新役員等の略歴と就任挨拶
みずからの個別性を発揮する学生を育む
2021年度の東京大学入学式で教養学部長として式辞を述べたわたしは、聖アウグスティヌスのことばを引用しました。それは、もし万物がみな同じであったなら、万物は存在しないことになるであろうということばでした。
ここには万物の多様性が語られています。あなたとわたしとが同一であったなら、あなたもわたしも存在しないことになる。あなたが存在し、わたしが存在するためには、あなたとわたしとの非同一性が必要である。これを万物に敷衍して述べれば、そこには万物の多様性が必要である。
このたび、教育と情報を担当として、理事・副学長に就任しました。本学における研究の多様性。これについては論を待ちません。他方で教育、とくに学部教育については、学生の同質化傾向が夙に論じられてきました。
わたしが構想するのは、同質化傾向に屈することなく、前期課程・後期課程・大学院を通じて、みずからの個別性を発揮しようとする学生を育むことです。他者と同一であるがゆえに存在しないことになってしまうのではなく、他者と違うからこそみずからも、そして他者をも独自の存在として活かすことができるような学生を育成することです。
たんなる雑多なものの寄せ集めでなく、それが活力となるような多様性。そういう学生を育むために、どのような教育と、それを支える制度的な基盤が必要なのか。そしてまた、そのような教育を施すためには、どのような情報施策を構想し、実現すべきなのか。UTokyo Compassに沿った中長期的な観点から考えたいと思います。
- 昭和59年3月
- 本学教養学部教養学科卒業
- 昭和61年3月
- 本学社会学研究科修士課程修了
- 平成6年3月
- 本学総合文化研究科博士課程単位取得退学
- 平成6年7月
- 本学総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)
- 平成12年4月
- 本学総合文化研究科助教授
- 平成24年4月
- 本学総合文化研究科教授
- 令和3年4月
- 本学総合文化研究科長・教養学部長
- 令和5年4月
- 本学執行役・副学長
- 専門分野:
- 文化人類学研究
- 研究内容:
- 1) 森山 工『贈与と聖物─マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践』東京大学出版会,2021年.2) 森山 工『「贈与論」の思想─マルセル・モースと〈混ざりあい〉の倫理』インスクリプト,2022年.
「大学経営の高度化」に向けて
このたび財務(CFO(最高財務責任者))および資産活用担当の理事職を拝命しました。昨年8月1日に執行役CFOとして着任してから、新しい財務経営体制、またその中におけるCFOの役割とは何かという課題について考えてきました。欧米アジア主要大学の体制を調査し、また本学が目指すエンダウメント型経営を既に実践しているスタンフォード等米国の主要5大学を訪れ、CFO、プロボスト(最高教学責任者)等と行った議論をベースに検討してきましたが、4月1日付で新たにCFOオフィスを立ち上げ、体制整備については一区切りがつきました。これからは実践のステージに入り、4月に改訂されたUTokyo Compass (ver.2.0)における「自律的で創造的な大学モデルの構築」を、財務経営の高度化を実現することによって推進することになります。私の経歴について簡単に述べますと、41年の長きにわたってみずほフィナンシャルグループにおいて資産運用業務や国際業務に従事してきました。また直近の5年間は経営全般に携わってきました。昨年8月に東京大学に戻ってきた機会を利用して、素晴らしい先生方と一緒に仕事をし、またその著書を拝読したりすることで、東京大学という恵まれた環境で仕事ができることを存分に楽しんでいます。経済・社会情勢の変化が激しい中、足元の厳しい財務状況を跳ね返し、東京大学の研究・教育における国際的な競争力を向上させることに、安定した財務経営の実現を通じて貢献できれば幸いです。
- 昭和57年3月
- 本学経済学部卒業
- 昭和57年4月
- (株)日本興業銀行(現・みずほ銀行) 入行
- 昭和61年6月
- マサチューセッツ工科大学経営大学院 修了(経営学専攻)
- 平成24年4月
- (株)みずほ銀行・(株)みずほコーポレート銀行常務執行役員 投資銀行ユニット長兼アセットマネジメントユニット長
- 平成26年6月
- (株)みずほフィナンシャルグループ執行役専務 国際・投資銀行・運用戦略・経営管理統括
- 平成28年4月
- 同グループ執行役専務 グローバルコーポレートカンパニー長
- 平成29年4月
- 同グループ執行役副社長
- 平成30年4月
- アセットマネジメントOne(株)代表取締役社長
- 令和5年8月
- 本学執行役
- 趣味:
- 農家に泊まりながら農村を旅すること
誰もが参加したくなるDX / DX Everyone Wants to Join
大学の情報システム、DX推進担当の執行役・副学長を拝命しました。現在、情報技術は大学のすべての教職員の業務に入り込んでおり、業務の生産性や生活の質向上のためにDXが必須になっています。構成員全員が自分の生産性と生活の質向上のために仕事のやり方を考え、試し、変えていくことが大事です。また、同じやり方やツールが他の部署や部局でも使えたり、全学でやり方を一斉に変えないと意味がないというようなことも多いですから、自分の所属部署と関係ないから、というような視野の狭い考え方を廃して、意欲と能力のある人が所属や職位に限らず参加、協力していけ、貢献者が報われる仕組みが必要です。そうなるために尽力したいと思います。情報基盤センター年報 巻頭言 https://tinyurl.com/dx-itc-report にも書いているのでもしよろしければご覧ください。
I have been honored with the role of Executive Officer and Vice President, leading the Information Systems and Digital Transformation (DX) initiatives at our university. Nowadays, information technology has become a fundamental part of the work for all faculty and staff, and DX is indispensable for enhancing both productivity and quality of life. It's essential for every member to rethink their workflow, try/adapt new ways to improve their own productivity and quality of life. Often, the same methods and tools are applicable to other departments and faculties, and/or a university-wide change must be implemented for real impact. Hence, it is vital to abandon narrow-minded thinking based on your affiliation, encourage people with the passion and capability to participate and collaborate regardless of their position or department, and reward contributors. I will do my best towards this end. Please also take a look at my foreword in the Information Technology Center Annual Report for further thoughts: https://tinyurl.com/dx-itc-report
- 平成4年3月
- 本学理学部卒業
- 平成6年3月
- 本学理学系研究科修士課程修了
- 平成8年6月
- 同博士課程退学、同助手
- 平成9年7月
- 理学博士(論文)取得
- 平成11年7月
- 米国カリフォルニア大サンディエゴ校 客員研究者(在外研究員)
- 平成13年4月
- 本学情報理工学系研究科講師
- 平成14年4月
- 同助教授
- 平成27年4月
- 同教授
- 平成30年4月
- 情報基盤センター長
- 専門分野:
- 並列処理、プログラミング言語、高性能計算
- 研究内容:
- 1)Toyotaro Suzumura 他31人: “mdx: A cloud platform for supporting data science and cross-disciplinary research collaborations”2022 IEEE Intl Conf on Dependable, Autonomic and Secure Computing, Intl Conf on Pervasive Intelligence and Computing, Intl Conf on Cloud and Big Data Computing, Intl Conf on Cyber Science and Technology Congress (DASC/PiCom/CBDCom/CyberSciTech)(2022)1-7. 2)Shumpei Shiina, Kenjiro Taura: "Itoyori: Reconciling Global Address Space and Global Fork-Join Task Parallelism" Proceedings of the International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis(2023)1-15.
- 趣味:
- MLB、NFL、CNN鑑賞、プログラミング
大学独自基金で次なる「学知」の創出へ
このたび、渉外・卒業生を担当する執行役を拝命しました。150周年まで3年という時期のCDO就任に緊張を感じながらも、母校の新しい大学モデル構築に参画できるワクワク感を強く感じています。
令和元年9月より渉外部門長としてファンドレイジングに携わってきましたが、本学が掲げるビジョンを実行に移すには一層の財務力強化が不可欠です。今回の任に当たり、渉外部門のファンドレイザーのみならず、部局や本部のみなさま全員がOne Teamとなってファンドレイジングに取り組むような学内文化や仕組みづくりに取り組みたいと考えています。
学外の方々から支持を得るには、本学の現状や目指す姿を知っていただくことが必要です。私自身、民間にいた時には母校がこのような財政的状況に置かれていることを知りませんでした。卒業生を始めとする多様なステークホルダーとの対話を継続し、本学への支持や共感を増進して、結果として大学独自基金の拡充を図ります。また、前職での経験を活かした財源の多様化にも取り組みたいと思います。CFOやCVOと協働して本学の持つ見えない価値を財源に接続する取り組みにも注力します。
150周年事業やCollege of Designなどの大型プロジェクトを控え、UTokyo Compass に掲げる経営力の確立に貢献すべく、みなさまと協力しながら任務遂行に全力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
- 昭和63年3月
- 本学経済学部経営学科卒業
- 昭和63年4月
- JPモルガン入社(東京・ニューヨーク・ロンドンにて勤務)以後、モルガン・スタンレー、ドイツ証券、BNPパリバにて資本市場・投資銀行業務に従事
- 平成24年8月
- フリーランス(VC・海外証券会社顧問・ネイルサロン経営など)
- 令和元年9月
- 本学社会連携本部渉外部門長
- 専門分野:
- 金融・ファイナンス
- 趣味:
- ゴルフ、モータースポーツ・格闘技観戦、旅行
制約を独創性に転換する
かつて本学の総長特任補佐もつとめた小森田秋夫名誉教授は、人文社会科学(いわゆる文系)とは、ヒトならぬ人間とそれが構成する社会を対象とする学問全般であるとしています。そして研究対象としての人間も社会も、特定の時代(時間)と地域(空間)という「文脈」のもとにおいてのみ存在する点に、学問としての特徴を見出しています。さらにその文脈による制約こそが、研究の固有性と同時に、相対化を媒介とした普遍性の創出につながると述べています。
今回、人文社会科学研究力強化を担当することになりました。最初に申しあげたいのは、本学の人文社会科学は既に卓越した高い研究力を発揮しているということです。そのうえで研究力を強化していくには、さまざまな難関に挑戦していく必要があります。
具体的には、しばしば指摘される研究時間の確保はもちろんのこと、適度な研究資金の切れ目のない獲得、安定的な研究インフラの整備、多彩な若手研究者の養成、納得性のある研究評価の確立などが、さしあたり課題として考えられます。いずれも自然科学を含む部局と構成員のみなさんとの対話と探索なしには、到底乗り越えられないものばかりです。まずは御用聞きとして広く意見をうかがうことから始める所存です。それは仕事ではありますが、同時に楽しみでもあります。
制約を独創性に転換していく東京大学の人文社会科学の持続的発展のために尽力しますので、どうぞお力をお貸しください。
- 昭和63年3月
- 本学経済学部卒業
- 平成4年3月
- 本学経済学研究科第Ⅱ種博士課程退学
- 平成14年4月
- 本学社会科学研究所助教授
- 平成19年4月
- 本学社会科学研究所教授
- 令和3年4月
- 本学社会科学研究所長
- 専門分野:
- 労働経済学
- 研究内容:
- 1) 玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安』 中央公論新社,2001年.2) Genda, Yuji. Kondo, Ayako & Ohta,Souichi. “Long-term Effects of a Recession at Labor Market Entry in Japan and the United States.” Journal of Human Resources 45 (2010):157-196.
- 趣味:
- 立ち食い蕎麦、ラジオ
社会と共に夢咲く未来を創る
このたび、副理事として、社会連携と産学官協創を担当することになりました櫻井です。
社会には、今すぐに解決することが難しい、大きな課題が数多くあります。報道や日々の生活からそのことを切実に感じます。
社会の課題の解決には、多くの時間や労力がかかるのかもしれませんが、社会に属する地域の方々、企業や官庁など様々な組織の方々、また、私たち大学などの教育研究機関も交え、多くの人たちが繋がることで、解決へ導く大きな力が生み出せるものと信じております。
本学の知を還元し、社会との融合から新たなイノベーションを生み出すことで、だれもが平和で生きやすい世界が実現されることを希望します。私は、本学でそれを目指したすばらしい取組に関わることができることを誇りに思い、とても「ワクワク」しております。
また、このことの実現には、まずは大学の教職員の皆様が「元気」であるべきです。私は、30年以上、本学で事務の仕事をして参りましたので、特に事務職員の皆様には「元気」に仕事に取り組んでいただくことを願います。そのことも踏まえ、私は教職員の皆様と積極的にコミュニケーションを図っていきたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
私は、夢咲く未来の創出に努めていく所存です。重責を果たすため、精一杯がんばります!
- 平成4年3月
- 本学採用
- 平成24年4月
- 本学工学系・情報理工学系等財務課長
- 平成27年4月
- 本学財務部決算課長
- 平成30年4月
- 本学ニューロインテリジェンス国際研究機構事務長
- 令和3年4月
- 本学工学系・情報理工学系等事務部長
- 趣味:
- サックス、編み物、自転車
退任の挨拶
10年間を振り返り
五神前総長の最終年度と藤井総長の任期前半の計4年間、理事・副学長を務めました。着任前は工学系正副研究科長を6年務めましたので、都合10年間、本学の管理・運営そして経営に関わらせていただきました。
研究科長の任期が終わる2020年当初、世界中で新型コロナウイルスによるパンデミックが始まりました。本部での初年度は、教育、学生支援、施設、情報を担当しましたので、最初の仕事は大学のリアルな活動をオンラインで継続することでした。各部局と連携しながら、授業や会議をはじめとするあらゆる活動をオンライン化することに注力しました。藤井総長のもとでは学生支援を離れ、総務が加わり、危機管理担当、新型コロナウイルス対策タスクフォース座長として、引き続き最前線で対応にあたりました。パンデミックがいつ収束するか、誰もがわからない厳しい闘いでしたが、退任と同じタイミングでタスクフォースを解散できたことを感慨深く思います。
この3年間は、総務、施設に加え、GX推進とオープンイノベーションも担当しました。任期前半はコロナ対応を含め、ブレーキを踏む活動が中心でしたが、後半は私が得意とするアクセルを踏む活動も増えました。
4月からは工学系に戻りますが、総長特別参与として、引き続きGX推進および体制整備を担当します。これまでの活動は、いずれも全構成員との連携なしには成し遂げられないものでした。この貴重な経験を踏まえ、引き続き、本学の、そして地域、国、世界の未来に向け、貢献できればと気持ちを新たにしています。
大学からグローバル・コモンズを守る
今我々は、現在の経済システムが地球のキャパシティと衝突し、人類文明の寄ってたつところである弾力的で安定的な地球――「グローバル・コモンズ」――を失うという危機的状況にあります。これを回避するには、抜本的な経済社会システムの転換が必要です。今の世界には、グローバル・コモンズを統治するグローバルなメカニズムはありませんが、その仕組みを考え、システム転換をめざそうという大きな動きが、国際的にはあります。日本においては、アカデミアが社会を駆動することによって、その中核的な役割を果たすことができると考え、2020年8月に理事に就任して以来、「グローバル・コモンズ」推進の活動に努めてまいりました。この間、海外研究パートナーとの間で行ったリサーチを梃として、どのように国内展開していくかという活動をしてきました。国際的な環境では容易に思われたことが、日本国内では様々な障壁に阻まれて思うような結果に結びつかないこともありますが、これも変革に向けてのプロセスの一環なのであろうと思います。
新年度からは「グローバル・コモンズ担当総長特使」として皆様とともに励んでいきたいと思っております。引き続きよろしくお願い致します。
部局の力を全学の力に
法学政治学研究科長を退任後、2年間、執行役・副学長として、ガバナンス改革、利益相反、監査を担当しました。部局の側から大学本部の側に立場を移し、戸惑うことも少なくありませんでしたが、東京大学のような大規模な総合大学は、基礎単位となる部局の力が十分に発揮されてこそ、大学全体のパフォーマンスも高まると信じ、そのようなスタンスで、様々な課題と向き合うよう努めたつもりです。
UTokyo Compassが掲げる「新しい大学モデル」の実現に向け「国際卓越研究大学」の枠組みを活用するという基本方針の下、その認定要件を踏まえつつ、東京大学らしいガバナンス改革を実現することが私に与えられた最重要のミッションでしたが、遺憾ながら、道半ばで終わりました。最後に1つできたことがあるとすれば、国立大学法人法改正により一定規模以上の国立大学法人に設置が義務付けられることとなった「運営方針会議」について、透明性と包摂性を備えた全学的な設置検討の場として、「運営方針会議設置検討タスクフォース」を立ち上げたことです。年度末となる3月29日(金)に行われたその第1回会議が、私にとって執行役・副学長としても、東京大学教員としても、最後の仕事となりました。
4月以降は外部からとはなりますが、引き続き、東京大学の発展を見守りたいと思います。総長をはじめとする役員の皆様、部局長をはじめとする教員の皆様、そして何より本部の事務職員の皆様に支えられた2年間でした。心より感謝申し上げます。
多様な時間軸を持つ卓越性とグローバルキャンパス
東京大学が牽引役となるべき多様な国際化にかかわる活動に、7年間に渡り副学長として携わることができました。大きな変革を成し遂げつつある東京大学の中では微々たる活動でありながらも、組織や構成員の柔軟性をうまく生かして、新たな価値の創出とそのための将来への多くの「種を蒔く」ことに貢献できたとすれば、望外の喜びです。ご参画していただいた多くの教職員と学生に対して、さらに学内外から多大なご支援をいただきました皆様にも深く感謝を申し上げます。
戦略的なパートナーシップ大学等との分野を束ねた交流の促進は、研究、教育、社会貢献といった切り口ではない新たな創発を生み出しつつあります。戦略的パートナーシップの意義について多くの大学が深い理解と共感を持っていただいたことには、感謝を超えて驚きですらありました。例えばケンブリッジ大学では、800年を超える歴史が育んできた大学の文化に基づきつつも、分野を超えた交流を発展させていくことへの強い意欲を感じました。多様な時間軸と専門性を包含して変化するグローバル社会の中で、東京大学が卓越性を発揮して、ネットワークのハブとしてさらに成長していくことを祈念しております。
地域と卒業生とのネットワーク
2021年に卒業生と地域連携担当の副学長を拝命し、その後、企業との協創活動運営も加わり、社会連携本部と産学協創推進本部が所掌する業務に関わらせていただきました。その中でも卒業生担当として、全国各地の地域同窓会やニューヨーク銀杏会の総会での同窓生の皆様との交流はとても有意義な時間でした。海外の同窓会の皆様とは、ホームカミングデイのイベントでも交流させていただき、たくさんの刺激を受けました。2027年の東京大学創立150周年に向けた同窓生の皆様のご理解の促進にわずかでも貢献できておりましたら幸いです。
地域連携では、公開シンポジウムを企画・開催いたしました。地域連携は、大学の社会貢献であるとともに、大学の教育研究が社会によって支えられていることを、強く認識する機会でもありました。協創活動運営では、2022年から株式会社クボタとの協創事業のコーディネータを務めさせていただきました。企業との協創事業推進に向けた全学体制強化に向けた検討にも参画させていただきました。
この間の副学長としての活動では、教職員の皆様に多大なご理解・ご支援をいただきました。心よりお礼申し上げます。
学外組織との協働による知のプラットフォームでの活動
この2年、イノベーションコリドー、国際協創、放射光施設担当として、本学と学外組織との連携活動に取り組んできました。
つくば-柏-本郷イノベーションコリドーでは、産学官民のハブ拠点として、学融合・産学連携研究活動を展開しています。特に、2009年よりTIA(つくばイノベーションアリーナ)で、大学、国立研究開発法人、大学共同利用機関の枠を超えた連携活動が展開され、技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)の設立に繋がりました。今年4月からは、「TIA連携」として再スタートし、新しい知の創造と産業界への橋渡しを目指し、本学と他機関の研究者の共同提案を支援する「かけはし」事業や人材育成の取り組みが、新しい体制で継続される予定です。
また、新しい放射光施設ナノテラスも昨年12月に無事ファーストビームを達成して4月より本格稼働となり、東北大学との協定の中で、東京大学シンクロトロン放射光仙台分室での活動を展開しております。
各活動がこの4月から新しいスタートを迎えておりますが、この2年間お世話になりました本部役員、教員及び職員の皆様に心より御礼を申し上げたいと思います。
「誰もが来たくなる大学」を目指して
2019年4月より副理事として5年間勤めてまいりました。この間、柏地区事務機構長や産学協創部長を兼ねて業務を行い、多くの方々にお世話になりました。学内外の人々との対話を通じて学知を共有し、新たな知の創出により社会課題の解決につなげるという理念のもと、ビジョンを共有し組織間で連携するという「産学協創」を推進することは、東京大学の新たな取り組みであり刺激的な事柄でもありました。日立、ダイキン工業、ソフトバンク、三井不動産、日本ペイント、IBM、住友林業、TCS、クボタ、三菱地所、JR東日本、キヤノン・キヤノンメディカルシステムズとの産学協創事業のほか、日立-ICL-東大のクリーンテック・イノベーション創出に関する連携、金融庁やNHKとの包括連携、Microsoftとのパートナーシップ、TSMCとの半導体アライアンス、IBM-シカゴ大学-東大、Google-シカゴ大学-東大の量子分野のパートナーシップなど、先端研究領域における産学官のゲートウェイとしての機能を発揮する事業も数々経験することができました。関係させていただいた事業の推進がUTokyo Compassの推進に少なからず寄与できたとすれば、望外の喜びであります。「誰もが来たくなる大学」を目指し益々発展されますことを祈念いたします。
新たな財務経営に期待して
1990年4月に東京大学旧経理部に赴任し、2019年4月に経理・調達担当の副理事を拝命し、本年3月末をもって退任いたしました。
この間約34年間は、事務(部)長時代を除き、主に財務、執行関係の業務に携わり、副理事の5年間は特に調達関連の業務における業務システムの運用の向上の取り組みを行ってまいりました。
その中で旅費システムの更新については、利用率向上のためより使いやすいシステムを目標に公募実施委員会の委員長として各委員のもと議論し、新たな業者のもと更新できたことは、思い出深き事柄です。なお、運用直前に起きた新型コロナウィルスの蔓延によりその利用率が当初予定をかなり下回りその評価が十分にできなかったことは残念なことでしたが、コロナの終息に伴い、そして新たなサービス等の構築により利用が増えてきたことにほっとしました。
現在、財務関係において、組織としてCFO室の設置、事務業務としてDXを目指した財務会計システムの更新など新たな財務業務に向けた取り組みが始まっています。
これらの取り組みより、本学の働き方改革の向上や財務運営が国立大学の旗艦大学となることを祈念して、退任の挨拶とさせていただきます。
2月8日に公表された「東京大学における性的指向と性自認の多様性に関する学生のための行動ガイドライン」。このガイドラインを策定した経緯、議論、そして学内外からの大きな反響などについて、昨年4月に発足したガイドライン検討ワーキンググループ(WG)の座長を務めた森山工 理事・副学長に話を聞きました。
きっかけは
学生の声
――策定までの経緯を教えてください。
発端は学生からの声でした。毎年教養学部の学生から「戸籍名ではなく通称名を使いたい」という要望があるのですが、その手続きを制度的にもう少し使いやすくしてほしいという声がありました。これは教養学部だけではなく全学の問題なので、学生支援担当の藤垣裕子理事とダイバーシティ担当の林香里理事に相談し、ご検討いただきました。その結果、通称名だけではなく、性的指向や性自認の多様性を推進する方向で検討したほうが適切であるということになり、学生向けのガイドラインを策定することにしました。私は昨年3月まで教養学部長としてこの課題に取り組んでいたので、昨年4月に執行役になった時にWG※の座長を務めることになりました。
――WGではどんな議論がありましたか?
最初に決めたのはガイドラインの骨組みです。一般論的な導入部分があり、その後に現実に学生が直面し得るような事例集、東大が提供している情報や相談窓口などの紹介、最後に一般論に戻るという構成※です。一般論の部分は私のほか、伊藤たかね先生と額賀美紗子先生が担当しました。事例集は清水晶子先生と高野明先生です。お二人は実際の学生の動向をよくご存じなので、具体的でヴィヴィッドな例が出てきました。WGでは、皆で相互に学習し合いながら議論を組み上げました。その過程で、私の考えには「アンコンシャス・バイアスが入っている」と自覚させられることもあり、目から鱗が落ちる感じでした。
原案ができた段階で、15の教育部局を個別に訪問し、部局長などに原案を見せて意見を伺う「部局キャラバン」を行いました。多様な意見がありました。特に多かったのが、東大の女性教員や学生の比率を高めるための女性限定の支援策が、SOGI多様性の推進と相矛盾するのではないかという意見です。これは何らかの形で説明する必要性を感じたので、「おわりに」に書きました。
また、昨年11、12月に行った意見公募には延べ230件ほどの意見が集まりました。その約9割は学生からのものでした。概ね好意的でしたが、批判的なものもあり、理があると思える意見に対しては、文章の加筆修正など、こちらからのリアクションを入れました。
通称名使用手続きを
簡素化
――発端となった通称名使用の手続きは変更されましたか?
根本的に簡素化しました。これまで通称名を希望する学生は、学生相談所と保健センター精神科のそれぞれから確認書をもらう必要がありました。それを所属学部・研究科等の教務課や学生支援課に提出し、手続きに入るという流れです。ですが、通称名使用の希望は精神の病とは関係がなく、また学生相談所での確認は形式的なものだったので、この2か所での手続きは廃止しました。現在は、希望する学生が書式に記入し、確認項目にチェックを入れたものを所属部局に提出すると、承認のプロセスが始まります。
性別情報の必要性についても議論しています。大学入学共通テストの段階で性別を記載し願書を出す必要があります。その性別情報は二次試験まで、あるいは入学後の学籍簿にも引き継がれます。その性別情報をどこで断ち切れるのか。学生を「管理する」ために性別が必要ないなら、入学手続きの際に性別欄をなくす、あるいは、「男性女性どちらでもない」「答えない」という選択肢も設けるなどということも考えるべきだという議論を始めています。
学内外からの
強い関心と批判
――非常に具体的な障害の例がSNSなどで大きな反響を呼びました。
想定をはるかに超えた反応で驚きました。最初は好意的なものが多く、時間が経つと批判的な意見が出てきたと認識しています。ただ、批判的な意見も含めてこれだけ議論を呼び、話題になったこと自体に大きな意味があると思っています。
学内の意見公募もそうでしたが、多かったのは「こんなことまで規制されるのか」という意見です。これについては趣旨説明の部分に書きましたが、あくまで本学の方向性を示した「ガイドライン」であって「規則」ではないことが重要です。また、「おわりに」にあるように、「人に対して何も言わなければいい」という風土が生まれるのは望ましくありません。「萎縮する」ことは危険を伴います。UTokyo Compassの基本にすえた「対話」の重視にもそぐわない。萎縮するのではなく自分を他者に開いてオープンな議論をする、対話を続ける、ということが大事です。 これに対して「萎縮することもできないのか」という反対意見があったことは明記しておきたい。
――SOGIは「すべての東京大学構成員にかかわる」ことだと記していますね。
そこは極めて重要な点です。性的指向と性自認の多様性は、LGBTQ当事者の問題だと思ってしまうと、該当しない人は「読む必要がない」と考えるかもしれません。ですが、どういう性的指向、性自認を持つかというのは、本学構成員だけでなく全ての人に関わることです。誰一人当事者でない人はいません。みなさんに読んでいただきたい。
――関心がない人に読んでもらえますか?
学内意見公募や公表の際、学生にはUTASを通じた周知を図りました。URLをクリックすれば読めますが、読む読まないは最終的には個人の自由です。読後のレポート提出を課したり、読まないと進学できないなどと強制したりするのは、そもそもの趣旨にふさわしくない。今後は入学手続きとタイアップするなどして周知していきたいと考えています。ガイドラインも一定期間置いたら見直しを行い、適宜事例を加えたり、あるいは表現を変更したりしてアップデートしていく予定です。
SOGI関連大学で直面する典型的な障害の例
教員が講義やゼミにおいて:
- 名簿掲載名から性別を推測したグループ分けをしたり、「男子」「女子」としての発言や行動を期待したり要求したりする。
- 名簿や外見から推測される性別に従って呼称の使い分けをする(「~さん」「~くん」の使い分け)。
- 「今どきは『世の中には男と女しかいない』と言ってはいけないんでしたね」と、性の多様性について暗に揶揄する。
- 「男子はみんな彼女が欲しいだろうけれど」などのバイナリーかつ異性愛を前提とした発言をする。
- 「この研究者は私生活ではコッチの人だったんだよね」「特殊な性癖があってね」など、同性愛差別的な発言をする。
- 「最近はLGBTQとかいう人たちもいるんですよね」と、自分は無関係である風を呈示して、LGBTQ当事者が自分たちとは異質な「他者」であるようにふるまう(LGBTQ当事者の「他者化」)。
- 「人間には体の性と心の性があって」「日本は伝統的に同性愛に寛容で」など、通説のように受けとめられていながらも、現時点では学術的に不正確とされている内容を授業で発言する。
- 情報共有やファシリテートが不十分なまま、差別発言が出ることが容易に予想されるトピックで、学生同士に議論や討論をさせる。
事務職員が窓口対応等で:
- 本人の同意のないまま指導教員や授業担当教員に「登録学生が氏名を変更したいそうです」などと個人情報を共有する。
- 事務手続きで、性別について男性か女性かしか選べないことが当然であるような態度を取る。
- 周囲に聞こえるほど大きな声で「性別変更の手続きですね」「健康診断に個別配慮が必要ですね」と聞き返す等、配慮が乏しい対応をする。
学生同士の関係の中で:
- 「彼氏いないの?」「好きな女性のタイプは?」「イケメンなのに彼女ができないの?」等、バイナリーかつ異性愛を前提とした発言を行う。
- 「心が女なら自分も女子トイレに入れるよね」というなど冗談を装い、間違った情報とともに差別する。
- オリエンテーションの時期の自己紹介に出身高校を含めるように設定したり、他の人の出身校情報を勝手に公開したりする(トランジションしている学生にとってはアウティングにつながる可能性がある)。
- トランスジェンダーの学生に「普通の人と変わらないように見えるから大丈夫」と(励ますつもりでも)否定するような反応をする。
- サークルやゼミの合宿などの活動で、個別の事情に配慮せず、安心できる部屋割りや入浴に関する情報提供がなかったり、必要があれば宿泊に関する配慮を希望可能なことをあらかじめ明示しなかったりする。
- 同性同士で撮った写真や、仲の良い同性同士を指して「できてるんじゃない?」等と、同性愛を揶揄する。
- 「LGBTQは生理的に受け付けない」「女性のように振る舞う男性は気持ち悪い」「お前がホモだったら友達やめる」等、LGBTQを嫌悪・侮蔑・嘲笑の対象として取り上げる。
- SNSなどに、他人のSOGIに関わりうる情報(場合によって、出身校、所属サークル、付き合っている相手などが含まれる)を勝手に書く。
- 相手の同意を得ずに、カミングアウトした相手の性自認・性的指向を第三者に知らせる(アウティング)。
その他の関係の中で:
- カミングアウトした際の、「一時の気の迷いだ」といった非受容や拒否の態度。また、「いつか治ると思っている」といったことばのように、当事者の状況が「治し」(「治療」)の対象であるかのように捉えることで非受容や拒否を突きつけてしまう態度。
※昨年4月に立ち上げられた、森山先生を座長とする検討ワーキンググループのメンバーは、ダイバーシティ教育担当の伊藤たかね副学長(情報学環)、KOSS(駒場キャンパスSaferSpace)を立ち上げた清水晶子先生(総合文化研究科)、学生相談所所長の高野明先生(相談支援研究開発センター)、多様性やマイノリティなどを研究している総長補佐の額賀美紗子先生(教育学研究科)の5名でした。
※ガイドラインは「1.趣旨説明(付「基本用語の解説」)」「2.SOGI関連 大学生活上で直面する典型的な障害の例」「3.諸手続き・授業・学生生活」「4.おわりに」の4部構成となっています。