いかに実現させていくかが課題です。そこで、城内施設までの案内方法の改善や、山頂まで登らずとも麓や山腹においても城を楽しめる工夫を捻出しています。

米子城に関しては、観光事業の運営主体がほぼボランティア同然で、持続的な収入確保も課題です。米子の強みである城下町での対人交流に更に宿泊や移住の視点を入れて持続的な消費を喚起する方針で、現地の一般社団法人と新事業を立ち上げようとしています。

このような周遊先である3城各自における取り組みのみならず、周遊を引き出す工夫も必要です。車離れの中で車ありきではない観光を提供するための二次交通や、観光客の足を止める周遊施策のあり方についても議論をしています。

最後になりましたが、このような貴重な学びの場を共創して下さっている全ての方に、一同心より感謝申し上げます。

メンバーはほかに武樋実優(文一2年)、宮部壮貴(文学部3年)、寺園結基(工学系修士2年)、杉浦圭(薬学系修士2年)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第190回

本部入試課
入試企画・広報チーム
吉田美緒

入試だけじゃありません

吉田美緒
オンライン説明会中(ユータスくんと)

入試課では学部入試の実施が主な業務です。入試課というと「公正・公平」をモットーにする職務上なかなか見えない仕事が多いのですが、チーム名のとおり「入試広報」として各都道府県の説明会に参加するような、表に立つ仕事もしています。

説明会の東大ブースに来る高校生は、大学の概要について聞きたがる人から、興味のある研究に関する具体的な質問を用意してくる人までさまざま。わざわざ足を運んでくれての質問、できる限り答えたいのですが、想定外の質問がくると担当課を案内するしかないこともあり、経験と知識が浅いのを申し訳なく思うことも……。入試広報期間は、職員も勉強の日々になります。

執筆している現在は梅がやっと咲き始めたころですが、発刊のころには桜も咲くあたたかい時期ですね。気兼ねなくぶらぶら美術館を巡り、おいしいお酒がたくさん飲める日々を待ちわびつつ、引き続き東大について学んでいきたい思います!

東京国立博物館
初詣は美術館で!
得意ワザ:
ちょうどよく熟したアボカドを選び出すこと
自分の性格:
のんびり
次回執筆者のご指名:
西村洋平係長
次回執筆者との関係:
入職時お世話になった上司です
次回執筆者の紹介:
物腰やわらか
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ぶらり構内ショップの旅第1回

レストランカメリア@伊藤国際学術研究センターの巻

ホテル仕込みのフレンチを

今年2月に開店10周年を迎えた、本郷キャンパス伊藤国際学術研究センター1階にある「レストランカメリア」。大正時代に建てられた赤門書庫の一部が残る趣のある空間で、ホテル椿山荘東京のフレンチレストランで経験を積んだ川口道夫シェフが腕をふるう料理を味わうことができます。コロナ渦の影響で一年ほど休業しましたが、昨年の4月から営業を再開しました。

中島一人さん
支配人の中島一人さん

「3月1日に新しくなったコースメニューを、ぜひ多くの人に楽しんでいただきたいです」と話すのは支配人の中島一人さんです。普段は一階の運営室にいますが、レストランにも時々顔を出し、サービスなどを手伝っているそうです。

学内構成員の利用が多い昼の人気メニューは、1600円のワンプレートランチです。チキンかポークの2種類から選べるメインディッシュに、スープ、ピクルスやサラダ、そして珈琲もついてきます。乾杯の一杯と共にゆったりと食事を楽しみたい人には、3500円と4500円のコースもあります。昨年4月にはカメリア初のテイクアウトも始めました。メニューはカレー、ビーフストロガノフ、フリカッセ(鶏の煮込み)の3種類。全てに珈琲がつきます。何時間も煮込んだ3品にはシェフのこだわりがつまっているそうです。価格を1000円と低めに設定したことで、これまであまり見かけることがなかった学生の利用も増えてきているとか。「約1年経ちましたが、徐々に口コミなどで広まって、リピーターも増えています」

夕方の17時半まで利用できるテイクアウトは、現在はイートインスペースになっている隣接するカフェで食べることができます。今なら、店内で食事をする際に「学内広報を見た」と伝えると、乾杯スパークリングワインのサービス特典がつきます(テイクアウトは除く。4月30日まで)。この機会にぜひ、クラシカルな雰囲気の中でフレンチを堪能してみませんか?

レストランカメリアの内装
ランチ
11:30~14:30 (L.O.)
ディナー
17:00~20:00 (L.O.)※要予約
レンガ造りの店内には大正期に建てられた書庫の一部が使われています
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インタープリターズ・バイブル第175回

総合文化研究科 教授
科学技術インタープリター養成部門
廣野喜幸

「だから」考

科学コミュニケーターのみなさん、質問されたとき、「ですから」で答え始めることはありませんか。

祖父はアパートを1軒残してくれた。父は89歳で死ぬまで管理にあたっていたが、死の1年ほど前から、請求のしわすれなど、問題が生じるようになった。私が、「管理を委託しているKさんが201号室の契約書を確認したいんだってさ」と問うと、「だから、201号室は契約書なんてないんだよ」と父は憮然として言い放つ。ここで、私の思いはアパート管理業務を離れる――親父はこうした「だから」をよく使う。しかし、この「だから」って一体何なんだ?

「だから」の基本は、「前に述べた事柄を受けて、それを理由として順当に起こる内容を導く」(『大辞泉』)場合だろう。「真冬に薄着でいたのか。だから、風邪をひいたんだな」といった用例が思い浮かぶ。父の「だから」には、「前に述べた事柄」が存在しない。この用法ではない。

「そのような望ましくない結果が自分には前もって予測できるものであったことを表す」(『広辞苑』)語義はどうか。1958年、松山恵子さんの歌謡曲「だから言ったじゃないの」がヒットした。「あの男とつきあうと貴女は嫌な目に遭うに違いない。だから、そうならないように予め言っておいたのよ」。将来予測=理由と忠告=帰結の関係があるのだから、この語義は先の派生形態なのだろう。嫌な思いを味わった時点で、将来予測=理由が両者に共有されたため、「前に述べたこと」が省略されたと考えられる。父の「だから」発言では、私とのあいだで共有されている理由など存在しない。これでもない。

理由を父の友人周辺に探ってみると、父のごく親しい友人Nさんから、Nさんの友人Sさんを入居させてくれないかと頼まれ、二つ返事で引き受け、Nの紹介なら契約書みたいな杓子定規なことはせずともよいといい顔をしたといったところらしい。半世紀以上一緒に暮らしているのだから、私もおおよそ知っているのが当然と想定し、「だから」を連発したのではないか。しかし、知識の共有は当然のことではない。自分の知っていることは相手も知っていて当然であり、知らないとしたらそれは相手の怠慢だとするある種の傲慢さが、私に違和感を起こさせたのだろう。

科学コミュニケーターのみなさん、質問に「ですから」で答え始めたとき、そうした傲慢さを伴っていませんか。聴衆は敏感です。どうぞご注意を!

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第29回

渉外部門
アソシエイト・ディレクター
天尾美花

欲しい未来へ寄付を贈る「寄付月間」

毎年12月に行われている“寄付月間”という取り組みをご存知でしょうか? 12月はただでさえ師走と呼ばれるほど大忙し。12月にそんな取り組みが? なんて思われるかもしれません。

寄付月間とは「欲しい未来へ、寄付を贈ろう。」を合言葉に毎年12月の1ケ月間、全国規模で展開される寄付啓発キャンペーンです。寄付月間の始まりはさかのぼること2011年。この年発生した東日本大震災において多くの日本人が寄付をし、社会全体の寄付への関心が高まりました。これを受けて、寄付に関連する活動を行っている主要な民間非営利団体、企業、大学、行政、国際機関が集まり「寄付月間~Giving December~」(毎年12月1日から12月31日まで)を行うことを決定し2015年から寄付月間がスタートしました。

東京大学は寄付月間(Giving December)の趣旨に賛同し、2017年より寄付月間賛同パートナーとして活動しています。1年を振り返る12月に、大学関係者が寄付者への感謝と報告についてあらためて考え、多くの人が「自分が望む未来を寄付によって選択し変えていけること」を知り、行動するきっかけとなるよう、寄付文化の醸成に取り組んでいます。

2021年12月には賛同企画として、東大基金アドバイザーの渋澤健氏がナビゲーターを務める“UTokyoFuture TV Vol.3~東大と世界のミライが見える~”を実施しました。宇宙線研究所の梶田隆章教授をゲストに『研究を最大化させる寄付の可能性』を熱く議論し配信しました。

寄付月間ロゴマーク

また、東京大学運動会マスコットキャラクターのイチ公は、寄付月間のマスコットアンバサダーとして大活躍。寄付月間公式ラジオにゲスト出演し、日々の活動やスポーツとチャリティの関係性について紹介しました。

寄付月間はグループや個人、誰でも参加できます。寄付をする、寄付啓発イベントの企画、寄付募集キャンペーンや報告会の実施など、アクションの仕方は無限大! 部局で、研究室で、仲間で、個人で、次の寄付月間を一緒に盛り上げてみませんか? ご相談は渉外部門まで。

東京大学基金事務局(本部渉外活動支援課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp