features

最新の機構図を見て変更点を確認しよう 令和8年度(2026年度)、東大の組織はどう変わった?

大学の組織体制は刻々と変化しています。そこで教職員の皆さんに確認してほしいのが、機構図。新年度が始まってまだ日が浅いいま、最新の機構図を見て従来との違いをあらためて整理しておきましょう。

機構図(新)令和8年4月1日現在

改革の姿を映す変更点の数々

総長の職責遂行を助けるための機関(総長室からの改組)。事務は本部経営戦略課が担当。 プロボスト(最高教学責任者=相原博昭)の職務遂行を助けるための機関。プロボスト、2人のシニアバイスプロボスト(教育=森山工、研究=玄田有史)、3人のバイスプロボスト(教育=大越慎一、研究=岸利治、学術経営=坂田一郎)が配置され、事務は本部総務課が担当します。 教育研究の高度化と持続的発展に資するために設置された、プロボスト直属の機関(本部長=相原博昭)。教育研究に係る全学的な資源配分に関する戦略の立案・実施、重点投資分野の選定や分野横断型先端融合研究の開拓、国際統合研究基盤(GRI)の運営を担います。 🅐本部業務を行う室等から基本組織規則により直接規定される機関に。 教育研究活動の活性化を図り財務状況の改善を実現するため、事務系職員が携わる業務のあり方等の変革に係る業務を実施する機関(本部長=菅野暁)。 将来性のある研究課題や研究者の情報の高度な収集・分析を担うため、IRデータ室から改組された機関(室長=坂田一郎)。国際的に信頼性のある研究環境の構築を担うため、安全保障輸出管理支援室から改組された機関(室長=岡部徹)。 🅑本部業務を行う室等からプロボストオフィス直下の機関に。GRIを試行的に導入するため、グローバル卓越人材招聘研究大学強化事業による教職員の受入れ支援を担う機関(室長=横山順一)。総長室総括委員会から改組された機関(委員長=玄田有史)。 CROの下でリスク管理とコンプライアンス確保に関する業務の遂行に資するための機関(本部長=桑原昌宏)。 他国に依存しないソブリン医療生成AI等の研究開発を推進し、臨床医療システムの課題解決を目指す機関(機構長=喜連川優)。事務担当は生産技術研究所。住宅・都市の再生に係る技術と制度の革新を先導し、現代の住宅・都市が抱える諸課題の解決に資するための機関(センター長=和泉洋人)。 全学のリスク状況をモニタリングし、構成員の意識改革の取り組みを主導する事務組織(部長=大久保伸一)。 国際協創海外研究拠点の第1号拠点としてスウェーデンのカロリンスカ研究所内に設置された機関。事務担当は定量生命科学研究所。

GRI=Global Research Integration

features
〜シリーズ・ガバナンス改革〜 最高リスク責任者として大学のリスクガバナンス改革を指揮 桑原昌宏CRO(Chief Risk Officer)に聞く 理事・CRO 桑原昌宏 KUWAHARA Masahiro
1986年に本学法学部を卒業後、三菱銀行に入行。常務執行役員欧州本部長等を経て、2019年よりMUFG執行役専務グループCRO。駒場では英語サークルのE.S.S.で活動し、本郷では日本法制史、国際私法のゼミをはじめ「人並みには勉強したつもりです」。

今年度、本学にCROという新しい役職が設置されました。全学のリスク管理を統括する初代CROに着任したのは、金融業界で長く活躍し、MUFGの執行役専務グループCROを務めた本学の卒業生。ガバナンス改革の一丁目一番地に挙げられるリスク管理体制整備の現状と今後の見通しについて、構成員へのメッセージとともに語っていただきました。

リスク管理を統括する責任者

――CROとはどんな職なのでしょうか。

たとえば、銀行が融資するか否かは支店が判断します。その業務に関して、融資に係るルール、格付制度を整備し、その浸透状況を確認し、銀行全体の融資ポートフォリオのモニター等を部下とともに行うのが金融機関のCROです。現場の個別の融資判断を審査するのも(後述の)2線の重要な仕事です。健全なリスクを取って運営する体制を整え、全体のリスクを把握して確認する。損失を招く人的エラーを減らすための対応が適切であるかどうかを確認する。組織のリスクを経営陣に報告し、個別戦略、リソース配分に係る提言等も行います。

――厳しい目が注がれる組織のCROを務めるリスクは感じませんでしたか。

報道で大変な状況にあることは知っていたので、果たして自分にできるのかと自問しましたが、少しでも東大のお役に立てるならと決心しました。金融機関とは違う種類のリスクが大学にはあり、財務リスクと非財務リスクに分けると後者が大きい。主に不祥事やその対応により評価が落ちるレピュテーションリスクも大きなテーマです。

――三線防衛についてご紹介ください。

企業では普及した考え方で、特に金融業界では浸透しています。第1線は現場。銀行なら各支店、大学なら各部局です。1線は、業務上で起こりうるリスクを想定・把握し、それに対応する役割を担います。第2線は、1 線と別に位置し、1線のリスク管理状況を検証、支援します。リスクは管理しても実際に顕在化することがあります。1線の報告を受けて対応を一緒に考えるのが任務で、東大ではCROとリスク・コンプライアンス統括部が2線です。第3線は、リスク管理方針の遵守等をチェック・牽制する監査組織で、組織全体を見渡し、内部統制が機能しているかを確認するのが任務。東大では内部監査室が3線になります。

金融機関では社員が日常的に三線防衛を意識し、問題が生じれば報告を行い、深刻度に応じて対応します。1、2、3線が互いに牽制・協力して業務を行えるよう、三線防衛の考え方を東大式に導入するのが私の役割の一つです。

リスクに関する組織風土を醸成

そこで重要なのは健全なリスクカルチャーの醸成です。立派な仕組みを作っても、適切なカルチャーがないと機能しません。1線の皆さんには、自身がどんなリスクに対峙しているかを認識し、リスクオーナーシップを持っていただければと思います。日常業務の中でリスクを識別、評価し、何かあったときの対策を自ら考え、備えておくことが重要です。必要なときには、もちろん2線は最大限サポートします。巨大組織ではどこで何が起きているかの把握が困難なため、1線の人が声を上げることも大切です。リスクオーナーシップを持つことがリスク管理の極めて重要な要素であり、こうしたカルチャーが浸透した組織では、問題が大きくなる前に自浄作用が発揮されるはずです。

――東大のリスクカルチャーはどのように醸成していきますか。

様々な取り組みが必要です。まずは総長の部局キャラバンに私も随行し、対話を通じて状況を共有します。次にリスクに関する研修の実施。そして重要なのは、各々の組織単位のトップがリスク管理の重要さを言葉で発することです。意識と行動を変えようと地道に言い続けるしかありません。リスク・ポリシー等の内部ルールも、6月末を目処に順次策定すべく作業を進めています。三線防衛が機能するには全教職員の理解と協力が必須です。私は学部生としてしか大学に関わっておらず、大学のことは勉強中です。いろいろ教えてください。ともに東大をもっとよくしましょう。

◉改革実装の工程

①~⑦の項目について「4月8日 ガバナンス改革公表」を起点にして改革の日程と内容を示した図
4月8日の総長記者会見で公表したガバナンス改革実装の工程表では、7つの側面から改革を進めることが示されました。その筆頭に挙げられているのが桑原CRO所掌のリスク管理体制。三線防衛体制を基本に、部局の自主性のみに委ねない全学視点でのガバナンス強化に主眼が置かれています。策定される危機管理ガイドラインにより全学の管理プロセスを整理し、深刻度が大きいインシデント発生時には総長を本部長とする危機対応本部を速やかに立ち上げて対応にあたります。改革の実装状況は外部有識者を含めた体制で継続的にモニタリングし、3か月ごとに検証・公表する予定です。
features

大江健三郎文庫に「新作」が登場 下宿先に預けた2篇が70年を経て世に

3月、人文社会系研究科・文学部が赤門総合研究棟で記者会見を行い、大江健三郎氏の未発表原稿2篇が発見されたと発表しました。約70年眠っていたノーベル賞作家の「新作」として注目の2篇について、大江文庫の運営を担当する阿部賢一先生に聞きました。

誰も存在を知らなかった短編

「暗い部屋からの旅行」の原稿
「暗い部屋からの旅行」
◉東京大学原稿用紙82枚(1~4枚目に欠損あり)
◉原稿末尾に「一九五五・五・十九」と記載あり
◉訂正、語順変更、語句挿入など多数あり
◉関連作:「火山」(1955年)→政治活動における死に言及)、『夜よゆるやかに歩め』(1959年)→大江作品には珍しい恋愛要素の打ち出し)、「水死」(2009年)→水死体への執着

3月にお披露目された未発表小説2篇は、どちらも初期の大江文学を理解する上で一級の資料です。発端は作家が学生時代に住んだ下宿の大家・加藤シノさんのご遺族から昨年11月に届いた1通のメールでした。

祖母から預かった大江さん名義の原稿が家にあるので、確認してほしいとの打診でした。一般の人からこうした情報をいただくのは初めてでした」と大江文庫運営委員会委員長の阿部賢一先生。当初は半信半疑でしたが、やりとりを通じて原稿の枚数や日付の記載などの情報を得、スキャンされた原稿用紙も目にし、驚愕したそうです。

「大江さんは生前、未発表原稿は処分したと何度か語っていました。なのに、本人も研究者も言及したことがない作品が、しかもほぼ完全な状態で出てきたんです」

大江文庫には1.9万枚もの自筆原稿がありますが、未発表原稿はこれが初。12月にご家族と会って原稿用紙を預かり、ご寄託の意向を伝えられた阿部先生は、驚きとともに大きな責任を感じたといいます。

「せっかくお預けいただいても、しばらく人目につかない可能性もありました。どんな手続きを経てどういう形でこの貴重な遺産を共有すればよいのかと……」

原稿が本物だと確認するため、筆跡、保存状態、周辺情報などの検討を慎重に進めると、加藤さんと大江さんの交流を伝える雑誌記事やテレビ番組の存在が複数判明。初期の著書の初版本奥付に記された著者の連絡先は、番地まで加藤家のものでした。調査結果を説明すると、著作権継承者側からは快諾の返事が届きました。

「なぜ大江さんは下宿の大家さんに原稿を預けたのか。推測の域を出ませんが、少なくとも二人の間には親しい交流があり、それが影響したのだとは言えるでしょう」

同時期の作品の習作だった?

駒場の2年生だった頃に書かれ、現存作品では最古の小説となる「暗い部屋からの旅行」(1955年)は、3部構成の短編。語り手である大学生の次郎、類人猿扱いされていると訴えるR教授、政治団体の殺人事件に巻き込まれるヒロ子の姿が、東京大学の名入り原稿用紙に綴られています。

政治と微妙な距離感を保って政治に関わる人の衝動や閉塞感を描こうとする大江文学の特徴が窺えます。マッチョな学生運動全盛の時代に女性の視点を問いかけとして入れたアプローチはいま見ても斬新です」と阿部先生。文中に出てくる水死体は、大江ファンには「水死」を思い出させるもの。死者や声を出せない人々に強い関心を抱き、その声を受け止めようとする姿勢は、最初期の作品でもすでに示されていました。

旅への試み」(1957年)は、代表作「死者の奢り」と同時期に書かれた短編。足が不自由な15歳の治郎が、看護婦の慰撫を機に車椅子で家出するも、道行く人から辱めを受け、母に見つかって戻され、家で看護婦に身を委ねるまでが描かれます。足が不自由な少年、空を運河に喩える比喩表現、結末の文言など、短編「他人の足」と共通点が見られ、その習作の可能性は高いですが、両者には違いも多々あり。「一つの作品を書き上げてから別の作品を書き、そちらを選んだということ。作家がそういう書き方もしていたのかと思うと興味深いです。2024年度には「大江健三郎を読む」というオムニバス授業を行いました。学生も大江文庫の渦に巻き込んでいきたいですね」

本棚を背にして並ぶハビャン・ニーナ氏(左)と阿部賢一氏(右)
大江文庫運営委員会委員長の阿部賢一先生(右)と、4月に文庫担当助教に着任したハビャン・ニーナ助教。大江文庫のアーカイブは利用登録をした研究者・学生が閲覧できます。
https://oe.l.u-tokyo.ac.jp/top
※今回の2篇は雑誌『群像』(講談社)2026年4月号でも全文が読めます。
「旅への試み」
◉原稿用紙42枚
◉原稿末尾に「一九五七・五」と記載あり
◉加筆・修正はほとんどなし(浄書原稿か)
◉関連作:「他人の足」(1957年)、「死者の奢り」(1959年)→死体のホルマリンプールに言及
「旅への試み」の原稿

『週刊現代』(1967年10月12日号)、NHK『私の秘密』(1963年)など
「僕を清潔にしておきたいんだろ」「わかったわ」

features

相談支援研究開発センターの新分野が掲げる 「キャンパスウェルビーイング」ってナンデスカ?

2025年10月、相談支援研究開発センター内に「キャンパスウェルビーイング推進分野」が設立されました。学生相談所など既存の6部門に加わった新分野が目指すのは、構成員のウェルビーイングの向上です。分野長の田中英三郎先生と専任の大塚尚先生に、活動や今後の計画などを聞きました。

多くの人々がいる東大キャンパスを俯瞰で見たイラスト
白い棚と壁を背にして並ぶ大塚尚氏(左)と田中英三郎氏(右)
臨床心理士として学生相談所でカウンセリングを担当してきた大塚尚准教授(左)と、国際協力機構の専門家としてヨルダン保健省で青少年の精神保健政策アドバイザーを務めた経験を持つ田中英三郎教授(右)。学内に十分なスペースがなく、根津駅近くのビルに事務所を構えています。

心地よく、幸せなキャンパス

――そもそも「ウェルビーイング」とは何でしょうか?

田中 一言で定義するのは難しいのですが、平たく言えば「幸せ」や「心地よい状態」に近い概念です。これまで大学の相談支援は、悩みや不調を抱えて来る方々を「マイナスからゼロへ戻す」ことに力を注いできました。一方で、ポジティブな面に目を向けようというのがウェルビーイングです。「快」だと感じ、自分の人生に意味を見出せるといったポジティブな要素を増やしていければ、深刻な不調に陥りにくくなる。そこが出発点です。キャンパス全体として、そうした状態をどう育めるかを考えています。

大塚 学生相談所や保健センターでは、相談件数が頭打ちの状態で現場は逼迫しています。相談内容も複雑化、多様化しています。従来の個別相談で個人に寄り添い、サポートすることに加えて、4万人近い構成員全員のウェルビーイングを底上げする発想が必要だと考えました。UTokyo Compassの「誰もが来たくなるキャンパス」を一歩進めて「誰もが来て良かったと思えるキャンパス」を実現したいと考えています。

――本格始動から約半年間、どのような活動を行ってきましたか?

田中 まずは組織体制づくりです。学内外の研究者による有識者会議を立ち上げ、教育学、統計など多分野の知見をお借りしながら準備を進めています。全国、そして学内のウェルビーイングの実態を把握するための調査を計画しているほか、診断閾値下のうつ症状、あるいは症状がない人たちのレジリエンスを高めるアプリケーションベースの認知行動療法の提供も予定しています。これらの基盤となるウェブサイトも設計中です。学生主導の「Student Project」も立ち上げました。学生さんが自由に議論して、そこから活動や介入が生まれることを期待しています。メンバーは随時募集中です。

大塚 3月14日には設立記念公開シンポジウムを開催しました。活動紹介に加え、各相談施設に蓄積された実践知を共有し、参加者から多くの反響が寄せられました。家族型ロボット「LOVOT」体験や応用演劇などのイベントも行いました。また、情報の少なさから不適応を起こす留学生がいると聞き、留学生向けの情報提供動画も準備しています。

ゆるやかにつながれる環境を

大塚 学生さんからよく聞くのが「居場所があるようでない」という声です。アートなどを介して、立場を超えてフラットに交流できる場や偶然の出会いが生まれる場を作りたいです。6月の世界ウェルビーイング週間にもイベントを予定しています。

田中 ウェルビーイングの実現には、安全な環境の確保と、緩やかなつながりが欠かせません。本プロジェクトは4年間の時限付きです。その間に、環境を変えるような実験を実行・検証し、終了後も続けるべき施策については提言にまとめたいと考えています。学業や業績と同じくらいウェルビーイングが大切だという価値観を、東京大学から発信していきたいです。

小さな机の横の椅子に座ってスマートフォンを操作している2人の学生
2月に総合図書館で開催されたLOVOT交流会の様子。
白い机の周りで付箋に書き込む学生と奥にいる田中英三郎氏
昨年開催したStudent Projectのワークショップ。キャンパスウェルビーイングの課題を考えました。

※上の絵は設立記念シンポジウムのポスターに使われたイラストです