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第62回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

映画で描く科学コミュニケーションの可能性

/科学技術インタープリター養成プログラム2023年度修了生作品

宮坂一輝
宮坂一輝 総合文化研究科 修士2年

日常のなかの気候変動を描く

――映画を修論のテーマにしたんですね。

「専門は理論物理学で、すごく簡単に言うと重力の研究です。理論物理だけではなく、2つの主軸を持ちたいとの思いから映画もつくってきました。副専攻での修了研究で取り上げた映画『温帯の君へ』の脚本は、2年くらいかけて執筆していたものです。気候変動という言葉を使わずに気候変動を表現した映画をつくろうと取り組んできたのですが、納得がいかず書いては修正するという作業を繰り返していました。方向性を変えるしかないなと思っていたタイミングで副専攻のテーマを決めることになり、脚本を全面的に書き直すことにしました」

「この映画では恋愛を通じて気候変動問題を描いています。大学生カップルの一方が気候変動に目覚め、認識や考え方の違いで衝突し、その後互いの認識を理解する。科学コミュニケーションでいう「欠如モデル」的な、自文化中心主義を乗り越えるまでの物語です。気候変動に関する現状に目を向けると、積極的に行動する人を揶揄したり、行動しない人を攻撃したりという対立が見られます。そこで争っているのは生産性がありません。結局どこかで解決しなければいけないタイミングがくるわけで、そこに向かって我々はどうすべきか考えるべきじゃないかということが出発点です」

――多くの層にリーチするための工夫は?

「私たちが普段しているような会話や人間関係の日常を通して気候変動を描く、というアプローチをとりました。気候変動という科学的なテーマを描こうと思うと、気候変動に関する情報をセリフの中に入れてしまい、押しつけがましくなってしまったりします。登場人物を私たちの代弁者として描くのではなく、受け手側に近い感覚をもつ登場人物を置いて、その登場人物同士のコミュニケーションのなかで気候変動を描くということを意識しました」

「気候変動に関心あるないに関わらず楽しめる映画になっていると思うので、多くの人に見ていただきたいです」

作品は劇場公開する予定

――映画を通して伝えたいことは?

「見た後にポジティブな気持ちになってもらえたらと思います。そしてそこに、『自分たちとつながっていることなのでは』といった何かしら引っかかりがあってほしい。映画では気候変動を描いていますが、恋愛でも、友人関係でも、どこかで認識の違いというものは必ずあります。そこをコミュニケーションを通して乗り越えるということを繰り返していけば、やがては社会的な動きにつながっていくのではないかと考えています」

──今後について教えてください。

「この副専攻では多様なバックグラウンドを持つ人たちと出会い、議論を重ね、自分の中の知見を広げることができました。科学コミュニケーションは必ずしも科学だけではなく、政治や社会問題のように『難しい』とか『理解できない』と思われている物事一般に通じる考え方です。これからの時代に必要な科学の視点だと思います。4月に一般企業に就職しますが、社会に出る直前にそれを学べたことは自分の中で大きいです。映画は今後も撮り続けていきたいです。『温帯の君へ』は今年4月に完成する予定です。少し先になるかと思いますが、劇場公開もする予定なので、ぜひ見にきてください」

❶「温帯の君へ Temperate」というタイトルと、「変わらないと思っていた。君も、未来も。」のキャッチコピー。また、木や建物の手前で、左から順に、男性、女性、女性が並んでいる
❶映画『温帯の君へ』。70~80分の映画になる予定です。クラウドファンディングで製作支援を呼びかけたところ、73名から約50万円の支援が集まりました。
❷居酒屋のようなカウンターテーブルに座る男性2人。その周りにライトやタブレットなどの撮影機材がある ❸部屋のベッドで寝ている男性と起き上がっている女性。その周りにカメラなどの撮影機材がある
❹公園のような場所で木の椅子に座ってモニターを見ている宮坂さん ❺書棚の手前で、左から順に、定松先生、宮坂さん、内田先生が並んでいる
❷❸映画のメイキング❹撮影現場での宮坂さん❺指導教員の内田麻理香先生(右)、定松淳先生(左)と。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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いちょうの部屋 学内マスコット放談第15回

ぴあもぐ
ピアサポマーク
今回のゲスト ぴあもぐの巻 ピアサポートルーム・マスコットキャラクター
本名は「ぴあさぽのもぐら」。支え合いのキャンパスを目指す学生たちをゆるっと支えて3年半。趣味は拾った種を育てること。50cmもの地上部を擁するという巨大生物。

いちょう 2020年11月生まれだってね。もぐらなの?

ぴあもぐ …う…ん…も…ぐ…ら…だ…よ…。

代理人 すいません、あまりしゃべらない子なので代弁します。ピアサポートルームのマスコットが欲しいということになって室内で公募し、7候補から投票で選ばれました。次点の野菜系キャラとは1票差でした。

 こう見えて、そんな接戦を勝ち抜いていたとは!掌の印と、頭に生えた草がチャームポイントだね。

 じょうろで種に水をかけて育てる室のロゴを見ているうちに芽が出ました。喜ぶときれいな花が咲くという噂も聞きますが、まだ見たことはありません。

 そういえば、前にうさぎのマスコットもいたよね。9年前の本誌(1472号)で見たよ。……解雇された?

 ぴあうさぎたちは、「マスコット(仮)」でした。卯年だった2023年の年賀状には登場していましたよ。

 先輩を差し置いての就任とは、見た目に似合わずやり手だね。いつもどんな活動をしているの?

 各キャンパスにひょっこり現れて、学生の生活を見守ったり、学生の食事の様子を物欲しそうに見たり。イベントのポスターやルーム内の書類には必ず登場し、栞やブックカバーや付箋などの配布グッズもあります。UTokyo Slackのリアクションにもなっているんですよ。

 手製の人形もあって羨ましいなあ。第二形態?

 そもそもは、「よもやま語らいゼミ」というフリートークの場で話者が誰かを示すためにピアサポーター有志が作ったものです。ワークショップで何か作りたい場合の題材としても重宝されています(↓写真)。

「ぴあもぐ」のグッズとして、ぬいぐるみ、うちわ、ちょうちん、お面が机の上に乗っている様子

 ふーん。いろいろ愛されているみたいで、いいですね(妬)。

 昨年は札幌に行って全国の大学のピアサポーターが集う研修会「ぴあのわ」に参加しました。会場にいた東工大のマスコット「ピアサポーターマン」に話しかけようとして、諦めたようですが。

 ご活躍だね。次は着ぐるみも作っちゃったり?

 アピール力を高めるためにぜひ欲しいですね。ただ、地面から下の部分は誰も見たことがなく、全身の着ぐるみとなると仕上げるのが難しいかもしれません。

 今年は辰年で、もぐらは漢字で書けば土竜。ぴあもぐくんのますますの活躍を嫉妬含みで祈っているよ。

 …の…ん…び…り…や…る…よ…。

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#We Change Now

第6回
男女共同参画室通信

30% Clubの9大学が声明を発表

「30% Club Japan 大学グループ」「9大学トップによる「多様性ある大学運営」のためのコミットメント」「2024年2月」と書かれた表紙
コミットメントは
こちらから↓
30% ClubのコミットメントのQRコード

2024年2月、30% Club Japan 大学グループに加入している9大学のトップ(総長/学長/塾長)が、「多様性のある大学運営」に向けたコミットメントを発表しました。

30% Clubとは、企業の意思決定機関における健全なジェンダー・バランスを実現することを目指す企業や組織のトップによる集まりで、2010年に英国で創設されました。2019年に30% Club Japanが立ち上がり、2020年に大学グループが発足しました。2021年からは本学の藤井輝夫総長がチェア、男女共同参画室が事務局を務めています。

今回発表したコミットメントは、大学グループに参加しているトップ1人1人が「多様性のある大学運営」にむけた具体的な目標を言語化することによって、実現への道筋を作ることを目指しています。

藤井総長は、「最後に総長から一言!」のコーナーで、次のようなメッセージを出しています。

「性別、国籍、障害の有無など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、東京大学で、自分らしく、そして安心して活動し、実力を発揮できるようにするのは、総長としての私の役目だと感じています。東京大学は、対話を通した創造、多様性と包摂性を大切にし、世界の誰もが来たくなる大学を創り上げていきます。

●30% Club Japan 9大学のトップ
東京大学総長(チェア) 藤井輝夫
大阪大学総長 西尾章治郎
お茶の水女子大学学長 佐々木泰子
慶應義塾長 伊藤公平
昭和女子大学総長 坂東眞理子
上智大学学長 曄道佳明
津田塾大学学長 髙橋裕子
同志社大学学長 植木朝子
新潟大学学長 牛木辰男
(チェアを除き、大学名・五十音順)

ジェンダー・バランスについて、本学は現在10名の理事のうち4名が女性であるものの、学部長・研究科長や教授、そして学生のそれぞれにおいて女性の割合は極めて少なく、非常に特殊な状況になっています。世界に比べても日本のジェンダーパリティ達成は不十分ですので、東京大学としてもより多くの女性の皆さんに活躍いただけるよう、引き続きあらゆる手段を尽くしてまいる所存です」

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第214回

本部経営戦略課
経営戦略チーム
府川智行

過去も現在も未来も考えるオシゴト

府川智行
完成したての150周年応援パネルをお借りして

2020年4月に産学協創部の立ち上げメンバーとして労働保険料の計算から床下の配線作業まで「何でも屋」として過ごした3年間を経て昨年4月に現在の部署に異動となりました。現部署では幅広い様々な企画調整業務をしていて、違う形ですが引き続き「何でも屋」をしている気がしています。

チームでは国際卓越研究大学への申請、College of Design(仮称)構想や国立大学法人法改正対応など幅広いトピックを扱います。私が主に担当しているのは未来社会協創推進本部(4月からUTokyo Compass推進会議に改組予定)、150周年記念事業です。優秀なチームのみなさんに助けて頂きながら仕事を進めています。

2027年に東京大学は創立150周年を迎えます。ありとあらゆる形で「象牙の塔」と「生ける社会」の結び目を形づくろうとしてきた歴史をかえりみて、現在・未来へ向けて「響存」する大学の姿をのぞみつつ、学外のみなさんとともに祝う機会を準備していければと考えています。

MacBookの上に置かれたリラックマのティッシュケースとコリラックマのぬいぐるみ
ワタシの「推し」ゴトです
得意ワザ:
何分でも話し続けられる(話が長いだけ...)
自分の性格:
リラックマ的な生活を目指して修行中
次回執筆者のご指名:
矢崎恵一さん
次回執筆者との関係:
産学協創部立ち上げメンバー
次回執筆者の紹介:
温厚篤実でよく気が回る仕事人
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第30回
農学部4年石川龍太

二つの町の未来に向けて

「山中醤油」と書かれた木の一枚板看板と醤油の小瓶を持つ5人のメンバー
地域を盛り上げる醬油蔵での醬油作り体験

私たちのチームでは、鹿児島県の大隅半島に位置する大崎町と東串良町という二つの町と連携し、「地域と共に社会課題に挑む関係人口の創出」をテーマに、両町への施策提案を目標に1年間活動してきました。

計3回の現地活動とオンラインでの聴き取りを経て、農業地帯ならではの「食の魅力」や、ふるさと納税による特産品の全国展開といった二つの町に共通する特長もあれば、アウトドア、狩猟、SDGs政策など大崎町と東串良町のそれぞれが重視する分野もあることが分かりました。今回の施策提案では、役場の方から学生ならではの新しいアイデアを求められていることもあり、チーム内の5人がそれぞれ注目した点に関して一つずつ施策をつくりあげています。5人の中には、農業やアウトドアなどの特定の分野を活かした関係人口創出を提案するメンバーのほか、「地域おこし協力隊」など町を取り巻く制度面から地域をより良くする施策を考えているメンバーもいて、幅の広い提案になると考えています。

これまでの活動に際しては、役場の方や地域の方々にいつも温かく歓迎していただき、大変感謝しています。牛肉や鰻など地元の魅力溢れる食事でもてなしていただいたことや、1.5万人以上が来場したKagoshima Outside Festivalのお手伝い、大崎町の先進的なSDGs施策に触れたことなど、印象に残るものばかりでした。

瓦屋根の平屋建ての建物の前に立つ5人のメンバー
現地活動中は町の移住体験住宅に宿泊しました

現地で昼間の活動のみならず夜の食事会でもたくさんの方々とお話しできたことで、地域により深く入り込み、実のある施策提案につなげることができたと感じています。自分自身、この1年間を経て大崎町と東串良町に愛着が湧き、活動終了後も何度も行きたいと思う場所になりました。多くの魅力をもった二つの町の未来に向けて、今回提案する施策が実際に実現することを目指し、3月の現地発表会に向けた準備をしっかりと進めていきたいです。

※メンバーはほかに木戸友仁(理一2年)、水谷玲太(理一2年)、佐藤光駿(人文社会系研究科修士1年)、岡本稜大(公共政策専門職2年)

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インタープリターズ・バイブル第199回

総合文化研究科客員教授
科学技術コミュニケーション部門
小松美彦

小津映画から顧みる

世界の巨匠、小津安二郎監督の名作のひとつに《彼岸花》(1958年)がある。結婚をめぐる父娘の確執と情愛を主軸にしたものである(小津初のカラー作品)。

父(佐分利信)は長女節子(有馬稲子)の嫁ぎ先をなかば決めており、母(田中絹代)もその意に従っている。そんなある日、父の前に見知らぬ青年(佐田啓二)が現れ、節子との結婚の許しを請うたのであった。かくて、父娘の関係は一挙に険悪になる。「私、自分で自分の幸せを探しちゃいけないんでしょうか」と娘。父は父で、「おまえがみすみす不幸になるの、黙って見ちゃいられないんだ」と寂声を返す。

最終的に父は娘の自由な結婚を割り切れないながらも受け容れるのだが、映画の前半には全体の伏線をなし、社会的にも物議をかもしたシーンがある。家族旅行で訪れた芦ノ湖の畔で、田中絹代が佐分利信に“防空壕の幸せ”を語る場面である。

「あたしねぇ、時々そう思うんだけど、戦争中敵の飛行機が来ると、よくみんなで急いで防空壕に駆け込んだわね。節子はまだ小学校に入ったばっかりだし、久子はやっと歩けるくらいで、親子4人真っ暗な中で死ねばこのまま一緒だと思ったことあったじゃないの。戦争は嫌だったけど、時々あの時のことがふと懐かしくなることあるの。〔…〕あんなに親子4人がひとつになれたことなかったもの」。

さて、科学コミュニケーションにあって、通常は「伝達する」を意味する英語の“communicate”の原義は、「分かち合う」「共にする」である。しかも、「伝達」の語意に派生した後も、その対象は情報や思想から聖体(拝領)へと広がっている。つまり、聖体(パンと葡萄酒)が伝達されることで、人はイエスと霊肉を分かち合い、共にし、そしてイエスとひとつになってきたのである。

しかし、《彼岸花》が描いたように、「共に」と「自由」は根本的に相容れないのだろうか。幸せな「共に」は、「自由」を奪われた防空壕の逆説の中にしか存在しないのだろうか。小津との接点など皆無に思えるマルクスは、実は小津と同様のことを述べている。

「自由という人権は、人間と人間との結合にもとづくものではなく、むしろ人間と人間との分離にもとづいている。それは、このような分離の権利であり、局限された個人の権利、自己に局限された個人の権利である」(「ユダヤ人問題に寄せて」)。

では、あらためて顧みるなら、科学コミュニケーションは、コミュニケーションにまつわる以上の問題をいかに考え、何処いずこに向かおうとしているのであろうか。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第53回

社会連携本部渉外部門
シニア・ディレクター
西 大治郎

GNBでファンドレイジングを議論

東京大学には、グローバル・ナビゲーション・ボード (UTokyo Global Navigation Board:GNB) という、本学がUTokyo Compassを指針としてグローバルに実装・実働していく上での助言、アイデア、提案等について議論するための国際的なエキスパートにより構成された総長の諮問会議が設置されています。

2月14日に、伊藤国際学術研究センターにてGNB会議が開催され、私はファンドレイジング担当として陪席しました。対面開催は藤井輝夫総長下では初、約4年ぶりの開催です。

テーマは「海外ファンドレイジング」。日本、アジア、米国、欧州からの7名のボードメンバーを招き、相原博昭理事・菅野暁CFO・福島毅CIOによる本学の財務戦略およびエンダウメントの拡充戦略についての説明、泊幸秀教授・竹内昌治教授の両総長補佐による、東大の国内外におけるファンドレイジングの現状や海外大学との比較、津田敦理事・三島龍渉外部門長による、東大の渉外活動について、染谷隆夫副学長による東大のスタートアップ戦略についての各プレゼンテーションに加え、各メンバーを交えた活発な意見交換が行われました。

参考になる話、勉強になる内容ばかりで全てはここには書ききれませんが、中でも最も印象に残っているのは、どのボードメンバーの口からも“アラムナイ”“Alumni”“卒業生”という言葉が出てきたこと。国内外多種多様なステークホルダーに向けて東大への支援を呼び掛けるのはとても大切なことだが同時に、欧米のどの大学でも最も強力な支援者は卒業生であり、彼ら彼女らとのネットワーキングを進めることが極めて大切だと。その他には、“東京大学が持つgemsは?jewelは?それを明確に意識して訴えていくべきだ”という点が強調されていたのも印象的でした

どちらも我々が日々心掛けていることではあるものの、まだまだ道半ばです。それらの重要性を改めて確認するとともに更に徹底しつつ、学内の皆様にも協力いただきながら150周年に向けファンドレイジングに一層邁進していくべく、気が引き締まる思いで会場を後にしました。

レンガ調の壁の部屋の中にコの字型に配置された長机があり、奥で挨拶をする藤井総長と手前に座る参加者
GNBについては
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税法上の優遇措置のQRコード

東京大学基金事務局(本部渉外課)

gemはjewelに加工する前の原石(gemstone)の意