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第51回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

社会と協働する教養教育の姿を実例から探る

/シンポジウム「大学における社会連携による教育の可能性」

社会連携部門長
教授
渡邊雄一郎
渡邊雄一郎

――毎年恒例のKOMEXシンポジウム。今回は社会連携部門が担当したんですね。

近年は情勢の変化が急ですが、社会の人たちはそれに対応しています。社会連携部門は、リアルタイムに変化と向き合う人たちの協力をいただき、コロナ禍でもオンラインで社会の現場から学生に声を届ける試みを続けています。そうした活動例をシンポジウムで共有しました

コンサル会社や音楽家との協働

難民問題などの研究に軸を置きながらビジネスに関する授業などを手がける髙橋史子先生は、コンサルティング会社アクセンチュアと連携した取組みを紹介しました。インタビューを通して現代社会の課題を捉え、どうすべきかを探る。まとめを企業のトップにプレゼンして評価をもらうインターンシップのような試みも行っています。様々な人と対話することが重要ですが、学生がいきなり見知らぬ人と話す機会を作るのは簡単ではないし、妙な勧誘を受けるかもという懸念もあります。大学側が安全を担保する形でこうした機会を提供しているわけです

音楽史やサウンドデザインを研究する山上揚平先生は、作曲家とともに音を題材に感性を磨く表現・創作の授業を紹介しました。たとえばゲームソフトに流れるメロディのような音の表現について学び、何かしらの意図をもって音色を創る体験をしてもらう。従来の枠に収まらない授業ですが、感性を磨くことが知性にポジティブな影響を与える可能性が指摘されています。従来はなかった、感性を使った社会認識や他者との関わりを体験することに意味があります

――ブランドデザインスタジオや渋谷QWSや金曜特別講座などの紹介のほか、学外の方の講演もありましたね。

筑紫一夫さんは学校建築を得意とする建築家です。以前、新しい教養教育に相応しい教室の姿を議論し具現化した成果が21 KOMCEEでした。従来の教室のように一方向を向くのでなく、対等に顔がイーブンに見える状況・場を目指した建物です。地元の人とともに活動し自分たちの学びにもなるというコンセプトで保育施設と保育士育成の場を組み合わせた相模女子大学など、筑紫さんが手がけたほかの事例もお話しいただきました

教育はオープンにすることが肝

――登壇した皆さんによるパネルディスカッションはどのようなものでしたか。

視聴者の質問に答える形でした。たとえば「渋谷QWSのような試みは東京だからできるのでは?」という質問には、規模の違いはあるが同様の試みは各地でできる、聞かれればノウハウは誰にでも伝えると野城智也先生が返答されました。事例紹介だけでなく、それを活用してほしいという気持ちが滲み出たパネルだったと思います。教育に関わることは抱え込むのでなくオープンにすることが大切です。シンポジウムの報告書を活用しながら卒業生の皆さんや、新たな民間のパートナーと関係を築きたいと思います

私自身は昔から何かものを作りたいと思っていて、東大に入学した当時は工学部志望でした。でも、教養学部で受けた授業の中で自然が作ってきたものは人工物よりスゴいと思い、生命科学の道を選んだんです。学生時代は教養教育の価値に気づかないものですが、歳を重ねると学んだことの意味がわかってきます。教養教育はその瞬間的なものではなく一生にわたるものです。環境問題も国際情勢もSDGsも、何か一つの専門分野を学ぶだけでは解決できないでしょう。分野を越えて考えることが必要です。私たち教養学部は、そのために試行錯誤を続けなければいけないと思っています

❶宮澤正憲 ❷筑紫一夫 ❸野城智也
❹髙橋史子 ❺山上揚平 ❻新井宗仁
「大学における社会連携による教育の可能性」と書かれたポスター
「登録数は150人でした。社会連携本部によるメルマガ告知で、新たな繋がりができた方々の参加も多くありました」(渡邊先生)
プログラム 2022年3月15日(火) ※Zoomウェビナー
開会挨拶 森山工(教養学部長)
KOMEX紹介 網野徹哉(KOMEX 機構長)
趣旨紹介 渡邊雄一郎
アクティブラーニング型授業の10年
❶宮澤正憲(社会連携部門特任教授)
教養教育における学外展開の可能性
❷筑紫一夫(株式会社 学校計画 代表取締役)
渋谷QWSと東京大学
❸野城智也 ( 生産技術研究所教授)
大学の学びと「社会」の接続
❹髙橋史子(社会連携部門特任講師)
教養教育としての表現・創作実習の試み
❺山上揚平(社会連携部門特任講師)
高校生と大学生のための金曜特別講座
❻新井宗仁(総合文化研究科教授)
質疑応答・パネルディスカッション
閉会挨拶 真船文隆(教養学部副学部長)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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いちょうの部屋 学内マスコット放談第10回

ユータスくん
今回のゲスト ユータスくん 教養学部教務課マスコットキャラクター
好物はパフェと町中華のラーメン。ギターやサックスやハンドベルなど楽器が得意。同郷のユータス子ちゃんが恋人か否かは不明。科目等履修生の顔も。

いちょう 濡羽色のボディがクールだね。ペンギン?

ユータスくん よく間違えられるけどカラスだよ。出身はからす座の銀河。2003年に修行の旅に出たら宇宙船が地球に墜落しちゃって。当時駒場にいた永田敬先生に助けられたのが縁でキャンパスに居ついたんだ。19年前か……(遠い目)。年齢は永遠の18歳だけどね。

 ずっと駒場の学務システム(UTask-Web)の仕事をやってきたんだよね。大変?

 前期課程の学生が毎日アクセスしてくれるようにと、「ユータスくんの窓」という欄をログイン画面に設けて日々の暮らしぶりをイラストで公開してきたんだ。2020年度はコロナ禍の影響でずっと居眠りしていたけど、昨年度からは週6日ペースでイラストを更新しているよ。アーカイブは未公開だから、その日の絵はその日にしか見られない仕組み。一期一会だね。

 ほぼ毎日更新してんの!? ユータスくんじゃなくて、絵を描いている担当職員さんが大変だね。

 途中で異動もあったけど、幸い後任も絵を描く人でね。いまはまた当初の担当が復帰して描いているよ。まあ、おかげで朝日新聞や東大新聞に取材されたりしたから、結構報われているんじゃないかな~。バレンタインデーに淋しくチョコを自作したこととか、居候宅のネコがあまり懐いていないこととか、情けなさを強調するようなことも描かれるのが玉に瑕だけどね。

 そういや前にカレンダーになっているのを見たよ。

 駒場友の会の支援のおかげで、以前は生協が販売してくれていたんだ。500~1000部ほど刷ってたかな。商品じゃないけど、アドミニ棟1階の窓口には服飾が専門の先生が作った巨大人形(メガユータスくん)がいるよ。フェルトでミニ人形が作れる型紙も公開中だから、情熱のある人が作って慈しんでくれているね。

 ほかの学内マスコットとの交流はあるの?

 カレンダーでは英語部会のmiyoちゃんと共演したよ。濱田総長期に活躍したもりかもは親戚のようなものだし、駒場祭のこまっけろと協働したこともある。

 実は無職とも聞くけど?

「はふ」と汗を流しながらラーメンを食すユータスくん

 学務システムの更新で求職中なのは事実。でも教務課マスコットとして今後も淡々と「本日のユータスくん」の絵(→)を更新していくよ。

「本日のユータスくん」のQRコード

 今度いちょうも登場させてよ~。

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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第18回
教養学部4年伊藤大貴

若者とつなぐ、未来へつなぐ

メンバーと中学生とのワークショップの様子。メンバーの1人が付箋を貼り付けた紙を広げている
中学生とのワークショップ

私たちは、「(特に都市在住の若者が)関係人口になるきっかけづくり・土壌づくり」をテーマに、山形県鶴岡市温海あつみ地域で活動しました。夏休みに予定していた現地活動が中止となり、10月ごろまではオンラインインタビューを中心に活動しました。しかし、11月に2日間の現地活動を実施することができ、温海の魅力・課題・施策アイデアを考える中学生ワークショップや、地域づくりプレイヤーへのインタビューを行うことができました。その後、施策作成に入りましたが、地域の人にとってのメリットや実現方法を具体的に議論することが難しく、チーム内での議論に行き詰まりを感じていました。

そこで2月の発表会では、具体的な施策案を発表するのではなく、用意した施策ネタをもとに、住民と学生の双方にとって面白く実現可能な施策を、住民の方々と一緒に考えることにしました。そこで出た施策のうち、「中高生との繋がり(勉強・進路の相談、その他交流)」と「あつみ温泉湯輿まつりでの神輿担ぎ」は、実装に向け動いています。

メンバーとあつみ温泉の関係者とのワークショップの様子。関係者の1人が身振りを交えて話をしている
あつみ温泉と若者の関わり方について議論

FSは、地域住民の方、行政の方、東大事務局の方などたくさんの大人に支えられて成り立っています。地域の多様な方々と会うことができ、リアルな地域課題が学べる地域への入口としてとても良いプログラムです。一方で、FSはあくまで入口にすぎません。FSをきっかけに地域に飛び込み、自分のやりたいことをやってみる学生が増えてほしいと思います。

私たち東大FS2021チームは、今後もそれぞれのやり方で温海と関わっていきます。私たちの目標は、常に温海と関わる大学生がいる状態をつくることです。温海に移住した二人の学生を中心に、これからも地域と大学生を繋げていきます。私たちのように、温海に愛着を感じ、やりたいことを見つけ、温海と深く関わる人を増やしたい。そして、その方たちに次のつなぎ手となってもらいたい。まだまだ道半ばですが、応援のほどよろしくお願いいたします。

※メンバーはほかに梅田綾人(文一2年)、髙丸はづき(文二2年)、髙石桜(教養4年)、山口有紗(公共政策専門職2年)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第192回

経済学部等財務・研究協力チーム
財務担当
宍戸靖彦

文系会計、あなどるべからず!

宍戸靖彦。クリップボードに挟んだ「済」と書かれた紙を持っている
言葉の解釈はお任せします

経済学部の財務担当では、外部資金受入を除き、会計に関すること、全般を所掌しております。

コロナ禍発生直後の、2020年4月に、初めての文系部局の会計に異動、と聞いた時は、少し楽できるかな、なんて甘く考えていました。

ここでは、会計の知識を、「広く深く」求められます。会計系を10年近く離れていた身としては、以前の知識のリバイスと新たな情報収集で天手古舞です。

本部の方々に助けていただきながら、業務に邁進しております。

私生活では、8歳と3歳の男の子がおります。

この4月に、下の子が幼稚園に入園しました。

休日には、コロナを気にしつつ、どうすれば怪獣達の体力を削れるか、思案と闘いの日々、を苦しみながら楽しんでおります。

部屋で鬼のお面をかぶった子供2人
我が家の怪獣たち
得意ワザ:
尊敬する先輩の教え、定時退勤
自分の性格:
おおざっぱ。会計でいいんですか?
次回執筆者のご指名:
高井次郎さん
次回執筆者との関係:
広報業務の秘密の共有者
次回執筆者の紹介:
非常事態回避のスペシャリスト
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ぶらり構内ショップの旅第3回

カポ・ペリカーノ@本郷キャンパスの巻

待望のランチ再開しました

本郷キャンパスの医学部教育研究棟13階にあるイタリアンレストラン、Capo Pellicano (カポ・ペリカーノ)。「キャプテン・ペリカン」という意味の店名は、ボリュームがある料理を食べてほしいという思いから、大食漢なペリカンを冠したそうです。高層階からの眺めも好評で、天気が良い日にはスカイツリーも見ることができます。

福田昭二郎さん
シェフの福田昭二郎さん

コロナ渦でしばらくはお弁当のみの営業でしたが、今年4月に店内でのランチを再開しました。「再開時期について、これまで多くのお問い合わせをいただき、心苦しく思っていました。また多くの方に来ていただきたいと思っています」と話すのは、2016年からシェフを務める福田昭二郎さんです。

現在のランチメニューは、900円のイタリアンランチボックスと要予約の1,500円と3,000円のコースの3種類。週替わりのランチプレートは、イタリア風オムレツや野菜のマリネなどの前菜に、肉料理とパスタがつきます。一階の鉄門カフェで発売しているお弁当と同じ内容ですが、レストランでは温かい出来立てのものを食べることができます。休業する前に提供していた、人気のパスタランチなどは現在休止していますが、一日でも早くコロナ禍前のような通常営業の状態に戻し、全てのメニューを復活させたいと考えているそうです。

イタリアの家庭料理を作るのは、福田さんを含む3人のベテランシェフ。それぞれイタリア料理界で10年以上のキャリアを積んできているので、「確かな味をお出しできると思います」と福田さんは話します。夜はグループでのコース料理と、フリードリンク付きのパーティープランを受け付けています(要予約)。「是非ご利用いただきたいです。ケータリングにも対応しているので、お気軽にご相談ください」

白いお皿にペンネを使ったパスタと数種類の前菜が乗っている
ランチ
12:00~14:30(L.O.14:30)
お問い合わせ:
03-5841-1527
前菜やパスタなどが盛られたランチプレート。店内では出来立てを食べることができます。
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インタープリターズ・バイブル第177回

理学系研究科 教授
科学技術インタープリター養成部門
塚谷裕一

絵本のつくりかた

サイエンスを伝えるツールとして、子ども向けの絵本というものもある。昨年から何回か監修役をひきうけてみて、改めて暗黙知の大事さに気がついた。

具体的にはこうである。

絵本の絵はイラストレーターさんが描くわけだが、絵描きさんご自身の発案による企画を別とすれば、題材は編集部が指定することになる。その際、編集部は、イラストを描くのに役立ちそうな写真の掲載されたウェブサイトをいくつか探してきて「これで描いていただくのでどうでしょう」と監修者に聞くわけだ。中にはラベル違い、被写体違い、あるいは典型的とは言えない姿の写真なども混じっているので、それを指摘するのが、監修者の役目である。

ここさえしっかりしていれば、あとは大船に乗った気分……と思っていたのだが、思いがけない落とし穴があった。植物の、根元である。

植物の写真はほとんどの場合、花や実を主眼に撮影されている。だから根元の写っていない写真が大半だ。それらをもとに描かれてきた下絵を見ると、あら不思議、幽霊のように足(根元)がない。いや、さすがに全く無いわけではないのだが、まるで切り花をいきなり地面に刺したかのような姿で描かれてくる。すなわち根元にはただの茎しか無い。いやこれは変でしょうと指摘して、根元の茎にも葉がついてないといけません、と言うと、今度は地面すれすれのところに、大きな大きな葉が描かれてくる。いやいや、種をまいて芽が出た最初は、いきなりそんな大きな葉は出てきませんよね、まず小さな葉が出て、だんだんに大きな葉に移っていくのでしょう?となだめすかして、なんとか自然な姿に仕立てていくこととあいなった。

この一連で思い出したことがある。とあるアニメの実写映画でキャベツ畑を演出するのに、スーパーで売られている玉のキャベツを地面に列にごろごろと置いて撮影し、大いに話題になったという事例である。

見えない部分はもちろん見えない。だが、想像力と暗黙知があれば間違いはしないはずなのだ。今回の場合は、植物には根元がある、植物が育つときはまず小さな葉から始まって次第に大きくなる、こういった暗黙知が必要だった。伝えることの難しさである。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第31回

渉外部門
シニア・ディレクター
高橋麻子

コロナ禍で広がった応援の輪

新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の影響で私たちの生活環境が変化しておよそ2年が経ちます。日本ではこれまで地震や洪水など大規模な自然災害が発生した時に、たくさんの人が寄付をする現象がありました。1995年の阪神淡路大震災のときには寄付した人の割合は41.6%、2011年の東日本大震災では54.1%、2016年の熊本地震では27.8%でした(『寄付白書2017』より)。当時被災地の様子を見聞きし、何かできることはないかと、義援金や被災地支援として寄付をした方も多いのではないでしょうか。

今回の新型コロナはどうだったのでしょう。『寄付白書2021』によれば、新型コロナのパンデミックが全世界に広がった2020年に日本で何らかの寄付をした個人は44.1%であり、新型コロナ関連への寄付に限ると全体の8.7%でした。大規模災害時と比べて寄付行動へのインパクトが小さくなった背景には、①災害時には被災者と支援者という明確な立場の違いがありましたが、新型コロナの場合は、感染リスクから「誰もが受難者(もしくはそうなりうる立場)」であったこと、②社会全体が経済的打撃をうけたこと、③長期の外出制限があったことなどが挙げられます。寄付先を見ると「医療」が47.0%と一番高く、次に「共助(福祉/子ども/孤立対策等)」が32.3%と、自らも影響を受ける分野への注目が高まりました。

寄付者像を見てみます。2020年の年齢層別の全体の寄付者率では、年齢層が上がると寄付者率も上がりますが、新型コロナ関連寄付だけを見ると若年層ほど寄付率が高い傾向が見られ、平均寄付金額は中年層の50代が一番高く、重症化リスクが比較的低くオンラインに対応できる若年層や高所得の中年層が寄付したことが分かりました(『寄付白書2021』)。

東京大学基金では2020年に新型コロナウイルス緊急対策基金で約2億3000万円、経済的支援を必要とする東大生を支える修学支援事業基金に約5500万円のご寄付をいただきました。寄付者の特徴として、これまで中心だった卒業生シニア層に加えて、新規で、オンライン経由で、かつ卒業生以外の若年層~中年層の寄付が爆発的に増えました。

東京大学が卒業生以外からも寄付を受け付けていることはあまり知られていませんでしたが、今回のコロナ禍で、東京大学が社会貢献活動をする団体として認識、注目され、寄付で応援できることが広く知られたことは大きなインパクトでした。若年層に関わらず全世代でオンライン対応必須となり、コロナ禍がファンドレイジングの変換点となったのは間違いありません。