
2023年4月1日に発足したグローバル教育センター(Center for Global Education / GlobE)。学生の国際化をサポートするための学内共同教育研究施設として創設されました。約30名の教員と200名以上の全学交換留学生(USTEP生)が所属しているこのセンター。全ての学部後期課程と大学院の学生が受講できる、SDGsに関することを英語で学ぶ「グローバル教養科目」を提供するのが大きな特徴です。センター長、授業を担当する教員、そして二人の学生に、GlobEの概要、留学や多様な学生との交流などについて語ってもらいました。

学生のためのコンシェルジュ
矢口 GlobEは、全ての学生の国際性を高めることができるようなプラットフォームを作りたいとの思いから発足しました。国際化に関連する様々な機能を担っていますが、その柱の一つが「グローバル教育コンシェルジュ」です。宿泊客のさまざまな要望に応えるホテルコンシェルジュのように、グローバル教育に関してのコンシェルジュとして全学生の国際化をサポートしていきたいと思っています。たとえば「留学に関心があるけど、どうすればいいか分からない」といった学生の問いに答え、支援をしていきます。この「コンシェルジュ」機能の基盤となるのが、国際総合力認定制度「Go Global Gateway」です。吉村さんはこの制度に登録し、カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)に留学されましたが、どうでしたか?
吉村 最高でした。UBCはダイバーシティに富んでいて、全学生の30%くらいが留学生だと聞きました。留学中は5人の学生とルームシェアしていましたが、出身国がカナダ、インド、中国、シンガポールそしてトルコと多様で、世界を縮小したような環境でした。
矢口 授業はどうでしたか?
吉村 大変でした。全部で6科目を履修しましたが、日本での授業と違ってディスカッションがとても多く、教授や他の学生からの質問に対する答えを準備しなければなりませんでした。質問も複雑で難解なものが多くて。でも皆とても親切で思いやりがありました。ディスカッションのテーマだけでなく、他の学生のことなど、とても多くのことを学べました。
矢口 そもそもなぜ留学しようと思ったのですか?
吉村 僕は2歳から5歳までの3年間、ドイツに住んでいたんですが、幼かったので記憶がないんです。故郷の岐阜に帰国してから友達に「英語やドイツ語しゃべってみて」と言われましたが、話すことができず、なんというか、それが残念だったんです。その経験から留学してみたいという漠然とした思いを持っていました。その後、大学一年生のときに、留学経験がある兄から、「留学するといろんな経験ができるし、日本にいては学べないことが学べる」と強く勧められ、決心しました。
交換留学生がGlobEに所属
矢口 SnehaさんはUSTEP※生としてGlobEに所属していますね。東大に留学しようと思った理由は何でしたか?
Sneha 私が学ぶ米国のスワースモア大学では、約40%の学生がどこかの時点で留学します。私は歴史を専攻していますが、特にアジアの歴史に注目しているので、アジア地域に行きたかったというのがあります。もともとヒューストンという多様性に富む都市で育ち、インターナショナルスクールに通っていました。なので、アメリカ人以外の友達が多かったんです。そのような環境と比べると、大学は少し多様性に欠けていたので、海外でいろんな経験をして、新しい人達と出会いたかったんです。
矢口 東大での留学生活はどうですか?
Sneha 素晴らしいです。東大のキャンパスで他の学生と知り合いになって、ランチに行ったり都内のさまざまなところに出かけたりしています。FGAというインカレ軽音サークルにも入って、この前の週末は山中湖に行き、旅館に泊まってきました。日本人の学生とも知り合うことができてとても良い経験でした。
※University-wide Student Exchange Program

「グローバル教養科目」とは?
矢口 GlobEのもう一つの柱が、英語で行われる「グローバル教養科目」です。後期課程と大学院学生を対象に4月に開講しました。1クラス20人までの小規模で、ディスカッションやプレゼンテーションなどアクティブラーニングに重点を置いています。工学や経済学、人文科学など、さまざまなバックグラウンドを持つ学生が受講する場にしたいと思っています。今セメスターに開講しているのは全部で7科目。Tito先生も担当されていますが、授業はどうでしょう?
Tito 順調に進んでいます。私が担当している授業名は“Chemistry for a Sustainable World”ですが、11人いる学生のうち、化学専門の学生は3人。他の学生の専門は、機械工学、生物材料科学、生物学、データ・材料科学などさまざまです。それらの異なる専門分野と、私が教える内容がどう関連するのか。そのような点と点を繋げる手助けをしたいと考えています。もしかすると、化学専門の学生は「化学だけについての授業じゃないな」と思うかもしれない。でも他の学問の知識なしには、あなたが学んでいる化学は全くの時間の無駄なのだ、ということを理解してもらいたいです。
矢口 11人の学生は留学生ですか?
Tito 9人が交換留学生で、2人は日本の学生です。国内の学生も履修してくれたことをとても嬉しく思っています。グループに分けてディスカッションをしてもらう際には、この2人の学生は別々のグループに入れています。ここでの経験が、たとえば将来海外に行く時などの自信につながるのではないかと思います。
国際化に必要なもの
矢口 まさにそのような、東大の学生が交換留学生とともに授業を受けるような環境を増やしたいんです。特に後期課程に入ると、それぞれの学部の授業のみになってしまいがちなので、異なったバックグラウンドをもつ学生が集うような場所を作っていきたいと考えています。
矢口 GlobEで大切にしていることの一つが、学生や教員の声に耳を傾けることです。そこでお聞きしたいのですが、東大は学生のグローバル化を支援するために何をすべきだと思いますか?
吉村 留学に今一歩踏み出せないような学生の背中を押してほしいです。本部国際教育推進課で学生アシスタントとして働いているんですが、そこで感じたのは多くの学生が留学しようかどうか迷っているということです。英語に自信がなかったり、奨学金を得るのが難しかったりと、その理由はさまざまです。そういった心理的な壁を取り払うようなイベントや、留学に関心がない層にもアプローチできるイベントがあればいいなと思います。
Sneha 多くの交換留学生が日本人学生ともっと話したいと思っています。繋がりを持ちたいというんでしょうか。私はサークルに入ったので、日本人学生の中に入ることができてある意味ラッキーでした。だけど日本語が流暢ではない学生にとっては、それは結構難しいんです。約3万人の日本人学生がいる中でUSTEPの学生はたったの200人しかいないということを考えると、その垣根を越えて日本人の学生に話しかけて知り合いになるというのは結構ハードルが高いです。夕食に一緒に行くなどといった、私たちが交流できるようなイベントを大学が作ってくれるといいなと思います。
矢口 素晴らしいアドバイスですね。今もさまざまなイベントを開催していますが、その数を増やすことはできるかもしれません。5月末には大規模な対面での留学フェアを駒場で開催します。今後も留学生と日本人の学生が知り合うことができる場を作っていきたいと思います。
(4月27日、グローバル教育センターにて)
教員 | 科目名 |
---|---|
Tito Akindele | Chemistry for a Sustainable World |
Tomoko Kamishima | Allocating resources in health care fairly |
Anna Bordilovskaya | Diversity in Japanese Culture and Language |
James Ellinger | DIY and Open Science |
Manuel Senna | Underground and Clandestine Media |
Raquel Moreno-Peñaranda | The "SDGs" Contested |
Tom Gally | The Problems of English in Today's World |
本年度Sセメスターに開講される「グローバル教養科目」。SDGsに関連する授業を7名の教員が担当しています。1クラス原則20人までと少人数制で、インタラクティブなディスカッションを中心に行われます。成績評価は優上~不可の5段階評価か、合格/不合格のみの評価かを、学生が選択します。Aセメスターからはもっと多くの科目が開講される予定です。