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第68回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

学生が専門家と考える世界遺産と「グローバル」

/全学自由研究ゼミナール「文化遺産のポリティクス」「グローバル人材とは何か」

国際連携部門
特任准教授
宮﨑 彩
宮﨑 彩

――世界遺産委員会の事務局にあたる機関で勤務されていたそうですね。

2019年はユネスコ世界遺産センターで働き、2020年からはペルーとカンボジア事務所で文化関連事業を担当して各国政府の支援に努めました。KOMEXでは1・2年生向け国際機関プログラムを担当しています。国際社会とのつながりのなかでキャリアを積む選択肢を伝えるため、昨年度は二つの授業を行いました

ビートルズは世界遺産になる?

一つは「文化遺産のポリティクス」です。文化遺産の歴史、制度の概要、制度運用の問題点などを講義で紹介。特別講義として第8代ユネスコ事務局長を務めた松浦晃一郎さんをお招きし、ユネスコケニア事務所で文化担当官を務める長岡正哲さんにもオンラインで話してもらいました。そうしたインプットを踏まえ、学生が各々興味のあるテーマを深掘りして発表するという授業です

ある学生は「ビートルズは世界遺産になりうるか」を調べました。基本的に世界遺産は有形物が対象。音楽は無形なので対象外ですが、アルバムのジャケットになったアビイ・ロードの横断歩道とか、ビートルズは世界遺産になる?保護と非保護の違いとは?曲を録音したスタジオとか、関連する有形物だとどうなのか。世界遺産条約や無形文化遺産保護条約などを参照し、オリジナルとコピー、政治と音楽の関係をも踏まえた発表が印象的でした

そしてもう一つの授業は、「グローバル人材とは何か」でした。国際機関などで活躍する9人の皆さんによるオムニバス講義です。国際機関の人も皆悩みながら働いていることを伝えたくて、キャリアがまだ流動的な30~40代をお招きしました。例えば、人道支援の最前線にいた元国連職員の女性には、家族を優先して一度キャリアをストップしなければならなかった、というリアルな話をしていただきました。そうした話を学生のうちに聞くことが重要だと思います

――「人材」って少し物質っぽいです。

「人材」より「シチズン」を使おうというのが学生たちの意見でした。英語以外の外国語力、学外での実務経験、ロールモデルと話す機会の提供、公的機関との連携など、授業を通して見えてきたポイントを学生たちが提言にまとめ、それをグローバル教育センターに提出しました

国連界隈ではポストSDGsの議論が進んでおり、2030年以降は「文化」が一つの柱かもしれません。来年度に向け、新たな開発目標で文化が果たす役割を考える授業を準備しています。文化の定義から議論が必要です。人の営みは全て文化ですが、それでは広すぎるかもしれない。少なくとも自分はこう考えるというものを導き出せるとよいのですが

保護と非保護の違いとは?

私の原点は7歳のとき住んでいたメキシコでテオティワカン遺跡に感動した体験です。白装束の人が集まって祈っていて、文化財が人の心に息づいているのがいいなと思いました。一方で、近くには丘の下に埋まったままの遺跡もあり、両者の違いは何かという疑問が芽生えたんです。いまも追いかけているテーマです

――国際研修も担当されていますね。

テーマは「戦争と文化」です。カンボジアでは内戦で多くの文化的要素が失われました。特産物の胡椒の苗木が絶滅に瀕した時期もありますが、一人の日本人の尽力で復活しました。戦争被害から復活を遂げた事例を現場で学生たちに見せたいと思います。以前現地で関わったNGOにいた、地雷の火薬成分を探知するネズミ(❶)にもぜひ会わせたいですね

❶地雷の火薬成分を探知するネズミを肩に乗せ微笑む宮崎先生
❶カンボジア赴任時、国際NGOのAPOPOにて。「実地に投入されるのは訓練で100%の的中率を残した子だけ。それ以外はこの子のようにデモなどに使われています」(宮崎)
❷特別講演に登壇している松浦氏 ❸カンファレンスでプロジェクター映像の隣でプレゼンをする宮崎先生
❷特別講演に登壇した松浦晃一郎さん。❸10月に北京で行われた文化財保存修復研究国際センター(ICCROM)のカンファレンスで話す宮崎先生。
「文化遺産のポリティクス」概要(2024年度Sセメスター)
第1回 文化遺産とは何か?
第2~3回 文化遺産保全の歴史
第4~6回 文化遺産保全の国際制度化
第7~9回 文化遺産をめぐる摩擦・課題
第10~13回 文化遺産保全のための対応策
❹宮崎先生が学生の頃に描いたキャラクターでいちょうに乗った「ガストフ」
❹古株の教職員ならピンとくる懐かしの130周年記念事業キャラクター公募入選作「Gustoff」。「実は私が学部生の頃に描いたんです!」(宮崎)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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UTokyo バリアフリー最前線!第32回

障害がある職員のお仕事拝見⑦小石川植物園の巻
ことだまくん

植物園の縁の下の力持ち

およそ16万m2という広大な小石川植物園の清掃を担っているのは、2008年に発足した環境整備チーム。知的・精神障害のある職員6人とチームコーディネーター3人からなるチームです。

約4,000種類の植物が栽培されている植物園での作業は季節ごとに異なります。桜が開花する前の3、4月はソメイヨシノ林周辺の石や枯れ枝拾い。5、6月はウメの実の収穫、雑草が生い茂る夏には草取りや水やり。秋は落ち葉掃除や腐葉土に適した枯れ葉の収集。そして冬は、枯れ枝集めや鉢植変え作業などを行います。これらに加えて、トイレや建物内の清掃といった通年作業も担っています。

「体力を使う仕事ですが、季節の移り変わりを味わえ、やりがいがあります」と話すのは入職8年目の牛島章雄さん。仕事内容は多岐にわたり、新しい作業が加わることもあるため、常にメモ帳を携帯しています。

チーム発足当初から続いている作業の一つが、ギンナン、ウメ、カリンなどの実の採集です。袋に入れ、毎年来園者に配布していると説明するのは入職12年目の結束勝弘さん。ギンナンは食べ応えがある大きいものを選んで拾い、ウメは地面に落ちると傷ついてしまうため、竹棒などで軽く叩き、四隅を持ち上げたブルーシートの上に落とします。「ブルーシートが徐々に重くなってくるので腕がつらいです」と3年目の関口晴人さん。常に身体を動かす仕事なので体力は必須。東大に来る前は事務職だった依田力さんは、体力作りのために週に1、2回ジムに通っているそうです。

7年目の堂園茂幸さんは、草刈り機で刈った草は、熊手を使って取り残しがないよう念入りに集めていると話します。そして、入職4年目の青木美空さんが「ぜひ見てほしい」と話すのが、正門から本館まで続く幅の広い坂道。2~3時間かけて掃き掃除をした後の園路は整然としています。植物園に行った際には、植物や来園者が気持ちよく過ごせるように丁寧に手入れされた環境に注目してみてください。

青色の作業服を着た6人がそれぞれ作業道具や帽子などを持って集合写真に映る様子
左から:青木美空さん、関口晴人さん、堂園茂幸さん、依田力さん、結束勝弘さん、牛島章雄さん
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#We Change Now

第12回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

大学院生と妊娠・出産・育児を語る

2月27日に、国際女性デー(3月8日)を記念するイベントとして「大学院生時代のライフイベントをどう乗り越えたか―経験者に訊いてみよう」を学内限定で開催しました。イベントは2部構成で実施し、第1部と第2部を通して、約34名が参加しました。

第1部では、大学院学生時代のライフイベント(主に妊娠・出産・子育てなど)の経験者による座談会をオンラインと対面のハイブリッドで実施しました。文系分野と理系分野の登壇者からそれぞれのライフイベントの経験を共有していただきました。パートナーとの協力体制の築き方や支援や制度の利用を含め、どのようにして育児と博士課程の両立を行ってきた(行っている)かについてお話しいただきました。また、大学院学生だけではなく、指導教員にも登壇いただき、大学院学生とライフイベントについて「子育てをすることもしないことも多様性。それぞれの経験を豊かさにして、研究ができたらいいと思う」などの助言もありました。そして最後に、大学や地方自治体からも大学院学生向けの妊娠・出産・子育ての支援・制度が少ないことが問題として共有されました。

第2部ではネットワーキングイベントが対面のみで実施しました。文系と理系で分かれ、穏やかな雰囲気の中で意見交換が行われました。育児中の博士課程学生が抱える困難として、経済的側面や精神的側面から生じるものがあり、それらを支援するためにはそのような制度があると良いのかなど様々な意見が出ました。イベントの詳細についてはこちらのウェブサイトhttps://wechange.adm.u-tokyo.ac.jp/ja/news/811/にもアップしています。

多くの付箋が貼られたポスターの画像。付箋に参加者の思いを残してもらいまとめている。

私自身も、博士課程在学中に妊娠・出産・育児を経験した身として、参加者の皆さんの経験や意見に共感する部分が多くありました。たまたま運が良かった人だけが研究と育児の両立を乗り越えられるのではなく、困難さや壁を可視化していくことで、制度を動かし、より多くの人が研究を続けられるような仕組みを考えていきたいと思います。

(特任研究員 安東明珠花)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第226回

経済学研究科等
教務チーム学部担当・主任
三村伊予

経済へようこそ!

三村伊予
「こんにちは」学部担当窓口から愛を込めて

「ワタシのオシゴト」は、経済学部の時間割や履修案内の作成というカリキュラムに関連した業務と、学生証の発行や謝金など学生生活の諸手続きに関する業務を主に担当しています。経済の事務室は、総務、財務、研究協力、留学生担当、教務(学部担当と大学院担当)が広いワンフロアに一堂に会し、日々チームを超えた交流ができる風通しのよさが最大の魅力です。私は転換試験で職員の仲間入りをしましたが、初めての仕事は岡山県にある牛窓オリーブ園で、きこり(自称)としてオリーブ樹の剪定、栽培、管理をしていました。その後、転職して岡山大学の腸内細菌の研究室で実験業務をする傍ら、海外からの留学生の研究支援を行いました。そこで出会ったベトナムのフエ大学から留学していたティエンさんとの交流をきっかけに、学生支援の面白さに気がつき現職を志しました。毎日の業務は新しいことの勉強の繰り返しですが、一構成員として力を尽くして参りたいです。

「ベトナムが大好き」と書かれたサインを持つベトナムの衣装を着た2人
岡山大学ベトナムデイにてティエンさんと
得意ワザ:
体感で自分の血圧が高めか適正かわかる
自分の性格:
愉快になるとワハハとかなりの大声で笑う
次回執筆者のご指名:
前原里咲さん
次回執筆者との関係:
UTONEワークショップ参加仲間
次回執筆者の紹介:
意見を話しやすい、相槌上手!
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第36回
理科一類2年若海 翼
教育学部3年加登智大

また訪れたいと思った田根

丘の上からの眺め、山々と谷が広がり、自然の美しさが感じられる風景
11月に琵琶湖岸にそびえる賤ヶ岳に登りました

私たちは1年間滋賀県長浜市の田根地区で活動しました。テーマは「田根地区を訪れた大学生が継続して関わるための仕組み作り」でした。田根地区ではこれまで、様々な大学の学生がフィールドワークで訪れ、Discordでコミュニティを形成する一方、田根との関わりが一時的であることが問題でした。そこで私たちは、一度田根を訪れた学生が、以降も中長期的に田根やそこに関わる人々との繋がりを維持し続けられる体制作りを目指しました。第1回現地活動は8月上旬に4日間で行い、学生や地域住民の方との交流、田根の散策をしました。現地に関わる学生の活動内容やその思いであったり、地域住民の方が現在の田根に感じる魅力や課題意識を、実際に会って調査しました。第2回現地活動は11月に3日間で行い、田根の魅力や課題をより深掘ることを目指しました。第3回現地活動では、これまでの活動を元に考えた施策を実行するために田根を訪問しました。2月下旬に3日間かけて「ホームカミングデー」を開催し、合計60名の方々が関わる大規模なイベントを成功させました。

3回の現地活動を通じ、私たちの活動を支えてくださった地域おこし協力隊の堀田雅史さんの人を惹きつける力を実感しました。田根に集まる大学生に慕われているだけでなく、地域の子供たちや親御さん、農業組合の方々にも信頼され、地域の繋がりのキーパーソンでした。他大学の学生に田根を訪れる理由を聞いても、一番最初に堀田さんの名前が出ることもありました。

琵琶湖の水辺に建つ家とその背後にそびえる山の風景
琵琶湖にある竹生島に、他大学の方と行きました

2月に訪れたビール工場の若い職人さんを、その場で私たちの活動報告会に誘ってしまった時には驚かされました。そんな堀田さんありきの施策ばかりが浮かんで葛藤することもあり、これからも田根地区に住み続けると聞いた時には非常に嬉しい気持ちになりました。今後は、田根で仲良くなった人や田根地区との再会、新たな出会いを楽しみに、私たち自身も継続的に関わる大学生になりたいと思っています。

チャットアプリ

●メンバーはほかに三田空来(文二2年)、山崎花凜(文三2年)、友澤諒(法4年)

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インタープリターズ・バイブル第211回

総合文化研究科 客員教授
科学技術コミュニケーション部門
小松美彦

記憶と時空

2020年以来のコロナ禍において、私なりに思わぬ発見をさまざま体験してきた。その一つに記憶と時空をめぐるものがある。

コロナ襲来後の最初のセメスター(2020年春セメ)でのことである。授業はすべて初のオンライン方式となり、私が所属していた文学部では3週間の準備期間が置かれたが、PC関係が不得手な私には、緊急事態宣言下の生活と相俟って、かなり疲弊した末の開講となった。実際の授業による疲労もかなりの程度で、1ヶ月するとオンラインのことを考えただけで忌避感が生じるしまつであった。

そんな折、授業でものした余談や補足がどの授業での話か判らなくなることが起こった。当初は疲労困憊のせいかと思ったのだが、そうではないことがすぐに判った。すなわち、どの授業も同じ自室でPCモニターの画面だけを見つめて話しているため、授業ごとの空間的な違いがないのである。コロナ以前は、ことさら意識せずとも、大きさや構造などがそれぞれ異なる教室空間で、さらに学生たちの“顔”が教室ごとの彩りを与えた中で、私は授業を行い、授業内容の記憶はそうした空間とセットで形成されてきたのである。

同様の経験のある方は、少なからず存在するのではないだろうか。では、次はどうであろうか。

私は若い頃から週に何度かランニングを続けてきたが、走行中の記憶を確認したことはなかった。が、おそらく先の“発見体験”が契機となり、ある日ふと確認してみた。まず、その日のランニング全体ですれ違った人をただ思い出そうとしたところ、まったく思い出せない。そこで、どこどこの曲がり角や緩やかな上り坂など、場所ごとに想起すると、けっこう思い浮かぶのである。記憶が空間とセットになっている所以であろう。

ところが、である。ためしに、ランニングのスタート地点から走ったコース(住宅街や幹線道路の歩道)を脳裏で連続的に辿ってみると、驚いたことに、すれちがった人々が次々と浮かび上がるのである。回想の走りに従って、親子連れだとか、赤いキャップの女性ランナーだとか、記憶からは消えていたはずの人々が、“正確な場所”で立ち現れるのである。しかも、その多くは、私が近づくにつれて大きさを増し、鮮明になってくる。記憶とは、空間のみならず、時間(の流れ)とも関係しているものなのだろう。

読者の皆さんには以上のような経験はないだろうか。その後の私は、“発見体験”をもとに、哲学者ハイデガーの気になるところを読み返しながら、コミュニケーションと時空との関係を考えているしだいである。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第65回

ディベロップメントオフィス
アソシエイト・ディレクター
二瓶仁志

東大が寄付を集める必要あるの?

「東大が寄付を集める必要あるの?」。ディベロップメントオフィスで資金調達の仕事をはじめてから、何度も受けた質問です。この問いはもっともだと思います。私自身も、以前は国立大学が寄付を必要としているとは思いもよりませんでした。特に東大となると、なおさらのこと。

ですが、昨年6月に国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)が、国立大の財務は「もう限界」と表明。9月には東大が「教育学習環境の改善は『待ったなし』」として学費値上げを決定しました。その頃から徐々に国立大の窮状が知られ出した実感があります。

2004年に東大が法人化してから、21年間で運営費交付金は136億円減少しました。一方、物価・光熱費は急激に上昇。海外の大学に目を向ければ、賃金が大幅に上がっています。

逆風の中で東大は世界水準の研究・教育を行い、「世界の公共性に奉仕する大学」「世界の誰もが来たくなる大学」であることを目指しています。その実現には、寄付などの独自財源を強化することが絶対に必要です。

さらに現状への理解を広めるため、立ち上げたページが「はじめての東大寄付」です。これまで、東大基金のウェブサイトでは、寄付を検討してくださる方へ向けた基本情報をまとめたものがありませんでした。「なぜ寄付が必要なの?」「寄付が何の役に立つの?」「どんな研究があるの?」「どんな人が寄付をしているの?」「謝意・記念品は?」「税制優遇措置は?」「お支払い方法は?」という7項目でできています。

その中に、財産的基礎となる基金の大きさを、海外の大学と比較したデータを掲載しています。東大が299億円、オックスフォード大が約1.2兆円、ハーバード大が約7.9兆円。東大と財務形態が近いといわれる、州立のUCバークレー校でさえ、約1.1兆円。私たちは大幅に遅れをとっています。

大学の財務は、私たちの研究・教育・仕事・生活に直結する問題です。そこでみなさんにお願いです。ぜひ一度「はじめての東大寄付」をご覧のうえ、みなさんの所属する部局サイトにもリンクを掲載していただけませんでしょうか。力を合わせて、東大をよりよくしていきましょう。

東京大学基金のWebのはじめて寄付を検討してくださる方へのページのスクリーンショット
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