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海と希望の学校 in 三陸第20回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。5年目を迎え、活動はさらに展開していきます。

海ごみと希望の学校 in 三陸 ~環境モニタリングを通じて地域を知る~

大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門准教授
福田秀樹
福田秀樹
砂浜で漂着物を採取する2人の高校生
吉里吉里海岸での漂着物の採取

今回は当センターが「NPO法人環境パートナシップいわて」と「いわて海洋コンソーシアム」とともに行ったWebイベント「森と海をつなぐプロジェクト企画」について紹介したいと思います。このイベントは三陸海岸に流れ着く海ごみをはじめ、岩手県沿岸部で起きている環境問題を紹介するために企画されましたが、このイベントのなかで当センターの早川淳助教と大槌高校・はま研究会(詳しくは第10回記事(no.1539 / 2020.10.26)をご覧ください)の海ごみ研究班が大槌町内で継続している海岸への漂着ごみの調査結果を高校生たちが紹介してくれました。

イベントは漂流物学会会長である大気海洋研究所の道田豊教授による「漂着ごみはどこから来てどこにいくのか」と題した講演で我が国をとりまく海流とごみを含む漂着物の特徴を概観するところからはじまり、早川助教による大槌湾での海ごみ調査の趣旨と取り組みの紹介のあと、海ごみ研究班の高校生2名による調査結果の報告がありました。つづく大槌町町議会議員で岩手県地球温暖化防止活動推進員の臼澤良一議員による「大槌町のごみ減量化やリサイクル・自然保護の取り組みについて」(代理講演 櫻井則彰推進員)と題した講演では、大槌町での海岸清掃イベントやごみ減量に向けた大槌町の施策の紹介があり、参加者は海ごみを取り巻く現状と、人々の取り組みについて情報交換をすることができました。

海ごみ研究班によるオンラインイベントでの講演は、緊張は見られたものの、今回で2回目ということもあり、練習の成果がいかんなく発揮された発表でした。道田教授からも「既に学会で発表できるレベル」とのコメントがありましたが、他の参加者からも学会発表かのような質問がつぎつぎに出され、2人とも自分の言葉で考えを述べていました。講演に対する質疑応答も終わり、ほっとしたようすの2人でしたが、調査から発表までの一連の活動に対する感想も聞いてみました。炎天下や身を切るような寒風が吹きすさぶなかの採取と、実験室での地道な分別といった作業の大変さだけでなく、「自分の地域のことが分かる」と述べていたことが印象的でした。今回は他地域との調査結果の比較が可能な調査方法を採用したこともあり、この町の海ごみがもつ特性を考えることができたほか、その特性に関連するこの地域の海洋学的特性について紹介することが多々ありました。それらが彼らのこころに残っていてくれていたようです。この地域連携プロジェクトが彼らへの教育支援だけでなく、プロジェクトの特色でもあるローカルアイデンティティの再構築にも貢献していると感じられた出来事でした。今後も様々な工夫を凝らして、我々の研究成果を地域振興に役立てていきたいと思います。

実験室で漂着物を分別している3人の高校生
実験室での漂着物の分別
ノート型のパソコンの前で発表を行う2人の高校生
Webイベントでの成果発表

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第29回

駒場図書館 情報管理チーム専門員三浦圭子

「一高旧蔵資料」サイトの公開

2022年2月9日、「第一高等学校旧蔵資料」のサイトをオープンし、東京大学学術資産等アーカイブズポータルで利用できるようになりました。

第一高等学校旧蔵資料(一高資料)は、現在、主に駒場図書館・駒場博物館に所蔵されている、旧制第一高等学校(一高)旧蔵の文書・図書・掛図・機器・写真などからなる資料群と、一高の関係者(教官・卒業生など)によって作成・収集・寄贈された資料群から構成されています。

今回公開したのは、駒場図書館所蔵の「朝庭御鷹野之影ちょうていおたかののかげ」、「本朝世紀」、「教育用掛図」、駒場博物館所蔵の「スタニスラス・プチ『産業実務家』」の4コレクションです。

「朝庭御鷹野之影」の一部分
朝庭御鷹野之影(部分)

実は、一高資料のデジタル画像は2008年~ 2009年に最初のサイトが情報基盤センターのサーバに構築され、「教育用掛図」と「スタニスラス・プチ『産業実務家』」の2コレクションが公開されていました。デジタル技術の向上、公開・利用ポリシーなどデジタル画像の取扱いの変化に対応するため、「スタニスラス・プチ『産業実務家』」は2020年に学術資産等アーカイブズ共用サーバに移して一足先にリニューアルし、IIIF を用いた画像公開を開始していました。

「スタニスラス・プチ『産業実務家』」の「PL.89 MÉCANIQUE No.64」
プチ:PL.89 MÉCANIQUE No.64

今回、「教育用掛図」も同様にリニューアル公開するとともに、駒場図書館所蔵の「朝庭御鷹野之影」、「本朝世紀」を新規にデジタル化公開するのを契機に「スタニスラス・プチ『産業実務家』」も合わせて「第一高等学校旧蔵資料」サイトに統合・公開することになりました。一高資料全体から見ると、ほんの4コレクションだけの公開ですが、今後さらにデジタル化を進め、コレクション内容を充実させていければと思います。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第38回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

スケッチからたどる学びの過程

今回ご紹介するのは、東京帝国大学で農学を学び、卒業後は農業教育に携わった谷口義治という人物の資料です。

「Antenae」と書かれたバッタの触角のスケッチ
バッタの触角のスケッチ

当館所蔵の谷口の資料群(F0116)には、農学部在学時のノート類を中心に、旧制第五高等学校に通っていた時代の資料も含まれており、その中に実験に使ったバッタと蛙を描いたスケッチ(F0116/S1/094)があります。生物スケッチは対象の生物の身体構造を理解する為にもよく観察し丁寧に正確に描く事が求められますが、画像のバッタの触角の節一つ一つが描かれているのや翅脈の細かな描写からは谷口も正確に丁寧に描く事に重点を置いてスケッチをしていた事が窺えないでしょうか。

「後翅」「前翅」と書かれたバッタの前翅と後翅のスケッチ
バッタの前翅と後翅のスケッチ

谷口の旧制第五高等学校時代の資料は他にも英作文や動物学、数学のノート類が残っており、特に動物学は農学と関わりが深い分野です。こうした高等学校での学びを示す資料からは、谷口が大学で農学部に進学するまでの一過程が窺えます。加えて、高等学校時代の若い頃のノート類を捨てずに持っていた点からは、谷口が高等学校から大学に至るまでの学生時代の学び全般を重要なものと見ていたのかもしれないことがわかります。今回ご紹介の資料は、谷口義治という人物が一学生から農学教育者となるまでに経た学びの過程を垣間見る資料とも言えるでしょう。

今回ご紹介したスケッチのような絵図資料は「見る」だけでも楽しむことが出来ますが、このように資料の持つ特徴や作成される過程に目を向けてみたり、「何故残っているのか」という事を考えてみると、より深く楽しめます。文書館で資料を閲覧される際には是非様々な視点からお楽しみください。

(学術専門職員・井上いぶき)

東京大学文書館

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第193回

本部広報課特任専門員高井次郎

青赤だった心が気づけば淡青色に

高井次郎
広報課がある安田講堂1階の通用口前にて

『淡青』『学内広報』の編集を2013年から担当しています。16年に及ぶフリーライター生活の終盤、ギャラ不払い裁判等で疲弊していた頃に東大に拾ってもらいました。冷淡、傲慢、尊大といった世にまだ残る印象を廃してサポーターを一人でも増やそうと思いながら働いています。取材時あどけなかった学生さんが後に大人の顔になっているのを見たり、駒場祭で似顔絵を描いてくれた1年生が3年後の五月祭でお洒落な店を出しているのに遭遇したり、見本誌送付状に描いた絵に反応してくれる人がいたりすると、やっててよかったなとしみじみしますが、寄る年波には勝てません。

趣味は昼休みのサークル活動に誘ってもらったのを機に始めたウクレレ。だけど譜面がないと何もできません。サッカーを観るのもやるのも好きでしたが、農学部グラウンドで自分のシュートの跳ね返りが直撃して網膜剥離を患って以来、怖くてやらなくなりました。その手術をしてもらったのも東大病院。ふと気づけば人生の大半がライトブルーに染まっていましたとさ。

「蹴都東京」と書かれた紙を背景にしてウクレレを弾きながら応援する高井氏。下部に「Performer」「#みんなでユルネバ」「高井ジロル」のキャプションがある
青赤Jリーグクラブの応援とウクレレの掛け算
得意ワザ:
長すぎる原稿を圧縮すること
自分の性格:
陰鬱
次回執筆者のご指名:
紫村次宏さん
次回執筆者との関係:
ウクレレの師匠
次回執筆者の紹介:
何でも弾けて歌えて踊れる全能者
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ぶらり構内ショップの旅第4回

U-gohan@本郷キャンパスの巻

北海道の無農薬のコメと野菜

2020年2月、本郷キャンパスの工学部11号館2階にオープンしたお店、「北海道の米と汁 U-gohan 東大正門」。隈研吾先生が設計したHASEKO-KUMA HALLのラウンジの一角で、北海道で育てたお米と野菜を使ったお弁当を販売しています。運営するのは、北海道当別町の社会福祉法人「ゆうゆう」。店名の「U」は法人名の「ゆう」と英語の「you」を掛けているそうで、温かいご飯と人のつながりを紡いでいけるように、との思いを込めています。

髙島さくらさん
店長の髙島さくらさん

「徐々にお客さんが増え、常連さんと会話することも多くなりました。これまであまり触れ合う機会がなかった、学生さんと会話できるのも新鮮です」と店長の髙島さくらさん。とはいえ、まだキャンパスでの知名度は低いと感じているそうで、ぜひ一度足を運んでみてほしいと言います。

コロナ禍による2回の休業を経て、現在はお昼にお弁当4~5種類とスープを販売しています。一番人気はボリュームがある北海道のからあげ「ザンギ」を使ったお弁当(900円)。当別町で作っているコロッケを使ったお弁当(850円)も根強い人気があるとか。女性に好評なのは、ヘルシーな豚しゃぶ弁当(950円)で、豚しゃぶの上にゆで野菜と北海道産玉ねぎを使ったソースがたっぷりかかっています。お弁当に使われているお米と、かぼちゃやじゃがいもなどの野菜は、当別町の農園で農薬を使わずに育てています。東京ドームの約2倍の広さがある田んぼで栽培している「ななつぼし」は、甘みがあり、冷めてもおいしくお弁当にピッタリだそうです。

ゆうゆう本社で就労支援を担当する山下あゆみさんは、美味しいお弁当を提供するだけでなく、お客さんとのコミュニケーションも大事にしていきたいと話します。「お店でスタッフとちょっと話すことで、ホッとしたり、居心地の良さを感じてもらえると嬉しいなと思います」

お弁当の中に、ザンギ(からあげ)、玉ねぎのソテー、切り干し大根の煮物、漬物などが入っている
営業時間
11:30~14:30
お問い合わせ:
03-5615-9458
一番人気のザンギ弁当
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インタープリターズ・バイブル第178回

情報学環 教授
科学技術インタープリター養成部門
大島まり

データ化できない評価指標

専門のバイオメカニクスの研究の傍ら、研究成果を初等中等教育に活かそうと科学技術・STEAM教育に長年にわたり取り組んでいる。そのためか、最近、大学教員・研究者向けに探究活動について話す機会が増えている。今年度から、新学習指導要領の高等学校課程への本格導入に伴い、「総合的な探究の時間」や「理数探究・基礎」の授業がはじまり、研究者が高校での探究学習に関わる機会が増えているからだろう。

先日も、某大学から私が所属している生産技術研究所の次世代育成オフィスの取り組みについての講演依頼を受けた。オンラインでの発表後、質疑応答の時間となった。真っ先に受けた質問は、「このような活動は、教員評価にどのようなメリットがあるのでしょうか」。同様な質問はほば毎回、受ける。教員の科学技術コミュニケーション能力の向上に役立つ、等々、アンケート結果に基づいて答えた。しかし、参加者があまり納得していないことが画面越しからも感じる。とほほ。。。もっと客観データで有効性を示すことができたらと、アンケート調査の方法を工夫したりと試行錯誤しているが、明確な回答がなかなかできない。

そうしたら、先日、同じような悩みを抱えている人に出会った。弁護士のカタリーナである。厳密に言えば、物理的に出会ったのではなく、「スーツ」というドラマの中である。ちなみに、「スーツ」は英国王室メーガン妃の出世作である。日本版スーツも制作された。

カタリーナは、所属しているAssociateのリストラをかってでる。パティという業績評価のプログラムを使って10名を選ぶ。しかし、そのリストの中には上司が高く評価しているブライアンの名前が。上司は評価指標を変えてでも、彼を残すように命令する。優秀で良い人なのだが。指標を色々と変えて評価し直すが、彼の良さを示すことができない。ところが、あることから彼が優秀なTOP5全員のAssociateをサポートしていることがわかり、勤務時間などの客観(Objective)データだけでなく、形のない(Intangible)な要素も考慮する必要があることに気づく。

研究者が初等中等教育に関わることの有効性や意義の高さなどは理解できるのだが、というのが大方の意見である。しかし、より多くの研究者がSTEAM教育に参画するためには、概念的な感覚だけではなく、評価にプラスになることを具体的に示すことは大事である。番組の中では、カタリーナがIntangibleな要素をどのような形で評価に入れたのかは語られていない。私達の試行錯誤は続く。

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第32回

渉外部門
シニア・ディレクター
高橋麻子

周年のチャンスを生かせ!

大学にとって設立〇周年は特別な年です。多くの大学では記念式典やシンポジウム、施設建設等の周年事業が企画され、その運営資金として卒業生や関連団体と連携した大規模なファンドレイジングが展開されます。

米国ハーバード大学は2012年に創立375周年を迎え、2013年から4年10か月の寄付キャンペーンをおこない、目標金額65億ドルを大きく上回る96億ドルを集めました。カリフォルニア大学LA校(UCLA) では、2019年の100周年に向けて未来への永続的な貢献ができるエンダウメント(大学基金)への共感を集めて7年7か月で寄付55億ドルを達成しました。

米国大学では数年~10数年に渡るキャンペーンが当たり前ですが、ファンドレイジングの成功の裏には、専属部署を強化するほかに、学長や学部長など経営層がリーダーシップを発揮する、学内外のボランティアが多数参加する、アルムナイコミュニティが活性化している、魅力的な謝意・特典がある、学生・教職員・卒業生の大学全体でお祭りムードを盛り上げるなど、いくつかの共通点があります。

日本でも早稲田大学が2032年の150周年に向けた20年数値目標(Waseda Vison 150)を掲げ、校友会との連携や広報活動を強化し、寄付目標金額100億円のうち2020年には50%を達成しています。東京大学では140周年事業として中央食堂リニューアルや山上会館リノベーションに多数のご寄付をいただきました。

周年をきっかけに、あらためて卒業生や地域住民に大学のビジョンや取組みを知ってもらい、研究活動や学生への支援を通じて大学との繋がりや対話が生まれていきます。寄付金額に注目しがちですが、大学を取り巻く様々なステークホルダーとの絆が深まることこそが周年キャンペーンの真の成果なのだと思います。

東京大学の大きな節目となる150周年まであと4年9か月。チャレンジが始まります!

大学の周年キャンペーン事例

  ハーバード UCLA UCバークレー 早稲田
期間 2013.9~
2018.7
2014.5~
2019.12
2020.2~
2023.12
2011.12~
2023
年月 4年9か月 7年7か月 9年9か月 21年
寄付金
(達成率)
96億ドル
(147%)
55億ドル
(130%)
54億ドル
(90%)
2022.1時点
49.8億円
(50%)
2020時点

東京大学基金事務局(本部渉外課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp