東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
時代の変化に応じて変われる機動性を強みに
/教養教育高度化機構(KOMEX)第6代機構長に聞く
総合文化研究科教授
増田 建
機構に関わって足掛け15年
――6代目機構長の増田先生は機構に以前から深く関わってきたそうですね。
「2010年度に学部長補佐を務めた際、前身の教養教育開発機構と生命科学構造化センターの合併が決まり、一連の整備に関わりました。「学部教育の総合的改革」の一環で初年次ゼミナールを始めるにあたり、2013年度発足の初年次教育部門で部門長を務めました。その後は財務委員長、機構長補佐を務め、2023年度にはアクティブラーニング部門と自然科学教育高度化部門と初年次教育部門をEX部門に統合するのに尽力しました。機構に関わってもう15年ですね」
――この間の手応えはいかがでしょう。
「時代に即して部門の形態は少しずつ変化してきました。生命科学だけだった部門が自然科学の部門になり、そこに教育が加わり、さらにEX部門へと発展しました。当初の使命を終えた部門もあります。毎年、全部門の活動をまとめている報告書を見るたび、意義ある歩みを進めていると感じます。既存の専攻や学科は枠組みがしっかりしています。教育にとって重要なことですが、一方で機動性は失われがちです。そんななか、この機構は教養学部で一番機動性が高い組織で、時代の変化に対応する意義は大きいはず。ただ、執行部の高齢化が進んでいるので、世代交代の頃合いかなとも感じます」
発展のための部門編成を検討
――新体制での課題を教えてください。
「一つは、執行委員の瀬川浩司先生が定年を迎えるにあたり、瀬川先生が当初から主導してきた環境エネルギー科学特別部門とSDGs教育推進プラットフォームをどうするか。環境エネルギー科学もSDGsも重要度は増しており、何らかの形で継続・発展させることが必要です。GX推進の取り組みや国際卓越研究大学への申請など、全学的な戦略の一環に位置づける方向で検討しています。もう一つはD&I部門の展開です。総長裁量経費が活動原資なので、現総長の任期終了後にどうするか、道筋を立てないといけません。部門の活動は非常に活発で、昨年度は13科目の授業を展開し、講義科目の履修学生の数は平均100名超。こちらも継続・発展の形を探っています」
――他の部門の現況も教えてください。
「EX部門で新しく取り組んでいるのは、教育における生成AIの活用です。現状を踏まえながら、大学にとって効果的な活用方法を探っています。科学技術インタープリター養成部門は昨年度に科学コミュニケーション部門に名前を変更しました。インタープリターの養成だけでなくコミュニケーション活動を重視しようとの考えからです。国際連携部門では以前から南京大学と連携したリベラルアーツ・プログラム(LAP)を続けていますが、近年はメルボルン大学と連携した活動も強めています。社会連携部門では、博報堂やアクセンチュアといった企業とのコラボ授業を展開しており、社会人も対象の「リベラルアーツ・イノベーション・ヴィレッジ」の活動も始まりました。毎年3月のKOMEXシンポジウムでは、SDGs教育推進プラットフォームと環境エネルギー科学特別部門のこれまでの活動を総括する予定です」
「教養教育の中身はある程度時代に応じて変わるでしょう。たとえば、D&IやGXに関する素養は数十年前にはあまり注目されませんでしたが、いまでは誰にとっても不可欠なものです。時代の風を捉えながら、グローバル・シチズンシップにつながる教育活動を今後も進めます」
(社会連携部門特任助教)
| 3月8日 | シンポジウム「ゲームオーディオ研究の過去・現在・未来」(社会連携部門) |
| 3月9日 | シンポジウム「多様性と安全」(D&I 部門) |
| 3月19日 | ワークショップ「アクティブラーニングの試行錯誤~つくって学ぶ授業を事例にして考える」(EX 部門) |
| 3月23日 | ワークショップ「 第5回東大生がつくるSDGsの授業」(EX 部門) |
| 7月26日 | Ari Beserさん講演会~家族の歴史から見えるもう一つの世界史(EX 部門) |
| 9月10日 | ワークショップ「授業をふり返って、アクティブにする方策を考えよう」(EX 部門) |








