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第71回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

時代の変化に応じて変われる機動性を強みに

/教養教育高度化機構(KOMEX)第6代機構長に聞く

教養教育高度化機構長/
総合文化研究科教授

増田 建
増田 建

機構に関わって足掛け15年

――6代目機構長の増田先生は機構に以前から深く関わってきたそうですね。

2010年度に学部長補佐を務めた際、前身の教養教育開発機構と生命科学構造化センターの合併が決まり、一連の整備に関わりました。「学部教育の総合的改革」の一環で初年次ゼミナールを始めるにあたり、2013年度発足の初年次教育部門で部門長を務めました。その後は財務委員長、機構長補佐を務め、2023年度にはアクティブラーニング部門と自然科学教育高度化部門と初年次教育部門をEX部門に統合するのに尽力しました。機構に関わってもう15年ですね

――この間の手応えはいかがでしょう。

時代に即して部門の形態は少しずつ変化してきました。生命科学だけだった部門が自然科学の部門になり、そこに教育が加わり、さらにEX部門へと発展しました。当初の使命を終えた部門もあります。毎年、全部門の活動をまとめている報告書を見るたび、意義ある歩みを進めていると感じます。既存の専攻や学科は枠組みがしっかりしています。教育にとって重要なことですが、一方で機動性は失われがちです。そんななか、この機構は教養学部で一番機動性が高い組織で、時代の変化に対応する意義は大きいはず。ただ、執行部の高齢化が進んでいるので、世代交代の頃合いかなとも感じます

発展のための部門編成を検討

――新体制での課題を教えてください。

一つは、執行委員の瀬川浩司先生が定年を迎えるにあたり、瀬川先生が当初から主導してきた環境エネルギー科学特別部門とSDGs教育推進プラットフォームをどうするか。環境エネルギー科学もSDGsも重要度は増しており、何らかの形で継続・発展させることが必要です。GX推進の取り組みや国際卓越研究大学への申請など、全学的な戦略の一環に位置づける方向で検討しています。もう一つはD&I部門の展開です。総長裁量経費が活動原資なので、現総長の任期終了後にどうするか、道筋を立てないといけません。部門の活動は非常に活発で、昨年度は13科目の授業を展開し、講義科目の履修学生の数は平均100名超。こちらも継続・発展の形を探っています

――他の部門の現況も教えてください。

EX部門で新しく取り組んでいるのは、教育における生成AIの活用です。現状を踏まえながら、大学にとって効果的な活用方法を探っています。科学技術インタープリター養成部門は昨年度に科学コミュニケーション部門に名前を変更しました。インタープリターの養成だけでなくコミュニケーション活動を重視しようとの考えからです。国際連携部門では以前から南京大学と連携したリベラルアーツ・プログラム(LAP)を続けていますが、近年はメルボルン大学と連携した活動も強めています。社会連携部門では、博報堂やアクセンチュアといった企業とのコラボ授業を展開しており、社会人も対象の「リベラルアーツ・イノベーション・ヴィレッジ」の活動も始まりました。毎年3月のKOMEXシンポジウムでは、SDGs教育推進プラットフォームと環境エネルギー科学特別部門のこれまでの活動を総括する予定です

教養教育の中身はある程度時代に応じて変わるでしょう。たとえば、D&IやGXに関する素養は数十年前にはあまり注目されませんでしたが、いまでは誰にとっても不可欠なものです。時代の風を捉えながら、グローバル・シチズンシップにつながる教育活動を今後も進めます

KOMEXのこれまでの部門変遷
これまでの部門変遷をタイムラインラベルで示したガントチャート
KOMEXは「伸ばす」「幅を広げる」「人と人をつなげる」の理念を掲げて2010年に発足。「ティーチング」から「ラーニング」への転換を目指す取り組みの一環として設計された少人数チュートリアル授業が初年次ゼミナールでした。ALESS/ALESAは1年生を対象とした英語ライティングの必修科目です。
今年度新任教員
(社会連携部門特任助教)
新任教員の清野氏
清野真惟(イタリア政治史)
KOMEXの最近のイベント(3月以降)
3月8日 シンポジウム「ゲームオーディオ研究の過去・現在・未来」(社会連携部門)
3月9日 シンポジウム「多様性と安全」(D&I 部門)
3月19日 ワークショップ「アクティブラーニングの試行錯誤~つくって学ぶ授業を事例にして考える」(EX 部門)
3月23日 ワークショップ「 第5回東大生がつくるSDGsの授業」(EX 部門)
7月26日 Ari Beserさん講演会~家族の歴史から見えるもう一つの世界史(EX 部門)
9月10日 ワークショップ「授業をふり返って、アクティブにする方策を考えよう」(EX 部門)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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UTokyo バリアフリー最前線!第38回

障害がある職員のお仕事拝見⑬駒場・環境美化チームの巻
ことだまくん

花壇のデザインから生け花まで

駒場キャンパスの花の育成や花壇の管理を担当する駒場・環境美化チーム。障害のある職員6人とコーディネーター3人のチームです。全部で16ある花壇の構図案作りから種まき、花の育成、除草など1年を通して花壇を中心とした業務を行っています。育った花は生け花に、つる性植物などはクリスマスリースにしてさまざまな部署に配布もしています。

舗装された小道の隣に、鮮やかな色の花が咲く花壇
21 KOMCEE裏の花壇

「種まきは春と秋に行っていています。約3000粒ほどの種をセルトレイで育て、根付いたら花壇に植え替えています」と話すのは原島奨さん。1人1人担当する花があり、適切な栽培方法で育成していますが、どんなに忠実に世話をしてもうまくいかないことも。「発芽率が高い種も芽が出ないことがあります。虫や天候などにも影響されるので、時には情報をネットで検索するなど試行錯誤しながら育てています」と依藤壮大さん。花の状態を細かく確認し、「病気の予兆があればチームに報告し、相談しています」と山内勝隆さんは説明します。

花壇に使用する腐葉土作りも行っていると話すのは和田隆太郎さん。「落ち葉など集めたものを混ぜて発酵を促し、翌年完成します」。そして大切なのが除草や花がら摘み。「なかなか抜けない雑草は地面を深く掘り抜いています」と大石駿さん。なかでも注意が必要なのが、カタバミというクローバーに似た植物だと話すのは中安陸斗さん。「根に付いている小さな球根まで取らないと、また繁殖してしまいます」。

花壇のコンセプトや構図案を練っているのも環境美化チームです。アドミニストレーション棟と矢内原公園の間にある花壇は日当たりが悪いため、石を使ってロックガーデンにすることに。200kg以上ある石を運び花壇に設置した時は「充実した達成感を感じた」と依藤さん。メンバーが日々手入れをし、丹念に作った花壇を是非見てみてください。

制服を着た6人の男性職員たちの集合写真
左から和田さん、中安さん、山内さん、大石さん、原島さん、依藤さん。
黄色と紫の花が満ちた花瓶の写真。
毎週、生け花を16か所に配布しています。
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#We Change Now

第15回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

在学女性学生による学校訪問事業

ジェンダー・エクイティ推進オフィスは、2010年から2024年度まで行なっていた「女性学生による母校訪問事業」を、今年度より「在学女性学生による学校訪問事業」にリニューアルし、8月からスタートしました。これまでの母校訪問事業は学生が名乗りを上げて母校に東京大学の魅力を伝える説明会を行なうものでしたが、この方式だけでは、訪問できる学校が限られるため、今年度から、従来の母校訪問に併せて、全国から東大生に説明会を開催してほしい学校(高校・中高一貫校を含む)を募集し、学校を訪問して東京大学の魅力を伝えたい女性学生を派遣する学校訪問事業を開始しました。今年度は、オンライン開催を含めて39校訪問する予定です。説明会では、現役東大生が、大学所在地やキャンパスの雰囲気、進学選択制度、経済的支援などの基本情報を紹介し、高校時代から現在に至るまでの経験や、東京大学に進学して良かったと感じている点について語ります。説明会の最後には、質疑応答の時間を設け、学生と中高生が直接交流することで、東京大学により親しみを感じてもらえる構成にしています。

これまで行なわれた説明会終了後アンケートでは、「今まで身近に感じられなかった東京大学が少し身近に感じられました」「東大が遠く離れた存在のように感じていたが(中略)とても楽しそうな大学だなと感じた。この講演会を機に東大に行きたい意欲が高まった」などの意見を多くいただきました。また、高校の先生からも「高校3年生にとっては憧れの東大生と交流することができ、さらにモチベーションを高めることができたようです」「生徒にとってとても良い意識づけになった」といったご感想をいただきました。

ジェンダー・エクイティ推進オフィスでは、東京大学に在籍している女性教職員・学生の支援のほか、女子中高生向けのイベントや広報などを企画・実行し、未来の女性東大生に向けても活動をしています(※)。皆様にもご興味を持っていただき、周囲の女子中高生にもご紹介いただけると嬉しいです!

(特任研究員 久保京子)

教室に座っている生徒たちが机に向かっている様子。
8月に行なわれた説明会の様子
※ ジェンダー・エクイティ推進オフィスウェブサイト「中高生のみなさんへ」
「中高生のみなさんへ」のQRコード
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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第232回

ニューロインテリジェンス国際研究機構
総務企画チーム
小川謙也

Keep your feet on the ground

小川謙也
医学部一号館の看板前で

今年8月、ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)に着任しました。IRCNは、「ヒトの知性の起源とは」という問いに挑戦するために、2017年に設立されました。

私は、採用・退職の手続きから給与計算まで、教職員の皆様の人生に深く関わる重要な業務を担当しています。人事給与業務は、専門的な知識と高い正確性が求められる分野であり、的確な処理を行うためには日々の研鑽が欠かせません。また、IRCNは国際的な研究拠点であるため、複雑な制度を英語で説明する場面も多く、語学力と制度理解の両面での対応力が求められます。まだまだ知識・経験が不足しているため、周囲の皆様の温かいサポートには大変感謝しております。一歩一歩着実に業務に取り組み、本学の発展に微力ながら貢献できるよう尽力してまいります。

最近、デスクワークでなまった体を鍛えなおすため、ジムに通い始めたものの、おいしいごはんの誘惑に勝てません。健康のためにも地道に頑張ります。

房総半島のビーチ、穏やかな波と砂浜が特徴的な風景を撮った写真
暑さから逃げたくて、房総半島へ
得意ワザ:
早寝早起き
自分の性格:
とりあえずやってみてから考えるタイプ
次回執筆者のご指名:
白井道人さん
次回執筆者との関係:
採用当初から仲の良い同期
次回執筆者の紹介:
会話のネタたくさんもっています
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第39回
教養学部3年森⽥晃弘
教養学部3年原 泰也

若者の移住を自分ごととして

私たちは、石川県能美市で、移住促進のためのシティプロモーションをテーマに1年間取り組みました。とりわけ大学卒業後などの若年層をターゲットにしたものであったため、「もし私たちが能美市に移住することになったら」という自分ごととしての視点からテーマについて取り組んでいきました。

私たちの活動で一つ特筆すべき点としては、能美市移住アンバサダーという、能美市への移住経験のある方からのご協力をいただいたことです。移住アンバサダーの方々から、ご自身の移住経験や、移住という視点から見た能美市の強み・改善点をお聞きしました。

これらを踏まえて、私たちはメンバーそれぞれの視点から、将来的に能美市にあるといいのではないかと考えたものや仕組みを提案しました。屋根付き電動自転車の推進、アプリやプラットフォームを用いた移住者コミュニティの形成、市内企業によるインターン活動といった内容で、どれも能美市の強みと改善点を掛け合わせることを意識しながら提案内容を考えました。

私たちは能美市への提案の中で、これらのほかに短期的な施策として五月祭への出展を提案しました。シティプロモーションを行っていく上で、若年層への市の知名度を上げることが重要だと考え、その中で私たちができることとして、大学生の多い五月祭が良いのではないかと考えたからです。五月祭ではグッズやお菓子を販売したり、陶芸体験で作った九谷焼を展示したりしました。市のキャラクターも活かしながら、能美市の魅力が伝わるようなブースづくりを目指しました。

五月祭当日は、市役所の職員の方や、過去の能美市のFS参加学生の方にもお手伝いいただき、多くの方にブースにお越しいただく事ができました。活動の中でお世話になった能美市の方や、能美市にゆかりのある方も来てくださって、とても嬉しかったです。ターゲットとしていた大学生や家族連れの方々にも、能美市の名前を知っていただけたという手応えを感じることができました。

オフィスのテーブルを囲んで座ってお話するメンバー達。
様々な方とお話しさせていただきました

●メンバーはほかに、下田清太郎(工学系研究科修士2年)、山口彩乃(経済3年)

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インタープリターズ・バイブル第217回

理学系研究科准教授
科学技術コミュニケーション部門
鳥居寛之

SNS時代の情報発信と生成AI

人と人とのつながりが対面を超えて成立する時代。特にSNSの普及により誰もが情報発信できるようになったこの世の中だが、匿名性の高いこのデジタル空間に偽情報・誤情報が氾濫し、人々がそれを信じてしまうことの弊害が近年とみに指摘されている。溢れる情報を自分で選択したつもりでも、気づけば自分の意見に沿った見解だけしか目に入らないようになっているという、フィルターバブルやエコーチェンバーの閉じた仮想空間に陥りやすい伝達構造に注意が必要だ。

こうしたSNSの特性は、情報化社会の新しい問題なのかと思いきや、「人は見たいものを見る」という認識は古くからあり、なんとカエサルのガリア戦記に登場する言葉なのだという(fere libenter homines id quod volunt credunt. =たいてい人間は自分が望んでいることを喜んで信じる)。

原子・原子核・素粒子物理学の研究者である私が科学コミュニケーションの分野に関わるようになったのは、原発事故当時に放射線に関する玉石混淆のリスク情報が巷に錯綜し、科学者として正しい知識を伝えたいとの使命感から放射線教育活動を始めたのがきっかけだ。ただ、科学者が伝えたい情報と人々が知りたい情報は必ずしも合致しないし、人間の認知バイアスを考えても、拡散しやすいのは科学的に正しいというよりもむしろ感情的に心に刺さる情報の方である。

クライシス時にあっては、迅速性が最重要課題であって、人々の危険を煽るような感情的な情報は特に拡散しやすくなる。フェイク情報はスマホ片手にものの1分で作成できる一方で、科学的根拠に基づいた正確な文章を書き上げようと思ったら、専門家でもデータ収集、情報の検証や文章の校正まで、場合によっては数時間を要してしまうだろう。偽情報・誤情報との戦いは、要する労力と時間の圧倒的な非対称性から、科学者にとって勝ち目がないように思われる。

この非対称性を少しでも解消する方策として、進展すさまじい生成AIの活用が考えられるのではないか。我々のプロジェクトでは、当時科学者有志が一般市民の疑問質問に答えた何千ものQ&Aの文章など、専門的な知識を生成AIに検索拡張生成(RAG)データとして読み込ませ、データや論文の検索、下書き原稿作成など、科学者の執筆支援に活用し、迅速な情報発信に役立てることを目指して研究している。AIを活用すれば薔薇色の未来というほど甘くはなかろうが、今や中高生でも日常的に利用している生成AIを、科学コミュニケーションに活用しない未来ももはやありえまい。

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HCD編 ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第71回

ディベロップメントオフィス
シニアディレクター
庄司英里

10/18開催!ホームカミングデイ

第24回東京大学ホームカミングデイ

このコーナーでご紹介してきたホームカミングデイが、いよいよ本番を迎えます。「おかえり、つながり、銀杏祭」は、久しぶりに母校を訪れる卒業生はもちろん、教職員、在学生、近隣の方々、そして東大ファンなら誰でも参加できるお祭りです。ぜひお誘い合わせのうえ、本郷キャンパスにお越しください。今年は約130件の企画エントリーがありました。主なプログラムをご紹介します。

銀杏並木フェスタ ホームカミングデイ名物「東大蔵元会利き酒」は過去最大の18蔵が参加、同窓会団体の出店、学生運動部による体験コーナー、近隣商店の飲食販売など、一日中楽しめます。運動会マスコットキャラクター・イチ公はお子さんたちに大人気。馬術部のお馬さんも三鷹の馬場からやってきますよ。

安田講堂 卒業後の節目を迎えるみなさまをお祝いする周年祝賀式典、150周年記念事業イベント、文書館の展示、寄付者銘板の自由見学会など、普段はなかなか入る機会のない安田講堂を見学するチャンスです。15時30分からは安田講堂前広場に来場者が集まり、応援部のリードで東大の歌『ただ一つ』を歌います。

赤門音楽祭 音響効果に優れた伊藤謝恩ホールで開催、管弦楽・合唱の同窓会をはじめ、日本で唯一の学生ベネズエラ音楽合奏団、本郷小学校生徒さんたちの合唱、なつかしの一校寮歌を歌う会が出演します。

懐徳館庭園公開 旧加賀藩主前田氏本郷本邸に起源をもつ庭園が本郷キャンパスの南端にあるのをご存じですか? 学内の方でも訪れたことが少ないこの庭園を、当日限定で一般公開します。

各教室での講演会、エンタメ、ワークショップなど

法文1・2号館ほか各学部棟では、伝統の東大落語会寄席、華道部展示、東大ならではの講師陣による講演会、無料婚活セミナーなども行われます。

そのほかプログラム詳細は特設Webサイトでご覧ください!
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