
創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
入力と分析と出力のループがALの基本
/東大のアクティブラーニング(AL)のこの10年

――アクティブラーニング(AL)部門は結構前から活動しているんですよね。
中村「ALを活用した教養教育を教育工学の視点から支援することを目的として設置されたのが本部門です。ICT支援型教室「KALS」(Komaba Active Learning Studio)における授業の支援、ALに関する情報発信や教員向けワークショップ開催が主な業務です」
中澤「2020年以降の活動を紹介します。情報発信については、2013年に始めたニュースレター❶を2021年から年4回発行に拡充しました。部門の活動報告やALの解説記事などを掲載しています。2021年3月には、東大のALの10年間を振り返り、今後を展望するための内容をまとめた書籍❷を刊行しました」
対象が違う3つのワークショップ
中村「取り組んでいるワークショップは3種類です。一つめは学内教員対象のワークショップ。昨年度までは「オンラインでこそアクティブラーニング」としてオンライン授業を取り上げました。今年度は原則対面授業になったので「駒場アクティブラーニングワークショップ」に題名を変更しました。オンラインでも対面でも、重要なのは各々の授業の目的を果たすこと。もちろん手法も重要ですが、結局はそこに帰着することを意識して伝えています」
――そのための工夫例といえば?
中澤「授業デザイン確認シート❺を作成・公開し、ワークショップでも活用しています。授業設計の理論研究に基づき、学習目標や目標到達の確認方法などを整理するもの。AL型授業の基本はInput - Transform - Outputのサイクルです。まず講義や読解やビデオを通して知識を習得し、得た情報をもとに分析・評価し、そしてその結果を発表する。このサイクルを繰り返すのがポイントとなります」
玉虫色の合意形成こそベスト?
中村「二つめの模擬国連ワークショップ❸は、学内外の教員が対象で、参加者は大学教員と高校教員が半々です。学生が各国代表となって議論するロールプレイを授業にどう導入するかがテーマ。たとえば模擬裁判など、模擬国連以外のロールプレイを実践している人も呼んで講師をお願いしています。模擬国連と模擬裁判の違いは白黒をつけるかどうか。後者と違い、前者では皆が傷つかない玉虫色の合意形成を目指します。国家同士で敵対した状態が続くのでは誰も得をしませんからね」
中澤「三つめは高校生が対象の「東大生がつくるSDGsの授業」❹です。AL部門で開講している全学自由研究ゼミナール「SDGsを学べる授業をつくろう」で優秀だった学生にワークショップで高校生向け授業を担当してもらうものです。今回は目標1「貧困をなくそう」に関する授業に2年生が挑戦しました」
――あらためて部門が考えるALとは?
中村「一方的に講義を聞くだけとか、グループで議論しても中身がない授業ではALとは言えません。受講者の頭の中の状態が大事だと思います。盛り上がっているようでも内容のないことを話しているだけなら、一人で本を熟読して刺激を受けるほうがマシだと思います」
中澤「授業の中で脳が活発に働き、その結果が外に出てくることが重要です。それをより効果的に行うためにこそALの手法を用いるわけです。来年度は初年次教育部門や自然科学教育高度化部門と統合される予定ですが、AL部門で培った知見を今後も活かしたいと思います」




