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海と希望の学校 in 三陸第21回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。5年目を迎え、活動はさらに展開していきます。

地域に根ざした海を学べる空間に

大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門特任研究員
吉村健司
吉村健司
「開館中」のビニール看板の奥にある「おおつち海の勉強室」の水色の建物の外観
おおつち海の勉強室

2021年4月18日に「おおつち海の勉強室」(以下、勉強室)が開室して1年が経ちました(No. 1547参照)。これまで、岩手県内の学校を中心として多くの方に利用していただいてきました。コロナ禍ということもあり、一般の方の利用は原則、水曜日(予約制)となっていたため、必ずしもフラッと立ち寄れる場所とはなっていませんでした。

週末の蓬萊島(ひょうたん島)には地元の子供や観光客がよく訪れます。そうした方々にも、我々の成果を見てもらいたい、海の面白さを伝えたいという思いから、5月からは平日に加え、週末にも開室を始めました(予約制をなくし、5月中は土曜日と日曜日、6月からは日曜日の開室)。

週末開室後、大槌町からだけでなく、盛岡市などの内陸からも多くの方に足を運んでいただきました。これまでに123名の方にご利用いただきました(5月7日~7月24日集計分)。ご来室いただいた4割ほどの方が蓬萊島観光に来た際に、立ち寄っていただいたようです。ご家族でお越しいただくことも多く、子供たちが楽しむ光景も多く見受けられました。また、週末開室としたことで、地域のイベントの一つに組み込んでいただくこともあり、これまで来られなかった方々にも展示を見学いただくことができました。

勉強室では夏休みの週末に、昨年に引き続き夏休み企画として「海のおはなし会」を開催しました。週末開室の際にとった来室者へのアンケートで希望のあった話題として、第1回目(2022年7月31日)は峰岸有紀准教授によるサケについてのお話でした。サケの回遊についてクイズ感覚で考えてもらったり、鱗を顕微鏡で覗いて年齢を査定したり、サケについてしっかり学べる1時間でした。参加者の方からは昔の大槌川でのサケの様子なども聞かせていただき、非常に充実した会となりました。

勉強室にお越しいただいた方々からは、今後の運営の参考になるご指摘をいただきました。来室された多くの方々からは「また来たい」、「イベントがあれば来たい」という声を寄せていただいております。今回いただいた意見を反映しつつ、今後は大槌の海の魅力を発信するだけでなく、誰もが地元の海や三陸の海への理解を深められる空間、そして地域に根ざした場所となれるように努めて参ります。

第2回(8月7日)は「エビ・カニの仲間と体のしくみ」、第3回(8月21日)は「実は知らない!?大槌湾の生物多様性」と題して開催。

「サケの旅」と書かれたオホーツク周辺の地図が表示されたスライドの説明をする職員と見学者
海のおはなし会
「サケの旅」と書かれたオホーツク周辺の地図が載っている紙に参加者がサケの形の紙を置いている様子
海のおはなし会サケはどこを回遊してるかな?
ヤドカリが入った水槽の展示を観察する参加者の親子
親子で展示を楽しむ

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式Twitter(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第30回

史料編纂所 准教授藤原重雄

一高本『本朝世紀』

一高本『本朝世紀』の最終冊(四七)本文冒頭の書面
一高本『本朝世紀』の最終冊(四七)本文冒頭

駒場図書館には、旧制第一高等学校(一高)で所蔵した図書類が「一高文庫」として保管され、東大OPACから詳細検索>文庫区分「一高文庫」にて書目が通覧できます。割合からは一般的な出版物が大半を占めますが、現在では和漢古書として扱われる書籍も含まれています。それら古典籍は、近代の洋装・鉛活字本が出版されるまで、また以降も現用図書として参照される書目もあったようですが、次第に現役を退いてゆきます。2005年に大学院総合文化研究科・教養学部 駒場博物館にて、故・義江彰夫先生の企画で「王朝貴族の装束展」が行われ、史料編纂所の画像史料解析センターを中心に協力しましたが、その頃は博物館と図書館とで一高関係資料の保管体制を整理していました。その折にも気になっていたのが、一高本『本朝世紀』(江戸時代写)です。あいにく写本の成立や伝来については不詳です。

日本史学の研究、とくに古代・中世史では、主要な史書を収めた叢書『新訂増補 国史大系』は重要です。2022年3月にはJapanKnowledgeで電子版のサービスが開始となり、使用頻度の高い史料編纂所で購入し、全学でも利用可能です。『本朝世紀』はその一書目で、平安時代史研究の基礎文献です。『新訂増補 国史大系』では、諸写本・版本を比較して基軸となる底本を定め、他本により文字を改めたり、読解に資する異同を注記しています。『本朝世紀』の底本は伏見宮家本(鎌倉時代写)ですが、残存部分が限られ、一高本が全体の半分以上の底本となっています。史料編纂所から画像をWeb公開している宮内庁書陵部所蔵の伏見宮家本に加え、2022年2月に一高本『本朝世紀』の画像公開が開始され、底本の字句をインターネット環境で確認できるようになりました。『新訂増補 国史大系』本の刊本としての質は高いものの、写本で読むことによる喚起力は、研究を深めるのに欠かせません。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第39回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

小泉八雲のすがた

夏になるとテレビ番組で怪談話などが放送されるのを目にします。私も決まって夏になると愛読書である『耳なし芳一のはなし』という本を手に取ってしまいます。「耳なし芳一」や「雪おんな」などの怪談話が集められた本ですが、これらの作者であるラフカディオ・ハーンLafcadio Hern(1850~1904)こと小泉八雲がかつて東大で教師をしていたことはご存じですか?

熊本第五高等中学校、神戸クロニクル社の勤務の後、当時の文科大学長外山正一に招聘され、1896(明治29)年~1903(明治36)年まで文科大学講師として英語と英文学を担当しました。八雲は着任前に日本に帰化していましたが、『文部省往復 明治二十九年』(S0001/Mo110)に綴じてある職員調(明治29年9月末現在、文部大臣報告)によると、年俸4,800円で外国人教師と同じ待遇だったことがわかります。ちなみに総長は3,500円、文科大学学長は1,600円、文科大学にいた外国人4名の教師は1週間の講義時間もほぼ同じでエミール・エックが1,500円、カール・フローレンツが3,600円、ルートヴィヒ・リースとラファエル・フォン・ケーベルは4,440円、前任のアメリカ人教師オーガスタス・ウッドは4,200円であり、八雲が高く評価されていたことが見て取れます。

1897(明治30)年文科大学卒業写真

さて、今回の蔵出し資料は八雲の姿が写る、1897(明治30)年文科大学卒業記念写真です(F0025/S05/0235)。図書館にて卒業証書授与式、三四郎池の端では集合写真が撮影されました。八雲がどこに写っているか分かりますか? 写真中央には当時の総長である濱尾新、その左隣には八雲を呼び寄せた外山正一、ケーベル、フローレンツが並んでいます。八雲はというと、前列右から5番目、リースとエックの間にフロックコートの正装した姿で写っています。

卒業写真に写る小泉八雲
中央が八雲

子どもの頃から愛読書の扉絵で見続けた横顔の写真。その八雲が確かに東大にいたのだと感じられた、当館で唯一の小泉八雲が確認できる写真をご紹介しました。

(主事員 村上こずえ)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第195回

文学部学生支援チーム
(学部担当)
川合ゆり華

蟬しぐれのキャンパスで

川合ゆり華
法文2号館のアーケード前で

正門から安田講堂に延びる銀杏並木通りと三四郎坂の緑の間、アーケードが象徴的な法文2号館の1階にある文学部事務室が、今の職場です。

私のオシゴトは、文学部学生の履修・成績に関することや、時間割管理を中心とした教務全般。表からは見えない部分も意外と多いのですが、大きな柱の一つである授業をはじめ、どの業務も学生生活に密接に関わっていると思うと、やりがいと責任を感じます。

現職に就いたのは、コロナ禍の始まりとともに慌ただしく新学期を迎えた2020年4月。気がつけばあっという間に2年半が経とうとしていますが、未だに至らぬ点も多く、自分の頭の固さや力不足にもどかしさを感じることばかり。フォローしてくださる周りの方々や先生方の優しさに感謝しつつ、柔軟に動けるよう研鑽を積まねばと思う日々です。

立てかけたウクレレと寝かせたバイオリン
趣味の楽器たち(ウクレレ&バイオリン)

そんなことを考えながらふとキーボードを打つ手を止めると、三四郎池側の窓から止んでいた蟬の大合唱が。このコラムが掲載される頃には、多少暑さも和らいでいるでしょうか……。

得意ワザ:
火事場の馬鹿力(よく言えば)
自分の性格:
のんびり、おおざっぱ、負けず嫌い
次回執筆者のご指名:
井上美里さん
次回執筆者との関係:
バンドのバイオリンパートの仲間
次回執筆者の紹介:
行動力、華やかな音色、落ち着く歌声
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ぶらり構内ショップの旅第6回

UT cafe BERTHOLLET Rouge@本郷の巻

こだわりの冷製スープ

福武ホールの1階にあるフレンチカフェ、UT cafe BERTHOLLET Rouge。店名の「ベルトレ」はオーナーシェフの柳舘功さんが、フランスで修行していた時に住んでいた通りの名前だそうです。開放感のあるガラス張りの店内、そしてテラスでは、サンドイッチや肉料理、そしてパスタなどを食べることができます。

ランチメニューは、月、火、木がパスタランチ(ドリンク付き1,100円)。水、金は肉がメインのワンプレートランチで、ライス、サラダ、そしてミニデザートがセットになっています(ドリンク付き1,200円)。他にも、ラザニアやスープなど曜日に関係なく食べられるメニューもあります。

渡辺圭子さん
責任者の渡辺圭子さん

2008年の開店当初は、パスタランチを求めて来る人が多かったそうですが、徐々に肉料理の認知度も上がってきていて「力を入れてきたので嬉しいです」と責任者の渡辺圭子さんは話します。

特筆すべきは、月1回くらいの頻度でメニューに登場する鴨のコンフィ。本店のフレンチレストランReims Yanagidateで作っている一品で、これを目当てにくるお客さんも多いとか。渡辺さんの一押しは、店内で仕込んでいる野菜たっぷりのスープ。野菜は某三ツ星レストランと同じところから仕入れていて、香りが豊かだそうです。また、少しでも安く仕入れるために、曲がっていたり、小さかったりといった野菜も積極的に取り入れています。フードロス削減にもつながると渡辺さんは考えています。暑い夏の間は、ズッキーニの冷製スープをぜひ試してほしいそうです。他にも牛乳の配合にこだわったソフトクリームや、本店で作ったローストビーフを使ったサンドイッチ、そしてキッシュなどがあります。美味しいものを食べてもらいたいとスタッフ全員で考えてきたこれらの料理は、お店のインスタグラムでも紹介しているので、チェックしてみてください。

ズッキーニの冷製スープ。中央にメレンゲ上のものとズッキーニのスライスが乗っている
営業時間
9:00-17:00(LO 16:30)
ランチは11:30-14:00
じわじわと認知度が高まってきたズッキーニの冷製スープ。
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インタープリターズ・バイブル第180回

総合文化研究科 准教授
科学技術インタープリター養成部門
豊田太郎

Journalist-in-Residenceはあそび?

Journalist-in-Residence(JIR)とは、新聞雑誌等のジャーナリストが大学や研究機関の番記者となって頻繁に研究室に出入りし、時には研究の議論にも参加して、マスメディアで発信する活動である。日本ではインターネットの普及により廃れてしまった取材のやり方の一つだそうだ。今回、私が参加している研究プロジェクトでJIRが始まったことから、私自身の体験もあわせて、JIRを紹介したい。

数年前、私はある出版社より新書を執筆する機会をいただいて筆を進めたが、次第に書けなくなり遂に辞退した。なぜ書けなくなったのか、当時は自覚できなかった。しかし後日、「科学系の新書は科学ファンが読み手で、科学ネタで“あそびたい”という心情に寄せればウケる」という科学コミュニケーション専門家の話を聞いて、合点がいった。執筆時の私は「研究成果一つ一つの努力や重みを“あそび”のネタにはできない」と感じ、研究を相対的に捉える心の“あそび”が欠けていたのである。私自身も講義では、受講生への伝えやすさを優先して他の研究者の研究成果を“あそんで”いることにハッとし、しばし悩んだ。

この経験の後、SF作家の藤崎慎吾氏による連載ルポで取材を受ける機会があった。そのルポでは、私の研究室で行われている研究内容が、親しみやすく、かつ本質をとらえた表現でまとめられていた。「餅は餅屋だ」と感銘を受け、悩み解消の糸口になると直感した。

2020年に始まった上記のプロジェクトで、私は先端の基礎研究を推進するだけでなく、その成果を如何に社会イノベーションに接続できるかという課題に、科学技術社会論を専門とする田中幹人教授(早稲田大学)と協働して挑戦している。その一環で始まったのがJIRである。しかし、JIRに参加した3名がメディア発信する思惑は、科学者側のそれと違っていた。そこで、メディア発信のための共通ルールから対話し始め、共同して学術イベントを数回ほど開催する経験を通じて、科学者側は立場の違いを、ジャーナリスト側は各研究課題の本質を、各々理解することに努めている。傍観ではなく併走して、共に“あそべる”関係を構築し、そのアウトプットが産業界・社会で受容され、そこからまたインプットが得られる好循環のロールモデルを目指している。

日本学術振興会学術変革領域研究(A)「分子サイバネティクス」HP(https://molcyber.org/

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第34回

渉外部門
シニア・ディレクター
堺 飛鳥

米国の寄付集め&アラムナイ事情

今年5月にファンドレイジング(寄付集め)における世界の最先端である米国の各大学を訪問し、最新事情の調査をしてきました。現在、私立公立問わず、全米トップ校では、ファンドレイザーの数は1校あたり数百名で、年間数百億円を集める規模となっています。

この規模の違いが生まれる理由の一つに、米国では、学長・理事・学部長・研究科長などの大学の幹部が、ファンドレイジングを大学運営の最重要課題と位置づけ、深くコミットメントしている点が挙げられます。大学幹部は仕事や時間配分において、少なくとも半分以上、人によっては8~9割をファンドレイジング活動に充てています。ファンドレイザーだけに任せておけばよいものではなく、大学運営の中心として取り組むべき課題なのです。

建物名は大口寄付を集める有効手段となっています。かつては研究者の名前を冠することが多かった建物や研究所名は、今では支援者の名前がつけられていることがほとんどです。例えば、NYU(ニューヨーク大学)はLangone氏の寄付への謝意としてメディカルセンター名をNYU Langone Healthと変更しました。さらに建物の中の各部屋やホールは、また違う寄付者の名前が付けられています。

ファンドレイジングの方法も変化をみせています。支援者への個別訪問やガラ・ディナーなどの昔からの方法に加え、近年盛り上がりを見せるのは「Giving Day」というオンラインを中心とした寄付募集イベントです。在校生、卒業生、教職員などを巻き込んで、Giving Dayの24時間に集中して寄付を集めるのです。例えばコロンビア大学では、スポーツイベントや、大口寄付者からのマッチングギフト獲得を競っての学部対抗コンテストなど、様々な企画が行われ、SNSでリアルタイムの広報展開がされて盛り上がります。

ハーバード大学にあるTATAホール
TATAの寄付で建てられた校舎(ハーバード大学)

卒業生からの寄付がますます重要となっている点も見逃せません。卒業生マネジメントとファンドレイジングは切っても切り離せない関係として、全ての大学で一体として運営されています。部活やクラス、地域などの同窓会ごとにチャリティーイベントを行い、大学への貢献を通じて学生との交流やOBの結束を固めています。

東京大学にも活用できるアイディアにたくさん触れることができたので、今後の寄付募集活動の充実へと繋げていきたいですね。

東京大学基金事務局(本部渉外課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp