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第65回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

第一人者が次代へ繋ぐ再生可能エネルギーの希望

/全学自由研究ゼミナール「Road to 2050 : 環境エネルギー政策の達成とビジネス」

環境エネルギー
科学特別部門
客員教授
田中 良
田中 良

太陽光発電の第一人者として

――田中先生は日本の太陽光発電の第一人者として活躍されてきました。

電電公社(現NTT)の電気通信研究所で蓄電池の劣化判定法を確立した後、1995年からNTTの環境ビジネス本部長として太陽光発電の導入拡大に資する研究開発を進めました。2006~2011年には、FIT(固定価格買取制度)を導入する際の最適なシステムを探る資源エネルギー庁の公募を機に、9カ国27種の太陽電池の性能を調べました。日本一の日照時間を誇る山梨県北杜市に10万平米の土地を借りて総発電容量2メガワットの太陽光発電所を構築した、日本初の大規模太陽光発電の実証実験です

――日本のメガソーラーの嚆矢ですね。

機種別、設置角度別といった評価はもちろん、駐車場の屋根に取り付けた場合、ビルの壁に取り付けた場合(BIPV)、風力発電と併設した場合、水田の上に取り付けた場合(ソーラーシェアリング)など様々な想定でテストを行いました。そうした数々の検討を経て2012年に導入された日本版FITは、全体的にはよい制度でしたが、買い入れ価格が高すぎたのが問題でした。地球環境のための太陽光発電なのに儲けようとする風潮が広がり、安さ至上主義が蔓延し、気づくと全てが中国産に置き換わって現在に至ります。こうした歴史を振り返りながら、再生可能エネルギーの社会実装に関わる課題を学生に伝える講義を行っています

脱炭素のまちづくりの現場にて

――脱炭素の地方創生もテーマだとか。

2019年に発足したサステイナブル未来社会創造プラットフォームの活動です。岩手県の紫波町では、果物を栽培する際のエネルギー使用の最適解を導くマイクログリッドを災害にも適用できるよう整備しています。過去には沖縄県の久米島で風力と太陽光のハイブリッド発電システムの実証実験を進めました。島になかった港をクレーンで作るところから始めました。まず現地の状況を見て現場に最も適した姿を探るのが私のやり方。学生たちは環境に興味が高く、地球環境の悪化状況を理解していますが、環境と太陽光発電との結びつきなどはピンときていないようです。研究も教育も「百聞は一見に如かず」。座学だけでなく、現場を体験する見学実習もできるとよいのですが

――来たる10月23日には先端研のENEOSホールで「情報とエネルギー」がテーマのシンポジウムを開催されます。

昨今はAIの進化が目覚ましいですが、AIの活用が増えれば流通するデータ量が増え、処理に莫大な電力が使われます。情報化社会を支えるエネルギーをどう確保するのか。元総長の小宮山宏先生、NTT副社長の川添雄彦さんに講演いただき、私もディスカッションに加わります

鍵はサーキュラーエコノミーとカーボンプライシングだと思っています。動脈産業と静脈産業を組み合わせて循環させる仕組みを回すため、必要なお金は国民みんなで賄う。新規に資源を掘り起こすのではなく、既存の資源を有効に使い回すのです。たとえば、自動車を作ったらボディからバッテリーまですべてを再び活用する。虫は死んだら分解されて次の命の種になります。自然界には無駄がなく、人間だけが無駄を産んでいます。やり方さえ間違えなければ、地球上の全エネルギーを太陽光発電で賄えます。自然界の仕組みを見習わないといけません

❶山のふもとの道路沿いに沢山のソーラーパネルが設置されている様子
❶田中先生が主導した北杜市のメガソーラー。世界初となる複数の系統安定化機能を備えます。
❷風力発電の風車と地面にあるソーラーパネル
❷沖縄電力と連携して設置した久米島の風力・太陽光ハイブリッド発電システム。島で必要なエネルギーの約半分を賄います。
❸畑の上部に設置されたソーラーパネルと畑で作業をしている人
❸水田に降り注ぐ日光の半分ほどを太陽光発電に使うソーラーシェアリングの様子。光飽和点を超える過剰な日光を電気に変えて売ることで農家の収入を安定させることが可能に。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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ぶらり構内ショップの旅第28回

Cafeteria KOMOREBI@駒場キャンパスの巻

学生とのコラボで完成した珈琲

駒場キャンパスの21 KOMCEE WEST地下一階にあるカフェ「Cafeteria KOMOREBI」。店名には、木漏れ日でコーヒーを飲むようにゆったりとした時間を過ごしてほしいという思いが込められています。コロナ禍下の休業を経て、昨年9月末に再オープンしました。

持田佳也さん
KOMOREBIを担当する持田佳也さん

メインのコーヒーは、深煎りの「KOMOREBI MILD」と浅煎りの「KOMABA FRUITY 2024」の2種類。美味しいコーヒーを飲んでもらいたいと、駒場のコーヒー専門店「The Coffeeshop Roast Works」に作ってもらったオリジナルブレンドです。FRUITYは、今年4月にリニューアル。インカレサークル「東京大学珈琲同好会」に声をかけ、Roast Worksと共同でより美味しいブレンドを製作してもらいました。ブラジル産の豆をベースに作ったコーヒーは、チェリーやヘーゼルナッツのような風味がある、と話すのはKOMOREBIを担当する東京大学消費生活協同組合の持田佳也さん。会議などで大勢が集まるときには、お得なポットサービス(2L¥3000、2.5L¥3750)を「是非ご利用していただきたい」と言います。駒場キャンパス内であれば学内配達も可能です。

ホットサンド(ハムチーズとチキンバジル各¥450)やパンやデザートも販売しています。ホットサンドに珈琲が付いたお得な「モーニングセット」(11時半まで。¥600)は、毎朝買う常連客もいるとか。地下にあるため、KOMOREBIの存在を知らない人が多いのが課題だと話す持田さん。「より広く知ってもらい、多くの人にKOMOREBIオリジナルのコーヒーを飲みに来ていただきたいです」

今後はコーヒー豆も店頭で販売する予定です。

テーブルの上の透明なカップに注がれている複数のコーヒー(左)と白いカップに入ったコーヒー(右)
営業時間
10時-17時半頃。土日祝定休。
東京大学珈琲同好会のコーヒー通の学生とRoast Worksで行った「カッピング」と呼ばれるテイスティングの様子。様々な味を確認後、「KOMABA FRUITY」が完成しました。
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#We Change Now

第9回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

ワークライフバランスに着目した研究者支援

ジェンダー・エクイティ推進オフィスでは、「UTokyo男女協働改革#WeChange」の3つのターゲットの一つ、「02 院生からシニアまでのシームレスな女性研究者キャリアアップ」の一環として、6月から「ワークライフバランスを重視する研究者のためのアカデミアキャリア構築スキルコース」を実施しています。このコースでは、現在、およそ100名の参加者(対象者は東京大学に在籍する博士課程学生・研究者。性別は限定せず)が、ワークライフバランスを保ちながら、限られた時間の中で最大限の研究成果を出すことを目指したいくつかのアクティビティに取り組んでいます。例えば、「ライティングチャレンジ」では、Slackを活用して、参加者同士で励まし合いながら、研究時間(主に論文執筆や研究費申請書類などの書き物の時間)を確保するアクティビティを行い、「ネットワーク・マッピング・ワークショップ」では、マップ上に現在の研究ネットワークを書き込むことで、研究に関わる人脈を可視化し、人脈をさらに広げていく方法について参加者同士でディスカッションを行いました。

参加者からは「作業にかかる時間の見通しの甘さも浮き彫りになったので、もう少し着実な計画を立てつつ、今後もがんばります」(ライティングチャレンジ)、「どういうビジョンを持ってネットワーキングを行うかが明確になりました」(ネットワーク・マッピング・ワークショップ)といったコメントを頂戴するなど、ご好評をいただいております。

本コースは今年度末まで行います。来年度も同様の研究者支援コースを開催する予定です。ジェンダー・エクイティ推進オフィスでは、このような活動も行っていることを知っていただけると幸いです。

(特任研究員 久保京子)

「ワークライフバランスを重視する研究者のためのアカデミアキャリア構築スキルコース」と書かれたポスター画像
↑締切済です
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第220回

研究推進部
国際研究推進
小原和樹

国際化の観点から研究をサポート

小原和樹
デスクにて。撮影は同僚のフィーガンさん

この4月に着任した国際研究推進課では、大学連合、学長会議等、大学単位での国際的な活動を担当しており、その中でも私は、主に海外拠点に関する事業やアジア地域の大学連合に関連したイベント・活動のロジや会計業務に携わっています。イベントの開催に伴う学内の手続きは、前例が少ないケースも多くあり、関係部署の方々に確認、相談しつつ、日々業務を進めています。

入職後、初めての配属先は農学部。総務課で科研費、特別研究員(PD,RPD)を担当していましたが、学生向けのイベントや国際シンポジウム等、課の垣根を越えて、様々な行事のお手伝いをする機会がありました。こうした経験や繋がりが、現在の業務で大きな助けとなっています。

その後、本部研究資金戦略課を経て、昨年度は、日本学術振興会(JSPS)の北京研究連絡センターで業務を行いました。「コロナ禍」以降、人の往来が戻りつつある中国で、日常のあらゆる場面でデジタル化の波を感じつつ、日本から中国を訪れる先生方のサポートや、現地のJSPS同窓イベントの企画を行いました。

私生活では、趣味であるマラソンに参加しようと、旅行も兼ねて中国各地を訪れました。現在、10月のフルマラソンに向けて練習中です!

北京国家体育場をバックに「BEIKE BEIJING MARATHON」と書かれたボードの前でピースサインをする小原さん
昨年の北京マラソンにて。自己ベスト更新!
得意ワザ:
乗り物酔いに強い
自分の性格:
物事に細かい、心配性
次回執筆者のご指名:
大溝真由美さん
次回執筆者との関係:
農学部時代の上長
次回執筆者の紹介:
:外部資金のプロ、頼れる上司
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第33回
法学部卒業福田 颯

東布施で東布施と東布施を考える

私たちは昨年、富山県黒部市の東布施地区に足を運び、地域の未来を考える活動に参加しました。人口が1000人を切り、高齢化率は4割に迫るという中山間地域で「アクションプランの再構築」に取り組むという課題。その壮大さに、正直はじめは手をこまねいていましたが、熱意あふれる方々と交流し続けたことで、たくさんのことを学ばせていただき、それを補助線として一定の結論を見出すことができたと思います。

さて、東布施を初めて訪れた際に強く印象付けられたのは、その魅力の多さです。雄大な風景、伝統の迫力、にぎやかな地域活動など、住民の方々が「大したものではない」と仰るところでも、東京から来た身には目新しい「宝」が隠れている。それを探し、共有することが、大きな使命になるし、人口減少などの課題の解決にもつながると感じました。

「寄ってこられ!東布施巡り」と書かれたマップ。切り貼りした紙に付箋などを貼り付けて作られている
地域の方々と作り上げた「東布施マップ」

二度目の活動では、地域の生業を活かした「東布施フェス」を企画しました。竹をランタンにしたり、山菜を使った肉じゃがなどのレシピを紹介したりと、斬新なアイデアをもとに、魅力発信を試みるという突拍子のない提案。地域の方々が柔軟に取り入れてくださったことで、良い種をまけました(一部は今も続いているようです)。

最終回では、集大成として、地域資源をパッケージ化する提案と実践(「東布施めぐり」)を行いました。結局、私たちと東布施地区の結論は、魅力を打ち出すうえで背伸びをする必要はないというものでした。それを前提に企画を考え、FS終了後も持続するような「アクションプラン」につながるような工夫ができたと思います。

青空となだらかな棚田が広がっている様子
美しい棚田が広がる田籾地区

地域力創造の文脈ではよく、「よそ者、若者、ばか者」の力が必要だという声が聞かれます。しかし、いつまでもそこから脱することができなければ、せっかくの努力も上滑りに終わってしまいかねません。我々は、地域に溶け込ませていただいたことで、もう一歩前に進めたのではなかろうかと振り返っています。

じっくりと時間をかけ、継続的に活動をするFSは、参加前に想像だにしなかった貴重な経験を与えてくれました。活動を支えてくださった方々と、ともに動いてくださった地域の皆さまに、心から御礼を申し上げます。

※メンバーはほかに郝思璐(学際情報学府2年)、川田真弘(法学部卒業)、土屋皓平(法学部4年)、西野清花(文学部4年)

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インタープリターズ・バイブル第205回

情報学環 教授
科学技術コミュニケーション部門
佐倉 統

オオカミが来た!にならないために

2024年8月8日、宮崎県沖で大きな地震があり、南海トラフ地震臨時情報の巨大地震注意報が出された。2017年にこの制度が制定されてから初めてのことである。同時に、このような注意報・警報の難しさを改めて浮き彫りにする結果になった。

この注意報は、南海トラフ沿いで一定の基準を満たす地震が発生した時に出されるもので、「今後1週間程度、平時よりも後発地震の発生する可能性が高まっている」との判断にもとづき、関連自治体に「避難態勢の準備」を呼びかけた。自治体の数は29都府県707市町村におよぶ。岸田首相もメディアを通じて同様のメッセージを発した。

さて、この注意報を受けた私たちは、何をしたらいいのだろうか。私は、正直、戸惑った。避難が推奨されているわけではない。「注意」より一段上の「警戒」になると避難が求められるらしいが、今回はその手前だ。政府の地震本部も、「緊急に何かをすべきというわけではない」と繰り返した。

避難の準備をせよ、しかし何かをすべきというわけではない──どうせいちゅうねん??

この注意報を受けて、花火大会を中止にしたり、海水浴場を閉鎖したりといった「対応」が見られた。ホテル旅館のキャンセルもあった。野村総研の試算によると、観光業への打撃は3か月間で1,964億円という。これをどう評価したらいいのだろうか。損失は出たが、地震で生命が失われたり危険にさらされることに比べればずっとましだ、ともいえる。事前の予防リスクの提示には、どうやってもなんらかの不平不満はつきものだ。

今回思ったことのひとつは、複数の異なるリスク群の総体的な見取り図の必要性だ。地震は大きなリスクだが、経済的な損失も、娯楽がなくなる精神的苦痛もリスクだ。特定の単一のリスクだけをターゲットにしたリスクコミュニケーションは、受け手やひいては社会全体の視野を狭くしがちなのではないか。個々の具体的なリスクの評価は難しくても、複数のリスクを考慮して、総合的かつ主体的に判断する姿勢が重要なのだと思う。

「南海トラフ地震臨時情報」と書かれた表。発表条件、キーワード(調査中、巨大地震警戒、巨大地震注意、調査終了)が記載されている
内閣府「防災情報のページ」より
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/rinji/index3.html
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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第59回

本部渉外課戦略チーム小林文香

東大から寄付者へありったけの感謝を

7月26日(金)に「東京大学基金活動報告会&感謝の集い2024」を開催しました。日ごろの感謝の気持ちや、いただいたご寄付によって実現したことを寄付者にご報告する、年1回の大事なイベントです。

今回は、報告会後に安田講堂の3階・4階のロビーを利用して開催された「感謝の集い~UTokyo FUN Meeting~」の様子をご紹介します。

この「感謝の集い」という企画、過去にも何度か開催していたのですが、今回は実施場所・形態などを一から練り直し、4年ぶりのリニューアル開催となりました。「UTokyo FUN Meeting」というサブタイトルは「東大基金」でつながるすべての人たちが、出会い、交わり、さらに深くつながる場を創出するとともに、様々な方法で感謝が伝わり、楽しんでいただけるように、という想いからついたものです。

会場には学内の役員・部局長等が直接寄付者と対話し、日頃の謝意を伝えるエリアや、様々なプロジェクト基金がポスターや模型・モニター等を用いて普段の活動や寄付によって実現できたことを直接ご紹介したり、イチ公や藤井総長のパネルと一緒に写真を撮ったりすることができるエリアを展開しました。

当日の参加者からは「先生と直接話すことができて嬉しかった」「研究内容の話が面白かった」などのお声をいただきました。中にはその場で「来年も来たい」と仰る方も。嬉しい感想には一安心しつつ、反省点・改善点は慎重に振り返っていく予定です。

ちなみにこの日、この企画のために集まった役員・部局長等は約40名。所属や研究分野を超えてこの人数の先生方が一堂に会し、寄付者と談笑したりパンフレット等を使ってご自分の所属先を紹介なさったりしているのは一職員の立場から見てもなかなかに貴重な光景だったと思います。それだけ学内でも寄付に対する関心が高まっているのだと感じ、自分の業務に対して再度背筋が伸びる思いでした。

パネルが並ぶ廊下のような場所に集まっている人々
感謝の集いの一コマ。寄付の成果を直接寄付者に紹介する機会はとても貴重です。

改めてこのイベントの成功は、多くの学内関係者の協力なしには実現できませんでした。この場を借りて御礼申し上げます。

活動報告会の様子は後日東京大学基金YouTubeで公開されます。

東京大学運動会の公式マスコット