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2023年ノーベル物理学賞受賞者と考えるアト秒科学の祭典 ピエール・アゴスティニ博士 特別講演会を開催

◉アトは10-18(フェムトは10-15、ピコは10-12、ナノは10-9

9月26日、2023年ノーベル物理学賞を共同受賞したピエール・アゴスティニ博士による特別講演会が安田講堂で開催されました。東京大学アト秒レーザー科学研究機構(I-ALFA)が主催し、文部科学省と在日フランス大使館の後援で開催された「アト秒科学ノーベル物理学賞受賞記念Pierre Agostini博士特別講演会」の模様を紹介します。

①アト秒レーザー科学研究施設のイメージテーマ曲「ALFA」をプレイエルピアノで演奏した門光子さん。
②文部科学省の塩見みづ枝研究振興局長。
③オハイオ州立大学のルイス・ディマウロ教授。
④講演会前の会談で藤井輝夫総長と語らうピエール・アゴスティニ博士。
⑤当日のポスターにアゴスティニ博士ら海外招聘者が記したサイン。
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ごく短い時間だけ光るレーザー

ピアニストの門光子さんによる「ALFA」(作曲:宇田川賢人)の世界初演で幕を開けたアゴスティニ博士の特別講演会。博士の業績やこれまでのアト秒科学の歩み、今後の可能性、そして東京大学が実施主体となって建設を目指している、アト秒レーザー光源を備えたアト秒レーザー科学研究施設(ALFA)への期待などが語られました。

アゴスティニ博士はアト秒(100京分の1秒)という極めて短い時間だけ光るレーザーの発生とそのメカニズム解明に貢献したことでノーベル物理学賞を受賞しました。アト秒の時間幅を持つ光パルスを発生させる技術によって、これまで観察できなかった超高速の電子の動きを追跡できるようになりました。冒頭で挨拶した藤井輝夫総長は、博士のこの功績に触れ、アト秒パルスレーザーは「何世紀に一度という画期的な技術」だと称賛。そして、イベント参加者に対して、研究のフロンティアを開拓することの重要性を感じて欲しいと話しました。

続いて来賓のフィリップ・セトン駐日フランス大使と文部科学省の塩見みづ枝研究振興局長が登壇し、フランスの研究イノベーションの歴史や科学分野で他国と協力することの重要性、そして建設を目指すALFAが日本の学術研究の発展に貢献することへの期待などについて述べられました。

2001年に高次高調波を使ったアト秒パルスの時間波の形の測定に初めて成功し、「そのパルス幅が250 アト秒であることを実証」した博士の偉業を紹介したのは、理化学研究所の緑川克美光量子工学研究センター長。アト秒研究の開拓者の一人です。2001年の実証実験でアゴスティニ博士が開発したRABBITTという手法についても説明しました。高速光科学の分野ではパルス形状の測定手法に「動物の名前を付ける」というルールがあることに触れ、「私もアト秒パルスの測定のためにPANTHERという手法を開発しました。名前だけは最強だったのですが、RABBITTには及びませんでした」と話し、会場の笑いを誘いました。

アト秒科学の軌跡と期待

I-ALFAの山内薫機構長の紹介で登壇したアゴスティニ博士は、アト秒科学の手法や新しいテクニック、アト秒パルスの応用などについて講演を行いました。1987年にスウェーデンのルンド大学のアンヌ・ルリエ博士が高次高調波発生を発見したこと。そして、その発見が2021年のアト秒パルスの発生とその評価実験の成功につながったことなどを紹介しました。その後アト秒パルス光の研究が進み、2017年には43アト秒のパルス光を作れるようになったとのこと、また、次のアト秒科学の時代を切り拓くと期待されている「X線自由電子レーザー」や新しい電子顕微鏡の技術などについても説明しました。

質疑応答の後、登壇したのはオハイオ州立大学のルイス・ディマウロ教授。アゴスティニ博士とともに研究グループを率いるディマウロ教授は、アト秒科学の技術を普及させ、必要な人たちに届けることが、これまであまりできていなかったと指摘。しかし、近年アト秒光パルスを生成する施設が様々な国で建設されていることに触れ、様々な分野の科学者が利用できるようにすることで、アト秒科学において「非常にエキサイティングな未来が開けていくと思う」と期待を述べて会の幕を下ろしました。

アト秒科学の祭典特別講演会@安田講堂
演奏門光子 ピアニスト
開会挨拶藤井輝夫 総長
祝辞フィリップ・セトン 駐日フランス大使
祝辞塩見みづ枝 文部科学省研究振興局長
祝辞緑川克美 理化学研究所光量子工学研究センター長
司会山内薫 アト秒レーザー科学研究機構長
講演ピエール・アゴスティニ オハイオ州立大学名誉教授
閉会挨拶ルイス・ディマウロ オハイオ州立大学教授
I-ALFA
2022年、総長室総括委員会の下に設置されたI-ALFAのロゴ。東大を象徴する2色を合わせたアト秒パルスの光の波を表します。https://i-alfa.u-tokyo.ac.jp

Reconstruction of Attosecond Beating By Interference of Two-photon Transitions