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第59回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

3部門を統合して「教育DX」推進の新部門に

/教養教育高度化機構(KOMEX)第5代機構長に聞く

機構長 原 和之
原 和之

生成系AIも検討するEX部門

――今年度、組織が変わりましたね。

「時代ごとのニーズに対応する形での部門名変更はこれまでも何度かありましたが、今回は部門の統合も行いました。一番大きな変化は、自然科学教育高度化部門、初年次教育部門、アクティブラーニング部門を統合して、EX(Educational Transformation)部門としたことです。UTokyo Compassが目指す教育DXをKOMEXでも推進しようとの方針のもと、前機構長の頃から準備を進めてきたもので、3部門の統合により23人のメンバーを擁する大所帯となりました。旧3部門が担ってきた活動を引き続き行うのに加え、教養教育におけるデジタル技術についても検討します。生成系AIの利用では成績評価をどうするかといった問題もありますが、技術的変化をしかと受け止めて教育DXに活かすことが重要で、その中核を担うのがEX部門です。具体的な検討はこれからですが、EX部門が担当する来年3月のシンポジウムで何らか方向性を示せるかと思います」

「もう一つの新部門が、前回の本欄に登場したD&I部門です。駒場キャンパスSaferSpace(KOSS)の運営に加え、前期課程教育へのD&I実装を重要な任務と考えて設置しました。昨年のAセメスターから福永玄弥先生と飯田麻結先生を中心に準備を進め、4月から講義と演習のD&I関連授業を行っています」

――部門名称の変更もありました。

「科学技術インタープリター養成部門を科学技術コミュニケーション部門に変更しました。2010年から続く大学院の副専攻科目、科学技術インタープリター養成プログラムの運営が主たる任務ですが、科学技術コミュニケーションの研究と発信も重要なミッションに据えており、より内実に沿った名前に更新した形です。ネイチャー・ウォッチング科学コミュニケーション・カフェのような企画も加え、教育・研究・発信という3つの柱を軸に活動を展開していきます」

元法務技官や精神科医も加入

――新しい先生も続々と増えています。

「EX部門の初年次教育担当に宮島謙・横沢匠の両先生が加わりました。社会連携部門には、金曜特別講座担当の小檜山明恵先生に加え、法務省矯正局の法務技官兼法務教官の経験がある山岡あゆち先生が4月に着任しました。環境エネルギー科学特別部門には、部門長の瀬川浩司先生とともに有機系太陽電池などの研究に携わってきた中崎城太郎先生と野々村一輝先生が6月に加わりました。SDGs教育推進プラットフォームには、国際協力機構で活動してきた精神科医の田中英三郎先生が9月に着任します。先述のD&I部門のお二人も含め、多様な背景を持つ先生方が集ってくれました」

「教養学部の前期教養教育において、部会や学科といった従来の枠組みに収まらない分野を担うのがKOMEXです。その多くは、横断的だったり、先進的だったり、社会に近いところから出てくる分野です。社会連携部門の活動はもちろんですが、D&I部門やEX部門、2019年度に発足したSDGs教育推進プラットフォームも、その流れで生まれたものだと言えるでしょう。社会の変化に応じて大学の組織も変わります。成長し続けることを運命づけられたKOMEXの機構長としてその流れを止めないよう努めます」

今年度新任教員の顔ぶれ
山岡あゆち(犯罪心理学) 中崎城太郎(有機化学) 宮島 謙(物理化学)
野々村一輝(電気化学) 田中英三郎(精神医学) 横沢 匠(生命科学)
※D&I部門の福永・飯田先生は1572号参照
「執行委員会」の周りを「伸ばす」(「EX部門」「D&I部門」)、「人と人を繋げる」(「環境エネルギー科学特別部門」「社会連携部門」)、「幅を拡げる」(「国際連携部門」「科学技術コミュニケーション部門」)が取り囲んでいる図
今年度からKOMEXは、6つの部門(EX、D&I、科学技術コミュニケーション、国際連携、社会連携、環境エネルギー科学)と、6部門の連携によるSDGs教育推進プラットフォームとで構成されることになりました。
8〜9月に開催されたKOMEXのイベント
8月28日 「異次元エネルギーショックへの日本の対応」東京財団政策研究所オンラインシンポジウム(後援/環境エネルギー科学特別部門)
9月3日 ワークショップ「第4回 東大生がつくるSDGsの授業」(EX部門)
9月21日 第7回 模擬国連ワークショップ(EX部門)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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ぶらり構内ショップの旅第17回

カフェ・カポ・ペリカーノ@本郷キャンパスの巻

行列のできる鉄門カフェ

医学部教育研究棟1階入口脇にある「カフェ・カポ・ペリカーノ」(通称・鉄門カフェ)。同研究練13階にあるイタリアンレストラン「カポ・ペリカーノ」が運営する、おにぎりやお弁当をメインに販売するお店です。

成田美花さん
成田美花さん

「学内の人に気軽に利用してもらえるお店」として2006年にオープンしました。

お昼時にできる長い行列を一人でさばくのは、約10年前から働いているという成田美花さん。毎日3台の炊飯器を使って炊き込みご飯と白米を炊き、60~70個のおにぎりを握っています(各160円)。「食べるときにふわっとしているおにぎりがいいなと思っているので、硬く握らないようにしています」と話す成田さん。大きめで塩加減が絶妙なおにぎりの具材は10種類くらい。明太子や納豆などほぼ固定の具材に加え、子持ちきくらげやペッパーソーセージマヨなど、その時々の入荷した食材で作った具材が登場します。売り切れてしまった場合でも、お米が残っていれば握ってもらえるそうです。おにぎりと一緒に頼む人が多いという豚汁は、猛暑日が続いた今年の夏でも注文する人が多かったとか。

おにぎりと並んで人気なのが、レストランのシェフが作るハンバーグ、唐揚げ、麻婆豆腐などの日替わり弁当(750円)。カレーライスは火、木、金の週3日。残りの2日はハヤシライスを提供しています(500円、大盛は550円)。サラダや和牛メンチカツなどの惣菜(200円~)は4~5種類並びます。

たくさんの人が毎日お店に来てくれるのが本当に嬉しいと話す成田さん。「美味しかったと伝えてくれる人も多く、それがとても嬉しいです」

三角形のおにぎりに海苔が巻かれて透明なシートに入っている様子
ふわっと握られた大きめのおにぎり。千葉県多古町産のお米は美味しいと評判で、それを生産者に伝えたところ喜んでくれたとか。
営業時間
11:30-14:00 定休日:土、日、祝
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#We Change Now

第3回
男女共同参画室通信

ジェンダー・エクイティ研修を実施中

今回のコラムでは、この9月からスタートした「ジェンダー・エクイティ研修」についてご紹介します。

本学の理念と基本方針を示したUTokyo Compassでは、「世界の誰もが来たくなる大学」を方針の一つとして掲げています。その実現のためには、大学全構成員の意識改革によるキャンパス文化の変容が重要です。

男女共同参画室では、2022年度にジェンダー・ジャスティス研修ワーキンググループ(WG)を立ち上げ、ジェンダー不平等の解消と是正実現のための基盤整備として、教職員を対象とする各種啓発、研修の枠組みを検討しました。また教職員が毎年受講する「ジェンダー・エクイティ研修」を2023年度より実施することを検討し、そのための研修教材を開発しました。2023年度の研修テーマをジェンダー・バイアスとし、「誰にでもある思い込みと向き合う」というタイトルでe-learningの研修プログラムや動画、教材を作成しました。ステレオタイプの脅威や好意的差別、マイクロ・アグレッション等の事例も取り上げています。動画を視聴し、確認テストを行うものになっています。

これは、「UTokyo 男女⁺協働改革 #WeChange」の目標Ⅰ、行動計画Ⅰの「男女⁺協働改革への基盤整備――マジョリティ側の意識改革――」の取組の一つになります。東京大学構成員全員の意識改革によって全学のジェンダー・バランスの適正化を図り、多様性重視の大学に変革することを目指しています。

2023年度のジェンダー・エクイティ研修は9月6日~10月31日まで実施していますので本学教職員の皆さまには実施についての通知をご確認の上、必ず受講をお願いいたします。

(特任准教授 小川真理子)

「誰にでもある思い込みと向き合う」と書かれた画面
ジェンダー・エクイティ研修の教材画面より
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第208回

先端科学技術研究センター 新エネルギー分野
岡田研究室・特任専門職員
千本松 美佐

研究室でも国際交流

千本松 美佐
先端研のシンボル・文化財指定の時計台と

先端科学技術研究センター岡田研究室にて、海外との研究交流のお手伝い、留学生や外国人研究者の受入手続きなどを行っています。コロナ禍前は、研究室所属の教職員や学生、留学生や外国人研究者を交えて一緒に先端研内のイベント準備で調理をしたり、楽しく国際交流を行うことも多くありました。今年の9月にもフランスからJSPS外国人特別研究員を迎えました。

岡田研では、毎年、東京大学全体で行う海外の大学との研究交流イベントや、先端研とCNRS(フランス国立科学研究センター)との間で開催される「新エネルギー研究連携(NextPV)に関する国際ワークショップ」に参加しています。近年は残念ながら、オンライン開催が主流でしたが、また徐々にハイブリッドや対面式のイベントが増えてきています。イベントのお手伝いをしていると、研究の最先端を覗くことができるのも楽しみの一つです。また、全学の国際交流を通じて、他部局の教職員の皆様と広く交流ができるのも、この仕事の魅力です。

長机の上で学生と共に料理を作っている様子
国際交流イベントの準備をする岡田研の方々
得意ワザ:
わからないことは悩まずに人の助けを借りる
自分の性格:
粗忽な小心者なので、穏やかに進む仕事が好き
次回執筆者のご指名:
谷口沙恵さん
次回執筆者との関係:
社研のSSJDAでの同僚
次回執筆者の紹介:
努力家で、上司の信頼厚きママ

Social Science Japan Data Archive

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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第26回
教養学部卒武藤彰宏
農学生命科学研究科博士課程2年高橋 栞
農学部4年服部美里

37人の集落が挑む日本酒プロジェクト

伊勢神宮から車で1時間ほどのところにある、三重県南伊勢町・道行竈みちゆくがま集落は、平氏にツールを持つ南島八ヶ竈の1つです。リアス海岸の風光明媚な入江に位置し、現在は37人が農業を営みながら暮らしています。FSでは最小の活動フィールドです。

メンバーと集落の人との集合写真
初回現地活動での集合写真

道行竈とFSの繋がりは2019年から始まりました。耕作放棄地を復活させて、コシヒカリや酒米「神の穂」を栽培する「日本酒プロジェクト」を軸に活動を繋いできました。高齢化や米価の下落により農業を取り巻く環境の厳しさが増す中で、代々耕してきた土地が次々に放棄されていく現状に直面した住民が、地域の付加価値向上を目指すために立ち上げたNPOを中心とするプロジェクトです。酒造メーカーや行政、大学との連携を深めながら、今年の秋で5年目の収穫を迎えます。

椅子に座って画面を見ているマスク姿のメンバー。一人はノートパソコンを膝に乗せ、もう一人はノートと筆記用具を持っている
現地報告会での一コマ

我々に与えられた課題は、このプロジェクトと地域の将来を描き出すというものでした。「日本酒プロジェクト」は、米作りや経営、販路開拓など地域が持つノウハウやスキルのコラボレーションです。良質なお米を育て、付加価値を高めて販売する取組が軌道に乗ってきたからこそ、道行竈で活動を続けていくための中長期的なビジョンの必要性を感じました。

6月からZoomでのミーティングを重ねつつ、2回の現地活動を受け入れていただき、圃場や販売所から集落のマル秘絶景スポットまで現地を歩き回ってきました。お米やお酒も実際に口にして、文字どおり地域を味わい尽くした1年でした。道行竈の方々と率直な意見や考えを交わす中で、プロジェクトへの強い覚悟と地域への深い愛着に触れたことが印象に残っています。

NPOの活動を持続的なものとし、集落を将来に繋いでいくためには、プロジェクトを担う人材と資金を安定的に確保する必要があります。私たちは、目標を段階的かつ具体的に提示し、販売と広報の2つの視点から戦略を提案しました。活動期間は終了しましたが、第2のふるさと・原点として関わり続けていくことが、道行竈の未来を拓く一歩になると信じています。

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インタープリターズ・バイブル第193回

総合文化研究科准教授
科学技術コミュニケーション部門
豊田太郎

Newsとの付き合い方

化学の研究室を主宰している私は、実験室内のNewsに日々気を配っている。立案通りの実験結果は“発明”につながり、そうでない結果は意図しない“発見”となる可能性がある。実験室の安全管理者として、事故やヒヤリハットは特に大事なNewsであり、すぐに対応する必要がある。実験メンバーから実験内容を詳細に聞き、何がNewsなのかを理解するようにしている。

社会にもNewsはあふれている。その中で、科学者側から社会へ発信できる良質なNewsとは何かを考えたとき、私にはテレビのニュースとお付き合いした二つの夏の思い出がある。一つは、基礎研究の成果報告についてプレスリリースをおこない、記者からの問い合わせにこたえた時のことだ。本学広報課の担当者と周到にプレスリリースを準備し、発表後も、各々の記者に研究成果を説明し、その意義をアピールした。放送時間には上限があり他のニュースとの兼ね合いがあるため(夏は台風などの天候に関連する報道が多くなる)、何事もなく放映されるとは限らない。3分間であっても、研究成果を紹介するニュースが無事に放映されたときは、深い安堵を覚えたものだ。

もう一つは、社会的関心の高い事件が発生した際、専門家としてコメントを求められたときのことである。上記のニュース取材の一か月後、突然のことだった。医療への応用を考えていた私の研究課題を擦過したその事件は、私にとっても大変ショックなものだった。速報性の高さが優先されたため、記者からの問合せの翌日に取材が設定され、あり合わせで対応した。コメントを準備する時間が短かったので、その事件のニュースや記事をチェックし、私のコメントで誤解される可能性がある表現だと判断した場合には、報道機関に直接電話で修正を依頼した。基礎研究に研鑽を積む日々だけに胡坐をかいてはいられない、普段の研究教育活動とは異なる社会と接することの重要性を痛感した経験だった。この経験も、つい先日のことのように緊迫感をもって思い出される。

いずれの場合も取材記者との連携が重要だった。これまでの記者は、私の話によく耳を傾けてくれて、良いニュースにしてくださった。良いNewsに出会う秘訣はそこにあることを私は学ばせてもらった。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第47回

社会連携本部渉外部門
副部門長
高橋麻子

人生に向きあう遺贈寄付

9月13日はInternational Legacy Giving Day=国際遺贈寄付の日。日本では9月11日~9月17日を「遺贈寄付ウィーク2023」として、遺贈寄付について考え、学び、伝え、行動するキャンペーンが展開されました。遺贈寄付とは、個人が亡くなった時に、亡くなった方や相続人が、遺言や契約にもとづき、財産を公益法人やNPO法人などに贈ることです。日本で遺贈について語ることは、数年前まではややタブー視されていましたが、コロナ禍をきっかけに、終活ブームも後押しして、今では前向きでポジティブなイメージもついてきました。

高齢化が進む近年、新たな社会貢献として注目が高まっており、東京大学でもコロナ禍以降、遺贈の問合せや相談が年々増加しています。関心が広がっている背景には、生涯独身の方や子どものいない世帯の増加もありますが、最近では子どもがいる世帯や現役世代でも遺贈寄付を検討する人もみられるようになりました。

遺贈寄付のメリットはいくつかあります。ひとつは、税金の優遇措置です。東京大学への遺贈の場合、相続税の課税対象にならず、所得税・住民税の控除なども受けられます。もうひとつは、遺贈寄付を通じて社会貢献ができること。遺産の使途を指定することができ、例えば、教育、研究、医療、文化保全など、関心を持つ分野の発展に寄与できます。また感謝の意を受け、名誉をたたえ銘板などに名前を刻むこともあります。

「遺贈のご案内」と書かれたパンフレットの表紙
遺贈ミニパンフ配布中です

そのほか、遺贈を検討すること自体にメリットがあると言えます。遺贈をしようと具体的に考えたとき、まずは寄付先や使途、金額を決めなければいけません。お金は死後まで持っていくことはできません。自分は何に価値を置くのか、これまでの人生を振返り、遺される家族や世の中がどうなってほしいのか、人生観に向き合い深く問うことになります。これこそが終活の起点でしょう。遺贈寄付は必ずしも高額である必要はなく少額から可能です。どの年代でも早すぎるということはありません。まずは「自分はどこに遺贈するかな?」と考えてみてはいかがでしょうか。

東京大学基金事務局(遺贈相談窓口)
legacy.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp