第1163回淡青評論

七徳堂鬼瓦

刺激的な日々

年齢を重ねるにつれて、自分の性格や嗜好を言語化できるようになってきた。私の場合、良くも悪くも刺激を好む性格のようだ。山に登る、スキーをする、良い車に乗る、しなくても良い喧嘩をする、ほとんどが過去のことだが、無意識に刺激を求めてきたのだと思う。こういう性格が表に出ると周りの人はたまらないが、今はそれを平然と隠すことができるし、教授室の殻にこもれば周りに被害を及ぼすことも無い。ただ、同じような嗜好を持つ人を何となく嗅ぎ分けることはできる。

そんな私にとって、東大教員ほど幸せな身の置き場は無い。自身の過去を振り返ってもどこで何が起こったためにこんな幸運に恵まれたのか説明できないのだが、日々、意味のある新たな刺激がある。逆に意味を感じない刺激を無視しても、あまり周りから文句も言われなくなった。

この幸福感の多くの部分を作ってくれているのが、極めて能力の高い学生や研究室スタッフたちと、彼ら彼女らが見つけてくる研究上の新たな発見である。一を聞いて十を理解する学生、こちらから言わなくても意識せずにハードワークができる学生、こんな感じでやりたいとざっくりと提案すると少し考えますと言ってしばらくすると具体化の糸口を返してくる学生、未踏領域に恐れもせずに一緒に飛び込んで行ってくれる研究室員、などなど、研究室員の優れた点を挙げると枚挙に暇が無いが、こういった組織に所属していて豊かな人生感と感謝を感じない人間が居ようか。人的資源が優れている点において東大は、間違いなく世界トップクラスである。

東大はこの最大の強みを、社会にもっとアピールするべきだと思う。これをアピールしても世間から僻まれて足を引っ張られることは無いだろうし、逆にそれだけ恵まれているのに何故もっとできないのかと叱咤激励をいただけると思う。VUCAの時代において社会から東大への期待は大きく、滾々と湧き出る世界レベルの豊かな人的資源を大切にすることが、この国が世界トップと比肩し続けるための鍵であるような気がしてならない。

金井 求
(薬学系研究科)