2025年10月、東京大学に新しい連携研究機構が2つ発足しました。次世代エネルギーとして注目が高まる浮体式洋上風力の研究開発を推進する機構と、地球の外に広がる多様な宇宙資源の探査から利用までを総合的に研究する機構です。初代機構長を務める2人の先生に、機構の使命、設立の背景、国際連携や教育活動の展開などについて紹介していただきました。
浮体式洋上風力エネルギーと関連技術国際連携研究機構(UT‑FloWIND)とは?
https://fwind.k.u-tokyo.ac.jp/
新領域創成科学研究科教授
知を束ねて“日本モデル”を
本学にはこれまでも浮体式洋上風力に関わる優れた研究が点在していましたが、大学としての“統一した顔”を十分に示せていないという課題がありました。政府が洋上風力を脱炭素の柱に位置づけるなか、「東大としても、より一体的に社会へ応えるべきだ」という気運が高まりました。産学協創推進室副室長の吉村忍先生からの後押しもあり、機構の創設に至りました。
私は本来、浮体式洋上風力の専門ではなく、CCS※の海洋環境影響評価などの研究をしてきました。しかし所属の海洋技術環境学専攻には浮体運動やシステムエンジニアリングの専門家が揃っており、若手の先生方に相談すると「ぜひやりましょう」と力強い声が返ってきました。私は橋渡し役として、分散していた専門性を束ね、次世代へつなぐ枠組みづくりを担っています。
産業界との協働も進んでいます。電力系のFLOWRA※、建設系のFLOWCON※とは早い段階から意見交換を重ね、「産」の課題と「学」の技術を結ぶ基盤が整いつつあります。複数部局が参画する運営委員会では議論が白熱し、多様な知を束ねる難しさと同時に大きなやりがいを感じています。
日本で浮体式洋上風力の研究が不可欠なのは、地形と気象条件による必然です。日本の海は沖合が急深のため着底式には不向きで、台風や荒波といった厳しい環境でも安定稼働する仕組みが求められます。風車制御や大水深での係留、建造・運用・保守の効率化など、日本の海に適した「日本モデル」の構築が欠かせません。漁業との共存を見据えた海洋空間計画や社会的受容性の研究も、大学が果たすべき重要な役割です。
今後の基盤となるのが「海洋DX」です。洋上設備から得られる膨大なデータを解析し、気象・海象の予測精度向上や運用最適化につなげる取り組みは、情報科学やAIとの連携が不可欠です。海はデータの宝庫であり、異分野が交わることで新たな価値が生まれます。
博士人材育成と国際連携に注力
本機構で特に力を入れたいのが博士課程教育です。産業界と共同で研究プロジェクトを設定し、基礎から実装までを牽引する「研究もビジネスもわかる博士人材」を育成したいと考えています。日本の再エネ産業を支える基盤づくりとして、大学院教育に新しいモデルを提示できるはずです。
国際連携も重要です。例えばノルウェーは北海油田で得た資源を研究へ積極的に投資し、ノルウェー科学技術大学は浮体式洋上風力の先端拠点の一つとして世界をリードしています。日本は資金面では厳しい状況ですが、研究開発力では遜色ありません。補完し合える両国で、ぜひ連携した研究開発を進めたいと考えています。また、私が長年関わってきたブラジルには、サンパウロ大学に海洋技術イノベーションに関する新たな研究センターができ、浮体式洋上風力はもちろん、深海掘削・CO2貯留などに関する共同研究が今後期待されます。また、海底油田開発において、現地で活躍する東大出身研究者の存在も心強いものです。
この春には機構として初のキックオフシンポジウムを予定しています。海洋は今も多くの発見の余地を残す領域。情報・IT、環境、生物、政策、国際協力など、幅広い専門が求められます。UT‑FloWINDはいつでも門戸を開いていますので、ぜひ多くの研究者に参加していただければ幸いです。
※Carbon Capture and Storage:CO2の回収・貯留
※発電事業者が連動した「浮体式洋上風力技術研究組合」
※建設業界が中心の「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合」
宇宙資源連携研究機構(Center for Space Resources and Innovation, CSRI)とは?
https://csri.u-tokyo.ac.jp/
工学系研究科教授
地球外資源を文明に生かす
地球上の資源や環境が有限であることを踏まえると、文明を持続させるためには新しい発想が求められます。そこで注目しているのが、月や小惑星といった「地球外の物質をどう活用できるか」という視点です。地球は重力が大きく、宇宙へ出るには莫大なエネルギーを必要としますが、低重力の小惑星ではごくわずかな力で移動できます。宇宙で必要なものを宇宙でつくることができれば、地球環境への負荷を抑えながら文明を支える道が開ける……。こうした発想から、CSRI設立に至りました。
このテーマは科学技術にとどまらず、制度・倫理・社会の視点も欠かせません。東大には科学や工学に加え、法学、経済学、倫理など多様な研究者が集まっており、地球外資源の利用に伴うELSI※を多角的に検討できる点は、本機構の大きな強みです。
国際協力も広がっています。昨年11月、アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアの宇宙資源関連拠点と国際シンポジウムを開催し、世界四極によるグローバル・アライアンスを形成することで合意しました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のはやぶさシリーズや小型月着陸実証機(SLIM)等の成果が世界的に評価されていることもあり、日本の取り組みへの関心の高まりを強く感じます。国際的なルール形成や技術標準化を見据えた、重要な第一歩となりました。
宇宙資源という新しい領域では、どの国も確立したモデルを持っていません。だからこそ、基礎科学から工学、政策まで連携し、段階的に実現性を高めていく姿勢が重要です。日本の“地道だが着実な積み重ね”は、この分野でこそ真価を発揮できると考えています。
CSRIの活動は宇宙戦略基金事業のSX研究開発拠点として支援されています。地球外資源の「探す・取り出す・分ける・貯蔵する・使う」を一貫した体系として構築し、文明として合理的な方向性を探っています。短期的利益ではなく、持続可能な宇宙利用の姿を長期的に描くことを重視しています。
また、月・小惑星などの模擬物質「シミュラント(Simulant)」を精密に再現し、大量に提供できる体制を整えている点も、本機構の大きな特徴です。化学組成や粒度を正確に再現したもので、国内外の研究機関や企業から提供依頼が寄せられ、技術実証や装置開発の基盤として活用が進んでいます。
科学・社会・産業をつなぎ持続可能な宇宙利用を
人材育成では、社会人博士を含む多様なキャリアの方々が参加できる環境づくりを進めています。科学だけでなく、ビジネス、法制度、国際交渉を理解した人材を育成し、日本発の科学と技術を基盤に、持続可能で節度ある産業化へつなげたいと考えています。今後はこうした取り組みを踏まえ、宇宙にある物質を別の天体へ移送する技術実証にも挑戦します。
宇宙には、まだ誰も活かしきれていない物質と環境が広がっています。若い研究者や多様な専門の方々が持つ発想が、この新しい領域を切り開きます。幅広い視点からぜひ一緒に議論し、人類に資する宇宙資源開発を切り拓く仲間が増えていくことを願っています。
※Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題



