
2019年10月に、6つの室(総合窓口、学生相談所、精神保健支援室、コミュニケーション・サポートルーム、ピアサポートルーム、留学生支援室)を統合して発足した学内共同教育研究施設・相談支援研究開発センター(佐藤岩夫センター長)。5周年の節目を迎えるのを機に、ミッションステートメントを発表しました。検討を重ねてきた5人の先生方に、その内容やセンターの概要・近況について座談会形式で紹介してもらいます。
メンバーの拠り所となる文章を
佐藤 2023年4月にセンター長に就任した私は、センターが多くの学生・教職員の困りごとや悩みごとに寄り添いサポートしていることに感銘を受けました。同時に、少し気になったのは、統合前の6つの室を超えたセンター全体のまとまりです。そこで、センターの組織的なアイデンティティを示し、メンバーの日々の活動の拠り所となるような文章があってもいいのではないかと考え、ミッションステートメント(MS)を検討するワーキンググループ(WG)を立ち上げました。熱心に議論してもらい、素晴らしいMSができました。
高野 私は学生相談所とピアサポートルームの室長を務めています。今回はWGの座長としてMS作成に関わりました。センター各室は歴史や役割も違っており、各室から集まったメンバーで丁寧な議論を行い、意見を集約しました。さらに、センター全員に下案を示して、オンラインとオフラインで意見を募ったところ、50件以上の意見が集まりました。私たちの活動の大きな柱である「個別相談」の強調や、表現についての意見など様々です。それをもとにブラッシュアップし、7月に制定しました。
「活躍」という語を議論で見直し
荒井 私はピアサポートルームで運営や指導を行い、週1回学生相談所でカウンセラーとして働いています。WGメンバーのなかでは最年少です。実は、ピアサポートルームからWGに誰が出るかを話し合ったとき、皆参加を希望しており、センターメンバーのMS制定への関心の高さがうかがえました。作成の過程で試行錯誤したのが、専門用語を使わずに誰が見ても分かりやすい言葉にするということです。また、全ての学生や教職員が疎外感をもたないような表現になるように、1ワードずつ検討を重ねました。例えば「自分らしく生きることができる」という一文。最初の案は「自分らしく活躍することができる」でしたが、「活躍」という言葉に引っかかりを感じる意見があり見直しました。
高野 MSはセンターにとってのUTokyo Compassのような指針という位置づけです。我々は何をするのかという「ミッション」、自分たちが進んでいく方向を示す「ビジョン」。日々の活動で大切にする「価値」、そして具体的なセンターの「機能・活動」の4部構成です。質の高い相談支援を提供し、構成員の自己実現に向けてサポートする。そして、相談の蓄積のなかから大学が抱える課題が浮かび上がってくるので、その改善も目指す。相談支援と関連する研究を推進し、社会にも還元していく。全ての構成員が健康を増進しながら、自分らしく生きることができる包摂的で安全なコミュニティを目指すということを盛り込みました。
渡邉 私は精神科医として総合窓口の室長を務めています。MSが出来たのはセンターにとって大事な転機だと思います。それぞれの室が専門性を持っているので、同じ問題でも解決の仕方や方向性がちょっとずつ違います。色々な仕事があるなかで、何を優先してどう組み立てていくのか。そこを迷うことがあります。特にギリギリの判断が求められる場面でです。その時に共通の指針があるのは非常に大きい。利用しようと考えている人も、センターの方向性が分かることで安心して来られるのではないかと思います。
長期化・複雑化する個別相談
渡邉 センターには6つの室があり、機能分化しています。相談にあたるのは20名以上の専門家で、英語や中国語の話者もいます。相談件数はここ10年で1.5倍くらい増加しました。それに加え相談内容が複雑になっています。これまでは、学生の場合、青年期の課題を中心に1対1のカウンセリングを行うことが主だったと思います。近年はそれ以外の要素が複雑に絡んでいて、単純には解決できないケースが目立っています。
高野 学生相談所では長期の支援が必要な学生さんが増えているという印象があります。一人あたりの相談回数は平均で8回くらいですが、卒業・修了まで継続して関わるケースもあります。
正岡 私はソーシャルワーカーとして総合窓口で主に相談支援を行っています。総合窓口は、どこにいったらいいか分からない学生さんや教職員にとりあえず来ていただきたい部署です。相談員は全部で7人。私のほかに、ベテラン職員3名、精神科医、2名の心理士がいます。異なる専門性を持つスタッフが話を聞き、それぞれの視点からアドバイスし、必要に応じて適切なところに繋いだりしています。
荒井 学生のみなさんの支え合いと自主的成長を促進するために2015年度に開設されたピアサポートルームは、相互扶助を大事にしています。ピアサポーターとして活動したいという学生さんたちも、どこかで悩みをかかえていたりします。教員の立場としてはできるだけその方々が安心でき、自分らしく活動できるような場を提供できるようにと心がけて運営しています。
大学全体のウェルビーイング
佐藤 ここ1~2年は、キャンパス全体のウェルビーイングを向上させることにも力を入れていますね。個別の支援と並行して、キャンパスというコミュニティにいる一人ひとりがいきいきと生きられるような環境を作ることが大事ということでしょうか。
渡邉 個別の相談支援だけではもう立ちゆかない状態になっています。生きがいや生きやすさ、居心地の良さといったキャンパス全体のウェルビーイングを向上させていきたいと目論んでいます。経験がない領域なので、私たちも勉強しながら、新しい展開を考えています。
佐藤 UTokyo CompassやD&I宣言で謳われているキャンパスの多様性や包摂性を、大学構成員の日常生活や日々の活動レベルで支えているのがこのセンターだと思います。日々の相談の現場で見えてくる大学の課題もいろいろあるので、それを大学全体にフィードバックして、この大学をよくするために生かしていければと思います。学生や教職員の皆さんに、このようなセンターがあるということを知っていただき、ぜひ積極的に利用していただきたいと思っています。

ミッションステートメント
ミッション
私たちは、質の高い相談支援を提供することで、東京大学の一人ひとりの学生・教職員が持てる力を十分に発揮して、それぞれの自己実現に向けて歩んでいくことをサポートします。また、個別相談の蓄積から浮かび上がってくるキャンパスの課題を明らかにし、学生・教職員と協働しながら、その改善を図ります。そして、相談支援の実践と関連する研究の成果を大学コミュニティや社会に還元します。
ビジョン
私たちは、東京大学のすべての学生と教職員が、心身の健康を増進しながら、自分らしく生きることができる、包摂的で安全なコミュニティづくりを目指します。
価値
私たちは、以下の価値を尊重しながら各活動に取り組みます。





機能・活動
センターは、総合窓口、学生相談所、精神保健支援室、コミュニケーション・サポートルーム、留学生支援分野の各支援窓口と、学生どうしの支えあいの活動を推進するピアサポートルームを設置しています。各室の活動を通して、
・個別の支援活動:カウンセリング、精神科診療、発達障害支援、関係者への支援(コンサルテーション)、留学生支援、危機対応
・コミュニティへの支援活動:学内相談窓口間の連携・協働、学外の援助資源との連携、予防教育、啓発、ピアサポート(アウトリーチによる実践)、構成員への研修プログラム、環境改善のための働きかけ、学生団体等との協働、大学執行部への施策提言等
を行います。また、これらの実践活動を支えるための研究活動を行い、その成果をキャンパス内にとどまらず、広く社会に還元します。
センターでは、心理学や精神医学、多文化コミュニティ支援等の専門家や関連する事務職員が、学生・教職員と連携・協働しながら、学生をはじめとする大学構成員のための相談支援活動を展開し、相談支援についての実践と関連する研究を行っています。これまで行ってきた大学構成員のための相談支援の業務を引き継ぎ、さらに留学生の支援や学生の就労支援・キャリア開発支援を加えて相談支援活動を拡充展開し、全学的な支援体制の充実を図っています。
センターの歩み
2008年4月 | 学生相談ネットワーク本部を設置 本部運営「なんでも相談コーナー」開設 |
2010年3月 | 白金キャンパスなんでも相談室開設 |
2010年10月 | 本部運営「コミュニケーション・サポートルーム」開設 |
2011年11月 | なんでも相談コーナー柏分室開設 |
2013年4月 | なんでも相談コーナー工学部分室開設 |
2014年5月 | 弥生キャンパスなんでも相談室開設 |
2015年4月 | ピアサポートルーム(本郷)開設 |
2016年3月 | ピアサポートルーム(柏)開設 |
2019年10月 | 相談支援研究開発センターに改組 |
学生をはじめとする構成員への相談業務の中核として、構成員の福祉の向上に寄与することを目的に設置された学生相談ネットワーク本部は、2019年に相談支援研究開発センターに改組されました。
相談件数の推移
