第1164回淡青評論

七徳堂鬼瓦

Bridging old and new using artificial intelligence
(人工知能による温故知新)

言語生成AIが話題である。文章要約、翻訳や解説など様々な作業が、可能になっている。この原稿を執筆している段階では、生成AIを教育や研究に利用することの是非が議論されている。特に、「本質を考える力が失われ、AIから与えられた(誤りを含む)情報を鵜呑みにして、それをそのまま使うだけの人材を生み出すのでは」という懸念が強い。

ここで、自分の研究室の学生と打ち合わせをしたときのエピソードをご紹介したい。その学生は、ある系列データの解析手法について悩んでいた。系列データ解析というと、フーリエ解析に代表されるように、データを周波数分解し三角関数の波の重ね合わせで表現する手法が一般的であるが、その学生はウェーブレットという数学的手法を利用した方法を持ってきた。ウェーブレットは、系列信号を短い波の重ね合わせで表現する手法である。ウェーブレットは古くからある重要な手法だが、改めて振り返ると、限られた講義時間の中では他の最新手法を説明する時間が増え、ウェーブレットを丁寧に教える機会が減っていたのも事実である。そんなことが頭をよぎり、私は思わず「よくこんな懐かしい手法を見つけたね」と発言したのであるが、学生は「生成AIと議論してきました」と言って私を驚かせた。

検索エンジンはキーワードが指定できれば、欲しい情報を入手できる。いわゆる「辞書の順引き」である。しかし、キーワードを知らなければ検索エンジンは無力になる。上記の学生は生成AIを使い、やりたいことを記述し生成AIからキーワードを引き出すという「辞書の逆引き」の使い方をしてきたのである。学問とは、新しい知識や理論を発見し、それを整理・体系化したものである。知識や理論は存在を知らなければ活用することはできない。学術的発展という視点で見れば、生成AIは新たな可能性を我々に与えてくれたのではないかと感じずにはいられない。

なお、本原稿の執筆には生成AIは一切使用していない。

山崎俊彦
(情報理工学系研究科)