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第55回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

入力と分析と出力のループがALの基本

/東大のアクティブラーニング(AL)のこの10年

アクティブラーニング部門
特任准教授 中澤明子
特任助教 中村長史
中澤明子,中村長史

――アクティブラーニング(AL)部門は結構前から活動しているんですよね。

中村ALを活用した教養教育を教育工学の視点から支援することを目的として設置されたのが本部門です。ICT支援型教室「KALS」(Komaba Active Learning Studio)における授業の支援、ALに関する情報発信や教員向けワークショップ開催が主な業務です

中澤2020年以降の活動を紹介します。情報発信については、2013年に始めたニュースレターを2021年から年4回発行に拡充しました。部門の活動報告やALの解説記事などを掲載しています。2021年3月には、東大のALの10年間を振り返り、今後を展望するための内容をまとめた書籍を刊行しました

対象が違う3つのワークショップ

中村取り組んでいるワークショップは3種類です。一つめは学内教員対象のワークショップ。昨年度までは「オンラインでこそアクティブラーニング」としてオンライン授業を取り上げました。今年度は原則対面授業になったので「駒場アクティブラーニングワークショップ」に題名を変更しました。オンラインでも対面でも、重要なのは各々の授業の目的を果たすこと。もちろん手法も重要ですが、結局はそこに帰着することを意識して伝えています

――そのための工夫例といえば?

中澤授業デザイン確認シートを作成・公開し、ワークショップでも活用しています。授業設計の理論研究に基づき、学習目標や目標到達の確認方法などを整理するもの。AL型授業の基本はInput - Transform - Outputのサイクルです。まず講義や読解やビデオを通して知識を習得し、得た情報をもとに分析・評価し、そしてその結果を発表する。このサイクルを繰り返すのがポイントとなります

玉虫色の合意形成こそベスト?

中村二つめの模擬国連ワークショップは、学内外の教員が対象で、参加者は大学教員と高校教員が半々です。学生が各国代表となって議論するロールプレイを授業にどう導入するかがテーマ。たとえば模擬裁判など、模擬国連以外のロールプレイを実践している人も呼んで講師をお願いしています。模擬国連と模擬裁判の違いは白黒をつけるかどうか。後者と違い、前者では皆が傷つかない玉虫色の合意形成を目指します。国家同士で敵対した状態が続くのでは誰も得をしませんからね

中澤三つめは高校生が対象の「東大生がつくるSDGsの授業」です。AL部門で開講している全学自由研究ゼミナール「SDGsを学べる授業をつくろう」で優秀だった学生にワークショップで高校生向け授業を担当してもらうものです。今回は目標1「貧困をなくそう」に関する授業に2年生が挑戦しました

――あらためて部門が考えるALとは?

中村一方的に講義を聞くだけとか、グループで議論しても中身がない授業ではALとは言えません。受講者の頭の中の状態が大事だと思います。盛り上がっているようでも内容のないことを話しているだけなら、一人で本を熟読して刺激を受けるほうがマシだと思います

中澤授業の中で脳が活発に働き、その結果が外に出てくることが重要です。それをより効果的に行うためにこそALの手法を用いるわけです。来年度は初年次教育部門や自然科学教育高度化部門と統合される予定ですが、AL部門で培った知見を今後も活かしたいと思います

❶「AL NEWSLETTER」と書かれたニュースレターの表紙
ニュースレターの最新号表紙
❷「東京大学のアクティブラーニング」と書かれた本の表紙
『東京大学のアクティブラーニング』(東大出版会刊)
❸「模擬国連ワークショップ」と書かれたチラシ
模擬国連ワークショップのチラシ
❹「ワークショップ 第3回 東大生がつくるSDGsの授業」と書かれたチラシ
「東大生がつくるSDGsの授業」ワークショップのチラシ
❺「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」の一部
教員が授業を整理するための授業デザイン確認シート(部分)。下のURLからダウンロードして利用できます。
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シリーズ 連携研究機構第44回「気候と社会連携研究機構」の巻

沖大幹
話/機構長・
沖大幹 先生

人との関わりを重視する気候研究

――気候変動問題の克服を目指す研究機構ですね。

一昨年の夏、気候学の若手研究者たちが動き出しました。カーボンニュートラルへの機運が社会で高まっているのに、それに応える仕組みが学内に足りないとの危機感があったようです。学生の頃から知る彼らの構想に賛同し、機構長を引き受けました。ボトムアップ型というのは他の機構とは違う特徴かもしれません

気候変動問題の解決には自然科学から人文社会科学にまたがる幅広い学知が求められます。気候モデルと影響評価を重ねる研究だけではなく、社会と気候の関係を踏まえた研究が重要だと思い、「気候と社会」を機構名に入れました。「人間」を入れるべきか悩みましたが、「社会」は人間を含むと考えました。IPCCの部会構成に対応した「地球システム変動」「生態システム影響」「人間システム応答」という三つの研究部門のシナジー効果に期待しています

――研究機構ですが教育活動にも注力しているとか。

明るい未来を担う若者を育成して送り出すのは大学の任務です。卒業生が様々な現場に入って社会を変えていくはず。大学だけではなく社会全体のカーボンニュートラルへの変革が東大GXの貢献です。特に学部段階でのGX教育が大事だと思い、今年度秋学期に学術フロンティア講義「気候と社会」を始めました。自然科学、社会科学、人文学にまたがる機構の教員が登壇する前期課程生向けのオムニバス講義です

――授業の第一回は沖先生が講師だったんですね。

「気候変動と相互作用環の学術を俯瞰する」と題して講義しました。学生には断片的でない体系的な知を身につけてほしいんです。ウェブで検索すれば答えがすぐ出てくる時代ですが、どういう経緯があってそうなるのか、その答えが何につながるのかは見えません。まとまった講義や書籍を通じて全体像をつかむことが重要です。学部段階で知っておくべき気候と社会の基本知識を体系的にまとめた書籍の検討も進めています。学生に限らず、「人新世」を生きるすべての人に有効な一冊にしたいですね。また、機構のイベントとしては、10月に開催した発足記念シンポジウムに続き、12月にはGXでつながる部分の多いエネルギー総合学連携研究機構との合同シンポジウムを開催しました

――経済発展とCO2削減は両立できるのでしょうか。

私は、無理して我慢せずとも環境に負荷をかけずに幸せに暮せるような社会に変えることが必ずできると信じています。いろいろなやり方がありえますが、なかでもできるだけ歪みの少ない形を探っていきます

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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第22回
経済学部4年平元友莉

「負動産」から地域をつくる

私たちは「空き家を活かした地域づくり」をテーマに長崎県南島原市で活動しています。中でも「空き家バンクへの登録促進」「空き家の新たな活用方法の考案」の2つに注力しており、これまで2回の現地活動を行いました。

マットとトレーニング機器を置いた畳の部屋で集合写真に写るメンバー
空き家がジムに! 市民の健康に大貢献

1回目は8月末に行い、実際に空き家を見学したほか、空き家バンクを通じて物件を売却した方へのインタビューを行うなどしました。印象的だったのは、想像よりも深刻な空き家問題の現状です。空き家は数ヶ月放置しただけでもすぐに状態が悪化すると伺い、空き家を所有することの大変さを理解するとともに、対策が急務であることを実感しました。一方で、空き家を活用したビジネスを行う方や、元々空き家だった物件に移住した方にもお話を伺う機会を頂き、工夫次第で地域に対して価値を生み出すこともできるということを学びました。

幸せの鐘で集合写真に写るメンバー
地元の高校生おすすめの場所。海が綺麗……!

11月に行った2回目の現地活動では、1回目を踏まえて考えた施策についてご意見を頂くため、関連した活動を行う団体にお話を伺いました。さらに、より地域の実情に即した解決策を考えるため、住民の方々を対象にアンケートを実施。世代や周囲の状況による空き家問題への意識の差は大きく、それぞれに応じた方法が必要であることを改めて認識しました。

以上を経た現在は、3月の最終報告会に向けて準備を進めています。空き家問題は全国の自治体が直面する課題であり、一筋縄ではいかないと痛感するばかりですが、少しでも意義ある提案ができるようメンバー一同考え抜く所存です。

これまでの活動では、民泊や蔵めぐり、マリンアクティビティなど、南島原ならではの体験をここに挙げきれないほど数多くさせていただきました。そのたびに、そこにしかない風景や文化があることに気づかされ、それがこれからもずっと受け継がれてほしいと感じます。東京に住む学生という私たちの立場だからこそできることを考えつつ、微力ながら地域に貢献できればと思っています。

※メンバーはほかに岩城燎(工学部3年)、中島悠夏(文学部4年)、小渕大輔(工学系研究科博士2年)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第200回

教育学研究科
附属発達保育実践政策学センター
出水稚子

保育の現場情報を集め研究の礎に

出水稚子
センター居室にて、いつも頼りになる先輩(左)と

発達保育実践政策学センターに所属する私の仕事は、保育の質の向上と子どもの育ちに関する研究をしている先生のお手伝いをすることです。

具体的には、全国の協力園にアンケート調査やセンサー調査を行い、情報収集し、現場の保育がどのようになされているかをデータ化、分析研究していく土台作りをしています。

私がこのセンターに着任した2020年4月は、ちょうど新型コロナ感染症が流行し始めた頃でした。これから長いパンデミックが続くとは夢にも思っていなかったですが、着任後すぐに在宅ワークに切り替えられました。日々感染症の流行状況が変わっていく中、保育環境と保育実践の間で苦戦しつつも、絶えず努力を重ねておられる現場の先生がたの生の声を沢山頂戴することが出来ました。こうした状況下で、保育の質の向上を目指す先生方をお手伝いすることは、実際の現場で奮闘する先生方にとって少しでも手助けになるかもしれないと思い、先の見えない状況にある私自身にとっても大きな励みになりました。

リュックを背負いヘルメットをかぶって自転車に乗る出水氏
天気の良い週末には、自転車に乗って小旅行にでかけることも
得意ワザ:
旅に出ること(旅行会社で働いていた)
自分の性格:
楽しいと思ったことには一途に取り組む
次回執筆者のご指名:
杉江祐里さん
次回執筆者との関係:
工学部学務課時代に苦楽を共にした方
次回執筆者の紹介:
人生も仕事も常に走り続ける素敵な女性
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ぶらり構内ショップの旅第11回

食堂コマニ@駒場IIキャンパスの巻

こだわりのおむすびと味噌汁

昨年10月に駒場IIキャンパスにオープンした食堂コマニ。将来日本を背負って立つ学生さんたちに、日本の正しい食文化を体感してもらいたいとの思いから、メニューはあえてシンプルに、おむすびと味噌汁から始めたと話すのは責任者の玉田いづみさんです。

玉田いづみさん
責任者の玉田いづみさん

毎日約100個握っているというおむすびは、愛情やエネルギーが込められた日本のパワーフードだと話し、「美味しいお米とお味噌汁でみんなを元気にしたい」と玉田さん。12種類の具材から選べる白米と玄米のおむすびと味噌汁や豚汁には、全国から集まるこだわり抜かれた食材が使われています。埼玉県のオーガニック野菜や山形県の天日干しの米、圧搾法で搾った鹿児島の菜種油や麹の旨味たっぷりの秋田県の味噌など、現地に足を運び、時には畑の土まで食べて、一つ一つの食材を厳選してきたそうです。全てのセットに付く自家製ぬか漬けも好評で、これまで苦手だったという人も美味しいと食べてくれるとか。ボリュームがあり注文する人も多いのが、オーガニック野菜がたっぷり入った豚汁とおむすびのセット(750円)。おむすびとあおさの味噌汁セットはワンコイン(500円)で食べられます。1皿100円の「本日の小鉢」に登場するのは、小松菜と揚げの煮びたし、切り干し大根、里芋のそぼろあんかけなど。「ここで食事をして、体をリセットしてもらえれば」と玉田さん。最近始めた唐揚げ定食や塩サバの定食、ワッパ飯も人気で毎日売り切れるほど。今後もいろいろなメニューを増やしていく予定だそうです。

目指すのは「日本で一番いけている学食」だと話す玉田さん。「食の楽しみや喜びを伝えられたらと思っています。そして仲間たちとご飯を食べたり、知り合いになったり、ここから新しいコミュニティが生まれていけばいいなと思っています」 。

お盆の上にサバの塩焼き、小鉢、ごはん、味噌汁が付いた定食
新しくメニューに加わった塩サバの定食
営業時間

11時~15時(月~金)
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インタープリターズ・バイブル第185回

総合文化研究科教授
科学技術インタープリター養成部門
廣野喜幸

参加することに意義がある?

過日、科学コミュニケーション論以外の分野を専攻する友人たち数人と、お台場で開かれたサイエンス・アゴラをぶらついてきた。サイエンス・アゴラは、日本の科学コミュニケーション(以下、SC)の一大イベントである。他分野の研究者たちが異口同音に述べたのは、「SCはけっこうな賑わいを見せているのですね。いいことです。しかし、結局のところ、何をしたいのか、よくわからなかったですね」という感想であった。

高校時代、ラジオは孤独な勉学を慰めてくれる友であった。使っていたラジオは、ソニーの名機スカイセンサー5500(↓写真、撮影は宮入克典氏による)。

黒い筐体に伸縮式のアンテナを備えたラジオ

当時は、多くの国が日本語放送を短波で流しており(短波だと遠距離通信が可能になる)、海外放送受信(BCL) ブームに湧いていた。BCLブームのニーズに応えるため、スカイセンサーには短波受信機能が備えられていた。チューナーをこまめに調整し、「お、今夜はこの放送が聴取できたか!」といった喜びに浸ったものである。短波放送は大気状況等に大いに左右される。今夜聴けたからといって、明日も聴けるとはかぎらない。もちろん、放送内容も楽しみはするのだが、海外日本語放送の場合、受信できたこと自体が喜びの過半を占める。

参加して何をしたいかではなく、参加することが目的となっているような、オリンピックの理念のようなSC――「そうか、他分野の人びとからすると、SCはBCLの世界のように見えているのか……。やはり、それは問題なのだろうな」という思いのもと、2023年は、「目的意識の明瞭なSC」を目指すことに致しました。人材育成のみならず、情報発信や科学コミュニケーション論の研究も新たに行っていく所存です。次年度から生まれ変わる科学インタープリター養成プログラムをこれからもどうぞよろしくお願いします。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第39回

渉外部門
シニア・ディレクター
高橋麻子

東大ファンの応援を力に!

UNIVERSITY OF TOKYO GIVING CAMPAIGN 2022 2022.12.06 TUE - 12.18 SUN

寄付月間(12月)の取組みのひとつとして、12月6日~12月18日に“UTokyo ファン☆レイジングキャンペーン2022”を実施しました。東京大学基金の41プロジェクト(東京大学の活動、研究・教育、学生課外活動)がエントリーし、特設サイトにて各プロジェクトへの応援コメントと寄付(任意)を募りました。集まった応援数に応じて、各プロジェクトが協賛企業の寄付金を受け取ることができます。

各プロジェクトがSNS発信や関係者への呼びかけなどをおこない、応援数ランキングが日毎入れ替わるなど、最後まで目が離せない熱い展開でした。協賛企業寄付金の分配方法は、応援数順位だけでなく「期間中に最も卒業生からの応援を集めた団体」「150番目の寄付を獲得した団体」「その日の正午から30分で最も応援を集めた団体」など様々な条件での企業賞も設定されていて、中盤からは各賞獲得へ戦略的に取り組むプロジェクトも見られました。

最終的に計13日間で計7,643人の応援と556件の寄付(寄付金額計6,577,584円)が集まりました。応援者の内訳は、卒業生1,942人(25%)、在校生1,630人(21%)、保護者658人(9%)、教職員351人(5%)、3,051人(40%)でした。

応援獲得順位では組織力のある運動会基金が上位を占めましたが、学生活動プロジェクトのRoboTech支援基金(7位)や地球惑星科学の研究教育支援基金(12位)の健闘も目を引きました。応援いただいた皆様、誠にありがとうございました。

本キャンペーンの目的は「寄付を集める前にまずは“東京大学のファン”を増やそう!」でした。集まったメッセージを読むと、各プロジェクトや東京大学への期待が強く感じられ、たくさんのファンに支えられているのだと実感します。ファンの応援が東京大学の活力や推進力になるようなサイクルを作っていけたらと思います。

応援数獲得ランキング(1~12位)

1 漕艇部支援基金 1,002
2 バドミントン部活動支援基金 937
3 ラグビー部支援基金 658
4 軟式野球部支援基金 544
5 ヨット部支援基金 511
6 体操部支援基金 355
7 RoboTech支援基金 334
8 自転車部支援基金 319
9 ア式蹴球部(サッカー部)支援基金 296
10 ホッケー部支援基金 280
11 地球惑星科学の研究教育支援基金 262
12 陸上運動部支援基金 252
応援メッセージは特設サイトでご覧いただけます
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