2024年12月から始まった東南極での観測を終え、今年4月に帰還した第66次南極地域観測隊。初の女性隊長となった原田尚美先生をはじめ、66次隊に参加した隊員の皆さんが活動を振り返る報告会が、9月6日にSHIBUYA QWSにて行われました。スクランブル交差点を見下ろす渋谷のど真ん中のホールで一般向けに語られた内容を、原田隊長の報告を中心にダイジェストで紹介します。


初めて2レグ制で臨んだ66次隊
今日は小さいお友達から大きいお友達までお集まりいただき、ありがとうございます。第66次南極地域観測隊の隊長を務めた原田です。南極で観測することの意義や楽しさを伝えたいと思います。
第66次の隊員は全体で120名ほどで、4班に分かれて活動しました。全員で活動して全員で帰るのが従来のやり方でしたが、今回は初めて活動期間をレグ1とレグ2に分けました。レグ1の本隊は68名で、輸送、観測、基地設営など、基地と基地周辺での活動が中心。レグ2の本隊は主に海洋観測の班で、隊員数は38名。レグ1の本隊の出発は12月初旬でしたが、そのひと月ほど前に出発した先遣隊もいて、こちらは南アフリカから飛行機で昭和基地に入りました。過去の気候変動を記録する氷床コアの採取が任務です。もうひとつ、9名から成る別働隊があり、こちらは東京海洋大学の練習船「海鷹丸」に乗り込み、南大洋で観測を行いました。
レグ1の隊員は、成田からオーストラリアへ入り、南西部のフリーマントルから海上自衛隊の南極観測船「しらせ」に乗船、海の動物も視認しながら南極へ。海氷がひしめくエリアでは、一旦後退してから助走をつけて重さで氷を割って進む「ラミング航法」を繰り返しながら、少しずつ南極へ接近しました。しらせからヘリコプター経由で東南極に位置する昭和基地に到着すると、第65次越冬隊の隊員たちが出迎えてくれました。
ラジオ体操からゴミ処理まで
ここからは写真を見ながら説明しましょう。昭和基地周辺は、夏には雪が融けて地面がむきだしになります。夏とはいえ、かなりの強風が吹く日もあります。昭和基地の朝はラジオ体操から。66次の設営系が建設した新しい夏季隊員宿舎の写真もあります。観測隊には気象庁から来た隊員5人がいて、24時間体制で南極の気象を観測します。隊から出たゴミを自分たちできちんと処理するのも、南極大陸の環境保全のための重要な活動です。大陸沿岸では国土地理院から派遣された隊員たちが地図を作るための活動を展開しました。丸いドームのある建物は昭和基地のメイン棟で、食堂や隊長室や医務室などがあります。細長い銀色の建物は越冬隊の棟。間をつなぐ黄色い建物が通路棟で、赤い建物は発電機がある発電棟です。外には雪上車が並んでいます。ちなみに、一般の方にはあまり知られていませんが、昭和基地は大陸にはなく、オングル島という島にあるんですよ。
さて、隊員の仕事は観測だけではありません。昭和基地にとって年に一度の補給のタイミングが夏。糧食などの物資輸送は夏隊の非常に重要な仕事です。雪上車とコンテナで運ぶ大型物資氷上輸送を行うのは、氷が締まる夜間。夜間といっても白夜なので明るい中での作業です。燃料は昭和基地としらせのタンクをパイプでつないで送り込みます。新しい建築物を作ったり、従来の建築物の修繕も重要な作業です。また、隊員だけで基地運営を成立させる必要があり、何かあったときの準備が非常に重要です。火事が起きたときのために消防訓練を行い、停電が起きたときのためにわざと停電させて復旧させる計画停電の訓練も行いました。
同時並行で、観測系の隊員たちは南極大陸の沿岸部や氷河、海氷上で観測を行いました。観測地点への移動手段は主にヘリコプター。リュツォホルム湾の近傍の氷河上に装置を設置して氷が年間でどれくらい動いているかを観測したり、活動の礎となる地図を作ったりといった取り組みです。
540mも掘って氷床コアを採取
先遣隊は、飛行機で南極に入り、昭和基地経由で大陸の中央にある「ドームふじ観測拠点II」へ移動して作業しました。この拠点は高度3800mの高地にあり、酸素濃度は渋谷の半分程度。少し体を動かすだけで苦しくなります。夏でも気温は平均マイナス30度ほど。100万年にわたる過去の気候情報を記録した氷床コアを採るプロジェクトが稼動し、1年目の今年は540m超の深さまで掘削しました。あと2年かけて深さ3000mまで掘り進める計画です。もう一つの班は天文学のチーム。南極は空気がきれいなので天文物理の観測にうってつけの場所なのです。このチームは66次の活動としてサブミリ波望遠鏡の設置準備を行いました。
今回、隊の活動期間を2つに分けた理由として、南極周辺の海洋観測の重要度が増していることが挙げられます。さまざまな専門家チームがより難易度の高い観測をできるようにと2班構成にしたのです。海洋観測チームが注目したのは東南極のトッテン氷河沖。南極大陸では西側の氷の融解が急速に進む一方で、東側はあまり融解が進んでいないといわれています。ただ、トッテン氷河付近ではあたたかい海水によって融解が加速しているという仮説があり、それを検証すべく、物理、化学、生物と分野の違うメンバーで統合的な観測計画に着手しました。
海水に鉄はどれほど含まれる?
私たちが行った3月初めは季節が変わって秋に入る時期で、気温は寒い日だとマイナス20度ほど。今回、従来は難しかった「クリーン採水」を行いました。汚染物質の混入を防ぎながら行う高度な採水で、今回は鉄などの金属が海水にどの程度含まれるかを測定するための措置でした。水温、塩分などのほか、植物プランクトンの活性も測れるロボット型の観測装置を設置することができました。
まとめると、レグ1において、昭和基地への輸送業務が無事完了し、新夏季隊員宿舎の建築も順調に進みました。先遣隊は拠点IIで540m超の深さまで掘削を実施し、レグ2ではトッテン氷河沖であたたかい海水の通り道に観測点を設けて難易度の高い観測を実施できました(余談ですが、南極では夏でも夜間にオーロラがきれいに見えます。高級な撮影機材などなくても、最新のiPhoneさえあればオーロラ撮影もバッチリですよ)。
今回の瀬川さんのように、若者は南極から帰国後に大きく成長します。南極観測が教育にも貢献することの証だと思います。次世代にしっかりバトンを引き継げるよう今後も観測隊をご支援ください。
| 11:20 ~ | 開会挨拶(沖野郷子) |
| 11:30 ~ | 第66次南極地域観測隊活動報告(原田、真壁) |
| 12:10 ~ | ポスター展示見学、コーヒーブレイク |
| 12:30 ~ | 南極観測フリートーク 話題提供:「レグ1での昭和基地周辺の海氷調査活動」(小平)、「レグ1でのAUVの活動」(山縣)、「レグ2の海洋観測活動」(栗栖、前田) 参加:真壁、漢那、チェン、瀬川 司会:原田 |
| 14:00 ~ | 閉会挨拶(津田敦) |
総合司会:濵﨑恒二


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