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第70回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

科学コミュニケーションのコミュニケーション?

/第4回「科学コミュニケーション・カフェ」

科学技術コミュニケーション部門
特任准教授

内田麻理香
内田麻理香

同志社大学の同志とともに

――「科学コミュニケーション・カフェ」とはどんなイベントでしょうか。

科学コミュニケーションに携わる人同士の交流が少ないという問題意識が以前からあり、横のつながりを作ろうと始めたトークイベントです。4回目の今回は、同志社大学サイエンスコミュニケーター養成副専攻の4人の先生を駒場に招き、Zoomウェビナーで2時間のイベントを中継しました。野口範子先生は、以前当部門にいた石浦章一先生とともに副専攻プログラムを2016年に立ち上げた生物学者です。その野口先生がご家族の本棚にあった著書を見て招聘したのが、渡辺政隆先生。日本の科学コミュニケーションの先駆けで、私がこの世界を知るきっかけになった方でした。元村有希子先生は毎日新聞で活躍されてきた科学ジャーナリスト。桝太一先生は日本テレビアナウンサーを経て、現在は同志社のハリス理化学研究所で助教を務めています

――今回のお題は「科学コミュニケーションのコミュニケーション」でしたね。

科学コミュニケーション元年からはや20年ですが、科学コミュニケーションという言葉すら普及していないのが現状です。大学院のガイダンスで聞くと、学生数十人のうち、知っている人は1~2人程度の年もあります。でも、たとえば悩み相談で科学に関わる質問に答えたら、それも実質的には科学コミュニケーションなんです。裏方で貢献する科学コミュニケーターは少なくありませんし、学校の理科の先生や博物館の学芸員なども科学コミュニケーターに入ります。言葉が普及しなくても活動が広がればいいのか、言葉も知られないとダメなのか。登壇者の議論は前者のほうに傾きましたが、参加者アンケートでは、科学コミュニケーターの専門性のアピールの場や、科学コミュニケーションの教育プログラムの卒業生が積むキャリアに及ぼす影響を考えると、科学コミュニケーションという言葉の普及がやはり重要だという声もありました。この世界で活動する一人としてあらためて考えさせられました

共通の目標は掲げられるのか?

――ひと口に科学コミュニケーターといっても、中学校の先生からYouTuberまで様々な形があるわけですよね。

職能も人それぞれです。書き手である元村先生や渡辺先生は執筆力に秀で、アナウンサーである桝先生は短い言葉でキャッチーに語る力が抜群です。様々な職能を持つ科学コミュニケーターが共通の目標を掲げることができるのかも今回のテーマでした。野口先生は、普段から科学を利用しながら生きているという実感を広げることが科学コミュニケーションの仕事だと語りました。元村先生は、民主主義の運用には科学が前提であり、科学コミュニケーションは民主主義の基盤だと述べました。科学リテラシーを自分ごとと捉える人を増やすことの重要性や、知識を増やすより知識を運用する力や知識にアクセスする力をつけることの意義が確認される場となりました

たとえば、科学コミュニケーションに関係する複数の学会間にも、性格が近いのに交流は少ないという問題があります。学内でも科学コミュニケーションに関わる活動がいくつか並行して行われています。この科学コミュニケーション・カフェなどの機会を使い、学内の科学コミュニケーター同士のコミュニケーションも進められればと思います

大学の科学コミュニケーション教育組織など
北海道大学 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP):2005年~
大阪大学・京都大学 公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS):2012年~
東京大学 科学技術インタープリター養成プログラム:2005年~
同志社大学 サイエンスコミュニケーター養成副専攻:2016年~
愛媛大学 理学部 科学コミュニケーションプログラム
お茶の水女子大学 サイエンス&エデュケーション研究所:2005年~
立教大学 理学部 共通教育推進室(SCOLA):2004年~

科学技術振興調整費によって3大学で科学コミュニケーター養成プログラムが始まった2005年は「科学コミュニケーション元年」と呼ばれています。

テーブルの前に立って集合写真を撮る先生達。
❶(右から)駒場に集結した桝太一先生、元村有希子先生、野口範子先生、渡辺政隆先生、司会を務めた内田麻理香先生、そして裏方として参加の定松淳先生(KOMEX)。
先生がZoomをノートパソコンで利用している様子。
❷2時間のイベントはZoomで生配信され、同志社大学サイエンスコミュニケーター養成副専攻と東京大学科学技術インタープリター養成プログラムの学生・卒業生のほか、科学コミュニケーションに関わる社会人や研究者ら、計90人以上が参加しました。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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UTokyo バリアフリー最前線!第36回

障害がある職員のお仕事拝見⑪本郷・環境整備チームの巻
ことだまくん

落ち葉回収から石庭作りまで

安田講堂周辺や三四郎池、赤門周りなど、本郷キャンパス共用部の清掃を主に担当している本郷・環境整備チーム。13人の障害のある職員と9人のコーディネーターから成るチームです。掃き掃除や草取り、ゴミの回収・分別、赤門の石庭作りなど、キャンパスの広い範囲を概ね1週間かけて回り環境を整えています。

「3班に分かれて、屋外清掃を中心に行っています。雨の日は、袋とつかみを持ってゴミ回収をしています。合羽を着て作業をするのですが、暑い日は熱がこもってしまうので、制服が汗でびっしょりになってしまい大変です」と小松春斗さん。合羽を着なくても暑い夏の屋外作業。冷却タオルを首に巻いたり、小まめに水分補給するなどの対策をしてきました。7月には小さなファンが付いた空調服が支給されることになり、暑さが軽減されることを期待していると言います。

秋から冬にかけては、イチョウの落ち葉や実の清掃です。「秋は大量に葉が落ちてきます。それを掃いて回収しています」と北沢聡さん。2006年に入職したベテランです。北沢さんと同期の早川健太さんは、掃き残しがないように、最後にしっかり確認していると話します。正門から安田講堂に続く銀杏並木などの清掃は、シーズン中はほぼ毎日。重さがある銀杏は一時的に道の脇などに掃き込み、落ちてくる量が減ってきた頃に回収しているそうです。

他にもキャンパス内のゴミ箱に捨てられたゴミの回収や分別、三四郎池の排水溝や滝周りの清掃なども担当しています。観光客が増えたことの影響か、近年ゴミの量がかなり増えているとか。

自然豊かなキャンパスでは、思わぬ生き物に遭遇することも。「今日は赤門周辺で作業中に蛇が出ました」と小松さん。スズメバチやカメなども見掛けるそうです。

キャンパスを訪れる人が気持ちよく歩けるようにしたいと話すチームメンバー。青い制服で作業をしているスタッフに目を留めてみてください。

青い制服を着た環境整備チームメンバーが清掃を行う様子。
安田講堂前広場で清掃を行う環境整備チーム。朝のミーティングとストレッチで身体をほぐした後、作業を始めます。
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#We Change Now

第14回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

生理用品を考えるトークイベント

6月30日、東京大学ジェンダー・エクイティ推進オフィスは、保健センター女性診療科と共催でSafer Campus at UTokyoの一環として、トークイベント「安心、快適に。キャンパスにおける生理用品へのアクセシビリティを考える~ディスペンサー&情報カード・モノの「その先」へ~」を行いました(協力:NPO法人TGP、グローバル教育センター)。

当日は、NPO法人TGP代表の東尾理子氏、保健センター女性診療科担当医の中西恵美氏をゲストに迎え、当オフィスが行っているTGP提供の生理用品ディスペンサー設置事業や、東京大学保健センター女性診療科と連携した、リプロダクティブ・ヘルスや医療機関に関する情報をまとめたカードを紹介しました。さらに、性と生殖に関する健康と権利をとりまく環境や、ゲストが行っている取り組みについてパネルディスカッションを行いました。

その後、参加者と登壇者でグループディスカッションを行い、大学内での生理用品をはじめ性に関する情報やケア、サービスへのアクセシビリティの現状・課題、改善のために必要な施策、希望するアクションなどについて話し合いました。

イベントを終えて、参加者からは「はじめて知ったことがたくさんあった」「もっと男性にも参加してほしい」「ぜひ必修の授業としてやってほしい」「性暴力やLGBTQ+に関する知識を学生・教職員双方に普及することは急務だと思う」といった声がありました。

当オフィスでは、生理用品アクセス改善をはじめ、ジェンダー平等実現に向けた取り組みを引き続き進めてまいります。

(特任研究員 福田和子)

三人の女性が情報カード・生理用品ディスペンサーを持ち紹介する様子。
左から中西恵美氏、東尾理子氏、福田
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第230回

教養学部等学生支援課
学生支援チーム
近藤里帆

駒場Ⅰキャンパスの“祭”の裏方

近藤里帆
「ふんばるず」のぬいぐるみとともに精進して参ります

私の目玉業務は、11月に開催される駒場祭のサポートです。運営主体である駒場祭委員会(学生自治団体)より様々な要望を受け、関係部署や先生方と調整しています。祭を盛り上げたい委員会側と、祭を安全に完遂してほしい事務側との間には心の距離を感じることもありますが、学部1・2年生ながらに広報や企画運営、原状回復に至るまでを監督する委員会の姿勢には尊敬の念を抱きます。何より、彼らが無事に3日間のお祭りを終了できたときにはホッとします。

当チームは日々、学生達の日常的なトラブルから学生自治会との学部交渉に至るまで様々な相談事があり、程よいお祭り状態です。明文化されていないことも多いため調整が難しく感じることもありますが、心強い先輩方や懐の深い上席者に支えられて、のびのびと過ごさせていただいています。

木耳汁を持ってテーブルに座っている近藤さんの写真
最近飲んだクプアス味の木耳汁

今年の駒場祭は11月22日(土)~24(月祝)に開催されます。是非遊びに来てください。

得意ワザ:
バランスボールの上で素麺が食べられます
自分の性格:
割とずっとご飯のことを考えています
次回執筆者のご指名:
永岩修也さん
次回執筆者との関係:
同期の東京スイーツ巡り仲間
次回執筆者の紹介:
業務改革のエースです
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第38回
工学系研究科修士課程1年鬼塚大輝
文科一類2年堀田悠生
情報理工学系研究科修士課程2年戸井啓允

棚倉の魅力を未来の観光へ

山本不動尊で並んで立つ5人のメンバー。
山本不動尊での集合写真

私たちは昨年度、福島県棚倉町で観光スポットの洗い出しと観光ルートの構築に取り組みました。棚倉町は棚倉城の城下町として知られ、歴史的建造物やアウトドアなど多様な観光資源がありますが、知名度の低さが課題でした。そこで、初めて訪れる学生の視点で新たな魅力を発掘し、観光客誘致を目指しました。

第1回の現地活動では、事前に調べた観光地を実際に周り、現状の調査を行いました。それを基に、課題の特定やターゲット層の選択を行い、提案の原案を作成しました。第2回の現地活動では、観光に携わる方との意見交換を行い、提案をブラッシュアップしました。第3回の現地活動にて、現地で報告会を行いました。

1年間の活動を通じて、大きく3つの提案を行いました。1つ目は「日帰りサイクリングコース」です。徒歩での移動に限界を感じたことからレンタサイクルを活用し、棚倉町の特徴である「一宮が2社存在する」という特徴を活かし、城跡や神社仏閣を巡る歴史好き向けのルートを設計しました。2つ目は「一泊二日コース」で、車で訪れる観光客を対象に、1日目は町の北側をサイクリングで、2日目は南側をドライブで巡る広域観光プランを提案しました。3つ目は「情報発信の改善」です。桜や紅葉といった季節情報の発信方法の見直しに加え、観光ルートマップやグルメマップの作成、観光案内所の設置など、情報の集約と発信力の強化を図る提案をしました。なかでも「日帰りサイクリングコース」は特に高く評価され、現在はテスト導入が進められています。

棚倉町サイクルマップ
作成した棚倉町サイクルマップ

今回のフィールドワークを通して、実際に現地を訪れたからこそ、棚倉町の魅力や、外からは見えにくい課題に気づくことができました。また、地域の方々や関係者の皆様から直接伺ったお話は、観光ルートの設計や施策提案に大いに役立ちました。今回得た経験を、今後の活動にも活かしていきたいと考えています。最後に、温かく迎えてくださった自治体の皆様、ご支援いただいた東大FSの皆様に、心より感謝申し上げます。

●メンバーはほかに多賀谷勇佑(工4年)、前田晃輔(農学生命科学研究科修士1年)

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インタープリターズ・バイブル第215回

総合文化研究科 准教授
科学技術コミュニケーション部門
豊田太郎

Mirror Bacteriaの衝撃

先日、「日本人だけが読めないフォント」というインターネット記事を読み、そのフォントを公開しているウェブサイトを知った※1。私も「よく作り込まれているなぁ」と感心しつつ、このフォントで書かれた文を読もうとすると、その見た目に思考が邪魔されてもどかしさを感じ、読むのにとても時間がかかった。もしこのフォントで書かれた論文が氾濫したらと想像してゾッとした。この経験は、近い将来実現すると科学者が予想する“人工微生物”「Mirror Bacteria」が、人類を含む地球上の生物に与えるであろう衝撃を思わせるものかもしれない。

生物は分子でできている。分子は多数の原子が連なったかたまりである。生物の体をつくる分子と、構成原子やその結合は同じで、全体形状だけが鏡で映した関係にある特殊な分子も(多くはないが)存在する。近年、そうした特殊な分子が少量でも生物に与える影響が明らかになってきている。全体形状が鏡映しの関係にある2つの分子において生体内での量や役割に差異がみられる現象はホモキラリティとよばれ、生命起源の謎の一つとされている。そこで科学者チームが最近、この特殊な分子のみでできた体をもつ人工微生物「Mirror Bacteria」が人の手でつくられたら、生物にどのような影響を与えるかについて議論をまとめ発表した※2

この発表によれば、Mirror Bacteriaは、地球上の生物と同じ餌を摂取して増殖することが可能である。もし生物がMirror Bacteriaに感染すると、生物はそれを排除する仕組みをもっておらず、仮に免疫系が新たに学習できるにしても膨大な時間がかかり、それまでにこの人工微生物が体内で増殖する結果、生物体内の様々な機能が不全となることが想定される。つまり、ホモキラリティで支えられてきた地球上の生物全体の営みがMirror Bacteriaによって脅かされることになる――発表した科学者チームはこう警鐘を鳴らした。実は、生物のDNAと鏡映しの関係にあるシュピーゲルマーという人工の分子はすでに開発されており、新しい薬剤の候補として注目されている。現在、Mirror Bacteriaに関連する実験への対応をめぐって、世界で議論が始められている。まさに「責任のある研究・イノベーション(RRI)」が求められる課題の一つとなるだろう。

※1 https://fontmeme.com/jfont/electroharmonix-font/
※2 K. P. Adamala et al., Science 386, 1351-1353 (2024).

科学技術インタープリター養成プログラム

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HCD編 ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第69回

ディベロップメントオフィス
アソシエイトディレクター
二瓶仁志

ホームカミングデイWEB公開!

10月18日に開催される“オール東大の祭典”ホームカミングデイ。今年は「おかえり、つながり、銀杏祭」をスローガンに掲げ、推定20万人いるといわれる活躍中の卒業生や、地域のお店・住民、そして広く東京大学に関心のある方々を本郷キャンパスにお招きします。

ホームカミングデイ開催を広く世の中にお伝えする第一弾として、WEBサイトのトップページを公開しました。10月18日開催の予定を掲げるほか、企画募集の呼びかけを行います。

そして、ホームカミングデイで目玉の企画となる「周年懇親会」の申し込みを開始します。今年は昨年から倍増となる、卒業5・10・15・20・25・30・35・40・45・50・55・60周年の「12学年」もの卒業生向けに懇親会を開催します。『学内広報』をお読みの方々のなかにも、周年を迎える東大卒業生は多いはず。懐かしの同期に声をかけ、思い出話に花を咲かせるちょうどいいきっかけとして、ぜひこの「周年懇親会」にご参加ください。

また、卒業生でなくとも、ぜひ「企画出展」をしてください。ホームカミングデイは昨年の来場者が約8,000人。学内のみなさまにとっては、普段の活動を世の中に広め、共感と支援を得るための貴重な機会となるはずです。

昨年は物産マルシェ(農学部)、講演会(地震研究所)、「家族で体験理学のワンダーランド」(理学部)、VR体験(ニューロインテリジェンス国際研究機構)など学内から積極的な出展があり、大人から子どもまでの来場者が東大ならではの体験ができたと非常に好評でした。

さらに、もっと小さな単位の同窓会やサークルでの出展も大歓迎です。東大蔵元会の利き酒の会や、東大三四郎会のタルトづくり体験にはたくさんの人が集まりました。焼きそば屋やクレープ屋などを親しい方々と切り盛りし、思い出に残る1日を作ってください。

東京大学と社会がつながる場として「おかえり、つながり、銀杏祭」を盛り上げたいと考えています。ぜひご参加ください!

安田講堂前の広場に集まっている人々の様子
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