

第30回
岩手県大槌町にある大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に、社会科学研究所とタッグを組んで行う地域連携プロジェクト―海をベースにしたローカルアイデンティティの再構築を通じ、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み―です。研究機関であると同時に地域社会の一員としての役割を果たすべく、活動を展開しています。
奄美の島と海と希望


うがみんしょーらん(奄美の言葉で「こんにちは」)。こちら(右写真)は奄美群島のきれいな海の写真です。奄美大島南部を東西に貫く大島海峡を写しています。向こうに見えるのは加計呂麻島です。医科学研究所の奄美病害動物研究施設の近くから撮ったもので、最近は毎月のように訪れている場所です。
日本の南北に長い国土に、東京大学の施設が点在しています。数ある施設の中で一番南にあるのが医科学研究所の奄美病害動物研究施設です。奄美大島の一番大きな街である奄美市名瀬から1時間半ほどかけて車で南に移動した、大島海峡に面する瀬戸内町古仁屋にあります。熱帯性の風土病であるフィラリア症の研究やハブ咬症の治療法の開発など多くの成果を上げている研究拠点です。大気海洋研究所に所属している私がなぜこの施設を訪れているかというと、“ 海と希望の学校in奄美”のプロジェクトも含んだFSI事業でもある“亜熱帯・Kuroshio研究拠点の形成と展開”に協働で取り組ませていただいているためです。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書やパリ協定に関する記事など温暖化に関する研究やニュースを目にすることが多いかと思います。温暖化の進行に伴って亜熱帯域の北方への拡大が懸念され、日本が“亜熱帯化”すると言われているのです。それに伴う環境変動と生物相の変化をしっかりと記述していくことを目的の一つに開始された事業です。その中で、研究活動とともに“海と希望の学校in奄美”の活動も開始しました。奄美大島だけではなく奄美群島の12市町村を一つ一つ周り、地元の方々の意見を伺った結果、高校生の活動のサポートを行おうという考えに至りました。今後温暖化がさらに進んだときに、社会の中核として活躍しているであろう高校生たちに向けたプロジェクトです。自然や文化などについて関心を持ってもらうために、生徒さんたちの探究学習をサポートしたり、様々なメディアから流れてくる科学や環境に関するニュースに興味を持ち、その内容について判断できるためのサイエンスリテラシーの向上に取り組んでいます。地元に大学がない奄美の方々の期待は大きく、毎年秋に行っているシンポジウムでは、首長さんを初め教育機関や一般の方々の発表も多く、熱量の高さを感じずにはいられません。東大の学内でも大気海洋研究所や医科研のみならず、文学部や新領域、農学系や理学系、総合文化研究科や情報学環などの先生方にも入っていただき、幅広い議論の場となっています。もちろん、高校生だけに限った活動ではなく、WWFや日本自然保護協会などと共同で、小学生向けに“さかなクン”と一緒に講演会を行なったり、地元のダイバーとサンゴ礁の状況チェックの活動を行なったりもしています。また、地元の鹿児島大学や九州大学、亜熱帯研究で先行する琉球大学とも連携しながらの取り組みを進めるとともに、教育学に関するコホート研究を徳之島で続けられている慶応義塾大学のグループなどとも連携を進めているところです。奄美の高校生に広くサポートができるよう、奄美群島の高校を結んで大学等と連携を行う“奄美群島高校探究コンソーシアム”も立ち上がりつつあります。
三陸での取り組みと異なり、大気海洋研究所のスタッフが常駐できる設備がないため、同様の規模で機動性を持った活動ができないのが残念なところです。しかし、海と希望の学校in奄美がローカルアイデンティティーについての高校生や若者の認識の向上などに資するべく活動を広げていければと思っています。ご協力いただける先生方がいらっしゃいましたらご一報ください。ありがっさまりょーた(ありがとうございました)。


