column corner
第61回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

東大生が中国の学生とともに調べて考える

/LAP(リベラルアーツ・プログラム)の日中学生研修プログラム

国際連携
部門
白 佐立,朱 芸綺
白 佐立 特任准教授 朱 芸綺 特任助教

日中の学生が塩の世界を表現

 私は2011年から日中間の学生研修プログラムに携わっています。東大生を中国に連れて行き、中国の学生を日本に呼び、現場に触れて考えるプログラムです。以前から心がけているのは対話の機会を増やすこと。教室で話すだけでなく、ともに何かを調べたり、街で同じ景色を見て議論することを意識しています。

コロナ禍を経て、今年度、現地での活動を再開しました。南京大学の学生10人+東大生10人で11月25~28日に高知へ行き、地元の塩杜氏とうじ・田野屋銀象さんをテーマにワークショップを実施しました。ご本人に取材し、工房を見学して、塩杜氏の世界観をどう表現するのがよいかを5つのチームごとに議論。海と塩は一体だとの思いを受け、海辺で発表会を行いました。塩は料理を引き立てるという見方を踏まえて映画の助演俳優賞のような賞を設定する案、カレンダーと塩を使うレシピを融合させる案など、様々なアイデアが飛び交いました。教室とは違う、激しい潮風と波音のなかでの発表が、参加者には意外でよかったようです。

 私は2014年に始まった交流プログラム「深思北京」を2016年から担当しています。当初は様々な業界の社会人の話を聞く形でしたが、教養学部と提携した中国人民大学の学生を加え、講師の話に出た題材について学生同士が討論を行う形に変更しました。2021年は「日中Z世代生活誌」、国交回復50周年の2022年には「日中民間交流の現場の声を聴く」というテーマを設定し、オンラインと対面を組み合わせて活動を行いました。

今回は、11月22~28日に東大生8人と北京に赴き、中国人民大学の学生16人とともに活動しました。もう一つの協力者は伝統演劇の社会人団体・北京戯曲評論学会。伝統的な中国と現代中国ではイメージに乖離がありますが、実は両者は繋がっています。重層的に交差する姿を学び、日中双方を冷静に捉える視点を養うため、シンクタンクやメディア、民間・国営の企業の人に話してもらいました。

北京の街のスローガンを観察

路上観察のワークショップも行いました。北京五輪の施設の現在を調べるなど、何か問題意識を持って街を歩く試みです。ある学生は街中の標語に注目しました。中国では日本よりも頻繁に標語が見られます。たとえば「向前一小歩、文明一大歩」(小用時の一歩は小さいが文明にとっては大きな歩み)や「節約用紙」(用紙=トイレットペーパー)、習近平政権下のレストランに貼られた食べ残し禁止の標語など、北京の街に当たり前に存在する標語の意味や背景を議論しました。

 国際研修では欧米志向の学生が多く、ビジネス以外での中国への関心は低いです。2011年頃と今では少し状況が違い、中国の学生が日本の情報を多く得ている一方、東大生は中国に対する認識レベルが落ちています。研修を通じて双方のギャップを少しでも埋めたいのですが……。

 今回、私は北京側から「無口な学生が多かった」と言われて少し恥ずかしい思いをしました。残念ながら、語学力もコミュニケーション力もコロナ禍以前のほうが上だったように感じます。

 国際交流が大事とは言いますが、東大全体でアジアへの興味を醸成する雰囲気が薄いことが学生の意識にも影響しているのではないかと疑いつつ、引き続き小さな一歩を積み重ねたいと思います。

海辺でプレゼンをする教員とそれを聞く参加者
❶高知のワークショップの一環として海辺で波音を聞きながらのプレゼンテーション。
木造の建物内で身振りを交えて話をする塩杜氏とそれを聞く参加者 「节约用纸」と書かれた紙の節約を促すプレート
「向前一小步 文明一大步」と書かれた一歩前に進んで用を足すことを促すプレート 「光盘行动」と書かれた食事を残さずに食べることを促すプレート
❷塩杜氏の田野屋さんに話を聞く学生たち。❸❹❺北京の路上観察ワークショップで報告されたスローガンの画像の一部。「光盘行动」(光盤行動)は「皿を空にする運動」という意味。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

column corner

ぶらり構内ショップの旅第21回

T-Lounge CREDO@本郷キャンパスの巻

ゆったり過ごせるカフェレストラン

山上会館一階にあるかどやグループのカフェレストラン「T-Lounge CREDO」。ホテルのラウンジを彷彿とさせるゆったりとした空間で、三四郎池周辺の木々を見ながらランチやお茶を楽しむことができます。コロナ禍の影響でしばらく閉店していましたが、10月23日に営業を再開しました。

二宮隼一さん
店長の二宮隼一さん

ランチメニューは欧風ビーフカレー。特徴はゴロゴロとした大き目の牛肉だと話すのは店長の二宮隼一さん。サラダとじゃがバターがついて¥1,300です。プラス¥100でコーヒーか紅茶がつくお得なドリンクセットもあります。現在は試験的な運営のためランチメニューはカレーのみですが、2024年3月からパスタ、ハンバーグ、ステーキ、メンチカツレツなど、コロナ禍前に提供していたメニューが復活する予定です。

カフェとして利用する人も多く、地下一階の「四季郷土料理かどや山上亭」で食事をしてから、お茶に立ち寄る人もいるそうです。ケーキはモンブランやダブルチーズケーキなど全部で4種類。(各¥580)。飲み物はコーヒー(¥300)、レモンティー(¥300)、愛媛県産温州みかんジュース(¥450)などがあります。歓送迎会などに利用できるパーティープランは4種類(¥6,050~/1人)。二宮さんのおすすめは愛媛から空輸する瀬戸内地魚の船盛りが含まれるプラン(¥7,150/1人)です。インパクトがある舟盛りに歓声が上がることが多いとか。平日は20名から、週末は30名から予約を受け付けています。まずは営業を再開したことを知って欲しいと話す二宮さん。「今後メニューも増やしていくので、是非いらしてください」

※価格は税込

テーブルの上にカレーライスやサラダ、コーヒーが置かれている様子
欧風ビーフカレー。じゃがバターとサラダがついて¥1,300。
営業時間
平日11:00-15:00(変更する場合があります。)
column corner

#We Change Now

第5回
男女共同参画室通信

大学運営の魅力とは~女性教員向けイベントを開催

塚原月子さん
カレイディストの塚原月子さん

2023年12月4日、伊藤国際学術研究センターにて、女性研究者キャリアアップ支援WGの主催で、30%Club大学WGの協力のもと、「大学の未来を考える女性ネットワーキング」イベントが開催されました。

30%Clubとは、世界で企業などの取締役の女性比率を高めることを目指すリーダーの集まりで、日本では9つの大学のトップが集まる「大学グループ」があり、藤井輝夫総長がチェアを務めています。

本イベントは、本学で2022年度よりスタートした「UTokyo 男女⁺協働改革 #WeChange」の行動目標Ⅱ「院生からシニアまでのシームレスな女性研究者キャリアアップ」の一環で、女性リーダー育成プログラムの1つとして行われました。

メンターとしては本学及び岩手大学やNWEC(国際女性教育会館)、30%Clubの参加大学である大阪大学、慶應義塾大学、昭和女子大学などから、副学長など大学運営に幹部としてかかわる先生方が、メンティーとしては本学の総長補佐経験者や他大学から女性教員が参加しました。

本学の総長アドバイザーも務める株式会社カレイディスト・塚原月子さまからのご講演の後、多様なご経歴のメンターの先生方から今のポジションで達成できたことについて他ではなかなか聞くことのできない貴重なお話をいただけました。

レンガ調の壁の部屋で「B」と書かれたプレートの机を囲んで議論をする参加者

その後、5名ずつのグループに分かれ、「自分が組織運営に携わったら実現したいこと」を議論してもらいました。どのグループも真剣な表情あり、笑いありで「もう少し時間がほしかった」という感想がでるほど、大変盛り上がりました。

(特任助教 中野円佳)

column corner

ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第212回

薬学系研究科・薬学部
執行チーム
大久保早織

電卓と図面を片手にオシゴト

大久保早織
安全対策のため先日移設した絵画と

20代の頃お世話になった薬学部に出戻り異動してから早3年が経とうとしています。現部署の仕事は、契約業務が大半と思って来ましたが、実際は施設関連業務がとても多く(理系学部で施設担当がいないのは薬学部だけだとか……)図面片手に日々勉強です。ただ薬学部は研究室との距離が近く、優しい先生方が多いのでとても仕事がしやすいです。2021年夏の火災対応でも、右往左往する事務室を辛抱強く支えていただきました。火災対応を経験し、思い掛けず保険や消防に詳しくなってしまいましたが、大きなピンチを本部も教員も巻き込んで協力して乗り越えられたことが大きな収穫です。施設部のご協力で復旧工事も完成間近です!

プライベートでは小4息子と年中娘のお母さんをしています。日頃の運動不足は日々の送迎2箇所で解消されると信じて、子供達と一緒に良く食べ良く寝てこれからも健やかな毎日を送っていきたいです。

会場内で「明大落語会」と書かれたパンフレットを持って着物姿で写る2人
実は着物女子で歴女です
得意ワザ:
拡声器いらずのよく通る大きな声
自分の性格:
仕事も家庭も明るく勢いで何とかする
次回執筆者のご指名:
彌冨有希子さん
次回執筆者との関係:
似たような部署を経験してる同志
次回執筆者の紹介:
向上心と行動力あってすごいです
column corner

専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第28回
工学部物理工学科4年玉腰勇司

魅力ある高校を見つけるために

私は現在、高知県土佐町で、嶺北高校がより魅力ある高校になるためのサポートをしています。

岩場にあり滝のように水が流れている川
嶺北の大自然

嶺北高校は、土佐町を含む嶺北地域唯一の高校として地域の教育を担う大切な場所です。また、高校が存在することで地域に活気が生まれます。しかし、ほんの5年前に、嶺北高校は廃校の危機に瀕していました。地域内外の人々の尽力、地域外生徒の受け入れ等により、現在の生徒数は廃校を回避できる水準まで回復しています。しかし、今後も少子化が見込まれる中で高校が存続するために、選ばれ続ける努力をする必要があります。

魅力的な高校とは何なのかを知るためには、実際に通っている生徒に意見を聞くのが一番だと考え、私達は嶺北高校に通う全校生徒を対象にワークショップを考案、開催しました。50分という短い時間で彼らの考えを最大限取り込むために構成を一から考え、また、多くの方に協力をお願いし、無事成功させることができました。同様の形式で地域住民に対してもワークショップが行われ、そのサポートも行いました。

嶺北地域の魅力にも触れることができました。偶々立ち寄ったカフェが地域住民の憩いの場で、地域の話を伺ったり、宿で私が財布を紛失した際に一緒に探していただいて、飲み物までごちそうになったり(笑)、地域の人々の温かさに触れることができました。また、滝や星々といった山間部にまたがる嶺北地域ならではの大自然を体験することができ、これらの近くにいられることは、嶺北地域の大きな魅力だと感じました。

しかし残念ながら、高校入学人数をすぐに増加させるような抜本的な解決策はありません。実際、入学者数を増やすことに成功した地域外生徒の受け入れも、同様の問題を抱える高校の参入によって競争が激しくなっています。簡単には解決せず、また改善させるのにも年単位の時間がかかる問題の難しさを肌で感じるとともに、それに取り組む地域の人々の力強さを知ることができました。

机を挟んで向かい合って話をするメンバーと学校関係者
嶺北高校校長へのヒアリング

最後の現地活動では、活動報告を行う予定です。我々が一年間で得てきた学びを形にして伝えたいと思います。

※メンバーはほかに山代晃聖(理一2年)、小野裕太(教育修士2年)

column corner

インタープリターズ・バイブル第197回

カブリ数物連携宇宙研究機構教授
科学技術コミュニケーション部門
横山広美

科学を伝えて100年

専門知、特に科学をインタープリターするのに長く、科学雑誌が大きな役割を果たしてきた。成果を取り上げられることはもちろん、雑誌の創刊を支えた本学関係者も多い。子供たちに科学を伝え続けてきた誠文堂新光社『子供の科学』(通称KoKa)が2024年で100周年を迎える。小学校高学年から中学生を対象にした科学雑誌で、小柴昌俊先生をはじめ歴代のノーベル賞受賞者も愛読してきたと聞く。子供に読めるように漢字にはルビがふってあり、親しみやすいカラフルなゆるふわキャラや漫画が掲載されているが、本格的に取材された記事の中身は濃い。初代編集長は原田三夫氏。本学理学部を卒業後に教員を経て、科学ジャーナリストとなり多くの科学雑誌を創刊した。2月号では悲しいお知らせがあった。紙飛行機の付録連載を49年間、続けた二宮康明氏が亡くなった。冊子の最後にいつも紙飛行機の厚紙が入っていて、それを楽しみにしていた読者も多かったであろう。

子供向け科学雑誌として多くの人に親しまれたのが、学研から出ていた科学(『〇年の科学』シリーズ)、である。一度は休刊し、その間に科学の読者だった大人をターゲットにした付録ボックスとセットの『大人の科学』が人気を得た。シルク印刷キットやテルミンmini、卓上ロボット掃除機など、なつかしくも楽しいキットが満載でたびたび話題になった。2022年には「世界とつながるほんもの体験キット」という言葉を掲げ、『学研の科学』として再スタートしている。「水素エネルギーロケット」や「ときめく実験鉱物と岩石標本」などワクワクする内容だ。

両者の共通点は、雑誌という紙媒体のメディアでありながら、科学の楽しみに欠かせない手を動かす楽しさを伝えていることだと思う。『学研の科学』はキットをメインに、KoKaは紙面で工作やプログラミングの方法を伝えることで、それを促している。ネットとの連動や、女性が以前よりも多く登場するなど時代に合わせて変化をしている。

科学雑誌では他にも『ニュートン』が有名である。初代の編集長は理学部を退官した竹内均氏。私が学生時代であったときには、中国、韓国版も出ており、共同研究をしている韓国の学生から日本の雑誌だとなかなか信じてもらえなかった。洗練されたスタイルから、ナショナルジオグラフィックのように欧米の雑誌だと思っていたようだ。大人向けとしては『日経サイエンス』や岩波の『科学』がある。日本の科学雑誌は90年代に廃刊が続き、現状も寂しい状況が続いている。科学を楽しむ心をはぐくむメディアの今後に期待したい。

column corner

ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第51回

社会連携本部渉外部門
アソシエイト・ディレクター
古林祐佳

「推し活」で広がる支援の輪

日本人の2人に1人がかかる可能性があるといわれる「がん」ですが、中でも早期発見や治療が難しい難治性がんの根本的治療法の確立は全ての人々にとっての悲願です。東京大学基金には、現在、難治性がんの治療に関する研究・開発への寄付募集がいくつかあり、これまで当事者やご家族、お知り合い、医療関係者を中心にご寄付をお寄せいただいています。新たな支援の広がりとして今回ご紹介したいのは、20~30代の医療漫画ファンを中心とした推し活(自分のお気に入りのキャラクターなどを応援する活動)の一環としてのご寄付です。

3種の難治性がんでまとめて寄付募集をしていた「スキルス胃癌、膵癌、大腸癌に対する腹腔内化学療法の研究開発基金」は、昨年10月より、それぞれの癌に特化して再スタートしました。「スキルス胃癌および腹膜播種を伴う胃癌に対する腹腔内化学療法の研究開発基金」(以下、スキルス胃癌基金)には、これまでの主な寄付者層ではない方々からのご寄付が続けて入り始めました。「K2」という医療漫画の読者の方々でした。

K2は医療漫画の金字塔としてよく知られているのでご存じの方も多いかもしれませんが、主要キャラクターの一人が患うスキルス胃癌を、「スキルス胃癌基金」が研究開発を進めている腹腔内化学療法で治療するシーンが描かれています。このキャラクターへのファンの強い思いが、現実世界での治療法確立への願いとなり寄付につながったのです。ファンによるSNSを通じた呼びかけは広く拡散し、まさに「推し活」から広がった「支援の輪」でした。

ある寄付者の方は「医療漫画K2を読み、スキルス胃癌のことを知りました。自分にも何かできることはないかと思っていたところ、SNSでこの寄付募集を知りました」というメッセージをお寄せくださいました。スキルス胃癌基金だけではなく、「何かできることはないか」と思っている方々に東大基金を知っていただき推し活をしてくださる東大ファンを増やしていきたいと思います。

スキルス胃癌基金は
こちらから→
東京大学基金のスキルス胃癌基金のQRコード
腹腔内化学療法とは、癌の転移(腹膜播種)が散らばっているお腹の中に抗癌剤を直接注入する治療法です。一般的な静脈内注射より極めて多い量の薬を腹膜播種に届けることができます
腹部からチューブを通して大腸に抗癌剤を注入している様子を示したイラスト