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第31回海と希望の学校―震災復興の先へ―

大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。

海と希望の学校が創り出すもの

大気海洋研究所附属国際・
地域連携研究センター長/教授
青山 潤
青山 潤
生き物観察について海岸で2人の子供たちに解説する大土直哉助教。 団体に地質学講座について解説する山口飛鳥准教授と松崎賢史助教。
明治三陸と昭和三陸の津波伝承碑についての説明を受ける学生。 吉祥寺のご住職から震災時に避難所となった当時をうかがっている様子。
❶観光地域づくり法人による海の生き物観察実習において、釜石市根浜海岸で子供たちに解説する大土直哉助教。❷大槌町の団体が企画した吉里吉里海岸での地質学講座で解説する山口飛鳥准教授と松崎賢史助教。❸社会連携本部主催の体験活動プログラムで、一般社団法人おらが大槌夢広場の神谷未生代表から大槌町に残る明治三陸(左)と昭和三陸(右)の津波伝承碑の説明を受ける参加学生。❹震災時に避難所となった大槌町吉里吉里・吉祥寺のご住職から当時の様子もうかがった。

第6期科学技術・イノベーション基本計画に掲げられた「総合知」という言葉をよく耳にするようになりました。様々な知の結集と活用を呼びかける重要かつ素晴らしい概念であることは容易に想像できます。しかし、その具体的な部分となると、これまで指摘され続けてきた文理融合や社会連携などとの明確な違いがはっきりしません。もし文理融合や社会連携の重要性が、言葉を変えて指摘され続けているのだとすれば、それは十分要請に応えることのできていない硏究界に対する社会からのメッセージと言えるでしょう。海洋生物学研究者である私自身、例えば生物・環境保全を目的とした環境保護団体などとの共同研究は、文理融合であり、社会連携であると考えていました。しかし、「海と希望の学校」に取り組んでみて、これは極めて小さなコップの中の話に過ぎなかったと反省しています。

そもそも、海と希望の学校のベースである「希望学」を始めたのは、社会科学研究所の経済学や歴史学、政治学などを専門とする研究者であり、当然ながらそこに「希望」の専門家はいませんでした。希望学は、参画した研究者が、まさに手探りで切り拓いてきた道だと言えます。海と希望の学校もこれと同じです。すでに「希望」の専門家である社研という心強い味方こそいますが、絶対的な正解があるわけではないことをよく知る彼らは、あくまでも皆で考えるというスタンスを崩しません。そもそも社研の研究者にとっても「海と希望」は初めてのチャレンジです。当然のことながら、大気海洋研究所はもとより、連携している三陸沿岸の自治体や企業、民間団体にも「海をベースとしたローカルアイデンティティの再構築を通じて地域に希望を育む」専門家など皆無です。いわば素人集団が、社研のアドバイスを得て進めているのが「海と希望の学校」なのです。

この「参画する人間が素人ばかり」ということが、我々の連携に力を与えているように感じます。これまでの学際や文理融合を謳う共同研究などを振り返ってみれば、全体を主導する核となる研究分野があって、ここから離れた参画者ほど、立ち位置やモチベーションを見つけづらいという状況があったように思います。しかし、誰一人専門家がいないとなれば、参画者は等しく自分の考えること、できることを提案できます。また、無闇に使うことは無責任の誹りを免れませんが、素人であるがゆえ「わからない」と言える強みもあります。仮にも自分の専門分野であれば「わからない」ということには大変な勇気が必要であり、周りもまた専門家だから何か重要なこと言うだろうと期待します。この時に発した一言が正しければまったく問題ありませんが、「余計な一言」で全体の活力を大きく削ぐといえば、どなたも多少なりとも思い当たる経験をお持ちではないでしょうか? 参加している様々な属性の人たちが、等しく「わからない」というカードを持ちつつ、それぞれの知識や経験、アイデアを披露できる環境は、とても楽しく、前向きなものです。

もしかすると、社会が求めている文理融合や社会連携とはこんなものであり、「海と希望の学校」から創り出される知識は「総合知」の一つと言えるのかもしれません。

「海と希望の学校」は、奄美の仲間たちと共に、震災復興の先へ踏み出しています。

「海と希望の学校 in 三陸」公式XのQRコード「海と希望の学校」公式X(@umitokibo)

制作:大気海洋研究所広報戦略室(内線:66430)メーユ

本誌1579号の本欄参照

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ぶらり構内ショップの旅第23回

やよい軒@本郷キャンパスの巻

お腹を満たす和定食と和菓子

昨年12月、東大病院1階にオープンした定食レストラン「やよい軒」。明治時代に創業者が営んでいた西洋料理店「彌生軒」が店名の由来です。株式会社プレナスが全国に約360店舗展開する和食チェーン店ですが、病院内に店を構えるのは初めてです。

川添雅之さんと平出明広さん
統括責任者の川添雅之さん(左)とシニアストアマネージャーの平出明広さん(右)

定食や麺類、丼などのメニューの中でも、東大病院店で特に人気があるのが、豚のバラ肉を特製の生姜ダレで炒めた「生姜焼き定食」(¥730)。そして南蛮ソースで味付けされた鶏もも肉にタルタルソースがかかった「チキン南蛮定食」¥910)と定番の「唐揚げ定食」(¥790)です。全てにご飯(+¥30でもち麦に変更可)と冷ややっこ、味噌汁が付きます。セルフサービスカウンターにある無料の漬物と温かい鰹ベースのだし汁をご飯にかけ、「だし茶漬け」にして楽しむ人も多いとか。店内では配膳係として2台のロボットも稼働しています。

また新たな試みとして、東大病院店ではデザートも展開しています。これまで提供してきたアイスクリームを使ったサンデーなどの冷菓に加え、3月には和菓子が登場しました。「お客様から温かい甘味が食べたいという声をたくさんいただきまして、メニューを新しくしました」と話すのはプレナスの平出明広さん。北海道産のあずきを使った「焼き餅入りぜんざい」(¥350)や「和風黒蜜ワッフル」(¥560)など、食後のデザートや午後のお茶と共に楽しんでほしいと言います。「座席間の空間を広めにするなど、ご来店いただいたお客様がゆったりと落ち着ける空間づくりに注力して取り組んでいます。従業員一同、皆様のご来店をお待ち申し上げております」

※価格は税込

テーブルの上に生姜焼き定食が置かれている様子
生姜焼き定食。テイクアウトは、事前にモバイルオーダーしておけば待たずに受け取ることができます。
営業時間:
10時半~17時 定休日:日、祝
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第40回

農学生命科学研究科附属演習林
秩父演習林 助教
久本洋子

資料から垣間みる珍しい竹の開花

『日本竹類圖譜』にはモウソウチクなどが、鮮やかな色彩で描かれている
モウソウチクなどが描かれた美しい図版
→日本竹類圖譜 https://x.gd/sWBJq

タケ類は古くから、タケノコは食用に、材は日用品や工芸品にと様々に利用されてきました。1912年に刊行された『日本竹類圖譜』には主要なタケ類の枝葉やタケノコ、斑の入った材などが繊細な筆致と鮮やかな色彩で描かれており、当時のタケの利用価値の高さが窺えます。また、タケ類は普段は花を咲かせずタケノコを生やして増えますが、数十年に一度という周期で開花するという変わった植物です。偶発的に開花することはあるものの、通常花を見つけることは困難です。それにも関わらず、図譜には数種類のタケ類できちんと花が描かれており、植物学の観点からも重要な情報を含んでいます。

モウソウチクが開花した試験地
1997年に開花したモウソウチク試験地
→画像データベース https://x.gd/JnJXw

数十年に一度という開花周期は過去の文献の記録から推測した場合が多く、正確な周期を調べるためには、発芽したタケの芽生えを育てて、いつ開花するのかを数世代かけて確認する必要があります。千葉演習林には300年という長期計画で設置された「モウソウチク開花周期実証試験地」があります。この試験地において、1930年に発芽した個体が67年後にあたる1997年に開花しました。67年周期が確かであれば、次回の開花は2064年と予想されています。1997年当時の開花した竹林、花や芽生えの様子を撮影した写真は、当時の開花の様子を知ることができる貴重な研究資料です。

図譜および写真の画像はインターネット上で公開されていますので、珍しい竹の花や開花の様子をぜひご覧ください。これらの資料が後世に引き継がれることで、将来の竹の研究にも役立てられることを期待しています。

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第215回

宇宙線研究所
予算・決算係主任
矢崎恵一

今まさに掘っています!

矢崎恵一
広すぎず相談しやすい事務室です

宇宙線研究所は比較的小規模でありながら、スーパーカミオカンデやKAGRA、CTA大口径望遠鏡などの大型研究設備の他、国内・国外に複数の拠点を持っているのが特徴です。特に現在進められているハイパーカミオカンデ計画については、高さ94m(安田講堂2つ分以上!)、直径69mという世界最大規模の人工地下空洞の掘削が今まさに行われており、議論に参加したり現場を視察したりと非常に貴重な体験をさせていただいています。

本所における業務については、柏地区共通事務センター各チームと協力しながら行われており、私自身の業務は所内の予算・決算業務を主に担当しています。特に予算業務に関しては上記の大型設備に関する予算もあるため、緊張感とともにやりがいがあります。

宇宙線研究所がある柏キャンパスは普段は静かな環境ですが、秋には1万人以上が来場する一般公開が開催されて大変賑わいますので、是非一度遊びに来てみてくださいね!

ハイパーカミオカンデのドーム部の掘削現場の風景
大学とは思えない規模の掘削現場です…
得意ワザ:
ご飯(お米)をいっぱい食べること
自分の性格:
マイペースだけど小心者
次回執筆者のご指名:
鈴木耀さん
次回執筆者との関係:
前々部署でお世話になった後輩
次回執筆者の紹介:
安定感抜群で頼りになります!
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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第49回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

「大森貝塚」をめぐる文書たち

「柵内通行之節大森ステーション之近傍ナル鉄道線路ニ接近セル断崖ニ於テ稀在之古生物等ヲ発見いたし候」(S0004/10『諸向往復 明治十年分貮冊之内甲号』)。有名な理学部教授モースによるエピソードですが、当時の文書をみるともう少し込み入った状況がみえてきます。

遺跡発掘をめぐり、モースには同じ東京大学のナウマンや、外交官で考古学研究に関心の強いシーボルトというライバルがいました。東京大学は上記の言をうけ、1877(明治10)年9月に東京府と鉄道局に発掘を申請しますが、モースが線路柵越しに遺跡を見たのは6月、文面には焦りがみえます。「右発見候ハ全ク同氏ヲ以テ初メ」で、伝聞から採掘を願出る者があっても状態保護の観点から「暫ク本部〔東京大学〕ニ」限るよう依頼しました。さらに原稿段階では「同氏ノミニ」とあり、当初はモースに限定するつもりでした。

その後、鉄道局の全面協力のもと発掘はすすみ、12月に天覧に供する成果を上げました。しかし同じ時期、鉄道局から報告が入ります。「午前八時十九分横浜出発上リ列車ニテ外国人一名日本人両名同道大森停車場ヨリ下車」し、発掘場所へ行きたいと告げたため、駅長は氏名と東大の身分証を求めたところ、その人物は拒否、何も言わず線路外から遺跡にむかい発掘を始めます。駅長は所轄外の場所でもあり「強テ差止メ」るのも難しく、モースの採掘点ではない「近傍ヲ相穿」っていた旨を知らせました。東京大学はこの報に感謝し、今後も報告してほしいと返しています。さて、この外国人はいったい誰なのか…。

「大森村」を「大井村」に修正した文書

さてもう一点、「大森貝塚」の発掘地につき論争がありました(その名残に現在も2つの碑があります)。文書には当初「大森駅」付近であることから「大森発見古物」のように「大森」の地名が冠されました。しかし発掘場所は「大井村内字鹿島谷」とあり、隣の大井村域です(S0004/16『諸向往復 明治十一年分三冊之内丙號』)。この情報が交錯し、大学作成文書にも所在地「大森村」の誤記を「大井村」に修正したものが存在します。しかし上記の天覧の文部省通達には「大森村発見」とあり、次第に所在地情報が誤って伝えられる結果となりました。モースが線路内から発見し「大森駅」から発掘に行かなかったら、「大森貝塚」は「大井貝塚」だったのかも知れません。

(助教・秋山淳子)

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インタープリターズ・バイブル第200回

総合文化研究科教授
科学技術コミュニケーション部門
梶谷真司

コミュニケーションの中の科学技術

福岡県大牟田市に通称「ポニポニ」という団体がある。正式名称は「大牟田未来共創センター」で、原口悠さんと山内泰さんを中心に活動している。

彼らの活動の一つに、VR(ヴァーチャル・リアリティ)を活用したものがある。VR旅行の映像を介護施設の高齢者に見せて楽しんでもらうプロジェクトを進めている東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太氏の協力を得て、さらに大牟田市生涯学習課、地域の高齢者施設「延寿苑」、地域創生Coデザイン研究所、NTTと連携している。これは一つの産官学民の協働だと言えるが、その中身が面白い。

撮影をするのは、地元の元気なおばあさん、おじいさんたち。講習会を開いて360度カメラの使い方を覚える。最高齢は91歳である。大学生を含めて若い人たちも加わり、行き先も高齢者と相談し、一緒に撮影に行く――駅で新幹線を見送る、お寺でお参りをして、住職の話を聞き、境内にいる猫に餌をやり、紙風船で遊ぶ、等々。自分で映したり映してもらったりした映像を若い人が編集して動画が完成する。

私が行った日は、おばあさんたちが実際にゴーグルをつけてお互いの作品を視聴し、動作確認をしていた。

ノートパソコンで作業をしている人の周りに立ったり座ったりしている人がおり、その中にゴーグルをつけている人がいる様子

あとでみんな一緒に施設に行って利用者の高齢者に見てもらい、説明するらしい。時代を共にしてきた者どうし、思い出話で盛り上がる。施設の高齢者はとても喜び、撮影した人たちもうれしくなって、また撮影して見せたくなる。こうして元気に動ける高齢者も、外出することが難しい高齢者も元気になる。若い人も一緒に活動し、世代を超えたコミュニティが活気づく。

ここでVRはたんなる福祉に役立つテクノロジーではない。一人一人の力を引き出し、人と人をつなぎ、そこで個々の人が自らの存在意義を見出す触媒となっている。科学技術コミュニケーションというより、「コミュニケーションの中の科学技術」である。

しかもここでは、信頼できる関係が先にできていて、そこからみんなでアイデアを出して楽しみながら進めていくという、産官学民の見事な連携を見ることができる。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第54回

社会連携本部渉外部門
アソシエイト・ディレクター
成田麻衣子

感謝をこめた紺綬褒章伝達式

紺綬褒章
紺綬褒章

皆さんは、紺綬褒章をご存知でしょうか。

紺綬褒章は、国の褒章制度のひとつで、公益のために多額の私財を寄付した方に授与される褒章です。表彰されるべき事績の生じた都度、内閣府が審査・決定をし、授与が行われています。東京大学では推薦要件に合致している方について、推薦をさせていただいています。

東大基金では、四半期毎に紺綬褒章受章者の方を本学にお招きし、受章伝達式として、ささやかなセレモニーを開催しています。

本伝達式は、本学役員からご寄付に対する謝辞、章記・褒章の伝達を行う他に、本学を取り巻く社会課題の共有、2027年に迎える創立150周年に向けての周年事業の取り組みのご紹介、本学の将来に向けた財務面でのご寄付の重要性などについて、直接寄付者の方と会談する貴重な機会となっています。受章者の方からは、ご寄付にこめられた想いや、本学へ期待されることなどのお話をおうかがいし、「日本の将来を担う学生達に充実した学びを得てほしい」「東京大学の研究教育の発展を願う」「(卒業生の方より)母校に頑張ってほしい、これからも応援していきたい」といった趣旨のあたたかいお言葉をいただいています。

東大基金では、このようなかたちで寄付者への心からの謝意を示す場を持ち、毎回受章者の方にもご好評をいただいています。これからも、東大を応援し、支えてくださる多くの皆様と、本学にて紺綬褒章受章のお祝いが叶いますことを願っています。

メダルを手に持っている4人の受章者
2023年11月30日の伝達式にて、褒章を手にされた受章者の方々
伝達式の様子→
「UTokyo Future TV」のYouTubeのQRコード

東京大学基金事務局(本部渉外課)

参照→内閣府 https://x.gd/azHXM