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第73回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

足掛け19年の挑戦を未来の日本へ

/環境エネルギー科学特別部門の歩みと部門長のメッセージ

総合文化研究科教授
環境エネルギー科学特別部門長

瀬川浩司
瀬川浩司

2007年に前身の部門が発足

――部門の沿革を教えてください。

小宮山宏総長の時代にNEDOの支援を受け、駒場の3部局(教養、生研、先端研)横断で教養学部附属教養教育開発機構(現・KOMEX)にNEDO新環境エネルギー科学創成特別部門(2007年~2012年)を設置しました。地球温暖化の主因とされる二酸化炭素の排出源は9割以上がエネルギー由来ですから、環境とエネルギーの問題は表裏一体で切り離せません。そのような視点で、環境とエネルギーの課題の同時解決を指向した教育を進めることが目的でした。この5年プロジェクトの終盤となる2011年に東日本大震災が起こり、環境とエネルギーの関係が一般社会でも重要な問題と捉えられるようになりました。このような状況を踏まえ、NEDOの支援終了後も自己資金で活動を続けるべく誕生したのが、2012年から始まった環境エネルギー科学特別部門です

――部門の活動は、どのように広がっていったのでしょうか。

まず、3部局に広がっていた人的リソースを教養学部に集約した上で、他部局からの兼務教員や外部からの客員教員に加えスポットでお招きする外部講師の皆様にご協力いただく体制を整えました。また、学生の教育だけでなく、2016年には社会人向けの生涯学習プログラム「グレーター東大塾」の一つとして「水素社会から日本のエネルギーの未来を考える」を企画運営し、社会人教育も担いました。このグレーター東大塾の修了生を中心に、2019年には「サステイナブル未来社会創造プラットフォーム」という産学連携コンソーシアム(幹事社はパナソニックホールディングス)を発足させました。その後、兵庫県神戸市、長野県茅野市、山梨県北杜市、熊本県山江村などの自治体も加わり、企業と地域をつなぐマッチングプラットフォームの機能も加わりました。同時に2019年にはKOMEX内で連携して「SDGs教育推進プラットフォーム」という持続可能な社会のための実践的なSDGs教育も開始しました

現場と接した学生を社会へ

――「2050年カーボンニュートラル」についての考えを教えてください。

カーボンニュートラルの達成には、科学や技術のみならず、政策立案とその実行、民間における投資マインドの醸成など、とても幅広く総合的な取り組みが求められています。環境エネルギー科学特別部門では、各分野で可能な限り現場に近い方々に講師としてお越しいただき、直接学生に接していただく講義やイベントを実施しました。このような活動から、一つの分野に閉じこもるのではなく如何に幅広い分野に接することが大事なのか、ある程度伝わったのではないかと思います

――これまでの手応えと残る課題は?

実際に部門の講義やイベントに参加した人たちがエネルギーに関わる研究や行政の第一線に進んで活躍しているのを耳にすることがあります。2007年までさかのぼると足掛け19年の活動ですから、年月の重みを感じます。一方で、エネルギー教育や環境教育の裾野をもっと広げる必要があると思っています。まだ道半ばですが、当部門の活動を一旦総括し、次の活動の進め方を考える予定です

――3月には、部門の活動を総括するシンポジウムが予定されていますね。

年に一度のKOMEXシンポジウムを今回は当部門が担います。「環境とエネルギーの相克と相溶」をテーマに、浅見泰司先生、福士謙介先生、江守正多先生、沖大幹先生、NEDOの山田宏之部長らにご講演いただき、2050年に向けての展望を考えてみたいと思います。今日まで積み重ねてきた19年間の活動を未来につなぐ一日にします

――学生へメッセージをお願いします。

大学は牧場のような場所です。どれだけ良い草を食べて元気に育ったか、つまりいかに良質な知に出会い、思考力を鍛えたかが皆さんの将来を決めます。駒場で「知の体力」すなわち応用力や判断力に加えて広い意味での人間力も養ってください。エネルギーと環境の問題は技術だけでなく社会の仕組みと深く結びつきます。このような問題だけでなく、様々な社会問題の解決に向けて挑戦を恐れず、次世代の理想的な社会をデザインする力を磨いてほしいと思います

KOMEXシンポジウム
3月9日(月)10〜17時 @教養学部13号館
開会挨拶/寺田寅彦(総合文化研究科長)
教養教育高度化機構について/
 増田 建(機構長)
講演1 / Urban Rural の未来
 福士謙介(未来ビジョン研究センター長)
講演2 / ミライ・ハビタット:自律共創の仕組みをつくる
 浅見泰司(空間情報科学研究センター)
講演3 / 水と持続可能な開発
 沖大幹(気候と社会連携研究機構長)
講演4 / 気候の危機にどう向き合うか
 江守正多(未来ビジョン研究センター)
講演5 / 日本の再生可能エネルギー技術開発戦略
 山田宏之(NEDO 再生可能エネルギー部長)

司会:瀬川浩司

東京大学サステイナブル未来社会創造プラットフォームのホームページトップ画面
www.sustainable.rcast.u-tokyo.ac.jp/
サステイナブル未来社会創造プラットフォームの活動はウェブサイトで確認できます。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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UTokyo バリアフリー最前線!第42回

障害がある職員のお仕事拝見⑯農学生命科学研究科の巻
ことだまくん

紙類などのリサイクルゴミを回収

弥生キャンパスでリサイクルゴミの回収業務を担当する農学生命科学研究科総務課の環境整備室。聴覚障害があるスタッフ6人で手分けしてキャンパス内の全ての建物を回り、古本や古新聞、雑紙、ダンボールなどを回収・整理し、台車を使ってキャンパス内のリサイクル場まで運んでいます。

「数人が同時期に退職したことがあり、その後数年間は3人で仕事をしていました。最近、若い3人がチームに加わり6人体制になったので、力を合わせて頑張っています」と話すのは5年前に入職した越川重夫さん。その新人の1人、小林裕弥さんは、「働き始めた当初は何をすればよいか分からなかったのですが、サイズを統一するための段ボールの折りたたみ方などを先輩からやさしく教えてもらい、今では何でもできるようになりました」と2024年に入職してからの1年半を振り返りました。

毎朝6人で決めているリーダーの指示に従い、手分けして建物内の各フロアを回っています。メンバー全員が手話話者なので、コミュニケーションが非常に取りやすい、と話すのは10年以上前に入職した田中博さん。「何かあったらすぐに相談でき、スムーズに業務を進めていくことができます」

繁忙期は年末と年度末。新年を迎える前に部屋を整理したり、年度末には卒業や退職する人がいるため、部屋の前に大量の本や紙類が積みあがっていることもしばしば。グラウンド近くのリサイクル場と建物を何往復もすることもあるそうです。

他にも、不要になった書類をシュレッダーで処理したり、乾電池や蛍光灯の回収などを行っています。「キャンパスを回っていると、椅子などの粗大ごみが捨てられていることもあるので、それらを回収し担当者にお届けすることもあります」と8年目の田中義廣さん。そして、ゴミ出しについて一つお願いが。「郵便物が未開封のまま出されていることが多く、判断に困ることがあります。開封し、中身を出してから捨てていただくようお願いいたします」

公園で緑の制服を着た6人の職員たちの集合写真
左から:田中博さん、勝俣徳さん、小林裕弥さん、越川重夫さん、昇颯太さん、田中義廣さん。
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#We Change Now

第17回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

ジェンダー関連書籍300冊を展示

総合図書館3階にて、2025年12月19日から3月4日まで、「Shelf of Wonder第10回ジェンダー・エクイティ推進オフィス*1」を開催し、ジェンダー関連書籍約300冊を展示しています。書籍は8つの分野(フェミニズム、身体、暴力、法・政治、経済、教育、文化・社会、歴史)に分類して配架し、テーブル上に、10冊の入門書と書籍内容の紹介カード、電子ブックの書影とQRコード(閲覧のためのリンク先)を付したカードを並べています。

紫のテーブルクロスの上に本とカードが綺麗にディスプレイされている様子
ジェンダー関連入門書籍の展示(手前)

本企画は、ジェンダー・エクイティ推進オフィスで2025年度より始動したジェンダーに基づくハラスメントや暴力の防止を目指す「Safer Campus at UTokyo Project」の一環として行われたもので、当オフィスの生理用品ディスペンサー設置事業や、東京大学保健センター女性診療科と連携して製作した情報カードなども併せて展示しています。また、12月17日~23日に開催した東大本郷正門のパープル・ライトアップ企画*2とも連動しています(features「本郷正門が紫色に」参照)。

テーブルの上に様々な情報カードがセンスよくディスプレイされている様子
情報カードの展示・配布

今後も当オフィスでは様々な取り組みを続け、ジェンダーに基づく暴力のない安心・安全なキャンパスの実現を目指していきたいと思います。

(特任研究員 小野仁美)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第236回

医科学研究所研究支援課
財務チーム
小金澤優太

最先端の医科学研究の地から

小金澤優太
医科学研究所1号館の玄関にて

白金台キャンパスにある医科学研究所で昨年度から予算・決算を担当しております。医科研は現在、生命科学系で国内唯一の国際共同利用共同研究拠点に認定されており、また、国立大学附置研究所で唯一の附属病院を有するなど医科学研究で日本をリードする研究所です。そのため扱う予算も年間執行額も大きく、特に昨今では物価高騰の影響などもあり、予算のやりくりが大変になってきています。年間収支状況について執行部と打ち合わせをする機会も増えており、財政状況を注視し、執行部への説明資料を作成するなど、忙しくもやりがいを感じる日々を送っております。

ポケモンカードのディスプレイの隣に立つ小金澤さんの様子
5千人規模の大会で好きなポケモンと

プライベートでは結婚を機に大学生以来の個人的なポケモンブームがきており、ゲーム(新作のZAもやってます!)やカード、アニメ等幅広く楽しんでおります。特にカードにはまっており、相手の動きの予測など仕事とは異なる刺激で、脳の活性化にもつながっている…気がします。

得意ワザ:
複数作業を同時に進めること
自分の性格:
詰めが甘い
次回執筆者のご指名:
後藤晏奈さん
次回執筆者との関係:
新規入職時の昼ご飯仲間の一人
次回執筆者の紹介:
馬に乗れるシゴデキな同期
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第41回
文科三類1年奥村紘大
理科一類2年増田大夢
農学部3年猪原皐良

1杯の桑茶から、江津を全国へ!

「江津」と書いて、なんと読むかご存じだろうか。「うーん、えつ…?」違う。それは春秋時代の中国王朝である。「こうず、かな…?」惜しいが、それは神奈川県南西部の地名だ。正解は「ごうつ」。島根県にある、東京の人には少し馴染みの薄いこの市が、私たちFS生が1年間向き合い続けているフィールドである。

ホームカミングデイで青い半被を着た3人のメンバー
特産品とチラシとともにパシャリ!

10月18日、私たちは活動の一環としてホームカミングデイ(以下HCD)に出店した。行ったのはチラシ配布、物品販売、そして江津特産である「桑茶」の試飲だ。「桑茶の試飲で足止めし、江津高校の生徒さんが作ったチラシと共に活動説明を行い、断りづらくなったところであわよくば特産品を買ってもらう」という、少々強引な作戦である。途中、試飲用の紙コップが不足するハプニングはあったものの、概ねミッションはコンプリートできたと言っていいだろう。

そもそもなぜ私たちは今回HCDに出店したのか。それは江津市FSの目標である「将来地域に学校を残すため、ファミリー層の移住を促進する」という点に起因する。この達成にはUターン促進が不可欠であり、現地の高校生との連携が必要だ。しかしそれだけでは不十分で、「縁もゆかりもないが、魅力的だから住みたい」という人を増やす必要もある。だからこそ、多くの人が集まるこの場所で知名度向上を図ったのだ。

ブースを通り過ぎるお客様にチラシを配り声がけする様子
お客様に活動概要を説明

実際に出店してみると、知名度の低さを痛感する場面もあった。しかし一方で「私、江津出身です!」「今度行ってみます」という温かい声もいただいた。思いがけない素敵な出会いに、涙が出るほど嬉しかった。PRの場としてだけでなく、こうした意外な出会いこそがHCDの魅力なのかもしれない。

当日は山形県高畠町、長崎県佐世保市、佐賀県鹿島市、石川県能登町支援の各チームも参加し、会場は活気に満ちていた。特に高畠町のワインは魅力的で、筆者も二十歳になったらぜひ味わってみたいと思う。貴重な場を提供していただいたことに、心から感謝したい。

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インタープリターズ・バイブル第221回

教養教育高度化機構 客員教授
科学技術コミュニケーション部門
青野由利

科学を美しい空間で

昨秋、「なんちゃってワーケーション」を決行した。場所は、わけあってフランスのパリ。招聘されたわけでもなんでもないので、渡航費も滞在費もすべて自費。でも、「バケーション」ではないので、自分なりのテーマを二つ設定した。

一つは「博物館における情報とメディア」だった。なぜなら、東大の科学技術コミュニケーション部門とは別に、某私立大学の非常勤講師として「博物館情報・メディア論」を担当しているからだ。

これを題材にパリ滞在中、博物館や科学館に通った(ちなみに、盗難で話題をよんだルーブル美術館には足を踏み入れていません)。

系統立てて訪問したわけではないので、「感想」程度にとどまるが、感じたことが二つある。

一つ目は、歴史的建造物やアートと科学との融合が随所にみられることだ。

たとえば、パリ3区にある工芸技術博物館(Musee des Arts et Metiers)。技術史をたどることのできる興味深い場所だが、もとはと言えば中世の教会らしい。美しい礼拝堂には物理学者レオン・フーコーが1851年にパリのパンテオンで公開実験した「フーコーの振り子」の実物のおもりや、振り子実験が展示されている。

そのパンテオンも巨大なドームを持つ歴史的建造物で、今も高い天井からレプリカの金色のおもりが吊り下げられ、当時の実験を再現し続けている。

16世紀以来の歴史を秘めたパリ市庁舎では、企画展「パリからベレンへ 地球規模の気候変動対策の10年」が開かれていた。庁舎の外壁には巨大な現代アート作品が掲げられ、環境問題への強いメッセージを伝えていた。

いずれも、単に科学や技術を展示しているだけではなく、その空間が美しく、歴史も感じられる点が、ちょっとうらやましい。

二つ目は、「子ども」を意識した展示が目立ったことだ。

工芸技術館でも、パリ市庁舎の企画展でも、人類学博物館でも、子ども向けのパンフレットが用意され、展示のそこここに子ども向けの解説やゲームなどを通じて学べる工夫がされていた。実際、子ども連れの訪問者も多くみかけた。

もうひとつ気になったのは、日本では国立科学博物館をはじめ、多くの博物館の窮状がニュースになっているが、フランスではどうなのか、という点だ。今回は調べる余裕がなく、次回のテーマとしたいが、それにしても円が安すぎる! これでは「次回」がいつになるか、まるでおぼつかない。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第75回

社会連携部渉外課
副課長
加藤有央子

本部棟7階から

「本部棟の7階では何をしているの?」とよく尋ねられます。半年を過ごした今も、すべてを語れるわけではありません。ただ一つ確かなのは、ここは東京大学基金を通じて、東大の未来を最も真剣に思索し、前向きな意志に満ちた部署だということ。よりよい東大の姿を実現しようとする熱意があります。熱い。

さて、12月は寄付月間。今年度もディベロップメントオフィス・渉外課では「寄付月間キャンパスキャラバン」を実施しました。今回は、昨年度に伺えなかった弥生と駒Ⅱへ。私にとってお世話になったキャンパスです。イベント開催となると多く教職員の方のご協力を要するため、なんとなく心苦しく、周知は控えめに、事務担当の方へ事前のお願いだけにしていました。それでも当日、思いがけず多くの方が足を運んでくださり、寄付の意義と本学の現状に耳を傾け、賛同の気持ちを託してくださいました。胸に残るのは、ただただ感謝です(結果、今年度は昨年度よりさらに多くの方にご支援いただきました。ただ、教職員の寄付割合はまだ1ケタ…。少しでもこの輪が広がり、2ケタになりますように)。

仕事において綿密な準備と努力は成果に結びつきますが、寄付の仕事はそれだけでは足りません。気持ちが届き、相手の心が開き、すべてが整ったとき、自分の力だけでは成しえなかった感謝と達成感、そして素晴らしい幸福感にお互いが満たされる、なんとも不思議な仕事です。

決してスイスイ進む仕事ではありません。ファンドレイザーは日々、足で寄付者を訪ね、東大のための支援を丁寧に紡いでいます。泥くさく、地道な仕事でもあります。そして東大への思いは強い一方で、学内の事情に不案内なことも大いにあったりもします。ファンドレイザーが皆さんの研究室や事務室を訪れた際は、どうか同じ目線で温かく迎え入れてください。ともに東大を前へ。東京大学基金、そしてディベロップメントオフィスは、これからも東大を盛り上げてまいります。

青とピンクの半被を着た担当者の集合写真と「寄付月間キャンパスキャラバン」のチラシ