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浮体式洋上風力(UT‑FloWIND)と宇宙資源開発(CSRI)-2つの新しい連携研究機構がフロンティアを拓く

2025年10月、東京大学に新しい連携研究機構が2つ発足しました。次世代エネルギーとして注目が高まる浮体式洋上風力の研究開発を推進する機構と、地球の外に広がる多様な宇宙資源の探査から利用までを総合的に研究する機構です。初代機構長を務める2人の先生に、機構の使命、設立の背景、国際連携や教育活動の展開などについて紹介していただきました。

連携研究機構とは?
既存の組織の枠を超えた学の融合による新たな学問分野の創造を促進するため、複数の部局等が一定期間連携して研究を行う組織(連携研究機構)の設置が2016年度から始まりました。現在、全学で46の機構が活動しています。

浮体式洋上風力エネルギーと関連技術国際連携研究機構(UT‑FloWIND)とは?

UT-FloWIND
F と W を風車と海のイメージに重ね、東大カラーで象徴的に表現したUT-FloWINDのロゴ。
https://fwind.k.u-tokyo.ac.jp/
佐藤 徹
佐藤 徹 UT-FloWIND機構長
新領域創成科学研究科教授
曇り空の海上に浮かぶ風力発電の風車の根本(手前)と羽根(奥)
2023年、国土交通省が企画したノルウェー・スコットランドの視察時に撮影した浮体式の風車。
屋内の水槽に浮かぶ風力発電の風車
浮体式洋上風車の係留挙動を解析する水槽実験の様子。海洋環境での動的応答を可視化します。

知を束ねて“日本モデル”を

本学にはこれまでも浮体式洋上風力に関わる優れた研究が点在していましたが、大学としての“統一した顔”を十分に示せていないという課題がありました。政府が洋上風力を脱炭素の柱に位置づけるなか、「東大としても、より一体的に社会へ応えるべきだ」という気運が高まりました。産学協創推進室副室長の吉村忍先生からの後押しもあり、機構の創設に至りました。

私は本来、浮体式洋上風力の専門ではなく、CCSの海洋環境影響評価などの研究をしてきました。しかし所属の海洋技術環境学専攻には浮体運動やシステムエンジニアリングの専門家が揃っており、若手の先生方に相談すると「ぜひやりましょう」と力強い声が返ってきました。私は橋渡し役として、分散していた専門性を束ね、次世代へつなぐ枠組みづくりを担っています。

産業界との協働も進んでいます。電力系のFLOWRA、建設系のFLOWCONとは早い段階から意見交換を重ね、「産」の課題と「学」の技術を結ぶ基盤が整いつつあります。複数部局が参画する運営委員会では議論が白熱し、多様な知を束ねる難しさと同時に大きなやりがいを感じています。

日本で浮体式洋上風力の研究が不可欠なのは、地形と気象条件による必然です。日本の海は沖合が急深のため着底式には不向きで、台風や荒波といった厳しい環境でも安定稼働する仕組みが求められます。風車制御や大水深での係留、建造・運用・保守の効率化など、日本の海に適した「日本モデル」の構築が欠かせません。漁業との共存を見据えた海洋空間計画や社会的受容性の研究も、大学が果たすべき重要な役割です。

今後の基盤となるのが「海洋DX」です。洋上設備から得られる膨大なデータを解析し、気象・海象の予測精度向上や運用最適化につなげる取り組みは、情報科学やAIとの連携が不可欠です。海はデータの宝庫であり、異分野が交わることで新たな価値が生まれます

博士人材育成と国際連携に注力

本機構で特に力を入れたいのが博士課程教育です。産業界と共同で研究プロジェクトを設定し、基礎から実装までを牽引する「研究もビジネスもわかる博士人材」を育成したいと考えています。日本の再エネ産業を支える基盤づくりとして、大学院教育に新しいモデルを提示できるはずです。

国際連携も重要です。例えばノルウェーは北海油田で得た資源を研究へ積極的に投資し、ノルウェー科学技術大学は浮体式洋上風力の先端拠点の一つとして世界をリードしています。日本は資金面では厳しい状況ですが、研究開発力では遜色ありません。補完し合える両国で、ぜひ連携した研究開発を進めたいと考えています。また、私が長年関わってきたブラジルには、サンパウロ大学に海洋技術イノベーションに関する新たな研究センターができ、浮体式洋上風力はもちろん、深海掘削・CO2貯留などに関する共同研究が今後期待されます。また、海底油田開発において、現地で活躍する東大出身研究者の存在も心強いものです。

この春には機構として初のキックオフシンポジウムを予定しています。海洋は今も多くの発見の余地を残す領域。情報・IT、環境、生物、政策、国際協力など、幅広い専門が求められます。UT‑FloWINDはいつでも門戸を開いていますので、ぜひ多くの研究者に参加していただければ幸いです。

Carbon Capture and Storage:CO2の回収・貯留

発電事業者が連動した「浮体式洋上風力技術研究組合」

建設業界が中心の「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合」

宇宙資源連携研究機構(Center for Space Resources and Innovation, CSRI)とは?

Center for Space Resources and Innovation, CSRI
地球(青)・月(グレー)・火星(オレンジ)・小惑星をモチーフに、宇宙資源研究の広がりを表現したCSRIロゴ。
https://csri.u-tokyo.ac.jp/
宮本英昭
宮本英昭 宇宙資源連携研究機構長
工学系研究科教授
ホール内の階段教室の座席に座っているキックオフの参加者
キックオフは昨年5月に工11号館HASEKO-KUMA HALLで行われました。
月海地域シミュラント,高地シミュラント,フォボスシミュラント,火星シミュラント
CSRIが開発する月・小惑星の模擬物質「シミュラント」。研究機関・企業が宇宙環境下の検証に利用する重要な基盤材料。

地球外資源を文明に生かす

地球上の資源や環境が有限であることを踏まえると、文明を持続させるためには新しい発想が求められます。そこで注目しているのが、月や小惑星といった「地球外の物質をどう活用できるか」という視点です。地球は重力が大きく、宇宙へ出るには莫大なエネルギーを必要としますが、低重力の小惑星ではごくわずかな力で移動できます。宇宙で必要なものを宇宙でつくることができれば、地球環境への負荷を抑えながら文明を支える道が開ける……。こうした発想から、CSRI設立に至りました。

このテーマは科学技術にとどまらず、制度・倫理・社会の視点も欠かせません。東大には科学や工学に加え、法学、経済学、倫理など多様な研究者が集まっており、地球外資源の利用に伴うELSIを多角的に検討できる点は、本機構の大きな強みです。

国際協力も広がっています。昨年11月、アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアの宇宙資源関連拠点と国際シンポジウムを開催し、世界四極によるグローバル・アライアンスを形成することで合意しました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のはやぶさシリーズや小型月着陸実証機(SLIM)等の成果が世界的に評価されていることもあり、日本の取り組みへの関心の高まりを強く感じます。国際的なルール形成や技術標準化を見据えた、重要な第一歩となりました。

宇宙資源という新しい領域では、どの国も確立したモデルを持っていません。だからこそ、基礎科学から工学、政策まで連携し、段階的に実現性を高めていく姿勢が重要です。日本の“地道だが着実な積み重ね”は、この分野でこそ真価を発揮できると考えています。

CSRIの活動は宇宙戦略基金事業のSX研究開発拠点として支援されています。地球外資源の「探す・取り出す・分ける・貯蔵する・使う」を一貫した体系として構築し、文明として合理的な方向性を探っています。短期的利益ではなく、持続可能な宇宙利用の姿を長期的に描くことを重視しています。

また、月・小惑星などの模擬物質「シミュラント(Simulant)」を精密に再現し、大量に提供できる体制を整えている点も、本機構の大きな特徴です。化学組成や粒度を正確に再現したもので、国内外の研究機関や企業から提供依頼が寄せられ、技術実証や装置開発の基盤として活用が進んでいます。

科学・社会・産業をつなぎ持続可能な宇宙利用を

人材育成では、社会人博士を含む多様なキャリアの方々が参加できる環境づくりを進めています。科学だけでなく、ビジネス、法制度、国際交渉を理解した人材を育成し、日本発の科学と技術を基盤に、持続可能で節度ある産業化へつなげたいと考えています。今後はこうした取り組みを踏まえ、宇宙にある物質を別の天体へ移送する技術実証にも挑戦します。

宇宙には、まだ誰も活かしきれていない物質と環境が広がっています。若い研究者や多様な専門の方々が持つ発想が、この新しい領域を切り開きます。幅広い視点からぜひ一緒に議論し、人類に資する宇宙資源開発を切り拓く仲間が増えていくことを願っています。

Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題

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150周年記念チャリティコンサート・プレイベント対談 「安田講堂の歴史と未来」

東京大学150周年記念のチャリティ企画「安田講堂で奏でる〈イマジンコンサート〉」(2月15日開催)。そのプレイベントとして、1月19日、歌手の加藤登紀子さんと人文社会系研究科の鈴木淳先生、津田敦理事による対談が行われました。東大紛争を中心に安田講堂の歴史を振り返り、未来への思いを語りました。

加藤登紀子さん 鈴木淳 津田敦

1968年の分断の記憶

1925年に竣工した安田講堂。戦時期、戦後を経て、1960年代には東大紛争の象徴的な舞台となりました。1969年1月には、全学共闘会議によって占拠され、立てこもっていた学生を機動隊が排除。1968年の卒業式ボイコットでは安田講堂前の座り込みに参加した加藤さんは、激動の時代を振り返り、「60年安保の頃から、底なしの虚しさ」を感じていたと話しました。本当の敵は大学や機動隊ではないのに、目の前に立ちはだかる相手に石を投げる。その虚しさ。そして「喧嘩する必要は何もないのに、分断させられてしまう悲劇」に言及。「傷跡を残したことに対して、私たちはどうすれば良かったんだろうかという問いが胸に残り続けている」と語りました。

その安田講堂で開催される公演を、ジョン・レノンの『イマジン』にちなんで「イマジンコンサート」と名付けたのは、世界で分断が深まるなか、もう一度、世界が一つにつながるビジョンを皆で生みだそう、という思いからだと説明した加藤さん。安田講堂建設のために寄附した実業家、安田善次郎さんは、レノンの妻オノ・ヨーコさんの曾祖父だという繋がりにも触れました。

音楽から未来を考える

東大百五十年史の編纂に携わる歴史学者の鈴木先生は、1987年に完成した『東京大学百年史』にも東大紛争は書かれていると紹介。ただしそれは淡々とした叙述にとどまったと指摘し、「紛争で様々な立場を取った人たちが大学に残るなか、大学として正面切って振り返りにくいテーマだったのではないか」と見解を述べました。そのうえで、現在取り組んでいる150年史では、書き手のある程度の主観性を入れてもいいのではないか、との考えを語りました。「多様な視点があってもいい。一つの物語にしないことこそ大学の価値だ」と話しました。

チャリティコンサートの開催については、「東大紛争は、今の学生たちにとっては記憶にない出来事。教員にとっても直接の経験から離れた話になっている。何だったのか、どんな価値を見いだせるのかを考える機会が必要で、安田講堂で加藤さんが語ってくれることに大いに期待している」と語りました。

2027年に150周年を迎える東大、今年で101年目を迎える安田講堂。そして東大紛争から50年以上。進行役を務めた津田先生は、これら複数の時間軸が、安田講堂という一つの空間で重なり合い、音楽を通してどのようなメッセージが生まれるのかを楽しみにしている、と話して対談を締めくくりました。

加藤登紀子さん,鈴木淳,津田敦

ピアニストの横山幸雄さんがゲスト出演し、東大同窓生オーケストラとともにラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏。ラフマニノフが愛用したスタインウェイ社製ピアノでの演奏で、調整・修復を終えてから初めてのお披露目となりました。

コンサートプログラム(2/15)

挨拶:津田敦理事・副学長
●公演(第1部):
東大同窓生オーケストラ
ラフマニノフ「ピアノ協奏曲二番」 with 横山幸雄
トークセッション:『芸術と東大「国境のない世界を実現できたら」』
(加藤登紀子、佐藤健二執行役・副学長、河村知彦執行役・副学長)
●公演(第2部):
加藤登紀子 with 東大同窓生オーケストラ
無垢の砂、時には昔の話を、さくらんぼの実る頃、愛の讃歌ほか
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大学で人気の本や《きずな》に出会えるVR空間も登場 HMC(ヒューマニティーズセンター)と東大生協のコラボが進展中

2023年に結んだ包括連携協定を基盤に、HMCと東大生協の連携活動が進んでいます。昨年12月には、中央食堂をモデルにしたVR空間で書籍部の売上上位本を一覧できるVirtual Commonsの試みがスタート。本好きの大学構成員に訪れてほしい「書苑」と、両者の連携活動の中身について、当事者の皆さんの声をもとにお知らせします。

書籍部の売上上位の本を表示

HMCの「開かれた人文学のための文化資源デジタルプラットフォーム」プロジェクトと東大生協が共同で構築した、東大書苑Virtual Commons(書苑VC)。入ってみると、中央食堂を思わせるVR空間の壁に書影が並んでいます。カーソルを操作して近づくと題名や著者名などの書誌情報がポップアップ。本の選定は駒場と本郷の生協書籍部における年間売り上げに基づきます。

「書苑VCでの表示は2022年~24年の上位各15点ですが、併設のコンパニオンサイトでは2003年以降のデータを各年100位まで見られます。大学生協の書籍売り上げが累積で見られるのは全国的にも貴重。さまざまな研究の題材にもなります」と語るのは、プロジェクト代表の中村雄祐先生。過去のプロジェクトで整備した中央食堂の3Dスキャンデータと生協の売り上げデータを組み合わせ、読書の契機となる空間を探るなかで考えたのは、2017年まで中央食堂の壁を彩っていた絵画のことでした。

「中央食堂をモデルにするなら、《きずな》はやはり欠かせません。作品のデジタルデータが残っていると聞き、宇佐美圭司さんのご遺族の許可をいただいて、特別な空間を作って展示しました。作品の前で東京藝大の平諭一郎先生による解説文が読めます」

空間内には企画スペースもあり、現在は累計ランキングやジャンル別売上占有率のグラフが閲覧できます。将来的には若い研究者の発信の場とする構想もあるとか。

「大学院生が書籍部で本を買って読んで論文を書き、そこから書籍部に並ぶ本が生まれて……という回路を可視化したい。市場経済と学術が出会う場という想定です」

書影の更新、表示の改良を含めて今後の拡張が見込まれますが、書苑VCだけ注目されるのは本意ではない、と中村先生。そこには、7年前から進めてきた連携の蓄積があります。発端は中村先生が東大生協副理事長に就任した2019年にありました。

構内で市場経済と触れられる場

「生協の皆さんと話すなかで、生協が大学をいかに支えているのかを実感しました。でも、皆謙虚で遠慮がち(笑)。せっかくだから何かいっしょにと呼びかけたんです」

閉店後の店内を訪れるYouTube企画を皮切りに、共同でイベントを進めるなかで、両者の信頼関係は深まりました。連携の持続のために組織間協定を結ぼうと提案したのは、HMCセンター長の齋藤希史先生。

「生協書籍部の売り上げデータは、東大生が何を継承しようとしてきたかを物語ります。書籍部はキャンパスの中で商品と文化を媒介する貴重な存在。HMCはともに歩みを進めていきます」

齋藤先生が命名したトークイベント「書苑閑談」も、2月で4回目を迎えています。

中村雄祐,竹原昌樹,齋藤希史,笠原真理子
左から中村雄祐(人文社会系研究科)、竹原昌樹(東大生協本郷書籍部)、齋藤希史(人文社会系研究科)、笠原真理子(HMC)の各氏
本の売り場で説明する人と座っている人々
書籍部の売場に椅子を置き、売っている本に囲まれながら語るのが「書苑閑談」スタイル。

HMCと生協のあゆみ

2019年9月本郷書籍部イブニングツアー中村雄祐、竹原昌樹、鈴木親彦
2023年4月リエゾントークⅣ 本とつきあう
──『漢文の語法』復刊をめぐって
齋藤希史、田口一郎
2023年10月リエゾントークⅥ 本とつきあう(駒場篇)
──考えるための古典
齋藤希史、田口一郎
2023年10月リエゾントークⅦ 奥深き「第二食堂建物」松田陽、角田真弓、強谷幸平
2023年12月東大生協とHMCが包括連携協定を締結
2024年2月書苑閑談1 国語教育と文学の架橋出口智之、仲島ひとみ
2024年2月ホームカミングデイイベント ただいま!奥深き「第二食堂建物」角田真弓、強谷幸平
2025年9月書苑閑談2 ゆっくり見るということ北垣憲仁、新藤浩伸
2025年12月書苑閑談3 東大書苑東大書苑VC&コンパニオンサイト中村雄祐、竹原昌樹、鈴木親彦、笠原真理子
2026年2月書苑閑談4 言葉を奏で、音楽を読む林信蔵、中村翠、川上啓太郎

生協書籍部・累積売上ランキング(2003~24) 1位『統計学入門』(東京大学、東大出版会) 2位『化学の基礎77講』(東京大学、東大出版会) 3位『線型代数入門』(斎藤正彦、東大出版会) 4位『微分積分学』(難波誠、裳華房) 5位『基礎物理学1』(東大出版会) 6位『まなざしのレッスン1』(三浦篤、東大出版会) 7位『相対性理論入門講義』(風間洋一、培風館) 8位『振動・波動』(小形正男、裳華房) 9位『量子論の基礎』(清水明、サイエンス社) 10位『演習化学熱力学』(渡辺啓、サイエンス社)

東大書苑Virtual Commons https://ch-suzuki.com/bookgarden.hmc/

※協働プロジェクト・メンバーの鈴木親彦先生(群馬県立女子大)のWebサイトを利用して公開