東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
科学コミュニケーションのコミュニケーション?
/第4回「科学コミュニケーション・カフェ」
特任准教授
内田麻理香
同志社大学の同志とともに
――「科学コミュニケーション・カフェ」とはどんなイベントでしょうか。
「科学コミュニケーションに携わる人同士の交流が少ないという問題意識が以前からあり、横のつながりを作ろうと始めたトークイベントです。4回目の今回は、同志社大学サイエンスコミュニケーター養成副専攻の4人の先生を駒場に招き、Zoomウェビナーで2時間のイベントを中継しました。野口範子先生は、以前当部門にいた石浦章一先生とともに副専攻プログラムを2016年に立ち上げた生物学者です。その野口先生がご家族の本棚にあった著書を見て招聘したのが、渡辺政隆先生。日本の科学コミュニケーションの先駆けで、私がこの世界を知るきっかけになった方でした。元村有希子先生は毎日新聞で活躍されてきた科学ジャーナリスト。桝太一先生は日本テレビアナウンサーを経て、現在は同志社のハリス理化学研究所で助教を務めています」
――今回のお題は「科学コミュニケーションのコミュニケーション」でしたね。
「「科学コミュニケーション元年」※からはや20年ですが、「科学コミュニケーション」という言葉すら普及していないのが現状です。大学院のガイダンスで聞くと、学生数十人のうち、知っている人は1~2人程度の年もあります。でも、たとえば悩み相談で科学に関わる質問に答えたら、それも実質的には科学コミュニケーションなんです。裏方で貢献する科学コミュニケーターは少なくありませんし、学校の理科の先生や博物館の学芸員なども科学コミュニケーターに入ります。言葉が普及しなくても活動が広がればいいのか、言葉も知られないとダメなのか。登壇者の議論は前者のほうに傾きましたが、参加者アンケートでは、科学コミュニケーターの専門性のアピールの場や、科学コミュニケーションの教育プログラムの卒業生が積むキャリアに及ぼす影響を考えると、「科学コミュニケーション」という言葉の普及がやはり重要だという声もありました。この世界で活動する一人としてあらためて考えさせられました」
共通の目標は掲げられるのか?
――ひと口に科学コミュニケーターといっても、中学校の先生からYouTuberまで様々な形があるわけですよね。
「職能も人それぞれです。書き手である元村先生や渡辺先生は執筆力に秀で、アナウンサーである桝先生は短い言葉でキャッチーに語る力が抜群です。様々な職能を持つ科学コミュニケーターが共通の目標を掲げることができるのかも今回のテーマでした。野口先生は、普段から科学を利用しながら生きているという実感を広げることが科学コミュニケーションの仕事だと語りました。元村先生は、民主主義の運用には科学が前提であり、科学コミュニケーションは民主主義の基盤だと述べました。科学リテラシーを自分ごとと捉える人を増やすことの重要性や、知識を増やすより知識を運用する力や知識にアクセスする力をつけることの意義が確認される場となりました」
「たとえば、科学コミュニケーションに関係する複数の学会間にも、性格が近いのに交流は少ないという問題があります。学内でも科学コミュニケーションに関わる活動がいくつか並行して行われています。この「科学コミュニケーション・カフェ」などの機会を使い、学内の科学コミュニケーター同士のコミュニケーションも進められればと思います」
| 北海道大学 | 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP):2005年~ |
| 大阪大学・京都大学 | 公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS):2012年~ |
| 東京大学 | 科学技術インタープリター養成プログラム:2005年~ |
| 同志社大学 | サイエンスコミュニケーター養成副専攻:2016年~ |
| 愛媛大学 | 理学部 科学コミュニケーションプログラム |
| お茶の水女子大学 | サイエンス&エデュケーション研究所:2005年~ |
| 立教大学 | 理学部 共通教育推進室(SCOLA):2004年~ |
※科学技術振興調整費によって3大学で科学コミュニケーター養成プログラムが始まった2005年は「科学コミュニケーション元年」と呼ばれています。








