第1153回淡青評論

七徳堂鬼瓦

木を見て森も見て

私は東南アジアの多民族国家マレーシアの出身です。マレーシアの大学を卒業後、ウイルス学、感染症学を学ぶために文部科学省の奨学生として2003年4月に来日しました。

日本で過ごした約20年で様々な出来事や変化がありました。医学の分野もインターネットの普及やデジタル化により、情報伝達や技術習得が加速化しました。つい10年ほど前までは、一つの技術を習得するのに十数年かかり、研究課題を深く追求することがスタンダードでした。しかし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、開発各国の誇るスーパーコンピュータ等を駆使して、わずかな期間で実用化しました。そのスピードに世界中の研究者が新たな時代の幕開けを感じた事と思います。

迅速性・簡便性・効率性が重要視されている中で、ウェット実験(研究者が生物学的な実験を行う領域)は、成果になるまで時間がかかります。ウェット実験だけでは迅速な結果が出にくいという課題が出てきており、また中小規模のラボでは、迅速性・効率性・予算面において十分な体制をとることが難しくなりつつあります。

COVID-19ワクチン開発のように、各国政府主導、国同士の連携など、大規模な組織が一連の開発をおこなえば、迅速に実用化することができますが費用は増大します。医学分野もグローバリゼーションの進展によって、大規模組織のアンバンドリング、中小ラボ同士の連携、国際的な協力等は必要不可欠で、これまで以上に世界規模で問題を解決することが求められてきています。

来日した2003年当時からでは研究方法や環境は大きく変わりました。「木を見て森も見て」、迅速性・効率性・精度・品質等のバランスを保ちながら、時代にあった新しい技術も取り入れ、国際社会に貢献できる研究をおこなっていきたいと考えています。

モイメンリン
(医学系研究科)