column corner

第42回海と希望の学校―震災復興の先へ―

大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。

「気」を込めてまだまだ先へ!

大気海洋研究所
附属国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門 准教授
福田秀樹
福田秀樹

本連載も今回で最終回です。この連載は2019年4月より「海と希望の学校in三陸」というタイトルで始まりましたが、「海と希望の学校」の活動が奄美地方をはじめとした全国各地に広がっていくにしたがい、2023年4月より現在の「震災復興の先へ」へと変わっています。一方で本連載の前身であり、東日本大震災で被災した岩手県大槌町周辺の様子や、そこで行われていた活動を紹介した「ひょうたん島通信」の連載が開始されたのは2012年1月のこと。この2つの連載を合わせると今回で90回となります。これらの連載には私も何度か寄稿させていただき、「これは」という出来事を紹介させていただきましたが、多くの寄稿者のそれらの想いを並べてみると一つの時代の記録としての価値を感じさせるものとなっています。

最終となる今回に紹介したいのは2025年9月に誕生し、第40回でも紹介された「三陸ふるさと社会協創センター」の活動です。この三陸沿岸部は東日本大震災による甚大な被害からの厳しい道のりを歩んでおりますが、同時に日本社会の急激な変化と気候変動にもさらされています。沖合では黒潮の流路が変動し、世界で最も水温の上昇幅が大きい地域として報道されたことも記憶に新しいのではないかと思います。新しいセンターは産学官民の協力の下「三陸沿岸の知見・ニーズ・社会課題を一元的に集約する沿岸社会のシンクタンク」となり、これらの困難に対応していくことを目指しています。

その活動の一環として、今、私たちが取り組んでいるのは安価なプランクトン観察装置の開発と普及です。単なる製造業の振興だけではなく、沿岸部の漁場環境に対する市民による監視網の整備、得られた情報を生業に生かすための海洋リテラシーの向上を企図していますが、その背後には地域の方々に「おらほの海」の現在を知ってもらい未来を共に考えたいという想いや、なにより大人にも子供にも観察することや研究活動の楽しさを感じてもらいたいといった、「海と希望の学校」の核となった気持ちも込められています。まだ規模も小さく小さな一歩を踏み出したところでしかありませんが、今後も東京大学の多くの部局と連携し、活動の幅を広げていきたいと考えています。

兵藤晋所長と津田敦理事が室内で向かい合い、「大海研」「気」「令和七年九月一日」と書かれた縦長の木製板を前にやり取りしている様子
津田敦理事に看板に込めた想いを語る兵藤晋所長(左)

写真は第40回で掲載された「三陸ふるさと社会協創センター」の看板の裏側ですが、そこには兵藤所長の「気」が込められています。「所長はどんな気を込め、私はどんな気を込めるのだろう?」と考える日々ですが、「海と希望の学校」もさまざまな関係者がそれぞれの気持ちを込めたことで多くの広がりを見せました。この連載を振り返っていただければ、多様さゆえの広がりと込められた「気」の流れを感じていただけるのではないかと思います。新センターの活動もそんな「気」に満ちた広がりのあるものにしていきたいと考えておりますので、引き続きご支援をいただければと存じます。

山と海に囲まれた沿岸の町を高台から撮影した上下2枚の比較写真
大槌町城山公民館からの風景(上2011年5月、下2026年2月)。「ひょうたん島通信」第1回には連載開始直前の2011年12月に撮影された写真が掲載された。現在は復旧に伴う工事は見られなくなったものの、空き地が多くみられる。
会議室でモニターを見ながら打ち合わせをする5人
プランクトン観察装置の製作に向けた打ち合わせ。岩手県ふるさと振興部科学・情報政策室と岩手県水産技術センターの方々と筆者(左側一番奥)
column corner

UTokyo Brand Studio 実験中!第1回

コミュニケーション戦略本部
副本部長
猪熊智子

学生とともに東大ブランドを発信

昨年7月から「本格稼働」したブランドスタジオ。「本格稼働」、つまり東京大学のブランド発信を本格的に強化するため、まず着手したのが学外のトップクリエイターの協力を得ることでした。アドバイザーとして樋口景一さん、瀬川浩樹さんをお迎えし、ブランドスタジオで制作するもののクオリティを高めるための体制を整えました。

その次が学生スタッフの公募でした。国内外に東大の魅力を発信するうえで、学生ならではの視点やアイデアが欠かせないと悟ったのは、海外の一流大学のSNS投稿を見たときでした。生き生きした学生たちの姿やキャンパスライフが何ともステキに発信されているのを見て、学生の力が不可欠だな、と……。

書類選考、面接を経て、10月初めに第1期メンバーが決まり、早速ホームカミングデイで活躍してもらいました。目下、トップクリエイターの指導を受けながら、ブランディングやアイデア発想を学んだり、コピーライティングやグラフィックデザインなどのスキルを磨く場を設けたりして力をつけてもらっています。

学生スタッフのモチベーションやスキルの高さには驚かされますが、オトナの役割としては、東大のブランディング業務を通じた学生スタッフのエンゲージメント向上、できれば何かしら心に残る仕事や場を作りたいと考えています。

コミュニケーション戦略本部では、150周年に向けて「Challengers for Changes」(C4C)というスローガンの下、新しいブランドコミュニケーションを展開中です。威厳や権威といった言葉で語られがちな東京大学ですが、やや固定化した従来のブランドイメージを超えて、変革に取り組むリアルな姿や熱量が、より魅力的に世の中に伝わるようなコミュニケーションの実現を目指しています。

このコラムでは、ブランドスタジオのチャレンジを、学生スタッフの活動報告を中心にお伝えしていきます。読者の皆さまには、温かい目で見守っていただけましたら幸いです。

屋外で笑顔を見せポーズを取るグループの集合写真
昨年10月のホームカミングデイにて。手で示しているのはC4Cのサインです。
column corner

蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第60回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

「職員進退」の世界

当館では「職員進退」(S0018)という資料群を所蔵しています。既に本コラム第25回(『学内広報』第1533号)でも、この資料群に登場する東大の女性職員について紹介しましたが、明治初年から現代に至るまでの、東大やその前身校の人事記録が綴られています。

1933年の記録(S0018/SS01/0126)を見てみましょう。農学部附属演習林の嘱託となった荻原貞夫さんは、演習林の「面積地形等ノ測量ニ関スル業務」に従事し、また大沼褜治さんは、「構内ノ盗難防火其他取締等」のため巡視に採用されています。大学の歴史といえば教員や学生に目が向きがちですが、東大がいかに多様な人びとによって支えられてきたのかがわかります。そうした言わば「無名」の人びとの足跡もたどることができる点が、「職員進退」の大きな魅力だと感じます。

毛筆で書かれた退官願の文書

他方で「職員進退」には、教科書に載るような事件についての資料も含まれます。これは、教授・矢内原忠雄(経済学部)直筆の辞表です(S0018/SS01/0147)。矢内原は日中戦争下の1937年、政府や戦争への批判的言論が問題視されて東大を辞職させられました。興味深いのは、「職員進退」には、その際に矢内原に対して、文部大臣の承認のもと「職務勉励」として賞与が支払われた記録が残されている点です。賞与額2200円の算出根拠となる計算メモが綴じられ、そのうち上限支給額1600円を超過する600円については、「年末賞与」として別途支給する手続きをとった旨が記されています。当時、退職する教官等に賞与を支給するのは通例のことで、これもその慣行を踏襲したに過ぎないのでしょう。ただやはり、矢内原の追放という思想的事件と、賞与額を計算し、規則に基づいてそれを支給するという事務的な営みとの間には、大きな落差を感じます。しかしその奇妙な結合こそが、職業としての研究者という存在を成立させているのかもしれません。「職員進退」は、そうした世界の一端を示しているのです。

(助教・立花孝裕)

column corner

ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第237回

文学部・人文社会系研究科
学生支援チーム
後藤晏奈

文学部を楽しんでください

後藤晏奈
時間帯によっても表情が変わる会議室にて

と、引き継ぎの際に前任から言われて始まった文学部での日々は、早いものでもうすぐ二年が経ちます。重厚な石造りの建物、異国の石像が飾られた階段、壁一面が本棚になった会議室、現役の黒電話、展示室「文学部の扉」など、文学部にはわくわくせずにはいられないものがたくさんあります。そしてなにより、優しくあたたかく見守ってくださる先生方、職員の方々にたくさん助けていただきながら働けていることを光栄に思います。

私は学部の履修、成績、カリキュラム関係を担当しています。現在はおおよそ完成した来年度の授業計画をもとに、教室割り振りや便覧作成の真っ只中。文学部は必修科目が少なく、また毎年開講科目の編成が大きく変わるため履修者数の予測が難しく、教室割り振りは難航する業務のひとつですが、時々目に入る講義題目に興味を惹かれつつ、学生や先生が円滑に新学期を始められるように準備に励んでまいります!

東京宝塚劇場の「prayer」と表示された舞台セット
2026年初観劇!退勤後30分で東京宝塚劇場へ
得意ワザ:
足音で家族の帰りがわかる(犬?)
自分の性格:
人より歩くのが早く、食べるのが遅い
次回執筆者のご指名:
砂川実緒里さん
次回執筆者との関係:
前部署(人事部)の前任
次回執筆者の紹介:
文武両道で笑顔がとっても素敵!
column corner

デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第50回

附属図書館 アジア研究図書館
研究開発部門 助教
板橋暁子

漢籍コーナー貴重書コレクション

漢籍コーナーは赤門総合研究棟の6階に所在し、文学部の6研究室により運営されています。よって、附属図書館に属するアジア研究図書館とは本来部局が異なりますが、2024年度から本格化した分館分室体制により、アジア研究図書館の「分室」が漢籍コーナーに設置されたことで、部局を越えた協力関係が始まりました(なお、「分館」は東洋文化研究所図書室に設置されています)。協力が実を結んだ形のひとつが、アジア研究図書館デジタルコレクションの一部である漢籍コーナー貴重書コレクションです。設置されてから日が浅く、今なお構築の途上にありますが、少しずつでも拡充をめざして取り組んでいます。

明・清・朝鮮刊本と清代の鈔本から成る漢籍コーナー貴重書は、全32点と数は限られていますが、1点あたり数十冊にのぼるものも多く、書架に占めるスペースは小さくありません。32点の中で最初のデジタル化対象となったのは、とびぬけて大部である通称『閩刻十三経註疏びんこくじゅうさんぎょうちゅうそ 』、すなわち明代嘉靖年間の福建で李元陽により刊行された、13種類の経書(儒教経典)の本文(経文けいぶん)と二段階の注釈(注文ちゅうぶん・疏文)を合刻したものです(2026年2月現在で公開されているのは、13種類のうち5種類)。日本国内にはほかにも所蔵機関が複数あり、東大総合図書館の青洲文庫にも所蔵されています。ただ、青洲文庫本は『孝経註疏』を欠いており、また、国立公文書館ほか学外機関で所蔵されている『閩刻十三経註疏』にも闕本けっぽんが多くみられます。それに対し、漢籍コーナー貴重書の『閩刻十三経註疏』は、錯簡等はあるものの完全に近い形で保存されており、このたびのデジタル化により、学内外・国内外で広く参照されることを願うものです。今後は、清代後期考証学の名著『癸巳存稿きしそんこう』の稿本など、より希少な漢籍の公開も控えています。

貴重書の見開きページ、当時の貴重な記事が印刷されている
「閩刻十三経註疏」の一部、『儀礼註疏』の錯簡部分
column corner

インタープリターズ・バイブル第222回

東京カレッジ 准教授
科学技術コミュニケーション部門
江間有沙

ペーパーレスオフィスの神話、その先で増えるモノ

『ペーパーレスオフィスの神話――なぜオフィスは紙であふれているのか』は、2002年に英語で書かれ、ペーパーレス化が進むはずの時代に、なぜ紙が減らないのかを描いた一冊である。私のお気に入りの本だ。

それから20年以上が経った2026年、ペーパーレス化を確かに「本気で」進めようとしている組織もある。最近、AI導入の現場を参与観察する中で、オフィス移転を機にフリーアドレスを導入し、共有棚、文具や個人ロッカーの設計まで含めて、組織としてペーパーレスを徹底しようとする自治体や企業に出会った。

ただし実際のところは、机の上をよく見ると、紙や本が積まれ、「自分の城」が築かれていることも多い。ペーパーレスは進んだのかと問われれば、答えは「ある程度はイエス」だろう。

しかし現場を見ていて強く印象に残ったのは、紙が減った代わりに、別のものが増えているという点だ。

その正体は端末である。

特に自治体では、セキュリティの関係から内部ネットワーク専用のパソコンとインターネット接続用のパソコンを分けて運用する場合があり、結果として二台持ちが常態化している。パソコンが増えると一緒に増えるものにはマウスもある。そこにiPadでしか動かないAIアプリ、私用と公用スマホが加わり、机の上には複数の端末やモニター、パソコン付属品が並ぶ。

さらに、現場を見てなるほど、と思ったのは、増えるのは個人の机の端末だけではない、ということだ。なんとネットワークごとに分かれたプリンターやスキャナーも増えていく。感覚としては、現在の問題はもはや「紙がなくならない」という話ではない。紙は減っている。そして端末が増えている。

『ペーパーレスオフィスの神話』が描いたのは、紙が消えないオフィスだった。もし私が今、この現状を一冊の本にするとしたら、『ペーパーレスオフィスの神話、その先で――なぜオフィスは端末であふれているのか』と名付けるかもしれない。

紙が減ったその先で、何が増え、何が残ったのか。働き方はどのように変わったのか。人々の働き方は楽になったのか。その問いは、AIやDXの時代にこそ考え続ける必要がある。

column corner

ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第76回

社会連携部
ディベロップメントオフィス
ROZYKULYYEVA JENNET

全学で広がる支援の輪、最大の成果達成!

オンライン上で活動資金を集める国内最大の大学チャリティーイベント「Giving Campaign」。本年度は2025年10月、東京大学から33プロジェクトが参加し、研究・教育・課外活動を横断した全学的な取り組みにより、9,913票の応援と476万円の寄付金を獲得しました。

本キャンペーンは、応援ボタンで気軽に意思表示ができる参加型の仕組みで、応援数が多いプロジェクトはパートナー企業から、より多くの資金を獲得することができるのが特徴です。東京大学基金に特定基金を設置している16の研究プロジェクト、3つの学生主体プロジェクト、14の運動部が参加し、協賛金に加え、特定の条件を達成したプロジェクトには企業賞、日々の活動を評価するチャレンジ賞が贈られました。大きな成果の背景には、具体的で共感しやすいストーリー発信、研究室やOB/OGネットワークの活用、そして活動報告等の継続的なコミュニケーションがありました。その結果、初参加の15プロジェクト(45.4%)を含む多くの団体から「参加してよかった」という声が多数寄せられています。中でも「未来ビジョン研究センター」は前年度比18倍、「理学部2号館を救え!」は8倍の寄付件数を記録し、他の初参加プロジェクトも2024年度の年間寄付獲得実績を、わずか10日間で上回る結果となりました。

受賞面では、企業賞4件、チャレンジ賞6件を獲得。「FoPM支援基金」がDeNA賞、「RoboTech支援基金」がSHIFTER賞・ソフトバンク未来創造賞、「国際水産研究教育基金」がソフトバンク未来創造賞など、幅広く評価され、応援獲得数の上位3位は東京大学漕艇部支援基金(2,304票)、RoboTech支援基金(1,156票)、軟式野球部活動支援基金(894票)となりました。

本キャンペーンは、寄付の獲得にとどまらず、学内における多様な活動を可視化し、新たな交流や協働を生み出す機会ともなりました。来年度も様々な形で東京大学への支援の輪を広げる活動を推進していきます。

Giving Campaign 2025
特設サイトはこちら→
Giving Campaign 2025特設サイトのQRコード
「The University of Tokyo Giving Campaign 2025」と書かれた青色の告知バナー