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4年ぶりに実地開催となった年に一度の祭典を体感レポート 柏キャンパス一般公開、行ってみた

10月27~28日に行われた柏キャンパス一般公開2023。コロナ禍を経て4年ぶりのキャンパス実地開催となり、本部広報課のAとKが27日に会場にお邪魔しました。様々な催しや展示を見学し、各々が遭遇して「いいね」をつけたくなったものについて、個人的感想中心の会話風原稿で紹介します。

Aでは印象的だった企画を語りましょう。1は「サケの一生」をテーマにしたバルーンアート。躍動感あふれる2匹の巨大なサケは圧巻でした。製作者は大気海洋研究所の卒業生で、バルーンアーティストの須原三加さん。

K迫力あったね。2はトラザメという小型のサメ。サメと言ってもおとなしくて、普段は岩陰などに潜んでいるらしい。3は「星砂」という星の形をした有孔虫の抜け殻を探す催し。子供も大人もルーペを使って星砂探しに夢中になってたよ。

1 大気海洋研究所 バルーンアート「サケの一生」 2 大気海洋研究所 海洋生物研究の現場をみてみよう 3 大気海洋研究所 星砂をさがしてみよう

鍋で煮込んだサルの骨!

A4は木の椅子に腰かけると鳥のさえずりなど森のライブ音が聞こえる「森おといす」。志賀高原にある信州大学志賀自然教育園のライブ音だそう。目を閉じて「森のおと」に耳を傾けるとマイナスイオンを感じられたような……。5は二ホンジカやキョンの骨。他にもニホンザルやワニの骨が展示されてました。きれいな骨の状態にするために、一週間くらいひたすら鍋で煮込むこともあるそう。

K一週間!確かに骨付きチキンを長時間煮込むと簡単に肉が剝がれ落ちるよね。

A6は「シロイヌナズナ」というぺんぺん草の仲間。根の先を切って培地に置いて育て、もこもこした葉っぱが生えてました。植物がもつ高い再生能力のメカニズムの研究に使っているんだって。7はイトヨというトゲウオ科の魚。海から川や湖などに進出して、新しい環境に適応してきたそう。イトヨが描かれた缶バッジをもらえました。8は蛍石や砂、植物を小さな瓶に入れてテラリウムが作れるワークショップ。ピンセットで瓶の中にバランスよく配置するのが難しかった。

K9は広報課のSさんが見学した富士通製のスパコン。スーパーコンピュータルームを隅々まで自由に見学できたんだって。床下の配線の美しさに驚いたと言ってたよ。10は実験の際などに使う様々なマスク。他にも特殊な手袋や靴などが展示されていました。11は核融合実験に使う2mくらいの高さの装置。核融合反応を起こすためには高温にしなくてはいけなくて、この装置では500万度くらいのプラズマを作ることができるそう。

A12は小型人工衛星向けの推進機。通常の推進機にはキセノンというガスを使うけど、これは水を使うので環境にも優しいし、安いという利点があるんだって。手のひらに収まるサイズに驚きました。13はレーザー干渉計を組み立てて音楽を聴いてみるというワークショップ。音楽が光の干渉で伝わるのを確認できるそう。

4 新領域環境系 森のライブ音配信「森おといす」 5 新領域環境系 骨にさわってみよう 6 新領域生命系 こんなにかわいいのに実験生物なの、なぁぜなぁぜ? 7 新領域生命系 水環境と生命 8 物性研究所 鉱物で遊ぼう 9 情報基盤センター スパコンルーム公開 10 環境安全研究センター 安全保護具の紹介 11 新領域基盤系 トカマク型核融合実験装置 12 新領域基盤系 プラズマで変える!将来宇宙技術 13 宇宙線研究所 マイケルソン干渉計で音楽を聴こう!

奈良盆地のスマホケース

K私の一押しが14の3Dプリンターで作った模型やiPhoneケース。レーザー装置やカメラなどを搭載したドローンを飛ばして計測した自然景観データで作ったもの。スマホケースは奈良盆地の地形だよ。15はビッグバンより前の宇宙を探索する壮大なプロジェクト用の偏光変調器というもの。「Strong magnet」の注意喚起があったので、スマホを遠ざけました。

A16は浮き上がって見えるホログラフィ。空中に浮いているように見えるキーボードといった応用もできるとか。特殊なホログラフィを窓ガラスに貼り付ければ太陽光電池にも使えるんだって。

K17の実物大の電車の車両も目を引いたよ。4人掛けの対面シートだと、なかなか満席にならないけど、5人掛けなど変則的な配置にすると人が座ってくれやすい、などといった評価実験に使用したそう。気持ちよさそうに寝ている人も……。18はSさんが見学したクライオ電子顕微鏡。生体内の構造を染色せず生のまま凍らせて観察ができる、というものだそう。顕微鏡が動いている間は、保守などのために人は配置されていないんだって。19は明治19年に制定された学生服制やキャンパス内での落とし物などが記載された文章。落とし物には聴診器まで。20は物性犬10周年を祝うインスタ映えしそうなフォトブース。大人気のぬいぐるみは売り切れでした。

A千葉県のマスコットキャラクター「チーバくん」の姿も。バス停の近くで来訪者に愛嬌を振りまいてました。

K今年は柏の葉キャンパス駅前にもブースを出展。28日の特別講演会も大盛況だったそう。次回も楽しみです!

14 空間情報科学研究センター 空間情報の高鮮明化と高度利用 15 カブリ数物連携宇宙研究機構 Kavli IPMU研究紹介 16 生産技術研究所 次世代ホログラム技術 17 モビリティ・イノベーション連携研究機構 鉄道車内空間実物大モックアップ 18 産学官民連携棟 いきもののカタチに電子で迫る! 19 文書館 戦前の「帝大生」にせまる 20 物性研究所 フォトブース:物性犬10周年 千葉県 チーバくん
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もとは学生会館?総長記念館?学寮?運動施設?事務オフィス?キーワードは「増殖」と「未完」 2023年10月 1934年4月 写真提供:東京大学総合研究博物館奥深き第二食堂建物(ニショク)の世界

10月6日、本郷の第二食堂で注目のイベントが行われました。連携研究機構のヒューマニティーズセンター(HMC)が東大生協とともに企画したHMC「リエゾントークⅦ:奥深き第二食堂建物(ニショク)」です。非常に複雑な成り立ちを持つのが二食の建物。その歴史を建築史と文化資源学の研究者が各々の視点から追いかけ、発表した約2時間。当事者の皆さんに振り返ってもらいました。

文化資源学と建築学のコラボ

松田 陽 人文社会系研究科 准教授,強谷(すねや)幸平 人文社会系研究科 博士課程,角田(つのだ)真弓 工学系研究科 技術専門職員

――どうして二食に注目したんですか?

松田 HMCと東大生協が復刊本を語るイベントを春に書籍部で開催したら、それが大好評で第二弾の機運が高まり、二食建物は奥深いという竹原昌樹書籍部店長の話を受けてHMC特任研究員の和田真生さんが企画を立案、HMCのフェローである私に声がかかったんです。私は2018年にHMC企画研究「学術資産としての東京大学」のセミナーで建築とキャンパスを論じる角田さんの講演を聴いていました。また、私がいる文化資源学研究室では2011年から「東京大学の埋蔵文化財と文化資源」という授業を開講しています。強谷さんは研究室の博士学生。内田ゴシック好きの彼が学部時代は美術サークルで2階の部室を使っていたとも知り、建築史の専門家と組んだら面白そうだと思ってお二人に声をかけました。

角田 キャンパス建築についてはいろいろ見てきましたが、二食の建物を調べたことはありませんでした。向かって左だけに広がっていて半端だなとは思っていましたが。

強谷 アクセスできる公的資料があまり見つからず、学生の話題に強い東大新聞を漁ったところ、二食の件は1930年代前半に盛んに報じられていましたね。『東大生協史通信』(1995~)『東大生協創設期史料集』(2004)なども読み込んでみました。

――強谷講演は「二食と二つの未完」、角田講演は「増殖するキャンパス建築」が題名でした。「未完」と「増殖」が肝ですね。

強谷 未完成の公共建築を文化遺産に見立てて活用するイタリアのアートプロジェクトや、『時がつくる建築:リノベーションの西洋建築史』で加藤耕一先生が提唱された「再利用的建築観」から「未完」の概念に興味を持ちました。本郷キャンパスには未完の建物が複数あります。二食にも、学生の居場所としての学生会館と古在こざい会館という二つの未完の建物が隠れていました。

角田 私は「未完」を別角度から見て「増殖」と捉えました。昔の図面を調べると改修や増築が非常に多いんです。最初の約4年で2回の増築があって地下のプールが追加され、その後に古在会館の計画ができています。不自然な現在の姿は、図書館団地のように細胞分裂的に広がった結果だったという見方に至りました。

雨に濡れる学生が不憫だった総長

古在由直 第10代総長

――強谷講演によると、学生控所の代替として学生会館構想が生まれたそうですね。

強谷 学生控所が不足し、学生は授業の合間に法文1・2号館アーケードや学外の喫茶店で時間を潰していたようです。二食に臨時学生控所が設置されたのも、小野塚喜平次総長が雨に濡れる学生を不憫に思ったためと東大新聞にありました。

角田 学生控所など不要だという工学部の先生の談話もありました。実験室や研究室があればそこで時間を費やせます。昔も部局によって温度差があったんですね。

――古在総長の名が二食の話に関係して出てくるというのは意外でした。

強谷 東大新聞で「古在会館」の名を見たことはありましたが、何を指すのかわからず、私も今回初めて知りました。関東大震災後の復興、農学部と一高の敷地交換など、重要な時期の大学を導いた総長を称える計画でしたが、資金調達は難航したようです。

――角田講演によると、二食の場所の管轄は医→理→文と移ってきたそうですね。

強谷 食堂なら人が来やすい中央部にあっていいのに、二食は少し外れにあります。各部局にとってあまり重要でない場所だったと考えるとちょっと納得です。

角田 二食のある辺りは本郷通り側にくらべ地盤が低く、埋立されたエリア。固い地盤に杭を打つには深く掘らないといけないため、結果的に地下に大空間ができました。もっと西側だったら、地下にプールを作る計画は生じなかったのかもしれません。

なぜか二重になった裏階段がある

建物の側面から見て左右両方から斜めに伸びる階段

――裏手にある謎の二重階段の話もありました。

角田 学外でもあまり見かけないものです。表階段なら上りと下りを分ける意味がありますが、裏階段ですからね。最初からこうでしたが、その理由は謎です。

――書籍部奥の段差の話も新鮮でした。

角田 以前は半地下と中二階にわける形で床面があったはずですが、増築後もその痕跡を残し、変化の過程を想像させます。書籍部内には柱が多く、本を扱う際の使い勝手は悪いそうです。

――左翼の壁からは鉄骨が出ていたとか。

角田 昔の写真では確かに残っていて、増築に使えたはずですが、いまはありません。二食建物は内田祥三の営繕課長時代の作品で、図面には内田印がありますが、どこまで本人が直接関わったのかはわかりません。

――寮やオフィスまであったそうですね。

強谷 戦前の東京帝大は寮を設けない方針でしたが、戦後の住居難を受けて各所に設置しました。そのうち唯一キャンパス内に設置されたのが二食の弥生学寮でした。この時期には生協職員や食堂従業員も二食に住んでいたようです。学寮の退去後は学生ホールとしてダンスパーティーなどに使われました。また学生の福利厚生の拠点にするということか、戦前から医局(保健センター)が入居していたようです。東大紛争の際には学生部も安田講堂から移転してきています。

東大なら新と旧の「響存」が可能

――今後の二食についてどう考えますか。

強谷 まだわからないことが多いので、追加の資料があれば追いかけたいです。また一学生としては、未完に終わった学生会館・古在会館の理念を引き継ぐような、学部の垣根を超えた学生の居場所や交流に利用できる施設についても何か進展があるといいのですが。

角田 施設部旧蔵写真や文書館など、今まで見られなかった内部資料が見られるようになり、これら資料などからの発見も数多くあるので、キャンパス建築についてもっと踏み込んで調べたいですね。法文1・2号館や工学部2号館など、特徴的な増築が多々あります。古い建物と新しい建物の共存を今後も見たいと思います。

松田 二食横ではD&I棟の工事が始まりました。新棟建設のほかにもいくつか計画があると聞き、数十年ぶりの二食増殖の可能性もつい夢想してしまいますね。いずれにせよ、二食建物の歴史性を十分考慮した計画が必要でしょう。150周年に向けて歴史を重視する大学なら、新しいものと古いものを「響存」させられると信じています。

「増殖」する二食建物

1936年の増築で右翼に2ブロックと曲面部が追加され、1938年の工事でさらに奥へと拡張されることで、いま生協の書籍部が使っているエリアの一部ができました。左翼の壁にあった鉄筋の梁差筋はその後の増築を予感させましたが、現在はなし。1964年撮影の写真には写りますが、いつ頃に外されたのかは定かでありません。

●1933年(当初設計)
1933年時点の建物図面
●1936年(補工・増築)
1936年時点の建物図面
●1938年
1938年時点の建物図面

東京大学施設部所蔵図面より作成

1936年3月
1936年3月時点の写真
1938年3月
1938年3月時点の写真

写真提供:東京大学総合研究博物館

二食建物関連年表(強谷さんまとめ)

1923関東大震災による学生控所の焼失
1924-1925第一次学生会館設立運動
1929-1930第二次学生会館設立運動
1934二食建物の竣工と臨時学生控所の設置
二食建物の学生会館化構想の公表
1936古在会館の募金開始
二食建物の増築・プールの設置
1938二食建物の増築
古在会館の設計案承認・着工延期
1946第二食堂の協同組合食堂化
弥生学寮の開設
1948古在会館募金の学寮建設への流用

二食建物をめぐっては、学生の授業の隙間時間の居場所や課外活動の拠点となる学生会館、古在総長の功績を記念する学生施設である古在会館という二つの増築構想がありました。

ヒューマニティーズセンター Humanities Center

人文学と隣接諸分野の卓越した研究者により部局横断的に新たな研究協創のプラットフォームを目指すHMC。公募研究・協働研究に参画するフェローが中心となり、「つながる人文学」をテーマに一般向けに開催しているセミナーシリーズが「リエゾントーク」です。2022年4月の「香りと人文学」を皮切りに、すでに9回の開催を数えます(11月現在)。社会と未来を開くためのオープンヒューマニティーズ基金もお見知り置きください。
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt153

「東大生協第2食堂」の看板がある場所で長机に3人が座り1人がマイクを持って話している様子
営業終了後の第二食堂が「リエゾントークⅦ」の会場に。55名の聴衆が耳を傾け、質疑応答ではマニアックな質問も飛び出しました