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第27回海と希望の学校―震災復興の先へ―

岩手県大槌町にある大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースにしたローカルアイデンティティの再構築を通じ、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。研究機関であると同時に地域社会の一員としての役割を果たすべく、活動を展開しています。

希望は続き、広がる

理事・副学長
大気海洋研究所 教授
津田 敦
津田 敦
「ここでは、あらゆることが可能である。」などと書かれた黒板
国際沿岸海洋研究センター(岩手県大槌町)リニューアルオープン時に1階の黒板に書き写した宮沢賢治『注文の多い料理店』広告文の一節

この連載も27回目を迎えました。思い起こせば、震災後、河村知彦センター長(当時)らが大槌町での活動を模索していた頃、私は隣町である釜石市で希望学の活動を展開していた社会科学研究所の活動を見ていて情報交換をしたら良いのではないかと考え、大沢真理所長(当時)にお願いして意見交換の場を設定して頂きました。情報交換のつもりでしたが、玄田有史先生、河村センター長は瞬時に意気投合し、何か一緒にやりましょうということになり、玄田先生からタイトルは「海と希望の学校 in 三陸」、コンセプトは「ローカルアイデンティの再構築」と提案され、この活動は動き出しました。正直、こんなに続きこんなに広がるとは思いませんでしたが、開始してみると、この連載でも分かるように青山潤先生をはじめ、多くの教員が隠れた才能を発揮し、多くの自治体からも支持を受けました。

本学の地域連携担当として、多くの地域連携活動を見る機会がありましたが、海と希望の学校と似たニュアンスの活動、すなわち「ローカルアイデンティの再構築」を意識した活動は複数あるように感じます。例えば生産技術研究所が行っている北海道大樹町におけるMEMU Earth Labは建築をベースにしながら、音や糧といった資源を再読しようとする活動ですし、人文社会系研究科が和歌山県新宮市で行っている熊野学プロジェクトは歴史と信仰の地において人文学の応用・活用による地域の文化振興をはかっています。また、同じ和歌山でも和歌山市加太地区では生産技術研究所が分室を設置し地元の方々と密接に連携しながら、町づくりに貢献しています。さらに、参加したことはないのですが、先端科学技術研究センターが行っている高野町における「高野山会議」にも「ローカルアイデンティの再構築」を感じます。地域の風土、歴史、文化を再読し、上手に伝えることによって希望を育む活動は大学が得意とする分野かもしれません。これら学内の活動が連携を持ったらと想像することはよくあります。一方で、個々の活動は限られた人的資源で運営されており、巻き込むことには積極的ですが、巻き込まれることを警戒することもあります。急ぐ必要はありませんが、希望学でも重要視されているweak tie(弱い結びつき)が育まれれば東京大学の地域連携は新しいステージに立つことになると思います。

また、昨年、包括的連携協定を結んだ福島県の沿岸部は、原発事故の影響で復興が遅れ、三陸沿岸部の10年前の姿があります。アイソトープ総合センターを中心とした連携協力が進んでいますが、三陸や各地で育んだ「希望」へのお手伝いがこの地においてもできればと思います。

牧草地の中に点在する研究施設
MEMU Earth Lab全景(北海道大樹町)
杉林と苔の生えた石の道
熊野の道(大雲取越、和歌山県新宮市)

「海と希望の学校 in 三陸」公式 TwitterのQRコード「海と希望の学校 in 三陸」公式X(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)メーユ

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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第36回

工学系研究科
社会基盤学専攻 教授
中井 祐

帝都復興橋梁の工事写真と設計図

「永代橋工事」の印が押されている写真。橋のアーチ部分を建設している人々が映っている
永代橋工事写真其五より;中央径間アーチリブの架設

1923(大正12)年9月1日の大地震で灰燼に帰した東京の市街地を復活させた、帝都復興。街路、広場、公園、橋梁などの都市インフラの整備とともに、焼失した市街の区画が全面的に改良され、現代東京の都市空間の下地がつくられました。

その帝都復興で建設された数々の橋梁の工事記録写真と設計図が、工学部社会基盤学科の図書室(工1号館図書室A)に保管されています。

内務省復興局土木部橋梁課長、すなわち復興橋梁の設計チームのチーフエンジニアは、田中豊という発災当時35歳の、意欲とセンスに溢れた若者でした。田中の指揮のもと、永代橋や清洲橋(ともに2007年に国の重要文化財に指定)をはじめとする、先端的な構造フォルムや意匠をまとった橋の数々が誕生します。その実力を買われ、田中は1925年に復興局技師兼務のまま、東京帝大土木工学科の橋梁講座担任教授に抜擢されます。復興橋梁の写真と図面は、おそらく田中が大学で保管すべくもちこんだのでしょう。

多くの橋の、着工から竣工までをていねいに記録する写真帳が残されていますが、その写真のクオリティの高さには驚かされます。精細な描写と生き生きとした臨場感。おそらく専属のカメラマンを現場にはりつけていたのでしょう。これは後世に残る仕事なのだという、田中たちの自負心やプライドを感じます。

永代橋の設計図。横断面図、横溝平面図、側面図、平面図が図示されている
永代橋設計図一般図。繊細でうつくしい

図面もすばらしい。手書きの線のうつくしさと、合理的で気品に満ちた全体のレイアウトには、惚れ惚れと見入ってしまいます。芸術作品にも通じるこの味わいは、デジタル時代の設計図ではなかなか得られません。

ぜひこの貴重な史料を通して、当時のエンジニアたちの精神に触れてください。

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第45回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

友楽館萬歳!

明治の東京には、中村座、市村座、森田座(守田座)をはじめとする江戸時代から続く劇場や、寄席が数多くありました。新たに演芸改良の波を受け、明治22(1889)年10月5日、日本橋蛎殻町(水天宮のあたり)に「東京改良演芸会 友楽館」が開館します。設計者は、東京帝国大学工科大学助教授の中村達太郎。建物外部は煉瓦石材、内部は節のない杉を用い、音響や空気流通の具合も計算しつくした洋風建築だったようです。

開館初日、前東京府知事で、当時帝国大学初代総長の渡辺洪基は祝辞を述べました。その原稿が当館に寄贈されています(渡辺洪基関係資料の内F0002/157「(友楽館開館式祝詞)」)。

「渡邊洪基」と書かれた原稿。所々に朱字が入っている

渡辺は「余モ亦其席ニ臨ムヲ得タリ其喜何ソ加ヘン」と開館式臨席を喜び、「此場ニ登リテ技ヲ演スル者ハ盡ク高等ノ名人ナリ」と称えます。「陋劣」と認識されていたそれまでの音楽や演芸を改良し、かつ、特定の出演者ではなく「流派ヲ撰ハス」と明言し、「友楽館萬歳謹テ祝ス」と締め括ったのでした。祝辞に続く舞台は翌6日の二日間に亘って行われ、清元節、落語、長唄、義太夫節、常磐津節、琴古流尺八、山田流箏曲、一中節などが、当時の錚々たる人物(男性に限らず女性も)によって演じられました(東京朝日新聞)。

別資料「(演芸論草稿)」(F0002/145)の中で渡辺は「今ヤ制度一変シ士農工商ノ別ヲ廃シ種族ノ異ヲ問ハス或ハ劇場或ハ寄席皆ナ之ニ入ルヲ禁スル者ナク……」と、新しい時代の芸能享受のあり方を論じています。この草稿が書かれた年代は不明ですが、「帝国大学用箋」に記されていることや、語句が祝辞と類似していることなどから、友楽館開館とあまり遠くない時期にまとめられたものとも思われ、運営理念も近代化された新劇場の開館は、渡辺にとって大きな関心事だったことが窺えます。

(学術専門職員・星野厚子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第207回

工学系・情報理工学系等国際推進課
企画チーム 特任専門職員
相澤美紀

久しぶりに対面交流を企画・運営

相澤美紀
課のサマーパーティーで研究科長の等身大パネルとハイタッチ

工学系研究科国際推進課の企画チームで「Deans’ Forum」、「Asian Deans’ Forum」という執行部プロジェクトの事務局を担当しています。それぞれ以前の研究科長の呼びかけによって設立された、工学研究・教育に関する協議を行う国際的な枠組です。ルーティンではない業務が多い刺激的な?!オシゴトです。

その他にも、全学的な補助金プロジェクトの事務も担当しています。一緒にオシゴトしている職員さんは良い方ばかり! ここ数年はミーティングもZoomになりがちですが、これからはまた対面で集まる機会もあるでしょうか。今年度は、対面交流が再開されています。対面イベントの企画・運営は久しぶりです。

最近、天然香料の効能について教えてもらいながら、オリジナルの香り袋を作る体験工房に行きました。香料セットの横に、コーヒーの粉が置いてあったのですが、それはいくつもの香りを嗅いで、なにやら分からなくなってしまった時に、感覚をリセットするためのものだそうです。ひとの嗅覚って面白いですね。

お皿や手に乗せた様々な色の香り袋と香料
天然香料の体験工房にて
得意ワザ:
帰り支度が早い
自分の性格:
料理を作るのも食べるのも好き
次回執筆者のご指名:
千本松美佐さん
次回執筆者との関係:
プロジェクトの事務担当仲間
次回執筆者の紹介:
頼りになる相談相手
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ぶらり構内ショップの旅第16回

日比谷松本楼@本郷キャンパスの巻

明治時代から続く老舗の味

本郷キャンパスの工学部2号館1階に店を構える洋食レストラン「日比谷松本楼」。明治36年、日比谷公園の誕生と同時にオープンした本店は、夏目漱石や高村光太郎などの文豪たちに愛されていたことでも知られています。

内野和弘さん
日比谷松本楼営業本部本部長の内野和弘さん

その本店の味を全ての支店で提供できるようにと、本店で何年も経験を積んだシェフが、各支店の料理長を務めています。

松本楼といえば、「ハイカラビーフカレー」(¥1,100、テイクアウトは¥800)。具材は玉ねぎと牛肉のみのシンプルなカレーは、4日間かけて作っています。カレーと並んで人気なのが、トロトロの卵がかかったオムライス。ハヤシソース、クリームソース、カレーソースの3種類から選ぶことができます(各¥1,480)。また洋食屋ならではのタルタルソースが添えられた有頭エビフライ(¥1,850)もおすすめです。そして東大工学部2号館店で力を入れていると日比谷松本楼営業本部本部長の内野和弘さんが話すのが、パーティーやケータリングです。10名くらいから受け付けていて、料理が一人¥3,500~、飲み物(フリードリンク)が¥2,000~です。店内は30席くらいの規模ですが、ケータリングであれば何人でも対応できるそうです。メニューは年齢層が高い場合は、カツオのたたきや野菜メニューを増やしたり、学生中心の場合は唐揚げをメインに入れるといった工夫をしていると内野さん。ただし看板メニューでもあるカレーは必ず提供されます。

「皆様の久しぶりの対面の集まりに、美味しい料理を提供させていただきます。それを食べながら、話に花を咲かせていただければと思っています」

白い皿の上にソースがかかったオムライスとエビフライが乗っている
日によって内容が変わるお得なシェフズランチ(¥1,480)。7月26日のランチはハヤシソースオムライスにエビフライとサラダが付いていました。
営業時間
11:00-15:00(夜は予約制)定休日:土、日、祝 TEL : 03-5805-5608
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インタープリターズ・バイブル第192回

情報学環 教授
科学技術コミュニケーション部門
佐倉 統

韓国の科学館から考える

今年(2023年)の4月からサバティカルで韓国に滞在している。今までに5つの科学館(的なものも含む)を見学したが、全体に子供向けの教育目的を主眼としたものが多い印象だ。ソウルの子供科学館では大人ひとりの入館はできないと断られた。科学コミュニケーションを研究しに日本から来たんですと訴えたら入れてくれたけど、変質者だと思われたかもしれない……。

ソウル近郊で一番大きな科学館は、果川(カチョン)市の国立果川科学館だ。通常の科学技術入門に加えて、韓国の生活文化史と科学技術の関係、韓国SF史、科学とアートなどのコーナーも充実していて、子供から大人まで楽しめるすばらしいものだ。ただミュージアムショップは完全子供向けの品揃えで、展示内容が反映されていないのが残念だった。

韓国科学館のもうひとつの中心は、大田(テジョン)にある国立中央科学館。1993年の韓国科学万博の広大な跡地に建てられ、科学技術一般だけでなく未来技術館や自然誌館など、複数の大きな建物が並ぶ。ここの展示も工夫が凝らされ、人類史と技術社会の未来を一気通貫で見せたり、考えさせられるものもあった。ただ、やはりどうしても全体に子供向け、教育向けの雰囲気は否めない。

博物館学を専門とする韓国の専門家の話によると、科学者たちは研究成果を根本にすえた科学館・自然誌博物館が必要だと主張するが、研究所などは各分野で設置されているので研究組織はもう十分だろうとされ、なかなか認められないという。

研究と教育は不可分だ、博物館・科学館にも研究機能は必須だ、と言うのは簡単だ。しかし、では教育「だけ」を目的にした科学館では達成できない何が実現できるのか、それは社会にとって本当に必要なのかと問い返されると、具体的な説得材料をわかりやすく示すのは難しい。これは日本でも同じ状況だろう。一国だけでなく国際的に対応する戦略が必要なのかもしれない。

❶ ❷ ❸ ❹
❶❷国立果川科学館 ❸国立中央科学館の自然誌館 ❹中央科学館技術館
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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第46回

社会連携本部渉外部門
アソシエイト・ディレクター
播 真純

成果を体感!基金プロジェクトツアー

渉外部門では、7月31日に「東京大学基金活動報告会2023」を開催しました。

本報告会は、寄付者へ感謝の気持ちを直接お伝えし、寄付によって実現したことを報告、さらには今後の継続的支援へと繋げる大切な場。当日は藤井総長の挨拶や特別講演等、多彩なプログラムを実施しました。その中から、今回は企画の一つである東京大学基金プロジェクトツアーの様子を紹介します。

ツアーは、附属図書館、総合研究博物館、鉱物資源フロンティアミュージアムミネラフロントの3施設で実施。当日は猛暑の中、多くの寄付者の方にご参加いただきました。

パンフレットを手に机の上に並べられた古い書物を見ているツアーの参加者
貴重書を見学する様子(附属図書館ツアー)

附属図書館は、グループごとに施設の見どころを解説付きで見学。参加者からは、「普段見ることのできない本物の貴重書を見ることができて感動した!」「自身も学生時代に利用していた図書館が改修で見違えるようになっていたことが感慨深かった」等の声がありました。総合研究博物館では、これまで非公開だった展示室も公開され、参加者が宝物を発見した子供のように目を輝かせて見学していたのが印象的でした。ミネラフロントでは、お子様の参加もあり、担当教員からの「まさに子供たちにこの体験をしてほしい!」という言葉に笑顔がこぼれる場面も。鉱物の魅力に終了時間ぎりぎりまで見学される方もいらっしゃいました。

いずれの施設でも、実際に担当専門員や教員から話を聞き、直接目で見ることで、寄付者に大学の現状をリアルに感じていただき、支援の成果を可視化・体感することで、満足感とより一層寄付の意義を感じていただけたようです。

渉外部門では、今後も様々なかたちで大学の魅力を発信し、寄付者と継続的な繋がりを育める機会を創っていきたいと考えていますので、皆様ご協力をお願いいたします。ちなみに、活動報告会参加者の中には、職員の寄付者の方も。働く場を寄付で支えることにご興味を持っていただける方は、ぜひ東大基金サイト(https://utf.u-tokyo.ac.jp/)へ。

※活動報告会の様子は後日東京大学基金YouTubeで公開されます。

東京大学基金事務局(本部渉外課)