第1165回
自律分散型組織(DAO)と大学
先日、DAO UTokyoという国際カンファレンスが開催された。DAOとは「Decentralized Autonomous Organizations」の略で、ブロックチェーン技術を活用して分散的に業務処理を行う組織を意味する。ハーバード大学で開催されたDAO Harvardに続く国際イベントで、アジア諸国や欧米諸国からも参加があり、DAOを巡る最新動向や政策的課題など多岐に渡る論点について議論が交わされた。
DAOは特定の管理者が決定権限を持つ階層型組織に対して、自律的・分散的に業務を実行し、投票などの手続きで意思決定を行うことがその特徴である。ビットコイン誕生時から存在するコンセプトであるが、仮想通貨の運用管理に加え、最近では分散型金融、メタバース、自治体が関わる地域活性化など、多様な場面で活用されている。
DAOの評価や成功要因に関する研究は途上であるものの、比較的順調に運営されているプロジェクトには以下のような特徴があるようだ。第一に、明確なプロトコル(手順)によって業務や意思決定方法が定義されているため、不確実性が下がり、参加者が安心して参加することができる。第二に、有効なインセンティブが設定されており、参加者は貢献度に応じた報酬を得ることができる。第三に、透明性が担保されていて、資源の配布や流通などの運用状況を誰もが確認することができる。
ところで、大学も一般企業と比較すると、自律分散性を持つ組織であると言えるだろう。社会との関係において大学の自律性には長い議論の歴史があり、また各学部・教員にも組織全体との関係において自律性をみることができる。自律分散型組織を観察しつつ、研究プロジェクトや大学の運営方法を考えるのも面白い思考実験である。
また、ブロックチェーン技術は「信頼のインターネット」とも呼ばれる。多様なステークホルダーが集まりフラットに議論できるのも、「大学」という場が信頼のプラットフォームとして機能しているからだということを実感する機会でもあった。
高木聡一郎
(情報学環)