features
〜シリーズ・ガバナンス改革〜 教員懲戒制度改革と倫理意識の徹底を担当する 山本隆司理事に聞く 理事 山本隆司 YAMAMOTO Ryuji
1988年に本学法学部を卒業。1995~97年にはハイデルベルク大学客員研究員として渡独。2004年に法学政治学研究科教授に就任。2022年からは法学部長・研究科長を務めました。専門は行政法。

本学が推進するガバナンス改革策の重要な柱のひとつが、「教員懲戒制度の見直し」と「教職員の倫理意識の徹底」です。長年改定されてこなかった懲戒手続きの問題点はどこにあるのか、そして構成員一人ひとりの意識改革をどのように実現するのか。これらの改革を担当する山本理事に改革のポイントと具体的な取り組みについて語っていただきました。

懲戒手続きの期間を短縮する

――2つの改革を担当することになった経緯を教えてください。

直接のきっかけは総長からの打診でした。その背景として、私が法学政治学研究科の研究科長を務めていたこと、そして学問と法との関係について研究を続けてきたことがあります。学問や研究の自由は法によって守られますが、その価値を法で測ることはできません。法は、学問の内容に介入することはできないのですが、学問を社会において発展させるために機能する。そういう意味で非常に面白い研究対象です。また、公益通報者保護法の改正に2度関わった経験もあります。

──現行の懲戒制度の課題は何ですか?

一番よく指摘されるのは、スピードの遅さです。懲戒手続き自体に平均1年以上、先行するコンプライアンスやハラスメントの手続きを含めると平均2年以上かかっています。民間企業ですと数か月だそうですが、大学には研究倫理や教員と学生との関係といった特有の複雑さがあるので、一概には比較できません。ただ、それを差し引いても現状は遅すぎると思います。

もう一つの課題は手続きの中身です。従来の懲戒制度は教員が自浄作用を発揮する制度で、この考え方は変えません。ただ、事実関係や懲戒の量定についての争いを想定して専門的な知識や判断をストレートに反映する仕組みが十分ではありませんでした。

──どのような改革を考えていますか?

大きな点は、懲戒委員会の組織改革です。現在は、教員だけで構成されているため、突然発生する事案に対して日常の業務との日程調整がつきにくい。今後は組織の規模を適正化するとともに、専門家である弁護士を、従来の「補助者」ではなく正式な「委員」として複数名登用します。法律家の間でも判断が分かれる繊細な問題があるので、複数の専門的な視点による議論の可能性を確保したい。

あわせて、懲戒委員会の中に幹事会を設置し、進捗管理をします。処理期間の目標を定めて手続きを迅速化したいです。全体としては、6ヶ月への短縮を目標に掲げ体制の整備を進めながら、幹事会が個別の事案の複雑さに応じて期間を設定し、審議を進めていきます。法人化以降、大きな改正がされてこなかった制度と運用上の課題を、一つずつクリアします。6月中にワーキンググループで取りまとめを出し、実装は7月以降になる予定です。

風通しの良い環境を作る

──倫理意識徹底の試みもご紹介ください。

今年1月に「倫理保持のための規範」を制定しました。今後はeラーニングなどを用いた研修を考えています。ただ、本当に必要な人に届ける研修というのが難しい。そして、普段から気をつけている人にとっては研修ばかりが増えて形骸化してしまう懸念もあります。だからこそ重要なのは、日常の環境作りではないでしょうか。問題の多くは、外から見えない閉鎖的な空間で発生します。部局や研究室を超えた情報の共有や、お互いに注意・相談し合える風通しの良い環境を作ることが欠かせません。

社会連携などの活動領域を広げる本学には、東大だからこそさらされやすいリスクが存在します。プロセス検証委員会からは、意思決定の記録がないといった「プロセスの軽視」も指摘されました。ガバナンス改革の本質は、単なるトップダウンの強化ではありません。現場の異なる意見や課題を組織の力にしていく。そのプロセスを作ることが肝心だと思います。

ガバナンスのあり方に唯一の正解はありません。試行錯誤を重ねながら、教職員や学生の皆さんとともに考え、粘り強く取り組んでいきたいと考えています。

◉利害関係者等との間の飲食に関する規制について

「手続不要」「禁止」「事前の届出が必要」に分類されている「利害関係者等との間の飲食に関する規制について」のチャート
倫理規程が分かりにくいという構成員からの声を受け、昨年11月に「教職員倫理に関するセルフチェックリスト」等が作られました。左は「利害関係者等との間の飲食に関する規制について」解説したフローチャート。利害関係者から供応接待を受けるのは禁止されていることや、利害関係者を含む会食で、自己の飲食費用が1万円を超える場合は倫理監督者に事前の届け出が必要であることなど、さまざまな規制を説明しています。教職員倫理規程の詳細はUTokyo Portalをご覧ください。
features
既存ストックを活かして空間をトランスフォーム 住宅都市再生研究センターが稼動 センター長 和泉洋人 IZUMI Hiroto
1976年に本学工学部を卒業。建設省、国土交通省を経て、2013年から内閣総理大臣補佐官を務め、社会資本整備などの重要政策を主導。本年度より現職。

2025年10月、住宅都市再生研究センターが設立されました。人口減少や高齢化を背景に、住宅・都市を取り巻く課題が複雑化する中、既存ストックの活用と再生を軸に、研究と政策提言を担う拠点です。センター長に就任した和泉洋人先生に、設立の背景や目指す研究の方向性、社会実装への展望について聞きました。

空き家等のストック活用は急務

――センター設立の背景を教えてください。

私は、建設省・国土交通省を経て内閣総理大臣補佐官を務めるなど、住宅・都市政策に約半世紀携わってきました。これまでの住宅・都市政策は新規建設が中心でしたが、現在は既存ストックの活用と再生が急務です。空き家の増加やニュータウンの衰退など課題は明確である一方、有効な政策手段はまだ十分に確立されていません。人口減少や高齢化に伴い問題は一層複雑化しており、従来の縦割りの枠組みでは対応が難しくなっています。こうした積み残された課題に対し、大学の立場から具体的な提言を行い、社会実装へつなげるべく設立に至りました。

――センターの掲げる「再生」とはどういうものでしょうか。

単なる建て替えや修繕に留まりません。空間の更新を通じて、人々の生活や働き方、新たな価値の創出までを含めて刷新するものです。建築の枠を超え、文化や機能、暮らしを包括した総合的な再生を目指しています。都市の再生とは、物理的な整備だけでなく、その場所で営まれる活動や人のつながりまでを複眼的に捉え直すことだと考えています。

アカデミア外の知見も融合して

――今後の活動の方向性について教えてください。

建築や都市計画にとどまらず、経済、法、福祉など多様な分野の研究者や実務者と連携し、知見を集約していきます。その中核となるのが、国内外の第一線で活躍する多彩な専門性を持つ「フェロー」です。アカデミアに限定せず知見を融合し、現場の課題と最先端の研究を機動的に結びつけます。

住宅・都市再生は世界共通の課題でもあります。5月14日には伊藤謝恩ホールで国際シンポジウムを開催し、国内外の専門家や行政関係者が議論を交わしました。今後も国際的な連携を通じて海外の動向を取り入れるとともに、日本の知見を発信していきます。

また、本センターは大和ハウス工業株式会社からの寄付によるエンダウメントに支えられています。安定した財源のもとで、住宅・都市再生という長期的な課題に継続して取り組み、研究成果を政策提言や社会実装へとつなげていきます。

――学生・教職員へメッセージをお願いします。

住宅・都市再生は一つの分野だけで解決できるものではなく、多様な専門や立場が交わることで前進します。本センターは、その交差点として議論と挑戦を支えます。

目指すのは、単なる空間の更新ではなく、人の営みや社会のあり方までを含めて再生する「ルネサンス」ともいえる取り組みです。学生には、多様な知見に触れながら現場の課題と向き合い、新たな価値を生み出す経験を積んでほしいと考えています。

ここで培った学びと実践は、社会課題に向き合う力となり、知の冒険を切り拓く基盤となるでしょう。関心のある方はぜひ参画し、ともに学び、実践へとつなげていきましょう。

❶ ❷
❶❷5月のシンポジウム「トランスフォーミング・プレイシズ:地方圏における都市と郊外の再生に向けて」では、ラミア・カマル・シャウィ氏(OECD起業・中小企業・地域・都市センター長)が基調講演を務め、パネルディスカッションは「地方圏における都市と郊外の再生」をテーマに行われました(モデレーター:小泉秀樹副センター長)。
❸ ❹
❸昨年9月のセンター新設発表記者会見で握手する、大和ハウス工業の芳井敬一代表取締役会長と本学の藤井輝夫総長。記者会見は大和ハウス工業から寄贈された情報学環ダイワユビキタス学術研究館(❹、設計:隈研吾)のダイワハウス石橋信夫記念ホールで行われました。
features
二工(第二工学部)木造校舎の輪切りがパビリオンに! 撮影:淺川敏(❸❹❻を除く) 生産技術研究所准教授 林 憲吾

生産技術研究所の前身、第二工学部。戦時下に西千葉で建てられた木造校舎は、千葉実験所の柏移転後に解体されましたが、実はその一部が保管されていました。解体から4年の時を経て生まれ変わろうとしているこの木造校舎について、2021年から保存と再生に取り組む林憲吾先生に聞きました。輪切りは生研の伝統芸だった!?

最小限かつ最良の保存法は?

私が着任した2017年にはすでに解体が決定事項でしたが、有志の皆さんから保存の要望書が総長に届きました。両者の間で着地点を探るのが私の役割でした。まずは記録だけでも残そうと、建物を3Dスキャンしてデータ化。部材で記念のベンチでも作ろうかと思っていましたが、本部からもう少し残せないかと声があり、最小限に魅力を伝えらえる輪切り保存を選択しました。

千葉実験所の柏移転は2017年ですが、解体は2022年。1942年にできた建物の天井部を外すと、曲がった丸太の梁が出てきました。製材すると繊維が切れるので、丸太のほうが強い。急いでいた戦時下では、見えない部分は丸太のままで使うやり方が合理的だったでしょう。天井下は方杖や筋交を多用する近代的な手法なのに、小屋裏は伝統的な和小屋の手法でできていました。輪切りにすることでその特徴が姿を現すと考えたわけです。

フロンティア精神を尊ぶ精神が生研にはあります。建物を切ったとはいえ保存するだけでは、らしくない。その思いから、輪切り部に生研の魅力を盛り込むパビリオンの構想が生まれました。生研の原点となる建物を使い生研の現在の技術を伝える展示場にする。所内の先生と案を練っています。

研究広報と遺構展示を融合する

もう一つの検討事項が茶室です。海外のお客さんをもてなしたいとの声があり、ならば茶室だ、と。師匠の藤森照信先生に相談すると、生研の中庭に輪切り部を組み立て、小屋裏から渡り廊下を使って茶室に入り、奥の欅を眺める案が出ました。2畳ほどある小屋裏を茶室にする案もあります。この建物を介して企業と研究者が出会う「イノベーション・ポータル」にしたいな、と。

Digital Ruinの構想もあります。建物全体の3Dデータはあるので、3Dゴーグルをつければ実物がない部分も再現できます。大石岳史先生らの技術を使って、実物の建物とバーチャルな遺構を同居させたいと考えています。部材ごとの3Dデータもあるので、バーチャル空間で積み木のように部材を組み立てることも可能。残った実物とデータを掛け合わせる試みです。研究のショールームと遺構展示の融合を狙います。

建物の輪切りは意外かもしれませんが、生研には前例があります。六本木時代は陸軍の歩兵第三連隊兵舎だった建物を使っていました。2001年に駒場に移る際に建物の保存運動が起こり、一部分だけ切り出したものが残りました。現在は国立新美術館別館として当地の歴史の展示場となっています。輪切りは生研の伝統かもしれません。

広くご支援を募り、今年度中に仮称「生研パビリオン」の予算と仕様を固めたいと思っています。10月の柏キャンパス一般公開では、仮組みした小屋裏を披露します。体験しに来てください。

❶ ❷ ❸ ❹撮影:相澤匠
❶側面から見た屋根部。❷現代建築では珍しい木製のガラリ(通気口)。❸研究実験棟Iでレトロなパステルグリーンの扉を支える林研究室の高原柚さん(右)と腰原研究室の冨士本学さん。❹解体時の共通講座第三教室第一棟(2022年)。クレーンの向かいが輪切り部。
❺
❻ ❼
❺1942年当時の図面。❻当時の図面と部材を元にして組まれた輪切り部の模型(奥が茶室)。❼「生研パビリオン」のイメージ図。

●「二工木造校舎アーカイブス」https://niko-u.com/

features

学術交流と産学官民連携の北米拠点 UTokyoNY(東京大学ニューヨークオフィス)が新拠点へ

6月6日、東京大学ニューヨークオフィス(UTokyoNY)の移転記念式典およびダイアローグイベントが、新事務所において開催されました。当日は、在米の卒業生、研究者、教育機関や企業のパートナーなど多くの方々が集まり、北米における新たなスタートを祝いました。

新オフィスが入居する「ヘロンタワー」の外観 UTokyoNYへの扉 銀杏紋の「のれん」を颯爽とくぐる福嶋ひとみさん(ダイキンUS派遣中)
UTokyoNYのロゴをかたどったサインもお引越し 40名以上の参加者が集まりオフィスの新しい門出を祝いました
藤井総長とペニントン教授が新学部を熱く語りました
「知の棚」は本学とゆかりのある様々な場所から集めた木材を組み合わせて作られています 書架にはこれまで実施してきたイベント関係の物品がぎっしり
ニューヨーク州に工場を持つ「獺祭Blue」で鏡割り 中締めで壇上に立つ藤井総長と岡本理事長

和の伝統と東大の象徴が調和

新たなオフィスは、旧事務所から徒歩10分ほど。マンハッタン・ミッドタウンの中心部に位置します。内装デザインは、旧事務所に引き続き、生産技術研究所の川添善行准教授が手掛けました。

エントランスでは、UTokyo Logotypeをあしらった紺色の「のれん」が来場者を温かくお出迎え。ニューヨークの近代的な風景の中に、日本の伝統と本学のアイデンティティが調和する空間となりました。本学と連携協定を結ぶ国内の各自治体から寄贈された木材を展示する「知の棚」も、新オフィスへ引き継がれました。日本各地の豊かな風土と本学の研究・教育活動とを結びつけ、世界へと発信していく。「知の棚」はオフィスの目指すべきあり方の象徴です。フロア内の書架には、これまでオフィスが実施してきたイベントに関する物品が所狭しと並べられています。

記念式典の冒頭では、藤井輝夫総長、岡本康夫UTokyoNY理事長、片平聡 在ニューヨーク総領事・大使より挨拶がありました。式典の目玉として行われたダイアローグでは、藤井輝夫総長と、2027年秋に設置予定のUTokyo College of Designの学部長予定者であるマイルス・ペニントン教授(生産技術研究所)、教育ジャーナリストのAnna Esaki-Smith氏が登壇。複雑化する現代社会の課題を「デザイン」でいかに解き明かし、次世代の知をどう形作るべきか、熱い対話が行われました。

北米で高まるUTokyo Designへの期待

まず、Esaki-Smith氏が、日本の大学が少子化対策で留学生獲得に注力していること、そして世界の大学の現状を語ると、藤井総長は、AI時代におけるグローバル教育の将来について熱弁。ペニントン教授は、具体的なプログラムを踏まえて、既存の学問の枠を超え社会にインパクトを与える教育ビジョンを説きました。質疑応答では、現地の関係者や卒業生から次々と手が挙がり、新学部に対する北米からの期待が感じられる、密度の濃い時間となりました。

イベント終了後はニューヨークに拠点を置くダイキンUS社の植村義之社長とギフト交換が行われました。また、レセプションでは、ニューヨーク州内に酒蔵を構える株式会社獺祭の「獺祭BLUE」で鏡開き。日本発のブランドが現地に根を下ろし、新たな価値を生み出す両社の姿は、北米における東大コミュニティのあり方とも重なります。

新しくなったUTokyoNYから生まれる対話は、本学の可能性を切り拓き、北米における活動の発展に寄与していくことでしょう。学内の関係者であればどなたでも来館大歓迎。ぜひ積極的な利活用をお願いします。